〜第12章 突入、ネブカドネザル〜
「・・・ここが、ネブカドネザル。・・・・母さんがいる場所・・・・。」
「まさか、ザフトの廃棄された研究所だったとは・・・。驚きですねぇ。」
コウはその廃墟と化し、風化しかけているその古ぼけた建物を見上げていた。
コウが、スサノオに乗ることを決意させた現況である父の言葉・・・・
そして、母が持つMIHASHIRAシステムを完成させるディスク・・・。
一体、父と母はこのシステムと・・・・この『ミコト』とどのようなつながりがあるのだろうか・・・。
母は、ザフトと関係があるのか?・・そして、何より母は今どうしているのだろうか・・・。
「コウ君、ナターシャ、ここには既にザフトが先行し待ち構えているものと想定し行動します。くれぐれも油断しないで下さい。」
シャクスはそういうと自らのパイロットスーツから拳銃を2丁とりだし、1丁を右手に構え、もう1丁をナターシャに渡した。
コウもパイロットスーツに備えられていたアモンの拳銃を抜く。
「それでは、突入しますよ。」
「はい、先生! 」
「はい・・・。」
3人はその廃墟の中に足を踏み入れた。
研究所が廃棄されてから、どのくらい経ったのだろうか。
中は案の定荒れ放題であり、砂漠の砂が大量に内部まで入り込んでいた。おそらく定期的に通る砂嵐の直撃を受けたのだろう。
比較的、研究設備に使われていたらしい機器類も新しいものがある。
2階建てという小さなこの施設の中を、いつ敵と遭遇するともわからない張り詰めた空気の中、3人はくまなく調べた。
人の気配は一切なく、それらしいディスクや情報もみあたらない。
いや、一つだけ見つかった場所があった。
一階のその研究室らしき部屋のドアに付いた古ぼけたネームプレートにあった名前とは・・・
『Dr. Aria Kushinada』
「・・・アリア・クシナダ・・・・・博士!? 」
予想していた事とはいえ、コウは驚きを隠せなかった。
「どうやら、アリアさんの研究室のようですね。」
「・・・先生、コウさん。入ってみましょう。」
ナターシャの言葉に3人は細心の注意を払い銃を右手にその部屋へと足を踏み入れた。
一見普通の部屋であった。
8畳ほどのスペースの小さくも広すぎもしないその部屋は、砂を被ったパソコンなどの機器が部屋の左右のデスクの上に並び、ドアから入って部屋の一番奥のほうには1つ、小さな専用のワークデスクがおいてある。
みるとそのデスクの上には、様々なものが散乱しておいてあった。
何かの領収書、無雑作におかれた研究書類らしき紙の束、壊れたコーヒーメーカーに、・・・・・一枚の書きかけの手紙。
コウはそれに目を通す。
『ケインさん、お元気ですか―』
「・・母さんが、父さんへあてた手紙だ・・・! 」
「「! 」」
シャクスとナターシャにも分かるように、そして先行しているかもしれないザフトに気付かれないようにコウは小声でそれを読んだ。
「ケインさん、お元気ですか。こちらの方は相変わらずよ。もうじき完成するでしょうから、あとはそちらの2機の最終調整を残すばかりね。こちらではありあわせのMSで既に何度がシステムの制御試験をしてはいるけど、何分MSの性能が追いつかなくて思ったような結果にならないのが現状です。でも、昨日交渉中だった月基地のセクンダディ准将から報告があって明日にもあれがこちらに直接届くそうよ。まだ使い物にならないでしょうけどね。
システムそのものの運用は、ディノがよくやってくれてるから問題ないと思うわ。・・・・・ディノだって!!!? 」
手紙の途中で突然大声を上げたコウにナターシャは周囲を警戒してから尋ねた。
「・・・コウさん、その『ディノ』というヒト、知り合いなのですか? 」
一呼吸おいてから、コウは答えた。
「ディノは・・・・・・ディノ・クシナダはオレの弟です。」
「! ・・・コウさんの・・・・弟? 」
これにはナターシャとシャクスも驚いた。
コウに弟がいることは、スローンのブリッジにてコウ・クシナダ尋問大会が行われたときにリトとの馴れ初め話のついでにサユから聞いていた。
