Phase-16 Alliance攻防戦−それぞれの戦い−

 5月9日、12:10。

 輸送船内。

「アークエンジェルより入電! 目標地点まで残り500! 総員、第一戦闘配備発令とのことです!」

 アークエンジェルより伝えられた電文を読み上げる。
 
 それは待機していたアルト達の耳にもすぐに届いた。

 先に伝えられた小隊作戦開始である。

「行くわよ、二人とも!」

「ああ。終わらせて帰るんだ、俺は」

「了解だ!」

 3機のMSが地上に降りた。

 アルトが先陣を切り、ストームが上空支援。

 そしてI.W.S.Pウィンダムが援護を行う。

 アークエンジェルに搭載されているMS隊も出撃してきた。

 目の前にはAllianceのMS隊。

 前回の戦闘よりも相手戦力は増えていた。

 おそらく全力でこちらを潰しにかかるだろう。

 別に恐れることなど無い。

 こちらは負けないために、応戦する。

 ただ、それだけのこと。

 アルト達はフォーメーションを組み、輸送機の前に展開した。

 アルトがレヴァンティンを握り、ウィンダムを切り裂いていく。

「いくら数が多くても!」

 ザクファントムやバビ、ダガーLが次々と破壊されていく。

「負けられないのよ!」

 腰部デュストレア・レール砲で遠方の敵を撃つ。

「アルト、あまり突出するな! 落とされるぞ!」

 ストームの援護射撃。

 影から迫っていたウィンダムを貫いた。

 キースのウィンダムも9.1m対艦刀を抜いた。

 コンバインシールドのガトリングを放ちながら敵機に接近。

 そのまま対艦刀で別の機体を叩ききる。

「他のやつらは大丈夫なのか? この戦力はちょっとキツイぞ……」

「大丈夫でしょ? ヤキンやメサイアを戦い抜いた人間達だし」

 どこかそっけないアルトの反応。

 確かにアルトの言うとおり、キラたちはいくつもの戦場を生き抜いてきた。

 機体の性能が良かった、ということもあるだろう。

 しかしそれ以上にキラ達の技術があってこそでもある。

 そこはアルトも認めてはいた。

 だが、やはりその後の言動が気に入らないものばかりだった。

 平和を訴えていながら、戦力を持って半ば「脅迫」のような。

 そのやり方が嫌だった。

 言葉を聴いてほしい。

 自分達と話し合ってほしい。

 そう良いながら、最強のコーディネイター、最強のMS、そして最強の戦艦を持ち出して。

 一体、彼らは何がしたいのか。

「そんなやつらが世界を導くとか言ってるから」

 アルトのビームライフル・ショーティーより放たれたビームが走る。

「こんな奴らがのさばっているんじゃない!」

 彼女の怒りは、収まらなかった。

 出来るなら今の叫びを、聞かせてやりたかったが。
 
 言ったところで聞く耳を持たない人間ばかり。
 
 相手の言うことも聞かず、こちらの意見ばかり押し付けてくる。

 そんな人間ばかりである。

「このままだと、埒が明かない……。アルト、キース、ちょっと良いか?」

 上空より状況を見ていたルーウィンが言う。

「ラクス・クラインには悪いが、個別行動をとったほうが早いと思う」

「個別行動……つまり、個々で敵の迎撃に当たれと?」

「つーか、それって意味無くないか? こうして3人で手っ取り早く……」

「乗ったわ」

 アルトが言う。

 もっと反論されるのかと思ったが。

 意外と軽くその意見を受け入れてくれた。

「だいたい敵の本部落とすのに纏まって行動していたら時間がいくらあっても足りないわよ!」

「それだったら切り込む、か?」

「そうよ、悪い?」

 レヴァンティンを抜刀し、アルトが走った。

 本部を落としに来ているのに、悠長にやってなんかいられない。

 ただでさえ戦力に差があるというのに。

 このままのんびりと戦っていたら、遅かれ早かれ落とされるのは明白なわけで。

 だったら、彼女は暴れたかった。

 その末に、死んだとしても後悔はない。
 
 いや、後悔があるとすれば一つ。

 ヴァシュリアを、討つ。

 それだけだろう。

「まったく、アルトには敵わねぇよ。こちらキース・ヒール、了解した!」

「アルト・オファニエル、了解!」

「命令にそむくことになるけど、時間が無いんだ……。次に会うのは、戦闘終了後だ! 良いな!」

***

 5月9日、14:20。

 キースは目の前の敵をただ薙ぎ倒していた。

 I.W.S.Pは飛行能力を持っていない。

 故に地上から威嚇し、こちらを倒そうとして降りたところを。

 斬る。

 この繰り返しだった。

「しつこいんだよ、お前ら! 道を、あけろぉぉっ!!」

 キースが言った瞬間、敵機が道をあけた。

「……通じたのか? まさかな」

 敵が退いた時、目の前にいたのは一機のウィンダムだった。

