〜第11章 決戦〜

「・・・おはようございます。」

ブリフォー達青服の2人が5時間後の決戦を心に誓ったちょうどその時間、早朝のブリッジに顔を出したのはコウであった。
罰の悪そうな微笑を浮かべるその目元はふっくらと腫れ上がっており、なんともごまかしようもなく格好悪い。

「おはよう、コウ。よく眠れたかしら? 」

ブリッジにて夜番明けのマナが艦長席の上からコウに優しい言葉をかけた。

「昨日は・・・・本当にすみませんでした。」
「いいのよ。もう気にしないで。それより、見えるの? 」

マナが指摘したのは、いつも身につけている今のコウの顔にないもののことだった。

「ああ、眼鏡ですか? ・・オレは軽い近視なんでなんとなくは・・・・。昨日なくしてしまったみたいで。実は、どこでなくしたのか覚えてないんですけどね・・・。」

砂漠で泣き崩れてからコウは今さっきまで、自室で死んだように爆睡していた。
それだけ張り詰めていたものが切れ、そして心から安心した証拠であった。

「君の眼鏡なら昨日、ナターシャがもっていったわよ。」
「ナターシャが? 」
「君がシャクスに殴られた時、少しフレームが壊れてしまったみたいでね。あの後、『これはコウさんそのものです。』って言ってナターシャが大事そうに拾って、直してくれてるみたいよ? MSドックに、もうシャクスと一緒にいると思うから行ってみなさい。」
「そうですか・・・・。分かりました。行ってみます。」

コウがブリッジを後にしようとしたとき、マナは今までずっと気になっていたことをコウに切り出した。

「コウ君、この前君が言っていたこと。・・・・あれは、どういう事なの・・・? 」
「・・アモンさんに会った事・・・・ですね。」

コウはマナの方に向き直り、あの不思議な体験の全てを説明した。

「・・・そう。驚いたわ、偶然の夢にしては正確すぎる・・・。確かに、君が見たその『夢』は現実にあった話よ。・・・今から8年前になるわ・・。」
「やっぱり、そうですか。・・・あの、聞いてもいいですか? 」

コウのやもすれば控えるかのような質問の意を悟り、マナは自分からその話を切り出した。

「兄が・・・アモンがなぜ死んだのか、ね。」

コウは無言でマナを見つめた。

「実は、私もその場にいたわけではないから詳しい事は分からないの。でも、死因は搭乗中の戦闘機の原因不明の爆発。・・・・軍の公式な見解では、テロリストの仕業だって・・・。」
「もしかして、ブルーコスモス、ですか? 」

マナは首を横に振った。

「わからないの。どこの誰が何の目的でそれを仕掛けたのか。兄は『カリフォルニアの黒い風』と呼ばれた連合軍のエースパイロットだったから、ザフトかもしれないし。コーディネイター容認派で、内密にコーディネイターの友人もたくさんいたようだから、もしかしかしたらブルーコスモスかもしれない・・・。とにかく、分からないの・・・。」

悲しそうな微笑をたたえたその小さな女性の顔を、コウは無言で見つめるしかなかった。

「・・・・実は、アマテラスとの戦闘中に体が動かなくなったときに聞こえた『声』も、今思い返すとアモンさんのものだったんです。あの『声』がなかったら、今頃オレは・・・・。」
「『声』? 『声』が聞こえるの? 」

コウはうなずく。

「MIHASHIRAシステムを起動しているときは、頭の中に無数の声が突き刺さってくるんです。一方的な叫びのような声が・・・。その中の一つとシンクロして、オレは操縦桿を動かします。でも、あのときのアモンさんの声は・・・・・少し違った気がします・・・。」

目を伏せるコウを見たマナは、これ以上気持ちの負担をかけまいとして話をきりあげた。

「そう。スサノオにはまだ私達の知らない秘密が、あるのかもね。それはともかくとして、早くドックに行ってみたら? シャクスともあれから話してないんでしょう? 」
「・・・そうですね。行ってみます。」

