Phase-Final Alliance攻防戦−終わる時、そしてSEEDと呼ばれるもの−
C.E.74、5月9日、13:50。
互いの選挙区は疲弊し始めていた。
アークエンジェルが被弾し、不時着をする。
そんな傷ついたアークエンジェルを守るように、MSが駆け巡る。
「アンタ達はぁぁぁぁっ!」
シンのフォースインパルスが敵機めがけてサーベルを投げつけた。
そのサーベルは空気を切り裂きまっすぐに突き進む。
ものの見事に頭部を貫き、フォースインパルスのビームライフルがまるでマシンガンのごとき連射をする。
「アンタ達の様な人間がいるからッ! 世界は!」
シンの中で何かが弾けた。
フォースインパルスの機体性能をギリギリまで引き上げる。
「アークエンジェル、ソードシルエットを! 全部……切り裂いてやる!」
程なくしてアークエンジェルからソードシルエットが射出された。
フォースシルエットを切り離し、敵にぶつける。
爆発に巻き込まれた敵機が助かるはずもなく、成す術もないまま砕けていった。
ソードシルエットに換装したインパルスは、エクスカリバーを振り回す。
巨大な刃が、敵を切り裂いていく様はまさに鬼神。
敵機を切り裂いた時の噴出したオイルが、ソードインパルスを濡らしていく。
それは、かの南アメリカの英雄エドワード・ハレルソンのソードカラミティに似通るものがあった。
「シン、一人で立ち回るな! やられたら何もならないぞ!」
アスランがなだめるように言うが、シンはほとんど言うことを聞かない。
ミネルバにいたときからそうだった。
アスランはデュランダル議長からFAITHの称号を得て。
ミネルバに配属になり、シン達を纏め上げようとしたが。
ルナマリアやレイは素直に彼に従ったが、我の強いシンがアスランに従うわけもなく。
戦闘に出ればシンとアスランは、実に良いコンビネーションを発揮したこともあるが、一度顔を合わせれば言い争いになることが多い。
それは、今でも全く変わっていなかった。
むしろ酷くなった、か。
「シン、聞いているのか! シン!」
「うるさいな、黙ってろよ!」
その様子はアークエンジェルのブリッジにも響いていた。
ぎゃあぎゃあと言い争う二人のパイロット。
ブリッジに来ていたルナマリアはため息をついた。
***
別の場所ではイザークとディアッカが奮戦していた。
グフソニックのテンペストが砕け散り。
グフアライヴのオルトロスビーム砲がビーム熱に耐えられず融解した。
どちらも残っている装備はスレイヤーウィップのみとなった。
双方とも背中のバックパックをパージした。
もはや武装の付いていないバックパックなどデッドウェイトも良いところで。
重いが、武装が付いていればまだ活用の余地はある。
しかしそれが無いとなるとただ単に邪魔になる。
かといってイザークとディアッカのグフの武装はスレイヤーウィップのみ。
貧相なものである。
「イザーク、敵の増援だ! 4時の方向!」
「くそ……こいつらどれだけ……!」
突然のことだった。
イザークの目の前に光の雨が降り注いだ。
モノアイが上空のそれを捉えた。
ジェットストライカーを装備したダガーLに、グゥルに乗ったザクウォーリア。
まるで地上の獲物を狙う、鋭い瞳の鷹のような。
急降下で迫るダガーL。
体当たりによる衝撃でコクピットが揺さぶられる。
今のグフに、飛行能力は無い。
「く……空さえ飛べれば、こんな奴らッ!」
するとディアッカのグフが爆発した。
まだ反応があるため、動力炉がやられたわけでは無さそうだが。
兎にも角にも、これは非常に厳しい状況だった。
「大丈夫か、ディアッカ!」
「ああ、何とか……。でも、こいつは参ったぜ……本当によ」
その瞬間に、イザークのグフもダメージを受けた。
コクピットハッチが破られ、破片が飛ぶ。
目の前には、青い空と、無機質の人形。
その無機質の人形の手に持つ銃が、イザークのグフめがけて放たれる。
死を覚悟したが、叶わなかった。
別方向より飛来した光によって相殺され、グフに届く前に消滅した。
「大丈夫か、ボウズども!」
金色のMS―アカツキが、現れた。
その神々しいまでのMSにダガーLが発砲する。
ビームが届く前に、アカツキが輝き始めた。
ヤタノカガミと呼ばれるビーム反射装甲の力によって、ビームを反射した。
無敵の盾を有した、オーブの守り神。
「来るのが遅いぜ、フラガのおっさん!」
「おっさんじゃない!」
「来てくれたのはありがたいが、持ち場を離れても良かったのか?」
「キラが言ったんだ。ここは僕に任せてーとか何とか」