しかし、まさかMIHASHIRAシステムに関係しているとは・・・・。
「・・・すみません。続きを読みます。」
コウは意を決し続きを読み上げる。
「一応この前途中段階のディスクを送ったけど、もう一段階の実験が終わったら完全なシステムのディスクを送るわね。・・・このMIHASHIRAシステムが大いなる未来の鍵となることを祈っているわ。それと、コウのことだけど・・・・・・・・・・・・・。」
「どうしました? コウ君。」
手紙の途中で黙り始めたコウにシャクスが聞いた。
「・・・・手紙は・・・ここまでです。」
「そうですか・・・。」
無言になる2人にナターシャが話しかける。
「・・・手がかりがとぎれてしまいましたね。」
「だけど・・・母さんがここで完成したシステムのディスクを作っていたのは確かだよ、ナターシャ。・・・もう一度この部屋を探してみよう。」
3人は手分けして周囲の捜索を始める。
砂埃が蔓延し、パイロットスーツを着ていないナターシャがクシュン、クシュンと小 さなくしゃみを連発する。
「ナターシャ、大丈夫? 」
「大丈・・クシュン! ・・夫、ですっクシュン! ・・。」
鼻をすすりながら必死に探し続けるナターシャの小さな頭を何かが覆った。
「・・むぐ! 」
「ちょっとじっとしてて、ナターシャ。」
自分のパイロットスーツのヘルメットをナターシャにかぶせたコウは、腰についているポケットからスーツの空気漏れを防ぎ、傷の手当てもできる応急シールと包帯をとりだした。
そして、包帯をナターシャの首とヘルメットに巻き、シールで固定した。
「ヘルメットだけ被っても呼吸はもちろん外気からしないとだけど、包帯で隙間をふさいだから埃はある程度吸わなくてもすむよ。」
「でも、それではコウさんがくしゃみをしてしまいます。」
「ああ、平気平気!え〜と、ほら、オレは眼鏡もかけてるしね! 」
「眼鏡をかけるとくしゃみが止まるならそちらを貸してください。」
「・・・・・。」
コウの冗談を普通に返すうつむいたナターシャの顔は、ヘルメットのゴーグル越しにうっすらと赤くなっていた。
「・・・コウ君、ナターシャ、来てください。」
「「! 」」
シャクスの元に駆けつけた2人にシャクスは自分の発見したものを見せた。
それは、アリアのデスクの鍵の壊れた引き出しの中にあるスイッチであった。
シャクスはおもむろにそれを押す。
ガコォォン!
アリアのデスクの下の床が突然開き、人一人が通れるほどの穴が開く。
その闇の中にはうっすらと、地階に通じる梯子が見えた。
「・・・・この先・・・のようですね。さあ、行きますよ。」
シャクスの声に2人は頷く。
闇へと下るその階段をシャクス、コウ、ナターシャは下りてゆく。
おそらく、地下2階、いや3階か・・・。
それほど長い梯子を下り、辿り着いたその場所には驚いた事に少量ではあるが電気がともっている。
「・・・やはり、だれかいるようですよ。」
「・・・・母さん、なのか・・・? 」
「・・・・ザフトかも知れません。」
細心の注意を払いながらその電気の灯る廊下を3人は進んだ。
そして、エアロックらしきものがかかっている扉に出くわした。
シャクスが確認すると、ロックは既に壊れておりボタン一つで簡単に開閉するようだった。
前で3人は改めて扉の左右に控えて銃を構える。
「・・開けますよ。」
シャクスの合図に2人も頷き、その禁断の扉が開かれた。
そこは、おおきな空間であった。
そう、MSドックらしきその空間には、大破したジンオーカーやザウート、バクゥなどのMSが残骸のまま放置されている。
「・・・これは? 」
「おそらく、先ほどのアリアさんの手紙にあったMIHASHIRAシステムの制御実験に使われたものでしょう。」
「せ、先生! コウさん!! あ・・・・あれ!! 」
珍しく声を荒げるナターシャが指差す先にあったものは・・・・。
輝くその色はスローンのそれに勝るとも劣らない、とても透明感のある美しい黄金。