コウはその場を後にした。

「・・・お兄ちゃん。」

マナの呟きが、ブリッジに消える。


「きゃっ!! 」
「わっ!! 」

ブリッジからでてすぐのところでコウは誰かとぶつかった。
コウの鼻を、高貴な雰囲気の漂う香水の香りがかすめる。

「フルーシェ? おはよう。・・昨日は、ごめん。・・こんなところでどうしたの? 」
「え、あ、おはようコウ。私は・・その・・・。そ、そうですわ! ちょっと・・・お花を摘みに来ましたの。間違えてブリッジに辿り着いてしまいましたわー! わたくしったら!! それでは、ごめんあそばせっ!! 」

コウに話しかけられたフルーシェはあたふたと動揺しながらその場を後にした。

「トイレとブリッジを間違えるなんて・・・そうとうそそっかしいなあ。」

コウはフルーシェの嘘を真面目に受けとめながらMSドックへと向った。


フルーシェは、自分が分からなくなっていた。
先日の過激派ブルーコスモスの行動。
コーディネイターであるマーチン・ダコスタの言った言葉。
そして、立ち聞きしてしまった、マナの大切な人を奪った・・・・・『テロリスト』・・・・。

『テロリスト』・・・・。
自分たちは、どうなのだろう。
今までやってきた事は本当に正しい事だったのだろうか。
いかにピュリフィケイションがブルーコスモスの中でも穏健派であるとはいえ、コーディネイターを宇宙人として迫害してきたのは事実である。
相手の事を何も知ろうともせず地球から追い出す事が、本当に青き清浄なる世界につながるのか・・・・。
フルーシェの心は、かつてないほどに混乱していた。

「わたくしは・・・・・・どうしたら・・・・・。」


「・・おはようございます。」

M Sドックにコウの声が響くと、ランドグラスパーの影からナターシャがひょっこりと顔を出した。

「・・・・おはようございます、コウさん。」

見ると、その目の下には小さなクマができている。

「おはよう、ナターシャ。昨日は、ごめんね。・・・・その顔、寝てないの? 」
「・・・はい、少し前まで、これを直してて・・・。」

そういってうつむきながら差し出されたナターシャの小さな手の上にあったのは、コウの銀縁の眼鏡であった。

ナターシャにとって眼鏡とメカとは勝手が違うのだろう。
普通の人から見れば眼鏡のフレームの曲がりを直す事の方が遥かに簡単な事なのであるが、ナターシャはその小さな手で一生懸命に小さなゆがみまでを丁寧に修復してくれていたのである。
慣れない作業に寝る間を惜しんで、時間をかけて。

「ありがとう、ナターシャ。こんなにきれいに直してくれたんだね、すごく嬉しいよ。」

コウは満面の笑みをうかべてねぎらいの言葉をかけ、その眼鏡をかけた。
それを見て、眠そうだったナターシャの表情もにわかに笑顔に変わる。

「ナターシャちゃんね、すごく頑張って直したんだよソレ。私が手伝おうかって言っても自分でやるって聞かなくて。」

ナターシャと一緒にいたのは、

「私、キサト・ヤマブキ。しばらく一緒に行く事になったの。よろしくね。」
「・・・コウ・クシナダです。よろしく、・・・キサト。」

しかし、どういうことなのだろうとコウがキサトに聞こうとした時だった。

「よく眠れましたか? コウ君・・・。」
「シャクスさん・・! おはようございます。昨日は本当にすみませんでした!! 」

深々と頭を下げるコウにシャクスはおどけながら言った。

「いいですって、もう。私もおもいっきりぶん殴ってしまいましたからねぇ。痛かったでしょう? 」
「・・・わたしは、コウさんが先生に殺されるかと思いました・・・。」
「え・・ナ、ナターシャ・・・・。そんな事、しませんって・・・! 」
「ナターシャちゃんの発想・・・こわい・・・。」

ナターシャの本気かとも取れるような冗談に焦るシャクスと震えるキサトをみて、コウは笑った。
そこにあったのは、いつものたわいもないやり取り。
しかし、それが何よりも大切な事なのだとコウはつくづく思った。

「よう! 早いじゃないか! 」

そう言ってブルーセイヴァーの肩の上から語りかけてきたのは、コウのよく知る青い髪の女性ではなかった。

「ロウ! 」

キサトにロウと呼ばれたその少年は身軽にブルーセイヴァーから降りながらコウに近づき手を差し出す。

「オレはロウ・ギュール。キサトがいるって事は聞いてるかな? オレ達はジャンク屋だ。ワケあって、オレとキサトの2人はしばらくお前らと同行する事になった。よろしくな! 」
「・・・コウ・クシナダです。よろしく、ロウさん。」

