〜第10章 約束〜
コウは怒っていた。
あのブルーコスモスのやり方に。
コウは元々東アジア共和国にある日本の生まれであった。
所属は一応地球連合軍ではあったが、この国では比較的コーディネイターであるとかナチュラルであるということで差別するような慣習は少なかった。
それは、この国が今まで平和であった事の証明なのであろう。
コウもまた、そういった人間の一人であった。
だが、逆にブルーコスモスやザフトの一部の過激派のような主張を持っている者も全面的に否定する事はないと考えていた。
それぞれに自分の考えがあり主張があるのは大切な事だと思っていたから。
しかし、・・・。
目の前の現実は、そう甘くはなかった。
『コーディネイター』であるというだけで自決かミサイルの爆撃を選べだと・・・!?
人の命をそんな事で平気で奪えるような人間がいることに、コウは腹が立ったのである。
「あいつら!! ふざけやがってぇ!! 」
そんなコウの怒りを背負い、スサノオは爆走した。
「・・・あなた、死ぬ気なの。」
プロフェッサーと仲間から呼ばれている白衣の女性は、マーチン・ダコスタの決意を感じ取っていた。
砂漠をにらみながら、マーチンは心を許したジャンク屋達に告げる。
「奴らのターゲットは私だけだ・・・。あんた達を巻き込むわけにはいかない。ただ・・・一つだけ頼む・・・。」
アストレイレッドフレームのコクピットに座るロウも、その話を聞いていた。
「私の大切なモノ、『アレ』を・・・すまないが、あんた達に頼んだよ・・・。」
「マーチン・ダコスタ・・・・。」
プロフェッサーが彼の名前を呼んだ。
その時だった。
「そんな必要ないぜっ!!! 」
ロウはレッドフレームの操縦桿を握った。
「オレに任せろ! 」
そう言うとレッドフレームは砂上を跳躍した。
「忠告を無視するとは・・・!! 構わん!!ミサイル発射だ!!! 」
それを見たブルーコスモスは大型トレーラーから対艦弾道ミサイルをレセップスめがけて発射した。
「死んで土に還れ!!! コーディネイターッ!!! 」
巨大な弾道ミサイルが唸りを挙げて接近する。
「あの大きさでは、艦の装甲などひとたまりもありませんっ・・・!! 」
「いや〜〜〜!!! 」
リーアムは焦り、キサトは両手で自分の顔を覆った。
その時、ロウから通信が入る。
「プロフェッサー、エンジンを入れろ!! 」
「! ・・・了解。」
ロウの言葉にプロフェッサーは即座にレセップスのエンジンを入れた。
砂上の戦艦が揺れ始める。
「ダ、ダメだ。今からエンジンを入れても・・・避けられない!! 」
マーチンが叫ぶ。
正に絶体絶命かと思われたその時だった。
「さて、それはどうかな。避けるためにエンジンをかけたわけじゃないぜ!! 」
跳躍していたレッドフレームは砂上に切り出していたコロニーの外壁(共に落下してきたデブリ)の上に勢いよく着地する。
その瞬間、レセップスのエンジンの振動モーターによって液状化した地面が手伝うようにして、コロニー外壁が立ち上がりレセップスを狙うミサイルを見事に防いだ。
「どうだっ!! 」
ロウの機転と活躍にレセップスの艦内は沸き立った。
しかし・・。
立ち上がったコロニー外壁の横をすれ違う大きな塊・・・・。
それは・・・。
「愚かなコーディネイターどもめ!! ミサイルがひとつだと誰が言ったか!!! 今度こそ死ねぇ!! 青き清浄なる世界のためにィ!! 」
もう一発の対艦弾道ミサイルが、レセップスに迫る。
「ちっくしょう〜〜〜!!! 」
ロウが叫び、
『回避できる可能性・・・・・・0.013%』
8が分析し、
レセップスに乗るマーチン、プロフェッサー、リーアム、キサトは覚悟を決める。
その時、一陣の風・・・。
「おおおおおおおおおおお!!!! 」
瞬時にレセップスとミサイルの間にその姿を現したのは・・・・。
「銅色の、アストレイ? ・・・ブロンズフレームなのか!? 」
ロウがそう叫び終わるか否かの瞬間であった。
スサノオの掌から強烈な2本の竜巻が迸り、ミサイルの軌道をそらしてゆく。
怒れる神の風を受けたその巨大なミサイルは、次の瞬間遥か空のかなたへ飛んでいき爆発した。
そのあまりのすさまじい光景に、ロウ達はおろか、過激派ブルーコスモスの面々も絶句する。
「な・・・・な、なんだあれは!!!? 」
そして、スサノオのカメラアイは対艦弾道ミサイルを発射しきって動揺する大型トレーラーを睨む。
「お前らぁぁぁぁ!!!! 」
9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫を抜いたスサノオは、砂上を高速でそのトレーラーに迫り、目の前に立ちふさがった。
「お前ら・・・人の命を・・・なんだと思ってるんだ!!!! 」
「ひ、ひぃ〜〜〜!! 」
9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫を振り上げるスサノオのその姿に過激派ブルーコスモスの面々は恐怖し、死の気配すら感じた。
非情にも≪ツムハノタチ≫が振り下ろされる。
ガキィィィィィン!!