キラらしいと言えばキラらしいが。
スーパーコーディネイターの彼の力があってこその発言か。
それとも別の考えか。
「ともかく、今は耐えるしかない」
「どう言う事だよ。おっさん」
「おっさんじゃない! あのアルトとか言う嬢ちゃんが、Allianceの頭と接触したって言う情報が入ったんだ」
「この物量、俺たちが勝てるとも思えないからな……」
イザークがムウの言葉を代弁する。
「つまるところ、その頭を倒せば指揮系統が混乱する。だからそれまで耐えろ、と言うことか?」
「頭が良いねぇ、キミは。そういうことだ!」
アカツキが地上に降り立つ。
ディアッカのグフを守るように仁王立ち。
「ここは俺が引き受ける! その間にお前らはアークエンジェルに戻れ!」
「おっさん!」
「……キミもしつこいねぇ……」
「フラガ一佐……。了解した」
2機のグフが離脱した。
残されたアカツキは、スラスターを最大限に利用し敵の攻撃を誘導し、避けていく。
「ここで俺がやられたら、話にならねぇだろうが!」
***
14:20。
Allianceの正門を越えた、広い敷地。
そこで、アルトは目の前のMSと対峙していた。
ディフェニスと名づけられたMS。
何でも「旧人類と新人類の境界を明らかにするMS」だとか。
そんなことがあのデータディスクに記載されていたが。
「私は一度君と話をしたかった」
「私はアンタと話すつもりは毛頭ないわ!」
アルトが走る。
ディフェニスは動く気配がない。
(馬鹿にして……ッ!)
アルトがしゃがんだ。
その手にはレヴァンティン対艦刀。
左から右へ切り払う。
「ふん……」
ディフェニスが飛翔し、ビームライフルでけん制する。
爆発によって、地面がえぐられ、砂が舞い上がる。
アルトのモニターが一瞬落ち、機能が回復した時、目の前にディフェニスがいた。
ディフェニスの右手にはビームサーベルが握られている。
「やられる……ッ!? このっ!」
シールドで咄嗟に防いだ。
いくらシールドにアンチ・ビーム・コーティングが施されているとはいえ、長時間は耐えられない。
火花が双方のMSを照らす。
「君は私とよく似ている。だから話そうと思ったが、この状況では無理のようだな」
「私が、貴方と、似ている? ふざけたことを!」
「ふざけてなどいないさ」
ディフェニスが距離を取った。
ヴァシュリアは語り始めた。
「君はラクス・クラインに対して不信感を抱いている。違うか?」
「それは……」
「私も同じだ。戦争にしたいと言いながら、やっていることはテロリストも同然の行為ばかり。一国の首長を突然連れさらうなど、どこのテロリストの仕業だと私は思ったよ」
ヴァシュリアの声は落ち着いていた。
その落ち着きの中に、異様な、殺意に似た空気が含まれている。
今、アルトを動かせば確実に倒せる。
しかし、動けない。
「それがまさか、ヤキンを生き抜いたアークエンジェルとフリーダムの仕業だった……。やつらはこの世界で何だ?」
「……私は疫病神程度に考えているわ」
「その通り。疫病神さ。疫病神が世界を変えることなど出来ないんだ」
ディフェニスのハッチが開いた。
ヴァシュリアがコクピットから出て、ヘルメットを脱いだ。
その顔は、目は、自信に満ち溢れていた。
「私と一緒に来い、アルト・オファニエル」
「……正気とは思えないわね、敵の兵士をスカウトするなんて」
「お前となら理想の世界を作り上げることが出来る。だから来い」
アルトは黙っていた。
このままこちらが勝てば、またラクス・クラインの天下となる。
地獄だろう、それは。
だが寝返っても、地獄が待っているかもしれない。
「それも面白そうね」
「……」
「でも、アンタについていくくらいなら、私は戦い抜くわ」
「……クラインに従うとでも?」
「冗談。私はあんな女に従うほど、洗脳されてなんかいないわよ」
ヘルメットの中で、アルトは笑っていた。
「でも、あんたについていくつもりも無い」
「そうか。残念だ」
ディフェニスのハッチが閉じた。
「では死んでもらおう。仲間になると言うなら見逃したのだがな」
「敵に見逃してもらうほど、恥ずかしいことは無いわよ! 後世までの恥だわ……」
「なら一瞬で消してやる。語り継がれないように……」
ディフェニスの腰に装備されている2つのビーム砲が前方に向けられる。
チャージによる、光の粒子が集まる。
破滅を意味する「カタストロフ」と呼ばれるビーム砲。
「放たれる前に、倒すッ!」
レヴァンティンを握り締め、地上すれすれを飛ぶ。