そういって手を握り返したコウにロウは言った。

「ロウでいいよ、コウ。それと敬語も使うなよ。聞いたらお前、オレと同い年らしいじゃないか。名前もなんか、オレと似てるしな! 」
「ロウとコウ・・・。そうだね、確かに似てる。」

ロウは笑みを浮かべながら語り、コウもそう言って笑った。

「あの『ブロンズフレーム』に乗ってんの、お前なんだろう? 」

「『ブロンズフレーム』? 」

コウはロウの言ったその言葉が何の事だか分からなかった。
そこに、シャクスが捕捉した。

「スサノオの事ですよ。ほら、ロウ君の乗っていたMSのフレームは赤かったでしょう? あれは『レッドフレーム』というそうです。」

ロウがあの赤いフレームのMSのパイロットだとコウはその時初めて気付く。
ロウもコウのその表情に気付き、「気にすんな」とニカっと笑いながら言った。

「・・んで、お前のスサノオ、だっけ? あれはフレームが銅色をしているから『ブロンズフレーム』って事さ。」

レッドフレームとスサノオ・・・・。
確かに、この2体のMSはどことなく似ていた。
どことなく対称的な2人のパイロットとは反対に・・・・。

「ふあああ・・・おはよお・・・。あら、コウ君も、おはよう。」

眠そうなまぶたをこすりながらやってきたのはアイリーンだった。

「アイリさん。おはようございます。昨日はすみません。」

アイリーンはあくびをしながら「気にしない、気にしない! 」と手を振り自分の愛機の方へと歩いていった。

「アイリ! ちょっといいか? あんたの機体、接近戦が得意そうだからさ、もう一本剣をつけてみたんだ。遊ばせとくのもったいないからさ。あと、駆動系の調整なんだけど・・・・。」

さっきまで、そのブルーセイヴァーを調整をしていたロウがアイリーンに駆け寄りブルーセイヴァーについての打ち合わせを始める。



「さて、オレもスサノオの整備をしなきゃな。」
「・・・コウさん! 」
「大丈夫だよ、ナターシャ。もう、勝手には乗らないから。絶対に・・・。」

コウはシャクスとナターシャの顔を見渡しながらもう一度、約束をした。



そして、運命の5時間後――――。
スローンのブリッジに大きな緊張が走った。

「ちぃ、やっぱりそう簡単には行けねェってことかい? 」

レヴィンが悔しそうに言った。

「シュン、敵機の再確認! 」
「はい!! 敵機熱源は正面に2! 一機は先日の白いMSと同様のMSと思われますが、もう一機はアンノウンです!! 」
「また新型ですかねぇ。ザフトの方々も私たちなんかにお金をそんなにかけなくても・・・。まあ、いい機体が見れるのは個人的には嬉しいんですけどねぇ。」
「あれ? 」

