Phase-2  暴風の申し子−ルーウィンとフィエナ

 大戦中期。

 南アメリカのラケールで。

 歴史に残らないほどの小さくも、大きな事件が起きた。

 地球軍によるザフト軍ファンダル基地制圧作戦。

 Project Destroy。

 地球軍ギリアム駐屯基地に設置されたローエングリン。

 そして大量殺戮のためのMS、GFAS-X1デストロイによる制圧作戦。

 最終的にこの作戦は地球各地で展開、地球上からコーディネイターと言う種族を消し去ろうというブルーコスモス発案の作戦だったが。

 一人のコーディネイターの男と。

 一人のナチュラルの少女の出会いが全てを打ち消した。

 女の心が男に力を与え。

 男の想いが女に出会いを与え。

 男の乗るMSがデストロイを打ち倒した。

 これはそれから数ヶ月の月日が経過した時の話。

***

 C.E..74、4月27日。

 南アメリカ、ラケール。

「と、準備は良いのかフィエナ」

 男が声をかける。

 男の名前はルーウィン・リヴェル。

 かつてこの南アメリカ、ラケール近辺で地球軍の「Project Destroy」という作戦を打ち砕いた男。

 MSストームに乗り、デストロイを破壊し。

 そして所属していたザフト軍を抜けた男でもある。
 
「はい、大丈夫ですよ」

 声をかけられた女が振り向いた。

 頭には麦藁帽子。

 服は薄い水色のワンピース。

 彼女の名前はフィエナ・アルフィース。

 盲目ながらも多くの人に助けられ、そしてルーウィンとであった少女。

 この二人、先の大戦中に出会い、互いに大切な人と認めあい。

 やがて結ばれる事になった。

 フィエナはルーウィンに手をひかれ、家を出た。

 今から二人は新婚旅行でヨーロッパへ向かう事に。

 フィエナの願いで、船でヨーロッパに向かう事に。

 向う先はフレスベルグと言う永世中立都市。

 結婚して早二週間。

 何があるやら。

***

 船に乗り込んだ二人は甲板に出た。

 潮風が二人を撫でていく。

 フィエナも盲目ながら、透き通るような風を肌で感じていた。

「私、嬉しいです」

「何が?」

「こうしてルーウィンさんと一緒にいられる……。こうして色々な場所に向える。とても幸せです」

「そっか、良かったな」

 フレスベルグまでは3日の道のり。

 到着するまで船内で過ごすこととなる。

 だけど二人は知らなかった。

 この船が到着する4月30日に。

 あんな事がおきるなんて。

***

 3日の行程も終了に近づいてきた。

 日が変わったばかりの4月30日午前0時30分。

 突然船内に放送が流れた。

 ヨーロッパ永世中立都市フレスベルグにて謎の大爆発が発生。

 この船は行き先をフレスベルグの隣の港へと進路を変更するという。

「一体フレスベルグで何があったんだ……?」

「ルーウィンさん、大丈夫でしょうか」

「分からない。戦争は終わった、ザフトもほとんど活動はしていない。なのに、何でまたフレスベルグで……?」

「誰かが、また戦争を?」

 フィエナの顔が翳る。

 この世界に不満を持っているものも多いと聞く。

 オーブ連合首長国の代表を連れ去った者が、何故プラントの最高評議会の議長になっているのか。

 何故代表を連れ去った者が、何も咎められないのか。

 不満を持つものは多い。

 もしかしたら今回もそのような考えを持つものたちによる犯行かもしれない。

 だが、それならば何故直接プラントを叩かない。

 戦争を起こすつもりは無い?

 分からなくなるばかりだった。

***

 4月30日、午後2時。

 戦闘に出ていたアルトは、乗機であるウィンダムを撃破された。

 基地に残っているのは主人を持たないMS。

 GAT-X199、アルト。

「私に力を! アルト・オファニエル、アルト! 出ます!」

 真紅のMSが出撃した。

 もちろん許可などとっていない。

 このあと待っているのは何だろうか。

 独房行き?

 銃殺刑?