どんな武器にも、チャージサイクルがある。
それを突き、破壊すれば。
が、ヴァシュリアもその事は百も承知であった。
レヴァンティンによる斬撃を避け、飛翔する。
太陽を背に受け、地上のアルトを狙う。
「残念だよ……。アルト・オファニエル、君は分かってくれると思っていた」
「戯言を! アンタの考え、私が受け入れるとでも思って!?」
「先ほども言ったろう。君と私は似ている、と。だがそれも」
トリガーに手を伸ばす。
「ここでその命を落とすことになるがな」
「ふ、ざけないで!!」
アルトが飛ぶ。
手に持ったレヴァンティンを収め、ビームライフルショーティを放つ。
それでも間に合わない。
「さよならだ」
カタストロフから、巨大な光が放たれる。
その光な空気を巻き込み、アルトに向かう。
それは、他の機体からも確認できた。
「何、あの光は!」
「分かりません!」
「アルトッ!?」
***
それで終わるはずだった。
理論上、カタストロフのビームに耐えれるものは無い。
しかし目の前のMSはどうだろう。
アルトは、存在しているではないか。
自らも左半身を失いながら、存在しているではないか。
「残念、だったわね。私って、悪運が強いのかしら……」
「ふ、はは……やはりお前は面白い……。私の全てを打ち壊してくれる!」
カタストロフのチャージ完了まで360秒。
わずか6分の間に、決着をつける。
アルトのコクピットの中でアラートが鳴り響く。
駆動限界が来ていた。
左半身を失ったのだ、動けるほうが奇跡である。
それでもあるとは負けられなかった。
いや、負けるわけにはいかない。
「アンタ達を、許しておけないんだからっ!」
「私は間違ったことをしたつもりは無い! クライン達がこの世界を駄目にすると、お前も理解しているだろう!?」
アルトはパワーダウンしており、まともに鍔迫り合うことすら、危うい状態だった。
確かにヴァシュリアの言うこともわかる。
ラクス達は、ほとんど他人からの助言を聞こうとしない。
常に自分達が他人を一番に「想って」いると口にし。
そのためならば、一国の首長をさらうことも戦局を混乱させることもする。
「だからって、アンタが成り代わる!? そんな理屈が通るとでも!」
「私はクラインたちより「まとも」だ!」
「そんな事!」
右のデュストレア・レール砲を放つ。
残り4分。
爆発のショックで体制を崩す。
「そんな事無い! アンタも異常よ! いえ、あんただけじゃない! この世界そのものが異常なのよ!」
「ならばそれを誰が直す……」
「直、す?」
「私が直す! 直してみせる!」
ディフェニスのとび蹴りが、アルトの頭部に直撃する。
強烈な振動が、機体を揺さぶる。
その勢いのまま、地面に激突する。
「もはやお前は必要ない……な。カタストロフを待つまでも無い」
その手にはビームサーベル。
周りにはウィンダムやザクが転がっている。
避けようにも、辺りが荒れているこの状況では大きな動きは出来ない。
「さぁ、終幕だ!」
ディフェニスが走る。
ビームサーベルをまっすぐに突き出す。
「終幕って、勝手に決めないでよ!」
傍に転がっていたウィンダムから、ビームサーベルを奪う。
アルトもウィンダムも連合製のMS。
それなら、武器のエネルギー供給コネクタが同規格のはず。
ビームサーベルを握り締める。
「アンタなんかにぃぃッ!」
アルトの手の中のビームサーベルが輝いた。
装甲を貫いた音が響く。
ディフェニスのビームサーベルは、アルトの胸を。
アルトのビームサーベルはディフェニスのコクピットを貫いていた。
「やっぱり、私って悪運だけは強いみたい……」
「……見事、だ」
「……ん?」
「それでこそ、私の相手にふさわしい……」
ビームサーベルを切る。
ディフェニスが地面に倒れた。
「ヴァシュリア……」
「もう少しだった……。もう少しだったが、私は、心の一番深いところで、誰かが、止めるのを待っていたのかもしれない……」
「何、を……」
「頼みがある」
それは敵の指揮官からの最初で最後の頼み事だった。
「もしお前達が、我々の本部を調べることがあったら……私の部屋は、アルト、君が調べてくれないか」
「……」
アルトは何も言わずにただ聞いていた。
ヴァシュリアは敵だが。
殺しあった敵だけど。
彼も言っていたように、アルトとヴァシュリアは似ている。
だからかもしれない。
こんなにも静かに黙って聴くことが出来るのは。
「頼む。そこに、私の全てを置いてきた」
それから、ヴァシュリアの声は聞こえなくなった。