金属と金属がぶつかる音が砂漠に響く。
レッドフレームの日本刀型特殊鋼刃≪ガーベラストレート≫が、赤熱した≪ツムハノタチ≫を受け止め、火花と蒸気をあげる。
この地上で始めてめぐり合った赤いフレームの勇者と赤銅色のフレームの神が互いににらみ合う。
そして、その隙にブルーコスモスのトレーラーは一目散に逃げ出した。
「待てぇ!!! 逃がすとでも・・・。」
言いかけるコウに赤いフレームのジャンク屋から全周波回線で通信が入る。
「もういい!! オレ達は助かったんだ、何もそこまで・・・。」
「あいつらはっ!!! あんた達を殺そうとしたんだぞ!! しかも、あんなにくだらない理由でェェェ!!! 」
「・・・だから、お前も殺すのか・・・? 」
ロウのその言葉にコウは我に返った。
「どんな理由があろうとも、殺さずにすむならそれが一番だとオレは思う! 助けてくれたことには礼を言うけど、どうしてもおまえがあいつらを追って殺すと言うなら・・・オレが相手だ・・! 」
ロウのその言葉に、≪ツムハノタチ≫の高熱が消え、スサノオもそのまま動かなくなった。
「そう・・・だな。・・・オレは、一体何を・・・・。」
『コウ〜〜〜〜!! 』
追いついたスローンからスサノオのコウに通信が入る。
『コウ!! 大丈夫なの!!? 返事してっ!! 』
「サユ・・・。大丈夫だよ。どこも・・・悪くないから・・・。」
『よ、よかったぁ〜。私・・・私・・コウが、し、死んじゃうんじゃ、ないかって・・・ふ、ふえええええ!!! 』
通信越しに泣き出すサユにコウは心から申し訳なく思った。
スローンとレセップスの停泊する砂漠の上にスローンのクルー達は降りてきていた。
ロウのジャンク屋仲間とマーチンの姿もそこにある。
レッドフレームとスサノオからそれぞれパイロットが砂漠に降り、それぞれの仲間達が駆け寄る。
「コウ、大丈夫なの!! 」
シュンが駆け寄り、
「ふえええええええ、よかったよぉぅ!! 」
サユは泣き崩れ、
「このくそガキ!! 心配かけさせんなよ!! 」
レヴィンはコウの頭を軽くこずき、
「・・ふぅ。とにかく、無事でよかったわ。」
マナも安堵の表情を浮かべた。
しかし・・・。
パァァァァン!!
乾いた大地に、シャクスの平手の乾いた音が鳴り響く。
その掌を受けたのは、コウの左ほほだった。
「シャ、シャクス・・! 」
マナが声を上げ、無事を喜び合っていたジャンク屋達もコウの方にその目をやった。
目を伏せ無言で立ち尽くすコウに、シャクスが口を開く。
「君は自分のしたことが、分かっているのですか!!!? 」
シャクスの言葉にコウも答えた。
「・・勝手に出撃した事は、謝ります。それに・・・あの赤いフレームのMSのパイロットの人が来てくれなかったら・・・オレは、また無駄に人を・・・・!! 」
コウを止めた本人であるロウも震える拳を握り締めうつむくコウの姿を複雑にとらえていた。
「でも!! オレは我慢できなかったんです!! コーディネイターだからとか、ナチュラルだからってだけで何も考えずに人の命を奪うことのできるあいつらが!!! 」
コウのその叫びに、フルーシェの心がずきりと痛んだ。
たしかにフルーシェ達はブルーコスモスの中でも珍しい穏健派であり、コーディネイターを認めはしなくとも虐殺などの過激な真似は絶対にせず、ただこの地球からいなくなってくれさえすればそれでいいと考えていた。
それが、この地球(ほし)の摂理であると。
しかし・・・。
コーディネイターであるというだけで、という面ではあの過激派ブルーコスモスとなんら変わらないのではないのだろうか?
