Phase-6 衝突−アルトとキラ
5月3日、午前9時30分。
地球軍ヨーロッパ第四基地。
アルトはジェット機に乗っていた。
ロベルトとルーウィン、カイとキースも一緒である。
このあと11時より、ザフト・オーブ・地球軍による合同会議が行なわれる。
それに出席するためである。
先日のAllianceと言う組織が台頭したことによるものである。
オーブまでは一時間。
ちょっとした旅行に匹敵する。
そんなジェット機の中でも、アルトは膨れていた。
実はここにいる者たちは皆自分から名乗り出てきたもの達ばかり。
アルトも例外ではなく。
ただ、若干後悔していた。
「お前、何膨れてんだよ」
キースが声をかけてきた。
「……別に」
「別に何にもなくて膨れてんのかよ? そうじゃねぇだろ」
「………ふん」
そっぽを向いた。
膨れるくらいなら来なければ良いのに。
そう言おうとしたがすこぶる機嫌が悪い時のあるとは危険なので言わないでおく。
青い海を進んでいくジェット機。
光が反射してとても綺麗だった。
アルトは考えていた。
Allianceと言う組織に対して、ザフトとオーブはどう考えているのか。
これからの対策などは。
色々訊ねてみたいが、何時ものようにはぐらかされて終わりではないのだろうか。
何しろ質問を質問で返してくるような人間の集まりだ。
彼女の中にうっすらと嫌悪感が生まれた。
やめよう。
これ以上何か考えてもイライラするだけだ。
そうだ、寝よう。
寝ればすっきりするはずだ。
アルトは目を閉じた。
***
午前10時30分。
オーブについた。
「おい、アルト。アルトー? ダメだ、起きない……」
ルーウィンがアルトの頬を軽く叩いている。
何時もは憎まれ口を叩いているアルトだが、眠っている時の顔のかわいさはフィエナにも劣らない。
「あー、またアルトの悪い癖か」
「癖?」
「そうだ。熟睡するとなかなか起きないんだよな……」
「………どうする、叩き起こすか」
カイが構える。
得意の拳法と言うやつだろうか。
まあそんなことをしなくてもすぐに起きることになる。
ロベルトが近づいてきて、大声を出した。
***
オーブ連合首長国の中心を担う島、オノゴロ。
そこにある行政府の総合会議室に、アルト達は案内された。
半泣きのアルトが椅子に座る。
「……何も耳元で大声を出さなくても」
「バカが。起きない方が悪い!」
ロベルトの言うことも一理ある。
アルト達が座ったあと、ぞくぞくと集合する各勢力の兵士達。
その兵士達をルーウィンはそわそわした様子で見ていた。
「どうした? 可愛い女でもいたか? フィエナと言うものがありながら」
「………キース……。そんなんじゃない」
もしかしたら今日、この場に、南アメリカファンダル基地の面々も来ているかもしれない。
そう思って兵士を見ていた。
だが、ファンダル基地の面々を見ることが出来ないままに会議が開始された。
「皆様、本日はお忙しいところオーブに集まりいただき、ありがとうございます」
まずは首長であるカガリの挨拶から。
その後Allianceについての数少ない情報提供、目撃情報や保有しているMSについてなどが発表された。
「先日、中国高雄近辺で戦闘があり、その生存者が今総合病院に入院しています。蒼の兵士からの証言が得られればまた新しい事が分かるかもしれません」
新しい事などそう簡単に分かるはずが無い。
何度も調査隊をフレスベルグに遣しても何も分からなかったのに、よく言う。
「さて、他に何か意見などは?」
一通りの報告が終了したのだろう。
他の兵士から情報を集める。
その情報も微々たるもので、直接結びつくようなものが無い。
そのあと、特に挙手をする兵士もいなかった。
「それでは、次に」
「待ってください」
皆の視線が一点に集まる。
それは同席していた者からも。
アルトだ。
アルトが挙手をしている。
「どうぞ」
「情報とか、そう言うものではないんですが」
アルトが立ち上がる。
「オーブ、ザフトは今回の件についてどう考えているのか、明確に教えていただけないでしょうか」
「どうって……」
カガリの言葉が詰まる。
相手は一国の首長と、今やカリスマ的な存在にまでなった平和の象徴の歌姫。
臆する事など無い。
皆は称えているが、相手は人間。
臆する事など、何も無い。