 何にせよ今は生き残らなければ。

 アルトの両手に握られていたビームライフルショーティVer.2を乱射する。

 次々落とされていくザフト軍のMS。

 それを放り投げ、ビームサーベルを両手に。

 アルトが跳んだ。

 一閃の名の下に、敵機を切り捨てていく。

 先ほど放り投げたビームライフルショーティーをキャッチし、至近距離でトリガーを引いた。

 何もかもがウィンダムとは違った。

 操作性能も、パワーも機動性も。

 対艦刀「レヴァンティン」を抜刀。

 大きく振り上げて。

 勢いよく振り下ろした。

 やすやすとザクファントムを切り裂くレヴァンティン。

「何だ……? おい、アルトに誰が乗っている!?」

 その活躍にキースが通信を送る。

「私よ、キース」

「あ、アルトがアルトに乗っているのか?!」

「………ややこしい」

 カイが小声で言う。

 だがこのまま3機で守りきれそうにも無い。

 遼機であるはずのダガータイプの機体もほとんど倒されてしまっている。

 敵は残り10機。

 アルトは起動したばかりだが、ウィンダム2機はエネルギーが危険域にまで迫っていた。

「キースとカイは基地に戻って!」

「アルト……何をする気だ?」

「全部倒してみせる!」

 アルトが走る。

 二人の制止を振り切って。

 そう、こんなところで負けるわけにはいかない。

 目の前には、敵。

 全て倒せばいいだけのことじゃない。

 右手にはレヴァンティン、左手にはビームサーベル。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 腹部アストラレイト・ビームキャノンで敵をけん制し。