それが、フルーシェの心を酷く揺さぶった。
コウは自分の気持ちを吐き出すように続けた。
「だから、だからオレは出たんです!! 許せなかったから!!! 例え、自分の命を失おうとも!! 」
バキィ!!!!
そこにいる全員が口を開けたまま立ち尽くした。
シャクスの右の拳がコウの顔を思い切り殴り飛ばしたのである。
吹っ飛び、砂上に突っ伏すコウ。
そして、コウは更にシャクスに興奮した思いのたけを吐き出す。
「修正ですかっ!! オレももう、軍属だから!? 殴りたいならどうぞ! 好きなだけ殴られますよ!! でも、オレは・・・!! 」
ビリィ!!
言いかけたコウはその言葉を止めた。
その自らのどうしようもない混乱した感情に潤む青い瞳が捉えたものは・・・・。
軍服であった。
シャクスは自らの軍服の上着を脱ぎ、砂上に破り捨てたのだった。
そして・・・。
「私が言いたいのはそんなことじゃない!! 確かに、許せないかもしれない。君の言う事は、私にだってよく分かる!! しかしな・・・・・!! 」
シャクスは一呼吸おいて、精一杯の言葉をコウに言い放った。
「君は・・・・私達の愛するコウ・クシナダという人間は、この世に二人とはいないんだよ!! 」
「「「「「「「「!!!! 」」」」」」」」
その場にいる誰もが、その言葉に衝撃を受けた。
「軍属だから、命令違反をしたから殴ったのだというのなら! 私には・・・こんな、こんな服は必要ない!! 君がもし今後も感情に任せてあれに乗るというのなら私は!! ・・・・・スサノオを今ここで、爆破する! 」
「シャクス・・・・さん・・・。」
コウの瞳から大粒の涙が一粒零れ落ちる。
「自分の信じることのために考えながら行動することはいいことだと思う。もしそれが失敗だったとしても、そのために悩み、迷い、自ら選んだ経験は次の自分に必ず残る。だから、約束してほしい。例えどんな理由があろうとも、次の自分を放棄するような真似は、君の命を・・粗末にするような真似だけはしないでほしい。生きるために、『戦う』んだ。君は、一人じゃないんだから・・・。」
気付くと、コウの周りにはコウを愛する多くの仲間達が笑顔を向けていた。
その瞳の多くは感慨に潤んでいる。
「すみ・・・ませ・・・・ありが・・・と・・・・う・・うああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
コウは泣いた。
こんなに人目をはばからず泣いたのはいつ以来だったか。
そんなコウを皆、優しくスローンに迎え入れた。
日の暮れた砂漠の上に張られたテントの中では、スローンとジャンク屋の面々が対面し話し合いをしていた。
スローン側からはシャクスとマナ、アイリーンが、ジャンク屋側からはロウ、リーアム、プロフェッサーそしてマーチンがそこに参加していた。
シャクス達は自分達が極秘任務でここに通りかかったという事だけを事情として語った。
「・・・そちらの話は大体わかりましたわ。それにしても、今日は助けてもらって本当に感謝します、ラジエル大尉。」
話を切り出したのはプロフェッサーだった。
「いえ、こちらこそ。我々のパイロットの暴走を止めていただいたことには、本当に感謝していますよ。ありがとうございます、ロウさん。」
「いや、いいよそんな事。それより、あいつは? 」
暴走した『あいつ』の事を聞かれ、シャクスは少し苦笑した。
「彼なら・・・泣き疲れて自室で寝ています。いやあ、お恥ずかしいところをお見せいたしました。申し訳ない。」
「いえ、そんなことはありませんよ、ラジエル大尉。少なくとも私は、感動しました。」
リーアムのその言葉にシャクスは余計に照れた。
「でも、考えてみれば彼はつい先日無理やりのような形で軍属となった元民間人の学生ですもの・・・・。よっぽど、張り詰めていたのでしょうね・・・・。」
アイリーンのその言葉にシャクスとマナの表情がにわかに暗くなる。
自分で決断したとはいえ、急に戦いの中に放り込まれ自分の命を確実に削る事を知りながらも必死に戦おうとしていたコウの事を、もっと気遣うべきであったと・・・・。
「・・・話を進めてもいいかな? 」