***
ヴァシュリア・ラインツハルトが死んだ。
その事はAlliance側に混乱をもたらせ、指揮系統が乱れた。
程なくして、Alliance側から停戦の旨が伝えられた。
敵MS隊は武器を捨て、降伏していた。
「本部の中の兵士、及びMSパイロットを全員収容します」
「その後はどうするんですか、ラミアス艦長」
「オーブに引き渡します」
マリューの考えに、ブリッジに揃っていたキラ達が頷いていた。
「なるほどね。地球軍に渡したら、コーディネイターは皆殺される。ナチュラルも敵に手を貸した反逆者として殺される。プラントに明け渡しても、彼らはきっと暴動を起こすだろうねぇ。仮にも嬢ちゃんのことを嫌っての、今回のことだっただろうし」
「……」
ラクスは黙った。
「オーブならきっとカガリさんが何とかしてくれるんじゃないかしら……」
「アルト、ストーム、ウィンダム、収容完了しました!」
ミリアリアが告げる。
あとはAlliance兵士を収容するだけ。
本部の調査は、また明日行うこととなったが。
一つ気になるのは、ヴァシュリアは全世界に向けて放送したときに口にした「神の鉄槌」と口にしていたことだった。
ルーウィンが持ち帰ったデータディスクにも、その「神の鉄槌」に関しては記載されていなかった。
よほどの重要項目なのだろう。
ヴァシュリアが死んだ今となっては、おそらく起動することも無い。
本部の調査を終えてから改めて、そちらの調査に出ることにしよう。
***
5月10日、09:20。
Alliance本部の調査が始まった。
オーブより派遣された兵士も加わり、総勢150人余りの大調査だった。
その中で本部の一番奥、ヴァシュリアの部屋の前でアルトとルーウィン、キースは話していた。
「ここがヴァシュリアの部屋、か」
「よし、さっさと終わらせて」
「ねぇ、お願いがあるの」
それはアルトからの頼み。
珍しかった。
いつもはほとんど頼みごとなどしないアルト。
「この部屋、私一人で調べるわ」
「大変じゃないか?」
「ううん、大丈夫よ」
根拠の無い返答だった。
しかし、アルトの顔はいたって真剣で。
ルーウィンもキースも、それを断る理由はなかった。
アルトをその場に残して、二人は別の場所の調査に出た。
残されたアルト。
彼女は部屋のドアを開けた。
中は、綺麗に整理されていた。
その部屋の中を端から調べていく。
棚には近年起きた事件の記事がまとめられたファイルが並んでいる。
薄暗く、不気味な部屋だった。
棚のファイルを調べようと、抜き出した時。
ぎゅうぎゅうに敷き詰められていたファイルが、足元に落ちてきた。
その内の一冊のファイル、それに注目した。
「何これ……。やけに使い込まれているけど」
表紙にはただ一言「SEED」と書かれている。
アルトは、そのファイルの表紙をめくった。
***
僕は今、僕の秘密を明かそう。
そう言ったのはファーストコーディネイター、ジョージ・グレンだった。
ジョージ・グレンは「自分は自然の摂理そのもののまま生まれ出でた人間ではない。遺伝子の調整を受けて生まれでた人間である」。
こう言った。
このことによって世界には二つの人種が生まれた。
今まで地球で暮らしてきた、自然の摂理そのままの人間―ナチュラル。
遺伝子に調整を受け、あらゆる環境に打ち勝てることの出来る人間―コーディネイター。
その二つの人種は、最初こそ協力し合い生きてきたが。
人間と言うのは醜い生き物である。
コーディネイターの力に嫉妬したあるナチュラルが、木製より帰還したジョージ・グレンを暗殺したのである。
そのことで今まで水面下で起きていた対立が一気に表面化したのは言うまでも無い。
ナチュラルとコーディネイターの争いによる憎しみは、世界中へ広がっていった。
憎しみは銃を生み。
銃は戦闘機を生み。
戦闘機はやがてモビルアーマー(MA)を生み出し。
そしてMAはモビルスーツ(MS)を生み出した。
最初は小さないがみ合いだった。
しかしそれも気がつけば、戦争へと発展していた。
やがてコーディネイターは宇宙にプラントと呼ばれる居住コロニーを建設し、地球に住むナチュラルはコーディネイターを宇宙へと追い出していった。
コーディネイターの中にはこう思った人間もいるだろう。
どうしてジョージが殺されなければならないんだ。
私達が何をした? 何もしていないだろう。
故に彼らは、報復をした。
地球上で、今現在主要とされているエネルギー、核を封じるために。
Nジャマーと呼ばれるそれを、地球の奥深くに打ち込んだ。
それは数万?