 レヴァンティンとサーベルで切り裂いていく。

 1機、2機、3機。

 次々と倒されていく。

 6機、7機、8機、9機。

 最後の機体にたどり着いた。

 それは青に塗装されたゲイツR。

「アンタが、指揮官機!?」

 レヴァンティンで斬りつける。

 しかし流石は指揮官機。

 そのたちを見極め、腰のレール砲をアルトに向って放つ。

 至近距離のために避けられず、PS装甲でなければ確実に死んでいた。

 なおも攻め立てるアルト。

 そのほとんどを避けていくゲイツR。

 そこでアルトは狙いをゲイツRが乗っているグゥルに定める。

 ゲイツRは飛行能力を持たない。

 グゥルを落とせば機動性が格段に下がる。

 アルトのサーベルがグゥルを切り裂いた。

「……ほう」

 ゲイツRのパイロットは目の前の真紅のMSを見た。

「流石に地球軍最後のGだけはある」

 グゥルを破壊されたためか、ゲイツRは撤退した。

 戦闘はアルト達が辛くも勝利した、と言って良いだろう。

***

「流石に今回は俺も擁護は出来ない」

 戦闘終了後、ロベルトに呼び出されたアルト。

 午後6時のこと。

「使用許可の下りていないMSの無断使用……本来ならば1週間の独房行きだ」

 それは分かっていた。

 アルトに勝手に乗り込んだ時点で、こうなる事は覚悟していた。

 本来ならば銃殺も覚悟していただけに、独房行きだろうが何だろうが怖くはなかった。

「が、機知に迫る敵の半数をアルトが蹴散らしたのもまた事実。よって不問に処す」

「不問、ですか」

「何であれ敵を倒していった。それも基地防衛と言う最終ラインで、だ。MSの無断使用のことを差し引いても、十分許容範囲内だと思うがな」

 擁護はしないと言っていたのに。

 アルトが司令室を出ると、待っていたのはキースだった。

「良かったな、何もなしで」

「ふん、五月蝿いわね」

 キースの先を歩くアルト。

 向った先は格納庫。

 戦闘終了のため灰色となったアルトを見上げる。

「アルト……か。あなたは私に力をくれるの?」

 その目に炎を灯し。

「大切な人を奪われた、私に……」

***

 午後8時。

 オーブ連合首長国オノゴロ島。

 1機のシャトルが着陸した。

 中からはプラチナの髪色をした目つきの鋭い男と、色黒の男が降りてきた。

「まったく、相変わらず夜だと言うのに暑いねぇ、この国は」

「私語は慎め、ディアッカ。今から俺達は代表と会うんだぞ」

「そうは言うけどな、イザーク。代表って言ったって俺たちとほとんど年、変わらないじゃないか」

 色黒の男−ディアッカ・エルスマンが言う。

 対してプラチナの髪色の男−イザーク・ジュールはその鋭い目でディアッカを睨んだ。

「年がほとんど変わらなくても何でも、相手は代表なんだぞ!」

 そのまま一人で行ってしまった。

 ディアッカもため息をついて、後を歩く。

 ふと、空を見た。

 今日も地球は良い天気だ。

「失礼する!」

 数分の後、二人は会議室に姿を現わした。

「イザーク、ディアッカ!」

 カガリの隣にいたアスランが立ち上がる。

 ディアッカは片手を軽く挙げ、「久しぶり」と言ってみせる。

 イザークはあからさまに機嫌が悪いようだ。

 何しろ今のアスランは代表の側近。

 ザフトでは白服の自分よりも上の立場なのが気に入らないのだろう。

「座ってくれ、二人とも」

 カガリに言われると二人が座った。

「どうする? 俺は席を外そうか?」

「いや、アスランもこの場に残ってくれ。あとでキラも来るはずだ」

 キラが来るまでの間、今回の準備を始めるオーブ兵。

 大体の話の内容は分かっている。
 
 プラントからオーブにきた理由。

 それはラクスからの指令だった。

***

「オーブに?」

「そうですわ、ジュール隊長。エルスマンさんと一緒にオーブへ向ってください」

 そういったときのラクスは相変わらずの笑顔だった。

 しかしながらイザークとディアッカが抜けるとなるとプラントを守る軍の、ひいてはジュール隊の指揮は誰が。

「それならハーネンフースさんにお任せしようと思っております」

「シホに……ですか」

 シホならば問題ないだろうが。

「それではお願いしますわ」

「了解しました」

***

 それにしても。

 シャトルが見えたのでそちらに視線を移す。

 シャトルからは2機のMSが運び出されている最中だった。

(何故俺たちに新型MSを受領させた……? 今まで乗ってきたザクやグフで十分のはずだが……。一体ラクス・クラインは何を考えている!?)