その時、サユが何かに気付き、アイリーンが問いかけた。

「どうしたの? サユ。」
「えっと・・・私たちの正面から来てるんですよね? って事は・・・。」
「「「「「「「!! 」」」」」」」

全員がサユの言葉の先を理解した。

「情報が漏れて、先回りされたという事ですの!? 」
フルーシェが叫び、

「なんだか、面倒な事になってきたなぁ! 」
先日状況を既に聞いているロウが頭をかき、

「ど、ど、どうしよう〜!! 」
キサトが涙ぐみ、

「そう言えば、あのオレンジのザフト兵・・・アマテラスがいない!? 」
コウが気付き、

「・・・先行されているのかも。あの2機のMSのヒト達は恐らく・・・。」
ナターシャが分析し、

「足止め、・・・ですね! 」
シャクスが結論付けた。

「どうする!? シャクス!! 」

マナの問いかけに、全クルーの目がシャクス・ラジエル艦長に注がれた。
そして。

「総員! 第一戦闘配備! アイリーン、フルーシェ、ロウはMSにて出撃して下さい! 私は・・・ランドグラスパーでネブカドネザルへ向います! 」

「「「「「「「了解! 」」」」」」」

それぞれが持ち場へと駆ける中、コウがシャクスを追いかけながら叫ぶ。

「シャクスさん!! オレも・・。」
「もちろんです! 私と一緒に来なさい!! 」
「・・・先生!私も行きたいです! 」

後ろからついてくるナターシャに、シャクスは言った。

「ナターシャはMSドックにて待機です! 」
「でも! 」
「ランドグラスパーは2人乗りです!聞き分けてください! ナターシャ! 」
「・・・・・。」

ナターシャが無言で返しながら、MSパイロットとメカニック達はMSドックへと急いだ。

スローンのハッチが開く。

「カタパルト接続!! システムオールグリーン!! フォスター機発進、どうぞっ! 」
「アイリーン・フォスター、ブルーセイヴァー、出るわ! 」
ロウの手により、駆動系が大幅に改良された青い剣士が、

「メディール機発進、どうぞっ! 」
「フルーシェ・メディール、ガルゥ、出かけますわ! 」
三つの頭を持つ美獣が、

「ギュール機発進、どうぞっ! 」
「ロウ・ギュール、レッドフレーム、行くぜぇっ!!! 」
そして、風の神と似た姿を持つ赤き勇者が砂上に射出された。

シャクスとコウもランドグラスパーの副座式コクピットに乗り込む。
そしてシートベルトを締め、上部ハッチを閉めようとしたその時だった。

「むぎゅ! 」

後部座席で唸るコウの上に小さな銀髪の少女が滑り込んでいた。

「ナ、ナターシャ!! 」

驚くコウを尻目に、コウの膝の上にのったナターシャはその小さな体を密着させて抱きついた。

「ナ、ナ、ナターシャ・・・何を・・・!? 」
「先生! 発進してください! 」

女の子にいきなり抱きつかれてなのか、しどろもどろになるコウ。
そしてシャクスは言った。

「・・ナターシャ、あなたも軍人です。覚悟はいいですね! 」
「・・・はい! 」

その返事を合図にしてシャクスはランドグラスパーにエンジンをかける。

「コウ君、ナターシャをしっかり抱えててくださいね! サユさん!! 」
「はい! コウとナターシャも気をつけて! ランドグラスパー発進、どうぞっ! 」
「ランドグラスパー、行きますよ!! 」

サンドブラウンの砂上の戦闘機が爆煙を上げて砂漠を疾走する。
スローンの正面を避け、敵機に捕捉されない様に限りなく遠回りをしながら。
このランドグラスパーの最高速度なら2時間もあれば目的の場所まで 到達できる距離であった。

「・・・ついに・・・・。父さんと母さんの本当の事が・・・。」
「・・・・・。」

真剣な瞳でつぶやくコウをナターシャは黙って見つめていた。


「ようやく出てきたようだな。あの白いミコトは・・・温存か!? なめた真似を・・・。」
「隊長! 一機増えています。赤いフレームの機体が! 」
「ほう、ここにきてまだ戦力を増やせるとは敵ながらあっぱれだな。だが・・・!!! 」

蒼い魔王は4枚の羽を広げ、スローンのMS達のいる砂上に滑空する。

「何機来ようが!! このザナドゥの前には赤子も同然だ!! 行くぞ、メリィ! 敵の足を止めるまでもなく、この場で全機を討つ!! 」
「はい!! 隊長!! 」

魔王の後ろを白と赤紫の堕天使も続いた。

「来たわね! ザフト! 」

アイリーンが15.75メートル対艦刀≪シュベルトゲベールMk.2≫を構え蒼い魔王・ザナドゥを迎え撃つ。

「・・フン、『カラーズ』か。傭兵風情がぁ!! 」

≪シュベルトゲベールMk.2≫の斬撃は空しく空を切り、その美しい目の覚めるような蒼い機体のMSザナドゥは余裕を見せながらブルーセイヴァーの横に付く。

「・・・まずは一機! 」
「!! 」

ザナドゥの右腕の手甲型ビーム砲内臓ヒートクロー≪リュウジン≫のモノアイが怪しく輝き、蒼く輝く熱を帯びた竜の牙が、絶句するアイリーンのコクピットに迫る。

「ジンの分際で!! お控えなさい!! 」

その時、ガルゥの背部にある多目的ミサイルポッドから無数のミサイルが発射されザナドゥに直撃する。
ブルーセイヴァーもその隙に転がるようにしてザナドゥから距離をとる。