そう切り出したのは、ザフトの軍服に身を包んだマーチンだった。
「ええ、元々そちらの件が本題ですものね。」
アイリーンの言葉にマーチンもうなずき、話し始めた。
「私はザフト・アフリカ方面軍、バルトフェルド隊所属、マーチン・ダコスタといいます。」
「『砂漠の虎』の!? じゃあ、あの艦は・・・! 」
「そうです、私はあの艦に乗船し副官として指揮をとっていました。もっとも、先日撃沈されてしまいましたがね。」
撃沈された相手である連合軍所属の士官を前に苦笑いするマーチン。
隠し立てなく話をするマーチンに対し、シャクスも自らの率直な疑問をぶつけた。
「それでは、何故今頃まであんなところにいらしたのです? 」
「とある理由で、このジャンク屋の皆さんと共にあのレセップスを修理していたんですよ。修理した後は彼らに譲るという条件で。それで私はあるものをもって帰りたかったので、基地の近くまで送ってもらうことになっていました。」
「あるもの、とは何です? 」
マナのその質問はジャンク屋達も知らないようであった。
マーチンはこう返す。
「すみません。それは言えないのです。しかし、兵器とかそういうものではありません。私にとって・・・・本当に大事なものなのです。」
マーチンの真剣な表情にマナもそれ以上は聞かなかった。
「それでダコスタさん、私たちに話とは何です? 」
「それは、オレから話すよ。」
そう言ったのはロウであった。
「さっきあんた達の艦のMSドック、見させてもらった。見たところかなりの戦闘をしているみたいだな。あのジンを見りゃ外見もそうだが、他のMSも駆動系にかなりガタが来てる。」
「! 」
ロウの指摘にマナの目が険しくなる。
「・・・なるほど。あなたはよほど優秀なメカを見る目をお持ちのようですね。」
ロウはニヤリと笑い、本題を切り出した。
「そこでだ、オレが直してやるよ。あいつら。資材もいいのが揃ってる。その代わり・・・。」
「・・・ダコスタさんを見逃せ、とそういうのですか? ロウ君。」
「・・・さすがだね。物分りが早い。どうだい? 」
全員の表情が険しくなる中、笑顔を浮かべながらシャクスは即答した。
「何かと思ったら、そんなことですかぁ? もちろん最初からどうこうする気はありませんでしたよ。」
シャクスの言葉に全員が唖然とした。
「ですから、ロウ君。気にしないで下さい。ダコスタさんも。そのかわり、私達のこと、基地に帰っても内緒にしてもらえますぅ? 」
シャクスの妙に軽い提案にマーチンは大声で笑った。
「ぶはっはははは! 面白い方だ!! もし、見逃していただけるなら私も私自身の誇りをかけてあなた達のことは口外しませんよ、ラジエル大尉。」
「ありがとうございます。それでは契約成立ですね。」
そう言ったシャクスにマナが食いつく。
「シャクス!! そんなことを言って! ・・・・ゴホン。ダコスタさんには失礼かもしれませんが、あなたが基地に帰った後報告をしないという保証は、我々にはありません。従って、このままあなたをジブラルタルに帰すわけには・・・」
「マナ。例えダコスタさんが報告を入れるにしても、同じことですよ。彼らはまた襲ってくるでしょう。恐らくですが、彼らは正規軍とは独立して行動しているように思います。そう、我々のように! 」
「それは・・・そうかもしれないけど・・・! 」
「やっぱり、狙われているんだな! 」
その話にロウが口を挟む。
「仕方がありませんね。・・実は我々の熱烈なファンの方々がザフトにいらっしゃるようでしてね。それがまあ、熱心な事! 」
ロウは意を決したようにシャクスに進言した。
「よし! オレがしばらく一緒に行ってやるよ!! そうすれば、あいつらも治してやれそうだし、MS戦闘もこいつがいれば問題ないと思うし。」
そういうとロウの足元においてあった小型の機械の箱のようなもののディスプレイが光り、文字がうかんだ。
『問題ない!まかせろ!!私は戦闘のプロフェッショナル!!』
いぶかしげに8を覗き込むシャクス達を尻目にロウは続けた。
「それに、オレ達も助けてもらっているからな。借りは必ず返さなくちゃいけない・・・・死んだ爺ちゃんがよく言ってたぜ。」