 何もつけていない、ノーマル状態のウィンダム。

 識別反応は敵、Allianceのものだが。

 キースには、何となく分かっていた。

「……カイ」

 ウィンダムのコクピットの中で呟いた。

 あのウィンダムに乗っているのはカイに違いない。

 確証は無い。

 けれど、キースの中には曲がることの無い自信があった。

 通信回線を開き、相手に呼びかける。

「カイ、カイなんだろ!?」

「……」

「答えろ、カイッ!」

「……何をしにきた、キース」

「やっぱり、お前ッ!」

 キースのウィンダムが9.1m対艦刀を抜いた。

 I.W.S.Pの殺人的な加速力で接近する。

 体が悲鳴を上げている。

 対艦刀を振り上げた。

 その太刀筋をカイは見切り、半歩避ける。

「俺たちの邪魔をするな、キース。今だったら命まではとらない」

「……俺は、お前と話しをしに来ただけだ!」

「それが邪魔だというんだ!」

 カイのウィンダムがシールドからミサイルを放つ。

 それは対艦刀に命中し、キースのウィンダムの手から離れていく。

 相変わらず出鱈目なまでの命中精度。

「そうやってお前はいつも人に干渉してくる! それが邪魔だというんだ、キース!」

「それが悪いかどうかなんて、人それぞれだが! 俺はお前やロベルト隊長……いや、ロベルトを仲間だと思っていた……だから」

「抜かせッ!」

 カイのウィンダムがビームサーベルでI.W.S.Pを切り裂いた。

 すぐさまパージする。

 手には、一振りの対艦刀のみが残された。

「せっかくのI.W.S.Pだが、無駄に終わったな……」

「そうだな。シモンズ技術主任には悪いけど……」

「こうなったら機体の性能はほぼ互角。そうなるとパイロットの腕で勝敗は決まる」

 カイのウィンダムとキースのウィンダム。

 確かにカイの言うとおり、双方の機体の性能に大差はない。

 だとしたら勝敗はパイロットの腕で決まってくる。

 カイの腕は確か。

 その事はキースも知っている。

 しかし自分も、ただアルトやカイの後ろで戦っていたわけではない。

 自分は自分なりの戦いをする。

 それだけだった。

「お前は、俺に勝ったことが無いだろう……。それが何を意味するか分かるか?」

「……」

「この戦いもお前は勝てない。そう言う事だ」

「そんなのは過去のデータだ! 今には関係ない!」

 対艦刀を手に、切りかかる。

 しかし相手はビームサーベル。

 まともに切り合える代物ではない。

 現に対艦刀はビーム熱によって溶断されていく。

 ビームサーベルとぶつかった部分から次第に解けていき。

 刀身にビーム刃が食い込んでいく。

「見ろ。お前の手持ちの対艦刀もこうしてボロボロだ」

「こんなもの!」

 距離を取り、対艦刀を投げつける。

 当たるものではない。

 それでも瞬間的な隙を作るには十分だった。

 ブーメランのように回転しながら迫る対艦刀を、撃墜するウィンダム。

 距離を詰めるキースのウィンダム。

「お前は、仲間だと思っていたのに!」

「お前達が気づかないのが悪い!」

「その気になんかさせるなよ!」

「そんな戯言!」

 キースのウィンダムの右拳が敵機の顔面を捉える。

 カイの体を衝撃が襲う。

 モニターが暗転し、アラートが鳴る。

「そもそもクライン派なんてものが台頭したから、世界は変わったんだよ……」

「だからってお前達が世界を変えれるとでも言うのか!?」

「平和にしたいと謳いながら、その手には銃を持つ! そんな人間の言うこと、信じられるか……ッ!」

 カイがペダルを踏んだ。

 スラスターを噴かし、タックルでキースのウィンダムの姿勢を崩した。

 その勢いを殺さず、サーベルで左腕を貫いた。

「お前はそんなクライン派を信じるというのか、キースッ!」

「……信じるとか信じないとか、そうじゃないんだ!」

「……」

「俺には世界を変えるほどの力なんて持ち合わせていない! けれどラクスやキラはそれすらも可能に出来そうな「可能性」があるんだ!」

 キースが叫ぶ。

「俺には出来ないことをあいつらがやって、あいつらに出来ないことを俺がやる! それが、世界を作っていくんだよ!」

「お前……」

「所詮俺はナチュラルで、コーディネイターには敵わないさ!」

 ウィンダムの右手には先刻手放したもう一振りの対艦刀。

 それを手に、突進する。

「世界の全てを殺してまで変えるなんて、やっちゃいけないんだよ! 気付けよ、カイッ!」

 対艦刀が、カイのウィンダムの胸部を貫いた。

 装甲が擦れあい、火花が散る。

 火花がモニターを焼いていく。

「……お前らしい、言葉、だな」

「カイ……」

「お前はいつもそうだったな……。アルトや俺を追い越そうと必死だった」