深い紺色の光を称えたフレームを持つその機体は・・・・。
「3機目の・・・・・『ミコト』!!?? 」
「!! 」
コウとシャクスが驚きの声を上げたその時だった。
いずこからか銃声が響き、コウ達の足元を数十発の弾丸が貫く。
散開し、残骸となったザフト製のMSの影に隠れるコウ達に、透き通る女性の声が警告する。
「・・・ここであったが百年目ね。ナチュラルども・・・!! 残念だけどあなたたちはここで消えてもらうわ。」
同じく残骸の陰に潜むその女性の纏うパイロットスーツは目の覚めるような鮮やかなオレンジ。
ザフト地上侵攻特務隊所属、エリス・アリオーシュであった。
その右腕には拳銃ではなくサブマシンガンを構えている。
相手の正体とその手にもつ恐ろしい武器を把握した3人は、息を飲む。
「言っておくけど、このサブマシンガン。そうやすやすと弾切れなどはしないわよ。見たところそちらは拳銃。勝ち目はないわね。大人しく出てきなさい。無抵抗な者の命まではとる気はないわ。」
顔を見合わせる3人。シャクスが頷き、3人は銃を捨て手を頭の上に挙げながらエリスの前に歩み寄った。
「・・あら、意外と素直なのね。それとも、連合軍の人間は戦う意思よりも如何にうまく命乞いをするかの方を熱心に教えているのかしら。ナチュラルらしいわね。」
エリスの憎しみのこもったその言葉を聞いたナターシャはキッとエリスの顔を睨む。
「大人しく出てきたんです。わたしたちをどうするつもりなのかお聞きしたいものですね。」
シャクスの言葉にエリスがマシンガンを向ける。
「ナチュラル如きが、 私に指図しないでほしいわね。・・・お前たちには聞きたい事がある。まず、ここに何しに来たか、話してもらいましょうか。」
「・・・・いいでしょう。その前にその銃降ろしていただきたい。私の隣にいるのは16歳の少女と、最近事情により無理に軍属になってしまったばかりの18歳の少年です。そういう物騒なものには、慣れていないと思うのでね。」
エリスが目をやると、ヘルメットだけを被ったなんとも滑稽な格好をした女子がこちらを睨みながら小さく震えていた。
そして、その隣にはヘルメットを取った黒と青のパイロットスーツを纏った眼鏡をかけた少年の姿が・・・・。
「・・・・あの顔、どこかで。」
エリスは怪訝に感じたがすぐに話を戻す。
「いいだろう、銃はおろす。ただし、妙な真似をすれば全員蜂の巣だからね。」
「・・ありがとうございます。では、お話しましょうか・・・。」
シャクスはエリスに自分達が何故ここに来たのかを隠すことなく話す。
ただし、コウのことを気遣いケインとアリアの名前は伏せてだが。
コウはその話をナターシャの横で聞きながら拳をぎゅっと握り締め、必死に込みあがる怒りを抑えていた。
目の前に、アーキオ大佐を、父を殺した張本人が立っている。
・・・・・・殺してやりたい・・・・・!
そんな気持ちをコウの理性は必死に押さえつける。それは・・・・。
オレも、あいつの仲間を殺している・・・。
オレが・・・・殺した・・・・。
理性と本能の激しい感情がひしめき合う中、コウはただ歯を食いしばって目をつぶり 立ち尽くした。
「コウさん、大丈夫ですか・・・・? 」
エリスに気付かれないように震える小声でコウに気を使ったのはナターシャだった。
コウははっとして、小声で返事を返す。
「・・ごめん、大丈夫。考え事をしてたんだ。ありがとう、ナターシャ。」
「・・・・。」
ちょうどその時シャクスの話は終わったようであった。
エリスは神妙な表情で話を切り出す。
「なるほど、話は大体理解したわ。あの手紙はそういう意味だったのね。それで、その完成したシステムのディスクは本当に見つかってないんでしょうね。」
「ええ、あなたもそうなのかもしれませんが、研究所はくまなく調べました。あとはここだけです。」
「そう。ここも私がくまなく探したけどそれらしきものはなかったわね。一体どこに・・・・。」
意識をコウたちからはずし、エリスが考え込んだ本の一瞬の事だった。
シュバッ・・・・・!!!!