「もうこうなったら聞かないでしょうねぇ・・・。」
「はあ、全く・・・。」
リーアムはあきらめ、プロフェッサーはため息をついた。
マナとアイリーンも絶句し、シャクスは笑って答えた。
「いいのですか? そういったからにはちゃんと直るまではこきつかいますよ? 」
「おう! 任せときな! それと、よろしく頼むぜ! 」
ロウとシャクスは硬い握手を交わし、マナとアイリーンもお互いに顔を見合わせて微笑んだ。
次の日の昼過ぎ、レセップスの修理が完成した。
もう既にほとんど完成していたのでシャクス、ナターシャ、フルーシェの3人が手伝った事であっという間に仕上がったのである。
「それでは、御武運を祈ります、ラジエル大尉。いや、この場合ちょっと皮肉っぽくなってしまうかな? 」
「はは、ダコスタさんもお気をつけて。くれぐれも通告しないで下さいよぉ? 」
手を握り、連合軍のシャクスとザフトのマーチンは笑いあった。
この時代、全く持って奇妙な光景だと誰しもが思った。
が、こういう時代を作らなければいけないとも誰しもが願っていた。
「あ、あの・・・・。」
マーチンの前におずおずと歩みよったはフルーシェだった。
そして、いきなり頭を深くたれる。
「ごめんなさい!! わたくし・・・! 」
驚くマーチンに、シャクスが彼女はピュリフィケーションの人間である事を説明した。
事情を察したマーチンが、フルーシェに話しかける。
「気にしないで、フルーシェさん。君がしたわけではないし、主義主張が違うという事も事実、仕方のない現実ではあるんだから。・・・・でもね、私は思うんだよ。」
フルーシェは頭を上げて語り始めたマーチンの顔を見た。
「誰しもが気兼ねすることなく平和に暮らせる世界がきたらって。今の私とここにいる皆さんのようにね。」
地球連合軍、ブルーコスモス、ザフト、ジャンク屋・・・。今日のこの場には様々な立場の様々な人間が確かに集い、そして互いを尊重しあっていた。
この、マーチンの言葉はフルーシェの心に大きな影響を与える事となる。
互いに反対の進路をとりながら、レセップスとスローンは別れていった。
そして、スローンは最終目的地ネブカドネザルを目指す。
一時の、新たな仲間達と共に。
コウ達がマーチン達と別れたちょうど約半日後の事―――。
「ブリフォー隊長。『リトルジパング』の現在位置、捕捉しました。計算だと、今からフライトすればあと5時間ほどで接触できます。」
ジブラルタルにてバズヴに新搭載された地上用高性能レーダーを使ってスローンの所在をつかみ、入ってきたのはメリリムであった。
バズヴのMSドックにいたブリフォーは完成した自分の愛機を見上げ、おもむろに答えた。
「あと、5時間・・・・・か。」
そう、あと5時間。あと5時間であいつらと戦う事ができる。
メイズの仇を討つ事ができる。
『ボアズの蒼竜』とよばれたブリフォーの感情がたぎる。
そして、ブリフォーは自らの駆るその新しい蒼い竜の名を口にして、誓う。
「この『ザナドゥ』で、必ずメイズの仇を・・・討つ!! 」
「メイズ・・・・・・。私も、同じ気持ちです! 隊長。」
バズヴのMSドックのハッチが開き、2機の青き誓いを持った断罪者達のカメラアイが輝く。
純白の堕天使、ドライは破損した頭部、左腕、右肩を新調していた。
形状も以前とは異なるその箇所だけは燃えるような赤紫色に塗装されている。
『紫翼の堕天使』と呼ばれた友への誓いの赤紫。
「メリリム・ミュリン、ドライ・シュヴーア、行きます!! 」
誓いの名、『シュヴーア』を持つ白と赤紫の堕天使が空へ舞う。
「ブリフォー・バールゼフォンだ、ザナドゥ、出るぞ! 」
空に飛び出した灰色の機体は、見る見るうちにその機体色を深い青へと変化させてゆく。
ミゲル達のもたらした新技術、『フェイズシフト』という衣をまとった4枚の翼を持つ蒼き魔王が、真っ青な大空を切るように駆けた。
2名の青の精鋭と、座天使の勇者達との決戦まで・・・あと、5時間。
〜第11章へ続く〜
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