Phase-5  世界が死ぬとき−Alliance台頭

 5月2日、午前0時。

 各地の廃棄基地でオーブ軍MSが哨戒任務についていた。

 どうにも先日のオーブ近海無人島での戦闘の事が引っかかっていたカガリの指示だ。

 各地といってもアジアを中心とした範囲。

 それほど遠くまでいけるわけではない。

 さて、そんな中。

 中国、高雄の砂浜に程近い廃棄基地。

 この基地はC.E.73の時点でザフトの管轄だった。

 しかし戦場がメサイア宙域へと移ったことで、この基地の有効性は見出せなくなり、廃棄された。

 今のこの時代、廃棄基地がどれだけ怪しいものか分からなくなっていた。

 そんな基地の哨戒及び調査を行なっていた。

「こんな基地に何があるんだか……」

 一人のオーブ兵がつぶやく。

 ぼやきながらも辺りを見回していく。

 ふと、何かが光った。

 不穏に思ったその男は、光に向って近づく。

 刹那、男の乗っていたM1シュライクは爆発した。
 
 その爆発を皮ぎりに、今まで散り散りになっていた他の機体が一気に武装を手に取る。

 だが、遅い。

 気がついたときには、もう。

「我らに仇成す者ども………Allianceのために消えてもらう!」

 夜空よりも深い黒、そう漆黒。

 その漆黒の装甲に身を纏った単眼のMSが迫る。

 ザクファントム・エトワール。

 そう呼ばれているMS。

 ミラージュコロイドを使用しなくても、暗闇に紛れているために捕捉しにくい。

 ムラサメが、M1シュライクがそのザクに攻撃をするが。

 ザク・エトワールの前では無力。

 全く掠りもしない。

「さあ、新しき世界の礎となるがいい……」

 ザク・エトワールのパイロット、ヴァシュリアが呟く。

 両肩のシールドからビームトマホークを取り出す。

 スラスターを起動させ、高速で移動する。

 すると、敵機の横を通り過ぎた。

 が、ザク・エトワールの脹脛からパイルバンカーが延びる。

 それが地面に刺さると、ザク・エトワールが急転回した。

 その勢いのままに回転し、トマホークでムラサメを切り裂く。

 今度は高く跳んだ。

 ビーム突撃銃で、弾幕をはり。

 避けられないところをトマホークで切り裂いた。

 しかし、どんなMSにも死角が存在していて。

 ザク・エトワールは背後を取られた。

「墜ちろ!」

 ムラサメがビームサーベルを構えて突進する。

「愚かな……。星の輝きを、知るがいい!」

 背部ウェポンラッチが開く。

 そこからおびただしい数の光が溢れ。

 ムラサメは一瞬のうちに爆発した。

 オーブのMS隊が全滅した。

「出来は上々のようだな……」

 通常のザクならば背部には交換式のバックパック「ウィザード」が装備されている。

 しかしヴァシュリアのザクの背部には固定式のウィザード「エトワール」が装備されている。

 エトワール。

 「星の輝き」を意味するこのバックパック。

 重力かでも問題なく機動性を発揮できるように設計されたスラスターと。

 収束、拡散が可能な「MRE-021 レイズビーム砲」とウェポンラッチに内蔵されている「MRE-034 ミラージュビーム砲」。

 先ほどムラサメを撃墜したのは「ミラージュビーム砲」である。

「いま、これを破壊されるわけにはいかないからな……」

 今まで目視できなかったそれが現れる。

 ミラージュコロイドによって隠していたのだ。

 いよいよだ。

 この世界を正す時が来た。

***

 夜が明けた午前6時15分。

 オーブは騒然としていた。

 調査のために向っていた隊の一つが戻ってこない。

 それを確認するために向ったアスランからの全滅の報告。

 事態の収集のために、シンとルナマリアが向う。

「これは……!」

「あの時と一緒だ!」

 どのMSも一撃でやられている。

 その多くはコクピットや動力部を貫かれていた。

 その惨劇は、オーブ近海での戦闘と酷似していた。

「何がしたいんだ、あいつらは!」