 シャトルから運び出されたのは、グフイグナイテッドの改良型。

 ZGMF-2000/α、グフイグナイテッド−ソニック−。

 そしてZGMF-2000/β、グフイグナイテッド−アライヴ−。

 ソニックは機体の重量をオリジナルのグフよりも軽くし、機動性と近接戦闘を主眼に置いたMS。

 もともとイザークは近接戦闘を得意とする節があった。

 そのためのMS。

 アライヴは装甲を強化し、砲撃戦を主眼に置いたMS。

 ディアッカの射撃の腕を遺憾なく発揮するためのMS。

「ごめん、遅くなって」

 キラが送れながらも会議室に姿を現わした。

 どうもモルゲンレーテの方に向かっていたとか。

「で、話し合いはどこまで?」

「お前を待っていたんだ、バカ」

 カガリに言われた。

 カガリがモニターのスイッチを入れると、あちこちでヨーロッパフレスベルグの爆発事件の報道をしていた。

 その中の一つでは。

『なお、今回の爆発事故、その後の調査によりザフトが実行したという事がほぼ確定いたしました』

 今までは「ザフトが実行してのだろう」と確実なものではなかった。

 しかしながら、もうザフトが行ったという事になっていた。

「くそっ……! クライン政権になってから変わったと思ったのに! どこの馬の骨の仕業だっ!」

「落ち着けよ、イザーク。ここでお前が怒っても、何も変わらねぇよ」

 相変わらずの二人だった。
 
 話を戻すと、この4人でヨーロッパへ赴き更なる調査をしてもらいたいというのが今回の目的だった。

 何分調査隊を送ろうにも、ヨーロッパで起きた爆発事件の事を考えると。

 今何が怒るか分からない。

 少数で、尚且つ腕の立つキラ達ならばそれなりに対処も出来るだろう。

 そう言うことだ。

「だが、あいつらはどうするんだ?」

「あいつら?」

「シンとルナマリアだ。あの二人も連れて行ったほうがいいんじゃないのか、カガリ」

 シンとルナマリアも今はオーブにいる。

 彼らも連れて行けば更なる調査結果が期待できるというものだが。

「いや、あいつらはオーブに残す」

「………後でシンとケンカになってもしらないからな、俺は」

「仕方が無いだろ!? オーブに少しでも戦力が無いと、いざと言うときに!」

「ま、その考えもあながち間違ってはいないけどね」

 ディアッカが横から言う。
 
 彼が言うにはこれがもし、本当にザフトの仕業なら俺達はこんなところには来ない。

 問題なのは、ザフトの名を語ってあんな事件を起こしたと言う場合。

 仮に犯人がザフトに何らかの憎しみを抱いているとしたら。

 今は友好条約を結んでいるこのオーブにも攻めてくるかもしれない。

 確率は、無いとも言えないはず。

「と、言う事なんだけど?」

「僕も、ディアッカの言うとおりだと思う」

「キラ」

「今のザフトはあんな事しない。ラクスがきちんと導いてくれているから……。でも僕は、そんなザフトの名を語る人達を」

 その拳が強く握り締められる。

「許さない」

***

 一夜明けた4月31日の午前8時40分。

 ルーウィンとフィエナはフレスベルグの隣町、サウスフェインに着いた。

 そのままバスでフレスベルグ近郊へ。

 フレスベルグは今、危険区域に指定されており入ることが出来ない。

 フレスベルグは遠目から見ても酷い有様だった。

 今はザフトのが駐留しており、調査をしているようだった。

「酷い臭いがします……。焼け焦げたような、そんな匂いが」

「言うな。辛くなるぞ?」

 フィエナを抱き寄せる。

 こんな時彼女の目が見えていなくて本当に良かったと、ルーウィンは思った。

 こんな状況、戦争慣れしていない彼女に見せることなど出来ない。

 ふと1機の戦闘機が飛来した。

 それは着地する寸前でMSに変形し。

 着地した。

 ルーウィンは呆然とした。

 そこに現れたのはかつての愛機。

 ZGMF-X79S、ストームだった。

「ストーム……!? どうして、こんな所に……!」

 ラダーを使って一人の男が降りた。

 やはりその男もルーウィンはしっていた。

 リーファス・リィン。

 かつて同期だったMSパイロット。

 ルーウィンがザフトを抜けたあと、彼がストームのパイロットになった。

「リー! リーファス!」

 声が聞こえたのだろう。

 男が振り向いた。

「ルー……? ルーウィンか!」

「お前、こんなところで何してるんだよ!」

 会うなりいきなり問い詰めるルーウィン。

 それはこっちのセリフ。

 そう返すリーファス。

「俺はほら、フィエナとしんこんりょこうに……」

 段々と声が小さくなる。

 恥ずかしいのなら適当に返せばいいのに。

 そう言うまじめなところは何一つ変わっていない。