「アイリ! わたくし、やりましたわぁ!! ・・・・・え? 」

ミサイルの直撃を受けてできた砂煙の中から、4本の金色の光が放たれる。
ザナドゥから放たれた試作型レールガン≪グラシャラボラス≫の4本の光の内の一本はブルーセイヴァーの左肩上部をかすめ、一本はガルゥの右頭のヒートファングを破壊し、一本をロウはガーベラストレートで受けた。
そして、最後の一本の光は砂漠を焼き、延々と続く大きな溝を大地につくる。

砂塵の中から、蒼い機体の真紅のモノアイがゆっくりとこちらを睨む。
ミサイルの直撃を受けたその蒼い体には、驚く事に一切の傷もなかった。

オオォォォォォ・・・・。

空気が急激に張り詰める。

「な・・・なんですの、こいつ・・・!! しかも、あれだけのミサイルを受けて無傷ですって!!? 」
「まさか、『フェイズシフト』!? ・・・これは・・ちょっとやばいかもね。」
「オレはあきらめる気なんてないぜ! なあ8。」
『敵MSを撃破できる可能性。・・・・・・・・・・。』
「おい、黙るなよ・・・・。8。」

その一瞬で、スローンを守る3機のMSパイロット達は蒼い悪魔の底知れぬ力に恐怖すら感じていた。

「ハハハハハ!! ジンとは違うのさ!! ジンとはな!! ・・・メリィ!! 」
「はい、隊長! 受けなさい、裁きの雨を!! 」

蛇に睨まれた蛙となっていた3機にメリリムのドライ・シュヴーアの右肩にある多連式ビーム散弾ミサイルポッド≪タスラマード≫から無数のビーム散弾ミサイルがお返しとばかりに放たれた。

3機の上空で爆砕した無数のミサイルからはさらに無限の強力な光の雨が降り注ぐ。

「きゃあああ!! 」
「うおおお!!? 」

為すすべもなく広範囲に降注ぐ光雨を被弾するブルーセイヴァーとレッドフレームにフルーシェが通信を入れる。

「お二人とも!! 背中にお乗りなさい!! 」

そういうと2機を背中に乗せたガルゥは砂漠を爆走し光の雨を掻い潜るところまで逃げた。

「あいつら、あの性能はいつもながら反則よね。全く!! 」

アイリーンの言葉にフルーシェとロウも頷いた。

「じょ、冗談じゃありませんわ!あの蒼いジンのバケモノだけでも厄介ですのに、空からもビームの雨を降らされるなんて!! このままじゃ、確実に負けますわ!! 」
「・・・・そうね。私たちの機体じゃ、ガルゥ以外では高速移動で回避もできないしね。」
「・・・なら、避けなきゃいいんじゃないか? 」
「「!? 」」

ロウの言葉にアイリーンとフルーシェは首をかしげる。

「オレに考えがある。協力してくれ、アイリ、フルーシェ!! 」

「ふん、あのバクゥの出来損ない、逃げ足だけは速いようだな。メリィ!! エネルギーパックを!! 」
「はい、隊長! エネルギーパック射出!! 」

ドライ・シュヴーアは、背中の硬質メタルウィングの後ろに付いた4つの小型エネルギーパックのうちの一つを射出した。

4枚の翼を広げ空中に飛翔したザナドゥはそれをキャッチし自らの背部に接続する。
これが、オールレンジの強力な兵器を搭載し、フェイズシフト装甲の試験機でもあるザナドゥという機体の唯一の弱点であった。
エネルギー消費が激しすぎるのである。

特に、試作型レールガン≪グラシャラボラス≫は4枚の羽から一斉放射した場合、その絶大な威力と引き換えに一回でエネルギー低下危険域のアラームがなるほどのエネルギー消費をする。
つまり、多用はできないのである。
先ほどブリフォーが≪グラシャラボラス≫を放って見せたのは、まず絶望的な戦力差を思い知らせ、相手の心を挫くためのものであった。
そして、次に撃つときは確実にしとめる時・・・。