シャクスが投げた何かが、エリスの銃を構えた右腕に突き刺さる。
「・・がっ!!!! 」
思わずマシンガンを落としたエリスに刃物らしきものを持ったシャクスが迫る。
手にもつのは・・・・クナイだった。
そして、先ほどエリスに投げつけたのは・・・・。
「しゅ、手裏剣!!? 」
日本に住んでいたコウはその武器の名を口にした。
「先生、『ニンジュツ』が得意なんです。」
いいながら、ナターシャは先ほど捨てた拳銃を2つ取り一つをコウに投げて、構える。
ナターシャの言った『ニンジュツ』とは言わずと知れた忍術の事である。とは言っても、分身の術や火遁の術などといった超常現象に近い技が使えるというわけではなかった。
リューグゥに派遣されて東アジア共和国に入ったシャクス達は日本にも何度かよった事があった。
そこで、あやしい刀剣の店においてあった忍者の武器と巻物をシャクスが痛く気に入り、大枚をはたいて購入したのだ。
巻物はもちろん雰囲気を堪能するだけの無意味のものであったが、武器そのものはそれなりに使えるものであり、シャクスは練習して手裏剣を使いこなせるようになっていた。他の武器は、ナイフ代わりにクナイを携行していたのである。
余談だが、そんなシャクスはしばらく口癖が『ござる』と『ニンニン』であったらしい。どこで覚えた知識なのかは定かではないが・・・。
話を戻そう。
如何にコーディネイターといえども、隙をつかれればもろかった。
シャクスのクナイはエリスの首にぴたりとつけて止まり、エリスは動く事ができなくなっていた。
「・・・すみませんね。こちらも命がけなもので。殺しはしませんがしばらく動けなくなってもらいます。」
シャクスはクナイを構えたままナターシャとコウを呼び、携行していたワイヤーでエリスの両手を後ろ手に縛った。
「くそぉ! ナチュラルめ!! 卑怯な! やはり、殺してやればよかったよ!! 」
自分の不注意に怒りを覚えたエリスはコウたちに八つ当たりのようにはき捨てた。
その胸倉をコウが突然掴む。
「あんたは!! 父さんを・・・・ケイン・クシナダとマクノール・アーキオ大佐を殺しといて、まだそんな!! あんたが・・・!! 」
「! ・・その、声・・・・お前が、白いミコトの!? 」
突然の出来事だった。
地下ドック内に激震が走り、天井が崩れ始めた。
整備用マニュピレーターが轟音をあげて落下し、MSの残骸が爆発し始める。
「な・・一体何が!? 」
コウがそういったその時。
1つの銃声が響いた。
そのライフルの銃弾はシャクスの肩を直撃し、そのままシャクスはMSの残骸の中へと吹き飛んだ。
「え・・・・・・・。」
コウは自分の目を疑った。
「・・いや・・・・・いや・・・・・いやあぁぁぁぁぁ!!!! 先生ぇぇぇぇぇ!!! 」
ナターシャは絶叫し、駆け寄ろうとするが次々と落ちる残骸に阻まれ、シャクスの元へいけなかった。
うろたえる2人をよそに、コウから離れたエリスにそのライフルを撃った張本人が歩み寄り、縛っていたワイヤーを切る。
「ざまあねえな、エリス。だから言ったんだ。『青服』なんて、所詮は地上に堕ちたクズだって。」
「・・・カルラ!? 」
エリスのワイヤーを切るカルラに向って、コウは銃を構えた。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
「おっと、そんな事をしたらあんたの大事なお仲間が本当に殺されちゃうぜ。いいのかい? 」
カルラが邪悪な笑みを浮かべながら指を差したその先には、MSジャンクの山に倒れるシャクスの頭に銃を構え、悠然と立つ者の姿があった。
黒いザフトの軍服を纏い、その胸にはザフト最高のエリートの印、F・A・I・T・Hの徽章が輝く。
端正な容姿を彩るその髪は透き通るように白く、そして、誰かとよく似た真っ青な瞳。
その黒服の少年とコウの真っ青な瞳の先が交錯する。
「・・・・ディノ!!! 」
「久しぶりだな、コウ。まさか、あんたが来るとはな。ボクも思いもよらなかったよ? 『兄さん』? 」
青き瞳を持つ2人の会話に、ナターシャ、エリス、カルラまでもが驚いた。
「探し物は見つかったのかい? 母さんのさ。」