「ただ今まではどういうわけか破壊されたMSの大半はオーブのMSだ」

 少し前にフレスベルグの調査に来ていたザフトのMSが襲われた事があったがそれ以来あまり音沙汰は無い。

 それ以降はオーブのMSばかりが破壊されている。

 というよりも調査に向ったオーブのMS部隊をピンポイントで狙われているのだ。

「オーブに恨みがある者達の……?」

「いや、わからないな。オーブに恨みがあるのなら直接攻めてくればいいだけのこと」

 アスランのいうとおり、もしも奴らオーブに恨みがあるのならば本土を攻めれば一番手っ取り早い。

 それをしないと言うのはどういうことなのか。

「そんなの、俺が蹴散らしてやる!」

「………まったく、お前のようになれたらどれだけ気が楽か……」

 シンのようにいつも強気でいられたら確かに楽だが。

 そうもいかないのがアスラン・ザラと言う人間である。

「隊長! ザラ隊長!」

 シンとルナマリアと話をしていると、急に呼ばれた。

 アスランの後を追うシンとルナマリア。

 兵士が集まっている。

 その壁を掻き分け中へ進む。

「こいつは……!」

「生存者?」

 この激しい戦闘で、生き残っている者がいた。

 生きていたのは、オーブ第10MS大隊の一人だった。

 額からは血を流し、動ける様子ではない。
 
 救護艇に運ばれると、すぐにオーブへ。

 今、ここでは怪我を診ることが出来ない。

 生きているものがいるとなると、色々と聞くことが出来るかもしれない。

「俺たちもオーブに戻るぞ」

***

 午前7時20分。

 オーブオノゴロ島にある病院。

 ナチュラルもコーディネイターも受け入れてくれる、総合病院である。

 そんな病院に搬送された兵士はすぐさま処置室へ。

 あの戦闘の後だ、一つでも良い。

 有力な情報が欲しかった。

 処置が終了したのはそれから40分が経過した、午前8時のこと。

 事情を知っているアスランとキラ、ルナマリアの他にカガリとキラが合流した。

 幸い体中に怪我を負っているものの、命に別状はなく。

「一体、こんな事をして何になるというんだ……!」

 キラの拳が握られる。

 やはり、この世界から戦いを無くすことはできないというのか。

 かつてメサイアの中でデュランダルと対峙した時の事を思い出した。

 私がこの世界からいなくなったら、世界はまた混沌の世界へと元通りだ。

 確かにその通りだった。

 一向にして戦いはなくならなかった。

 だがキラは言い放った。

 それでも、戦い抜いてみせると。

 そう言った。
 
 だけど。

「お、おい! 大丈夫か!?」

 アスランの声で現実に戻る。

 ベッドに横になっている兵士が目を覚ました。

 皆の視線が、兵士に集まる。

「う……あ………! ここは……」

「病院だ。あの激しい戦闘で君だけが残っていたから搬送したんだ」

「びょう……いん? せんと、う……? う、うああっ……!」

 何かを思い出したのか、突然苦しみだした。

 額から汗を流し、瞳からは涙が流れ。

 何をそんなにおびえている。

「これは……」

 同室していた医師に尋ねる。

「一種の混乱状態です。よほどあの戦闘で何かが……」

 兵士の混乱が収まるまで待ってなどいられない。

 だがこの状態では何も聞くことが出来ない。

 落ち着いたら話を聞くと言うことになり、キラ達は病室を出た。

 今のところ分かっている事といえば。

 黒いザクが現れると、ほとんどの部隊は全滅に追い込まれている。

 襲われたMSはオーブのものがほとんど。

 このことから考えて、まず相手の狙いはオーブ。

 が、フレスベルグの件はどうするのか。

「くそっ……せっかく戦争は終わったというのに」

「戦争は終わっても、戦いはなくならない……」

「昔こんな事を言われたよ。どうすれば戦いが終わる? 敵を全て滅ぼしてかね、って」

 それはキラがかつてバルトフェルドに言われた言葉。

 敵を全て倒せば、戦争は終わり、世界は平和になる。

 だが、そうなった世界で誰が幸せだという?