エネルギーが全快の状態でも、残り3個のエネルギーパックと今補給したエネルギーで≪グラシャラボラス≫の発射はあと4発のみ。
これを悟られないためにも、即効で蹴りをつけたいところであった。
しかし・・・。

「隊長!! 奴らが戻って来ます! 」
「そうか。メリィ! 『タスラマード』を撃って、奴らの退路とオレのところへ来る以外の全ての進路を断て!! 今度ははずさん!! 」
「了解しました!! 」

再び空中からドライ・シュヴーアの≪タスラマード≫が光の雨を降らす。
疾走するガルゥの背中には、レッドフレームとブルーセイヴァーがまたがる様にして乗り、それぞれの剣を構えている。

「来たわよ!! フルーシェ!! 」
「任せて!! 落ちないようにしっかりおつかまりなさい!! 二人とも!! 」

≪タスラマード≫の光弾の雨を掻い潜るようにガルゥは疾走する。
しかしメリリムの誘導により、かわす先にあるものは大地に立つ蒼き魔王へ続く死刑階段のみであることに3人は気付かなかった。

それでも、一直線にザナドゥへと疾走するガルゥ。
そして、ザナドゥの4枚の翼がガルゥに照準を合わせ裁きの光を発射する態勢をつくった。

「・・・逃げ道はもはや皆無! これで、終わりだな!! ナチュラル!! 」

試作型レールガン≪グラシャラボラス≫が2度目の唸りを上げる。

「今だ!! フルーシェ!! 」
「ええ!! 」

その瞬間、ガルゥは真上に高く跳躍した。
≪グラシャラボラス≫の4本の光線の内3本がガルゥに当たり、中央の頭と右前足を吹き飛ばし、コクピットの横をあわやかすめてゆく。

「ちっ!しかし、それでかわしたつもりか? まとめて爆砕しろ!! 」

空中で無防備になるガルゥの腹に向けて、ザナドゥは両腕の手甲型ビーム砲内臓ヒートクロー≪リュウジン≫のビーム砲を構えた。

「逃がしはしないわ。メイズの仇よ!!! 」

そしてガルゥのはるか上空を飛ぶドライ・シュヴーアもまた、≪タスラマード≫を構えた。
空と地上、全方位に近い方向から一斉に無数のビームがフルーシェ達3機のMSに集中砲火された。
絶体絶命かと思われたその時 !

「これでどうですの!!? 」

ガルゥの左頭の口から強烈な火炎が放射され、それが爆炎の壁を作り、≪リュウジン≫から放たれたビームの被弾を最小限に食い止める。

「いくわよぉぉぉぉ!!!! 」

そして、空中のガルゥの背中を蹴り、ブルーセイヴァーが跳躍する。
その肩にはレッドフレームが乗っていた。

「ロウ!! うまくやんなさいよ!!! 」

そして、一直線に跳躍した事で≪タスラマード≫の被弾を最小限に食い止めたブルーセイヴァーは15.75メートル対艦刀≪シュベルトゲベールMk.2≫を峰刃に構えて上段から力いっぱい振り下ろした。 その切っ先にはロウのレッドフレームが乗り、斬撃に合わせてバーニアを全開にして天高く跳躍する。
その先にいるのは・・・白と赤紫の堕天使・ドライ・シュヴーア。

「うおおおおおおおおお!!! 」
「な!!! 」

一瞬の出来事であり、メリリムも微動だにする事はできなかった。

ズバァァァ・・・・!!!!

「な、なんですってぇ!!! 」

ロウは空中ですれ違いざまにドライ・シュヴーアの≪タスラマード≫が内蔵された右肩から先を斬りおとし、戻す刀で背部フライトユニットを斬り壊した。
瞬間的に二回もの斬撃をうけた堕天使は砂漠の大地に急降下する。

「きゃああああああああ!!! 」
「く! メリィーーーーー!!!!! 」

飛行バーニアを全開にしたザナドゥは落下するドライ・シュヴーアをなんとか墜落する前に空中で捕まえた。

「くぅぅ!! 隊長! 申し訳ありません!! 」

悔しそうに歯軋りするメリリムにブリフォーは言った。

「・・・さすがに手ごわいな! だが、あの赤い機体はあの高さから落ちれば助かるまい。・・・結果的にはあと手負いが2機だ。悪くはないさ。」

一直線に落ちるレッドフレームを見ながらブリフォーはそう分析した。
しかし。

「ロウ!! お乗りなさい!! 」

もう一度跳躍したガルゥに落下するレッドフレームは合体するようにまたがり、その勢いを少しだけ緩和する。
そして、その着地場所の近くにはブルーセイヴァーがロウによって追加装備された剣を砂漠に突き刺し、その力を全開にしていた。

「『スーパーシャクスソード』は、こういう事もできるのよ!!!」

ヴィィィィィィ!!!!