「ディノ、お前。いったいこれはどういうことなんだ!!! 」
「あんたが知る必要なんてないさ。今までのうのうと生きてきたあんたが! 」
急にディノの表情が険しいものへと変わり、それはすぐに元に戻った。
「まあ、いいさ。せっかくきたんだもの。兄弟のよしみであんたにやるよ。」
そういうと、ディノはほうるようにしてコウに何かを投げた。
それは、一枚のディスクだった。
「! ディノ・・・。」
「おいおい、いいのかよディノ!? 」
ディノの行動にカルラが声を上げる。
だが、ディノはカルラをきっと睨みつけ言い放つ。
「うるさいよ! 事情も知らぬ無能者が口出しするな!! それと、ボクの事はクシナダ特務兵と呼べ・・・・・言っておくが次はないぞ。」
カルラ以上に冷酷な響きを放つその声に、カルラもつばを飲み頷いた。
「さあ、話を戻そうか。そうそう、そのディスク、あんたにあげる。せいぜい楽しませてくれよ? 」
「ディノ、どういうことなんだ!? 教えてくれ!! それに・・・・母さんは。」
一瞬悲しげな光を瞳に浮かべながらディノは言った。
「・・・・・・死んださ。・・・・あんた達のせいでな!! 」
「!!!!!!!!! 」
その言葉を合図にしたかのように、ドックの崩壊が本格化してゆく。
「じゃ、頑張って脱出しなよ? この緑髪の連合士官は人質として連れて行かせてもらうよ。カルラ! それと、オレンジの女!! こいつを運べ!! 」
真の特務兵の命令にカルラとエリスは仕方なく倒れるシャクスに駆け寄り、後ろ手に縛ったあと両脇に抱える。
「先生!! 先生をどうするつもりです!!! 」
ナターシャが涙声で叫ぶ。
それを見てディノが冷たい笑みを浮かべながら言い放つ。
「・・・君が知る必要はないことだ。・・・・ナターシャ・メディール・・・・。」
「!!! 」
「ディノ!! どうして、ナターシャの名前を知っている!! 」
驚くコウとナターシャの様子を見たディノは大声で笑い始める。
「あーっはっはっはっ!! 知っているさ。ボクはなんでもね。コウ、くれぐれも運命に足をすくわれないように気をつけるんだね。簡単に死んだら・・・・・ボクは許さないよ・・・・。」
「ま、待て!! ディノ!! 」
「せ、先生! せんせ・・・先生ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! 」
コウとナターシャの叫ぶ中、崩れる瓦礫により分かたれたディノ達とシャクスはドックの奥へと消えていった。
「待って、先生、先生を・・・連れてかないでぇー!!! 」
半狂乱になりながら瓦礫の山を無謀にも傷だらけになりながら上ろうとするナターシャをコウは止めた。
「ナターシャ、やめるんだ! ・・・今は!! 」
「うるさい!! 放してぇーーーー・・・・・・・!!! ・・・」
ナターシャはその絶叫の声を不意に止めた。
崩れるドックの中、コウはナターシャの体を背中から優しく抱きしめていた。
「ナターシャ。シャクスさんは、まだ生きてる。生きてさえいれば、次につながる。・・・・シャクスさんの言葉だろう? オレ達も、生きるためにここを出よう。シャクスさんを助けるために・・・! 」
「コウ・・・・さん。コウさん・・・。はい・・・・わかり・・・ましたあ・・・。」
あふれる涙を堪えながら、ナターシャとコウは手をつなぎ、来た道を急いで戻った。
「ちっ。胸くそ悪い事したもんだぜ・・。」
シャクスを抱えながらぼやくカルラにディノが言う。
「なんだ、ああいう事、嫌いなのかいカルラは。」
「・・・はっきり白黒つけてない感じがしてね・・・。なんかイラつくだけですよ、クシナダ特務兵殿! 」
「あっはっはっは、じゃあ君とは喜劇を見に行く事はできないなあ。こんなに愉快なイベントだったのに。」
「・・・・・・。」
いらいらするカルラ、笑うディノに無言でエリスも付いてゆく。
そしてふと自分の抱えたぐったりする連合の士官の顔にヘルメット越しに目を移す。
「・・・・・! 」
「では、カルラ、それと・・・。」
「ザフト地上侵攻特務隊所属、エリス・アリオーシュです。」