 相手にも家族がいる。

 その者達は悲しみに明け暮れる事は必至。

 そしてその者達は復讐者となる。

 かつてのシン・アスカもそうだった。

 家族を失った事で、オーブを激しく憎んでいた。

 今はその念も少し和らいだようで。

「やっぱり、戦いは無くならないのかな……。どんなに僕達が頑張っても、戦いの連鎖を断ち切ることなど出来ない…………」

 この世界から戦いを無くす事などたやすい事ではない。

 ナチュラルとコーディネイターと言う考えの違う二つの種族が同じ場所で生きているのだ。

 もう、収拾のつかないところまで来てしまっているのだ。

 ならばどうする。

 キラは悩み始めた。

 どうすれば本当の平和にたどり着くのか。

 そんな時だ。

 モニターが起動した。

 別に誰もモニターを点けてなどいない。

「何だ? おい、一体誰が……!」

『私は、ヴァシュリア・ラインツハルト。Allianceを束ねる者』

 モニターには、灰色の髪色をした男が映っていた。

『そして、この世界に終焉と光をもたらすもの。偽善で満ちたこの世界に』

「偽善だと……? 状況は! どうなっている!」

 イザークが今の状況を知ろうと近くのオーブ兵に声をかける。

 残念ながら電波はジャックされており、こちらから切り離す事はできないらしい。

 ヴァシュリアと名乗った男の放送は続いていく。

『我々Allianceは、現クライン政権下にあるザフト、オーブ連合首長国、地球連合軍に対して戦線を布告する! この戦いは、世界を正しくするための聖戦だと思え!』

「何をバカな……世界を正す、聖戦?」

『今のこの世界に疑念を抱く者たちよ、我が下に集え。真なる平和を、掴みとろうではないか!』

「ハッ、まるで今のこの世界の平和が偽りのような事を言うねぇ。冗談じゃないぜ!」

『だが、我々はむやみやたらに戦火を広げるつもりは無い。期限を設けさせてもらう。9日後、5月11日までに私を殺してみろ。そうすれば、今までどおりの生活を送ることが出来る。だがもし殺せなかった場合は、貴様らに神の鉄槌が下ると知れ!』

 まるで、ゲームを始める前の宣誓のような発言。

 期限を設ける?

 殺してみろ?

 キラ達はこの男が何を言っているのか分からなかった。

『手始めに』

 ヴァシュリアが左手をそっと上げた。

 刹那、オーブ近海の無人島、中国の高雄近くの廃棄基地で大規模な電磁反応が起こった。

 それはかつてザフト軍が地球軍パナマ基地を陥落させた時に使用した電磁兵器「グングニール」。

 それを応用した兵器だった。

 なぜ廃棄基地に設置したのか。

 廃棄された基地ならば、幾分かの資材が置いてある。

 それらを使用し、さらに出力を高めたのが「グングニール・改/スレイプニール」。

 その効果は、近くの基地に大打撃を与えていた。

 何しろMSが起動しなくなった。

 原理は不明で現在解析中だが。

 この状態ではどうにも。

『それでは、残り9日。足掻くも、抵抗するも、息絶えるも自由だ』

 一瞬、キラは背筋に何かを感じた。

 ヴァシュリアが、キラを睨んだような気がしたのだ。

 とにかく残り9日。

 ヴァシュリアを見つけ出さなければ。

***

 午前8時10分。

 ヨーロッパ第四基地でも同じ現象が起きていた。

 ウィンダム、ストーム、挙句の果てにアルトまでが起動しなくなっていた。

 しかもスレイプニール発信源はフレスベルグの近辺。

 アルトは苛立っていた。

「何だってこんな目にあわなきゃいけないのよ………!」

「9日ねぇ、見つかると思うか?」

 キースがカイに問う。

「見つかるかどうかではない。見つけなければならない」

 まったくだ。

 11日までに見つけなければ神の鉄槌。

 ヴァシュリアと言う男、何を気取っているのだろうか。

「あんたはどう思うよ」

 不意にルーウィンに話がふられた。

 隣にはフィエナがいる。

 別に聞いていなかったわけではないが、話をふられるとは思わなかった。

「え、あ、ああ。とにかくだ、見つければ俺たちの勝ちなんだろう? 9日間でな」

「出来るんですか?」

「なぁに、大丈夫だろう。出来るって思ったほうが、良いに決まってる」

 そうでも思わなければ、幾つもの戦場を乗り越えてなどこれない。

 しかし地球連合、ザフト、オーブを敵に回すほどの馬鹿なのだろうか。

 正規軍を3つも相手にどう立ち振る舞うのか。

 それとも自分は絶対に見つからない、殺されないとでも自負しているのだろうか。

 今までが前座でこれからが本番と言うことか。

「でも私は」

「ん?」

「あの男が前に立ちはだかっても潰してみせる!」

 それだけ言うとアルトが姿を消す。

 彼女はどうしてああも勝気なのだろう。

 そんな些細な疑問がルーウィンの中に生まれていた。

「おお、ちょうど良い所にいた」

 みなが集まっていたところに現れたのはロベルト。

 それは午前10時20分のこと。

 手には何かの資料を持っている。

 ロベルトはその場にいたルーウィン達(フィエナは除く)にすぐにブリーフィングルームに集まるように指示した。

 この基地の他の人間にもそう伝えたという。

 集合は今からの10時40分。

 急いで集合する。

 ルーウィンも一応話を聞いておこうと。

 すっかりこの基地になじんでいるがルーウィンはこの基地に所属しているわけではない。

 巻き込まれ型の典型である。

「よし、皆そろったな」

 ロベルトが手持ちの資料を読み上げる。

 その資料によると、11日まで地球連合、ザフト、オーブに共同戦線がしかれることとなった。

 ようは統一部隊。

 それを聞いたときに皆がざわめいた。

 無理も無い。

「そこでこの基地から私と数名が明日の会議に出席する事になった」

 他の基地からも同じような人数で会議に出ることが決定された。

「会議に出たい者は、後で俺のところに来るように。以上」

 解散となった。

 ザフトとオーブとの共同戦線。

 それがもたらすものは一体。


(Phase-5  完)


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