Phase-4 動く時−破壊へ、死へ
5月1日、午前9時。
かの爆破事件のあったフレスベルグより南東に40Km。
今は廃棄された古びた城。
そこに彼はいた。
ヴァシュリア・ラインツハルト。
旧・プラントザラ派の一人。
そして、この世界を誰よりも心から憎んでいる者。
ヴァシュリアの目の前には多数のモニターが設置されている。
それは世界各地の様子を一目で知ることが出来る。
新世界を統治する者。
そのためには世界を把握しておく必要がある。
「開発状況はどうだ」
『全く問題はありません』
「そうか」
『明日の08:00には設置が完了します』
各地の廃棄された基地や工場に「ある物」の設置作業が進められている。
それは世界の主要都市の近くに。
それはオーブの近くに。
それはフレスベルグの近くに。
世界は死ぬ。
そうなった世界を再構築するのは。
「………そう、この私だ」
***
5月1日、午前7時。
この日カガリは軍司令室に呼び出されていた。
オーブに程近い無人の島で、膨大なエネルギーが観測された。
その報告を受けたカガリはすぐにキラとアスランを調査に向わせようとしたが。
「……メンテ中!?」
『そうだ。今定期メンテ中だからその島へ向えそうにないぞ、カガリ』
「キラもか?」
『ああ。イザークとディアッカの機体もな』
今出れるものがいないか、確かめると。
いた。
今出れるパイロットが2人。
***
「はぁっ!? 俺達が!? ……で、ありますか」
「そうだ。今出れるのはお前達を含めて10数名のパイロットなんだ。頼む、シン、ルナマリア!」
カガリが頭を下げる。
ルナマリアは「やめてくださいよ」と言っているが。
シンは相変わらずの態度だった。
「で、当然MSは貸してくれるんだろうな?」
「ああ、ムラサメを二人に与えようと思っている」
「ふん……」
この場にアスランがいたら殴られそうなシンの態度。
まだカガリとのわだかまりは解けていないようだ。
「それで、何時頃向えばいいんですか?」
そんなシンを見かねてか、ルナマリアがカガリに問う。
今から30分後の07:35にその無人島に向って欲しいと。
渋々返事をするシンと真逆のルナマリア。
指揮はルナマリアに任せることになった。
***
午前7時35分。
オーブ近海に浮かぶ無人島。
そこは人がすむことのできないほどに荒れていた。
古より続く戦いの爪痕。
それにより地面は荒れ果て、木々は死に。
そんな焦土の島と化していた。
シンとルナマリアはムラサメでこの島に来ていた。
「特に異常は無いようだけど……どう思う、シン?」
「俺に聞くなよ。急にこんな所にわけのわからないまま来たんだから」
最もな答えだが。
特に目立つものは無い。
あるとしたら廃墟となった基地だけ。
「…………」
「シン? 何かあったの?」
「あの基地、何で……」
「基地?」
モニターを調整し、その基地を見る。
放棄された地球軍の基地がそこにある。
それがどうかしたのか。
「別に、廃棄された基地じゃない」
「違う」
シンの目が何かを捉えた。
それは。
「何か、いる!」
シンが告げたよりも少し送れて全機のコクピットにアラートが鳴り響く。
レーダーに敵機を示す反応が。
それらは突然姿を現わした。
「何で!? 今の今まで反応なんて!」
「知らないよ、そんなの! 今は、やらなきゃやられる!」
シンのムラサメが変形する。
どういう原理か分からないが、今は戦闘中。
気を抜いたら、負ける。
***
地球軍ヨーロッパ第四基地。
07:20
この日、アルトは模擬戦を行う予定だった。
アルトの相手はルーウィンのストーム。
別に地球軍になったわけではないルーウィンだが。
これから一緒に戦う時のために力を知っておきたいとのアルトの願いだった。
そうでなくても基地の人間はストームの力を知りたかったようだが。
「手加減はなし! いいわね!」
『………』
「ちょっと、何か言ったらどうなの!?」
『…………なんで朝も早くから起こされなきゃならないんだ……。まだこの時間ならフィエナと一緒に寝てる時間なのに』
「つべこべと!」
アルトが走る。
その手には模擬用のサーベルが握られている。
「物を言うな!!」
「ぐっ……」
完全に不意をついたはずだが。
流石はルーウィンとストームと言うことか。
GPシールドでサーベルを防ぐ。
さらにアルトが手際よく攻め立てる。
ビーム兵器の使用は禁止されているが、マーカーライフル−俗に言うペイント弾を打ち出すライフルを乱射する。
ちなみに水性。
乱射とは言え、確実にストームを狙ってくる。
「次っ!」
再びサーベルで接近戦。
アルトが迫る。
「くそっ……!」
ルーウィンの反応が遅れた。
「どうしたの、そんなものなの!?」
「ふ、ざけるなっ!!」
ストームがビームサーベルを抜き放つ。
さっきまでの劣勢はどこへやら。
今度はストームが攻める。
アルトのサーベルを弾き。
「づあああああああああああっ!!」
咆哮と共にシールドを吹き飛ばす。
そしてアルトの眼前にサーベルを突き立てる。
ストームの勝ちだった。
「ったく……もう一度寝るか」
「負けた……? 嘘でしょ。あんなテレンテレンな軽い男に」
何だか妙な事をいわれている。
二人ともマイペース過ぎる。
が、ルーウィンの二度寝は阻害される事に。
模擬戦が終わったのは午前8時30分。
もうそろそろフィエナも起きているころだ。
2人は基地へと戻っていった。
***
午前7時50分。
オーブ近海の無人島での戦闘は激しさを増していた。
シンのムラサメが基地に潜伏していた敵に肉薄するも、上手く操ることが出来ない。
やはりナチュラル用のOSでは限界がある。
「くっそぉぉぉぉぉっ! こんなやつら!!」
敵はザクやグフなどザフトのMSを使用している。
アスランの報告にあった部隊だろう。
「こいつら、次から次へと! しつこいんだよ!」
「シン! まずは指揮官機を落とさないと!」
「分かってるよ!」
そう、頭では分かっている。
でも。
だけど。
「うああああああああああああっ!!」
ムラサメのビームライフルが。
ビームサーベルが。
敵を切り裂いていく。
今、自分は何故戦っている?