数十万?
もしかしたら数百万にも登る数かもしれない。
それによって核分裂を封じ込められた地球のエネルギー不足を深刻なものとなり、地球に住むナチュラルは貧困の危機に晒されていた。
やがて本格的は戦争となったのは、C.E71のことだった。
その頃の私は学者を目指し、勉学に励んでいた。
宇宙の中立コロニー、ヘリオポリス。
そこで地球軍の開発した五機のMSが確認された。
中立?
もはやそんなものは何の意味も成さなかったのだ。
私はそのことに憤りを感じながらも、資料をまとめていた時。
ある一つの要因についての資料を手に入れることとなった。
それは、人がもう一つ上の段階へ進むことの出来る要因。
SEEDである。
正式には「Superior Evolutionary Element Destined-factor」と呼ばれるそれは。
意味は「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」とのこと。
SEEDを持つものは非常に稀で、ナチュラルだろうとコーディネイターだろうと関係なく、その体内に有しているらしい。
しかし、今まででそれを発現させた人間は誰もいない。
(中略)
私は、SEEDについての調査を引き続き行っていた。
今は、C.E71の9月27日。
有線放送で地球、プラント間の戦争が終結したと言う放送をしている。
その中で、戦争中にSEEDを発現させたと思われる人間のリストを手に入れることが出来た。
人類の夢、数多の希望をこめられて作られた最高のコーディネイター、キラ・ヤマト。
倒れたパトリック・ザラ最高評議会議長の息子、アスラン・ザラ。
オーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハ。
そして絶対的なカリスマ性をもつプラントの歌姫、ラクス・クライン。
この4人である。
私は彼らにこの世界をより良く導く力があるのだと考えた。
そして私は、ある一つの仮説を打ち立てた。
このようにSEEDを発現させたのは4人で、そのうち3人がコーディネイターであるから、学会では「主にコーディネイターに見られる稀有な要因」と言われている。
しかし私はそれは違うと反論する。
SEEDと呼ばれるその要因、実は誰の体内にも眠っているのではないだろうか。
誰の体内にもある。
しかし発現させるには、ある一定の緊張感などが無いと発現できないとしたら。
今まで何の報告も無かったのも頷けるのではないだろうか。
昔の人間はこんなことを言っていた。
火事場の馬鹿力。
その所以は、「火事となった家の家主が少しでも多くの物を運び出そうと普段以上の力を発揮した」ことに由来する。
私はそれこそがSEEDと呼ばれる要因が発言した瞬間ではないのだろうかと考えた。
SEEDが発現し、今まで以上の力を発揮することと。
火事場の馬鹿力によって発揮する力は同じである。
さらには戦争と言う緊張状態が持続しやすい状況と。
火事と言う自らの命に関る状況。
非常に似通っている。
火事場の馬鹿力は、その気になれば誰でも発揮する。
SEEDも同じである。
極度の緊張状態になれば、誰でも発言できるのではないだろうか。
故に、SEEDは誰の体内にも眠っているのではないだろうか。
だとしたら、世界は。
(中略)
最後に私はこう記そう。
世界が、正しく導かれますように。
***
そのファイルを読み終えたアルト。
ファイルを机に置き、調査を再開した。
胸の中に、よく分からない靄が出来ていた。
ヴァシュリアは結局、間違っていなかったのだろうか。
彼は本当に、世界を変えようとしていた。
世界を正しく導くために。
その方法が過激すぎただけで。
「ヴァシュリア……アンタ、間違っていなかったのかもね」
調査が終わったのは1時間後の10:35のことだった。
SEEDと名づけられたファイルを手に、アルトは部屋を出た。
このファイルをこのまま眠らせておくわけにはいかない。
「アンタの、ううん、貴方のこのファイル……私が守るわ」
アルトの表情は、非常にすっきりとしていた。
(Phase-Final 完了)
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