「そう。エリス、君はカルラの黒いのに乗って脱出しなよ。地上に行けばアマテラスがあるんだろ? 」
「はい。・・ですが、クシナダ・・特務兵は・・・どうされるのですか? 」
見るからに年下であろうディノの顔を見ながらエリスは敬語で質問を投げかけた。
「うん、ボクの相棒は・・・・・あれさ。」
それは、コウ達がさきほど目にした金色のMSであった。
「この・・・ミコトが、ですか・・? 」
エリスの言葉にディノは頷いた。
「GDE-03Mi ツクヨミ。月から地上に降り立った、最後のミコトさ。」
月の神の名を持つその神秘的なMSの美しい姿にカルラとエリスは吸い込まれそうになった。
「シャクス・ラジエルはボクが預かる。それじゃ、地上で会おう。」
正式に受領したツヴァイのコクピットに座るカルラに、座席の横に立つエリスは尋ねた。
「カルラ・・・。あなたの次の任務ってあの黒服の子のお供だったわけ? 」
「ちっ・・うるせぇ。オレだってあんなむかつくやつなんざ!! ・・・・・・・・・そういえば、メイズのヤツ、死んだらしいな・・・。」
「・・・ええ。」
「・・・・ちっ・・・。」
漆黒の悪魔のカメラアイに光が灯り、カルラはドックからその邪悪な姿を地上へと羽ばたかせた。
「・・・やれやれ、カルラのいうとおりかもしれないなあ。」
コクピットに座り、月の神を起動させながらディノはつぶやいた。
傍らにはシャクスが横たわっている。
「まあ、楽しめたからいいけどね。・・・さあ、行こうか、ツクヨミ・・・!! 」
透き通る白銀の軌跡を描きながら、その3機目のミコト、ツクヨミは地上へと舞った。
その頃、地上へと脱出したコウ達はランドグラスパーの元へと辿り着き、乗り込もうとしていた。
そこへ、2機のMSが飛び出してくる。
「あれは、ロシアの黒のヤツと・・・・あの金色のミコト? ・・・ディノか!!? 」
「コウさん、早く乗って! ランドグラスパー一機じゃ何もできません、スローンに至急合流しないと! 」
「わかった!! 」
ランドグラスパーのコクピットに座ったナターシャはエンジンに火を入れる。
「ランドグラスパー、発進します!! 」
勢いよく飛び出したその砂上の戦闘機は爆煙を上げて、来た道を最短距離で戻ってゆく。
しかし、アマテラスの元にエリスをおろしたツヴァイのカメラアイがその様子を捉えていた。
「逃がすかよ!! 」
その黒い高速の機体が狙いを定めようとしたときだった。
「カルラ! あいつらはほっとけ。もう帰るよ。」
「な!! でもよぉ!! 」
「なにかボクに・・・文句でもあるのかな? ・・カルラ・オーウェン・・! 」
「・・く・・・いえ、何もありません。クシナダ特務兵殿。」
悔しそうに言うカルラに、ディノは満足そうに微笑んだ。
「エリス! 君もボクと一緒に帰還だ! 付いて来い。」
ディノの言葉にアマテラスに乗ったエリスは言った。
「しかし、クシナダ特務兵! 現在、C-3862エリアにて、ザフト地上侵攻特務隊の2名が白いミコトの旗艦『リトルジパング』と交戦中なのです! 私に、加勢に行かせてください! 」
「C-3862・・・。ここからMSで飛行したらアマテラスでも全力で3時間はかかる距離だよ?今更行っても無駄さ。それに、ブリフォー・バールゼフォンだろう?交戦しているのは。」
「ブリフォーをご存知なのですか? 」
ディノはにやりと笑い言う。
「ボクは何でも知っているさ。彼に与えられたザナドゥは連合の戦力に負ける要素なんてどこにもない。それとも、君は仲間の事が信じられないとでも? 」
「・・・・・。わかりました。クシナダ特務兵にお供させていただきます。」
仲間を信じないのかなどといわれてしまえば、エリスはそれ以上言い返す言葉を持たなかった。
「ブリフォー、メリィ・・・。」
飛び立った金の機体と黒の機体の後を、アマテラスも追いかけた。
「もっとも、相手が完成した『ミコト』なら、勝ち目もないだろうけどね・・・・。フフフフ・・。」
ディノは楽しそうにつぶやいた。
〜第13章に続く〜
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