「新婚旅行がこんな惨事に巻き込まれるなんて……災難だったな。フィエナちゃんも、大丈夫なのか?」

「はい。私はルーウィンさんがいればそれだけで……」

「フィエナ……」

「ルーウィンさん……」

 目の前の謎の空間にリーファスは居たたまれなくなった。

 好き勝手やってくれと。

 そう言うとキャンプへ向った。

***

 午前9時。

「で、調査の方はどうなんだ?」

「それが、全く新しい情報は無いですね……。やはり先日、粗方探してしまったので」

 その報告をメモするリーファス。

 かなりの惨事だった。

 だからだろう、調査にも気合が入っているということだ。

「そうか、分かったよ。ご苦労様」

 リーファスがキャンプを出る。

 ため息をついた。

 こんなに良い天気なのに、何でこんなに憂鬱な気分何だか。

 ふと空に数個の影が浮いていた。

 それが次第に大きくなり、数が増えていく。

 よく見るとそれは巨大な人型の機械人形。

 MSだった。

 目視できるところまで迫るMS群。

 それは手にした武装を地表に向けて構えていた。

「敵……なのかよっ! おい、敵だ!」

 が、少し遅かった。

 地上に振動が走る。

「くそっ……!」

 リーファスは急いでストームの下へ。

「ルー! お前は避難しろ! 敵襲だ!」

「だけど!」

「今のお前は一般人だ!」

 舌打ちをするルー。

 悔しいのはよく分かる。

 リーファスはストームを変形させ、敵郡へ向う。

 このまま黙ってみている事などできないけど。

「ルーウィンさん……また、戦いが始まるのですか?」

「大丈夫だ、きっと。リーが守ってくれる」

 が、予想に反してザフトは押されていた。

 相手もザフトのMSを使用している。

 どうする。

 ふと、ゲイツRが目に入る。

「フィエナ、走れ!」

「え……ふわっ!?」

 フィエナの手を引いて走る。

 ゲイツRに乗り込もうとする。

「待て! 一般人が何用だ!」

「こいつを借りるぞ!」

「一般人に貸す機体など無い!」

「だったら今すぐにザフト軍南アメリカファンダル基地のペイル・ヴェイン隊長にコンタクトを取れ! それで分かるはずだ」

 ルーウィンが言うと同時に兵士がコンタクトを取り始めた。

「あの、名前は?」

「ルーウィンだ。ルーウィン・リヴェル」

***

 フレスベルグ上空。

 ザフトとザフトのMSを使用している部隊との戦闘が起きていた。

 リーファスの乗るストームが指揮を執るものの、敵も腕のたつ部隊のようだ。

「各機、散開して敵をひきつけろ! キャンプに絶対降ろすんじゃない!」

 キャンプに降ろせば更なる被害は免れないだろう。

 そんなこと絶対にあってはならない。

「墜ちろっ!」

 そんな声が響いた。

 ストームの横を一陣のビームが走っていく。

 グゥルに乗ったゲイツRが敵のザクウォーリアを落としていた。

「ゲイツR……? 予備機はずだが。おい、誰が乗っているんだ!」

『俺だ、リー』

「ルー!? お前、フィエナちゃんはどうした!」

『あの……ここに』

 コクピットにはフィエナも乗っていた。

 本当ならば地上にいた兵士に預けたかったのだが。

 フィエナがそれを拒否した。

 彼女はルーウィンが戦っている時に一人だけ見ていることなんて出来ない。

 そう告げたのだ。

 死ぬのかもしれない。

 ルーウィンがそう返したが、フィエナの意思は硬く。

『ルーウィンさんと一緒なら……』

 こう来たものだ。

「………しかしなぁ」

『大丈夫だ、足を引っ張るようなマネはしない』

 それは無いと言うこともリーファスは知っていた。

『攻めるぞ、リーファス!』

「待て、ルー」

 ストームが地上に降りた。

「お前、ゲイツRから降りろ」

『何、を……?』

「ストームに乗れ」

 リーファスがストームのコクピットから降りた。

 どういうことか。

「お前がストームに乗って、フィエナちゃんを守ってやれ。夫として、一人の男として、な」

『だけどお前は……?』

「俺はゲイツRに乗る。もともと、特機なんて性に合わなくてね。それに、今日のこいつは機嫌が悪いようだ。なだめてやれ」

 ゲイツRが地上に降り、ルーウィンがフィエナを抱いて現れた。

 民間人の彼に、特機を渡すとは。

 あとで何を言われても文句は言えない。

 リーファスも分かっていたが、何分上司は物分りの良い男だ。

 きっと分かってくれるはず。

「フィエナ、すまないがここに残ってくれ」

「ルーウィンさん……」

「やっぱり、嫁をコクピットに乗せるなんて事、俺にはできない」

 フィエナを近くにいた兵士に任せる。

 ストームに乗り込み。

 OSを再起動させる。

「よう、久しぶりだな……相棒」

 ストームのカメラアイに光が灯り。