アイリーンの突き刺した、先の戦いにて中破したシャクス専用ジンの振動子付き重斬刀≪スーパーシャクスソード≫は砂の大地の中で高速振動をはじめ、その振動は砂の大地の性質を一変させる。

その砂の大地はまるで海のように柔らかいクッションとなって着地したガルゥとレッドフレームの体を砂中にうずもれさせた。

それに気付いたブリフォーが叫んだ。

「振動子(トランジューサー)を使って大地を液状化させ、クッションにした・・・・だと!? 」
「そんな事が・・・可能なの!? 」

メリリムも驚愕する。

「ロウ! フルーシェ! 大丈夫!? 」
「ええ、ガルゥもなんとか動きますわ! 『光の雨封じ』、成功ですわね!! 」

フルーシェのガルゥが砂の中から姿を現す。
そしてその作戦を思い立ったその少年の乗る赤き勇者も砂中から地上に飛び出した。

「レセップスがミサイルで狙われたときにも似たような事ができたから大丈夫だと思ったけど、何とかうまくいったぜ! 」
『全く無茶苦茶だ。成功の確率は10.3%だったんだぞ』
「なぁに、一割も確率があれば、あとは運と度胸で何とかなるもんさ、8! 」

スローンの面々の無茶苦茶な作戦にしてやられた事に動揺しながらも、翼を失った堕天使と共に蒼い魔王は地上に降りた。
その時だった。

シュウゥゥゥゥ―。
ザナドゥの装甲の深い蒼が、徐々に無機質なグレーへと変色していく。

「! ・・・しまったエネルギー切れか!! 」
「隊長! エネルギーパックを早く!! 先ほどフライトユニットと共に2つは壊されましたが、まだ1つあります! 」

急ぎ、エネルギーを補給し再びフェイズシフトを展開するブリフォー達を見て、アイリーン達は気が付いてしまった。

「そうか! あの蒼い奴、エネルギー消費が激しいのね!! 考えてみれば当然だわ。フェイズシフトと同時にあれほどの兵器を使っているんですもの。」
「なるほど、それであの白いMSに補給用の小型エネルギーパックを持たせているのですわね!? 」
「背中のやつだな? なら、さっきオレがついでに2つ斬ったから・・・・奴はもう補給はできないぜ!! 」

既にビーム系の被弾をかなり受け、満身創痍であった3人の心に勝機の闘志がみなぎった。
逆に、手の内を悟られ先ほどまでの戦術も封じられた青服の2人は、最後の肉弾戦を仕掛けることを決めていた。

「ダメージは謙虚にとらえて互角として、数は向こうが上で先ほどの手の内は封じられた・・・・しかし、それを補って余りある並外れた性能と技量がこちらにはある! ・・・メリィ、覚悟を決めろ。直接攻撃で、奴らを確実に叩く・・・!! 」
「はい、隊長。・・・確実に、殺します・・・!! 」

ザナドゥの両手足の手甲型ビーム砲内臓ヒートクロー≪リュウジン≫が蒼く熱し始め、ドライ・シュヴーアの左腕そのものである高出力ビームサーベル≪シュトラーフェ≫が光刃を形作る。
そして、その2機のMSのカメラアイからは今まで以上の殺気の光が放たれていた。

「やつら、くるつもりね。」
アイリーンが≪シュベルトゲベールMk.2≫と≪スーパーシャクスソード≫を両腕に構え、

「・・・向い討ってくれますわ! 」
フルーシェが残った左右の頭部のヒートサーベルを赤熱させ、

「へっ・・・最終局面ってやつだな。・・来るなら来い!! 」
ロウが持つ≪ガーベラストレート≫が鋭い輝きを放っていた。

5機の本当の決戦は、まだこれから始まる。


〜第12章へ続く〜


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