オーブを守るため?
違う。
ならば何のために。
「俺には守るものなんて……! だけど!」
ムラサメが変形する。
敵機との距離を詰める。
直前でMSに戻り。
「アンタ達はぁぁぁぁぁぁっ!!」
シンの脳内で何かが弾け。
全ての感覚が透き通る。
敵MSの一挙手一投足。
ビームの軌道。
全てがクリアに。
「ルナ! 援護を!」
先ほどまでとは違う。
どこか落ち着いたようなシンの声にルナマリアの反応も遅れた。
指揮官機なんか探さなくても。
ようは目の前の敵を全て粉砕すればよいだけの事。
被弾しても良い。
右腕が吹き飛ぼうが、左足が破壊されようがどうでも良い。
「敵は……潰すッ!」
恐ろしい勢いで敵を倒していく。
しかしコーディネイターであるシンの技量にナチュラル用のOSをつんだムラサメがついてこれるはずが無い。
「お前、だけでもっ!」
超絶的なまでのシンの技量にムラサメの反応限界はとうに超えていた。
目の前のザクウォーリアをサーベルで切り裂くと同時に、ムラサメの胴が爆発した。
「ぐぅっ!?」
「シン!」
シンを乗せたままムラサメが不時着した。
運が良かったのか悪かったのか、調査対象の基地の付近だった。
***
依然として戦闘は続いていた。
オーブへの援軍要請が受理されたのだろう。
その島に援軍が到着したのは、8時50分−戦闘開始より1時間後のことだった。
流石に不利になった敵軍。
「…………引き時か。まぁ、良い。これだけオーブから離れさせれば攻めるのもたやすい」
黒いザクファントムのモノアイが輝いた。
「あれは……ザク!?」
基地の近くにいたシンがそのザクファントムを目撃した。
報告にあった黒いザクファントム。
それが目の前にいる。
そのザクファントムのウィザードはブレイズ。
黒いザクファントムが駆け抜ける。
一瞬の出来事だった。
援軍として駆けつけたM1アストレイ・シュライクが破壊されていく。
ムラサメも次から次へと倒されていく。
圧倒的だった。
外見はザクファントムだが、OSが違いすぎる。
「何なんだよ……」
シンはその光景に目を疑い。
「何なんだよ!」
ルナマリアのムラサメが奮闘している。
頭部を吹き飛ばされ、モニターが落ちたのだろう。
動きが不安定になっていた。
「何なんだよ、アンタ達はぁぁぁぁぁぁっ!!」
戦闘は、たった1機のザクファントムによって覆された。
それはラクス・クラインに対して。
この偽善で満ちた世界に対しての、宣戦布告だったのかもしれない。
***
オーブ軍のイージス艦が無人島にやってきた。
シンが見た兵士は脱出の準備をしていたのか。
中は出払った後だった。
しかも重要と思われるデータ類は全て抜けている。
「シン! ルナマリア!」
ごった返す兵士の壁を潜り抜け、アスランが姿を現わした。
「大丈夫だったか!? 全滅したと聞いたが……」
「シンのムラサメは限界反応越えで可動不能、私のムラサメも……」
「あの黒いザク、そうとうの腕だった……!」
今思い出しても、その凄さが脳裏に焼きついてはなれない。
たかが1機の機体に、援軍を含めたシン達が負けたのだ。
ルナマリアはどうか分からないが、勝気はシンには屈辱以外の何でもなかった。
「何なんだ……最近おかしな事件が多すぎる」
ここ最近−ひいてはフレスベルグ爆破事件があった時から不可解な事件が多すぎる。
今回の無人島での一軒も。
フレスベルグに調査に向かった時に襲撃された時も。
何かが、大きく動こうとしている?
そんな気がしてならなかった。
***
「お疲れ様です、ヴァシュリア様」
出迎えたのは感情の起伏の無い、一人の人間だった。
「ああ」
「エトワールの調子は?」
「上々だ」
黒いザクファントムを見上げる。
ザクファントム・エトワール。
それがそのザクファントムの名前だった。
まるで夜空に煌く星のように。
そしてこの世界を照らす光のように。
そう、この偽善で出来た世界を。
正しく導くように。
「偽善が正しいのではない。正しいものなど、どこにもない」
「はい」
「全ては偽り、そう全ては……」
ヴァシュリアの瞳が閉じた。
(Phase-4 完)
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