 システムチェックを行なう。

 最後に別れた後の時から、何一つとして変わっていない。

「気を、つけて……」

 小声でフィエナが言う。

 もちろんルーウィンには聞こえていない。

 ストームが立ち上がり、ふわりと宙に浮いた。

「ルーウィン・リヴェル、ストーム! 発進する!」

 暴風の名を持つMSが飛び立つ。

 守るべきものを守るために。

***

 ストームが敵を倒していく。

 リーファスの乗るゲイツRも相変わらず指揮を執りながら、上手く敵を殲滅している。

 ストームのサーベルが、ザクウォーリアをジンを蹴散らしていく。

「何だよ、機嫌良いじゃないか。なぁ、ストーム!」

 敵の群れに飛び込み、すれ違いざまに切り裂いた。

「ルー! 右から攻めろ!」

『了解した!』

 今の部隊長はリーファス。

 それには従わなければならない。

「隊長機を墜とせば、指揮系統が混乱するはずだ! ルーウィン!」

「分かっているが……、この数では!」

 何しろリーファスたちは調査目的で着ているために、戦力はそれほどつぎ込んでいない。

 相手は確実に何かを隠そうと着ているのか、こちらの倍以上の戦力。
 
「戦争は終わったって言うのに……まだこんなことするのかよ! 貴様らはぁーっ!!」
 
 ストームのアムフォルタスビーム砲とビームライフルを同時に放つ。

 3つの光が敵を貫いていく。

「あれが、隊長機!?」

 指揮を執っている黒いザクファントムが目に付いた。

「何故貴様らはこんな!」

「………五月蝿い虫が。貴様に語ることなど何も無い」

 黒いザクファントムのビーム突撃銃が火を噴いた。

 紙一重でそれを避けていくルーウィン。

「まあいい。貴様らは常に、俺の掌の上で踊っていると言う事を………」

 ザクファントムが踵を返す。

「忘れるな」

 そのまま敵軍は撤退していった。

***

 戦闘が終了したのは、午後12時20分。

 ルーウィンはストームから降り、フィエナを迎えた。

「ちゃんと、生きて帰ってきたぞ」

「…………………はい!」

 リーファスもヘルメットを脱ぎ、二人を見ていた。

 結局、収穫は無かった。

「で、ルーウィン。お前はどうするんだ?」

「ザフトを抜けた身……ここで別れさせてもらう」

「そうか……。ま、ストームもお前のものだしな」

「? お前の物って……?」

 わけのわからないルーウィン。

 兵士が通信機を運んできた。

 通信機の向こうの相手と話せと言う事だ。

「はい?」

『ルーウィンか?』

「…………ペイル隊長!? お久しぶりです!」

『事情はリーから聞いた。災難に巻き込まれたものだな』

 やはりリーが全て話したようだ。

 しかしながらやっぱり人の良さも変わっていないようだ。

 ちょっと懐かしく思えてきた。

『本当ならば返してもらうところだが、事情が事情だ。暫くはストームに乗り、フィエナちゃんを守ってやれ』

「良いんですか?」

『クライン政権になってからザフトも多少なりとも変わってな。前ほど厳しくはなくなったさ』

「そうですよね……」

 ならばあのザフトのMSを使用していた敵は何なのか。

 やはりザフトではない?

 何が起ころうとしているのか。

***

 リーファス達調査隊はそれぞれの基地に戻るという。

 ルーウィンはもう少しこの辺りを探索すると告げた。

 ザフトの輸送機がフレスベルグより次々飛び立った。

「少し歩いてくる。フィエナはコクピットの中にいてくれ」

「あの、私も一緒に行きます」

「行くのか?」

「はい。何も見えませんが……」

 見えなくてちょうど良い。

 こんな惨事、見る必要が無い。

 フィエナをコクピットから連れ出し、周辺を歩く。

 本当ならばこの町の宿に泊まるつもりだったのだが。

 とんだ新婚旅行になったものだ。

 それにしても酷い有様だった。

 危険区域に指定されているだけの事はある。

 永世中立都市だったフレスベルグも、こうなってしまえば。

「……何か、来ます」

「え?」

 フィエナがそう言うと。

 少し遅れて何かが飛来した。

 それは紅い装甲のMSだった。

「よく分かったな、フィエナ」

「飛行機とかと違いますからね、MSは」

 その紅い装甲のMSはルーウィン達の前に着地した。

 何か良からぬものを感じ取ったルーウィン。

 急いでストームまで走る。

 紅いMSからパイロットが降りてきた。

 フィエナの前に立つルーウィンはその様子をただ見ていた。

 ヘルメットを外したそのパイロットは、赤茶色の髪色をした女だった。

「貴方達、そこで何をしているの?」

 

(Phase-2  完)



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