「明らかに今回のAllianceと言う組織、オーブ勢力ばかりを狙っています」
「………そのことについてはこちらも重々承知している」
「そのことに対して、どう考えているのか私は尋ねています。どうかお答えください」
「オーブに恨みのある者たちの集まり、と言うことを貴方は言いたいのでしょう?」
「ラクス……クライン………!」
ぴりぴりと空気が張り詰める。
カガリの隣にいるオーブ軍の兵士も、どこか不安げ。
「つまるところ、オーブ、ひいてはザフトのやり方に不満があるのではないでしょうか」
「不満……?」
「平和にしたいといっておきながら、前大戦時では最強といわれたフリーダムを所持、さらには不沈艦と名高いアークエンジェルを所持し」
そうだ。
オーブもザフトもやっていることがメチャクチャではないか。
言っていることと、やっている事が矛盾している。
そこがアルトは許せなかった。
そんな口先だけの彼女達が。
「さらには数々の戦場に現れては戦況を混乱させるだけさせ、一体あなた方は何をしたい?」
アルトの視線がカガリを捉えた。
「何をしたい!?」
静まり返る会場。
流石にばつが悪くなったアルトは、「すいません」とそれだけ言って座った。
***
会議は終了した。
最終的に地球軍、オーブ、ザフトの間に戦線協定が結ばれた。
会議室を出るアルト。
ちょっと外の空気を吸いたくなってルーウィン達とは別行動をとった。
オーブは島国。
どこにいても心地よい潮風が肌に触れる。
展望スペースに備え付けられているベンチに座る。
我ながら馬鹿なことをしたものだと思う。
だが、どこかすっきりした。
ふと、物音がした。
顔を上げるとそこには、茶色の髪と紫の瞳を持つ男が立っていた。
そう、見たことがある。
第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦では「ZGMF−X10A フリーダム」に乗り。
メサイア宙域攻防戦ではその後継機「ZGMF-X20A ストライクフリーダム」を操り戦い抜いた男、キラ・ヤマト。
そのキラが目の前にいる。
「君は、さっきの……」
「さっきの何よ。はっきりしないわね」
言いたい事は分かっている。
一国の主張に啖呵を切ったのだ。
覚えられても無理は無い。
「君は何故あんな事を?」
「誰もが全員オーブのやり方に賛同していないってことを教えただけですけど?」
「君もそうなの?」
「今のところは」
少なくともあんな返答をされては、賛同する気にはなれない。
自分たちが相手に対してどう考えているのかすらも明確に出来ない人のやり方には。
だが上層部は戦線協定を結んだ。
それには従わなければならない。
「じゃあ君はどう思っているの?」
「何が」
「あのAllianceって組織について」
「私はあいつらを許さないわ。フレスベルグでの爆破事件も、その後の混乱も。そして」
拳を握り締める。
「大切な人を奪ったあいつらを」
「でも、それは彼らがしたとは言えないんじゃないのかな。今のこの状況だと」
「………よく、そんな事言えるわね。どう見ても明々白々じゃない! フレスベルグ爆破事件の直後からあいつらを目撃するようになった! それだけで十分よ!」
アルトが立ち上がる。
居心地が悪くなったためにその場を去ろうとした。
「でも、大切なのは彼らを捕まえた後だと思う」
「…………は?」
「彼らを捕まえた後の世界、混乱している世界をどうするかが大切だと、僕は思う」
「何よそれ。結局アンタ達は自分の思い通りの世界を作りたいだけじゃない!」
「違う! 僕達は……!」
「違わないわ! そうじゃない! 自分たちに異論を発する者は力ずくで抑えて! 強力な力を見せ付けて! それの何が違うというの!?」
アルトが詰め寄る。
キラはその鋭い目に圧倒された。
何だろう。
触れるだけで全てを切り裂き刃のように鋭く。
触れるだけで全身が凍りそうなほどに冷たい。
「平和への想いだとか、そんなもので! 一体何が守れるって言うのよ!」
それはかつてキラが発した言葉。
キラもかつて「気持ちだけで何が守れる」とカガリに叫んだ。
そんな自分が今はどうだ。
「そんなものでは何も守れないし、何も救う事なんてできない!」
(Phase-6 完)
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