「……」

「その勢いが、お前を強くする」

 ウィンダムが爆発した。

 爆発による衝撃で、カイのウィンダムが後方に吹き飛んだ。

 そして全てのシステムがダウンした。

 ハッチを中から手動で開き、光をコクピットの中に入れる。

「……違うんだ、カイ。確かに俺はお前やアルトを追い越そうとしていた。でもそれは……」

 開いたハッチの上に座り込んだ。

「……いや、止めておこうか。勢いが大事、だもんな。カイ」

***

 時は少し遡り。

 5月9日、14:10。

 アルト、キースと分かれたルーウィン。

 上空から敵を迎撃していた。

 遠くではストライクフリーダムが奮闘している。

「アルトとキースは、どうなった……?」

 分かれた二人の心配をする。

 だが、すぐにその考えを振り捨てる。

 今は目の前のことに集中しないと。

 ストームが変形し、戦場を駆け回る。

「……アラート? どこだ?」

 突如鳴り響いたアラートに、ストームの変形を解除する。

 MSになり、シールドを構えた。

 ストームの目の前に現れたのは3機の戦闘機だった。

 それぞれストライカーパックを装備している。

「エール、ソード、ランチャー……? スカイグラスパーってやつか」

 しかし本命は違っていた。

 ストームを狙って、走る光が一つ。

 シールドで防いだものの、嫌に的確な攻撃だった。

「ウィンダム……? 識別は、敵か……やっぱり」

 アムフォルタスビーム砲を前方に構える。

 瞬間、ウィンダムが発砲してきた。

「何なんだよ、攻撃……させないつもりかよ!」

 相手の攻撃の的確さ。

 それはナチュラルのものではない。

 コーディネイターのルーウィンだから分かる。

 幾度と無く模擬演習で味わってきた。

「相手はコーディネイターか? けど、何でウィンダムに……?」

 すると敵機からの攻撃。

 ジェットストライカーを装備しているため、ストームほどではないが空中戦を行ってくる。

 スティレットを投げつけられるが、ストームの機動性の前にはほとんど命中しない。

 その後もウィンダムは無意味とも思える攻撃を繰り返していた。

「相手は素人か……?」

 そう思い、なるべく時間をかけずに切り抜けることにした。

 サーベルでウィンダムに切りかかった。

 が、ウィンダムも即座に反応し、サーベルで防いだ。

 鍔迫り合いとなり、空中で2機のMSがぶつかり合う。

「……違う、こいつ……」

「ZGMF-X79S、ストーム……。セイバーを基本に作られたMS」

 突如スピーカーから流れてきたのは男の声だった。

「試作型ハイパーデュートリオンシステムを搭載し、不安定ながらも高出力を実現したセカンドシリーズMSの一つ」

 ウィンダムのライフルを避け、反撃に移ろうとする。

「本当ならば私がアルト・オファニエルと戦いたかったがな。ヴァシュリア様の意向とあれば私はそれに従う!」

「お前……ロベルト・アイゼン!」

 ウィンダムが突進する。

 空中では少しのベクトルの狂いが致命傷となる。

 PS装甲を持たないストームにとって、突進やタックルなどは通常以上に気をつけなければならない。

 変形して距離を取ろうとするも、スカイグラスパーの追撃に会い、思うように距離が取れない。

「我々の邪魔をしないで、今すぐに死んでもらおうか! ルーウィン・リヴェル!」

「ふざけるな……! おめおめと、ただ殺されるためにここに来た訳ではない! そこを、退いてもらう!」

 二振りのサーベルを握り締める。

 ストームの加速力が合わさった一撃を繰り出す。

 その一撃は、確かにウィンダムの背部、ジェットストライカーに命中していた。

 被弾したジェットストライカーを切り離し、一機のスカイグラスパーからストライカーパックを受け取る。

 エールストライカーを装備した。

「お前も知っているだろう? C.E.71にオーブ近海でストライクが空中で装備を換装したということを」

「知っているさ。当時の俺たちにしてみれば、驚くべきことだからな」

 装備を換装するというアイデア自体が、既存のパイロットを驚かせたが。

 それに加えて戦闘中に、空中で装備を換装した。

 何を意味していたか。

 連合の開発したMSのスペックの高さ、そして乗っているパイロットの技術力の高さ。

 そのことを意味していた。

「そんな事造作も無い。どういうことか分かるか?」

「……」

「スーパーコーディネイターも、ただの人間に過ぎないということだ!」

 エールストライカーのスラスターを噴かして、飛び上がる。

 当初、エールストライカーは滞空飛行しか出来なかった。

 しかし技術の進歩というものは目覚しく。

 C.E.73の中ごろにはエールストライカーは完全飛行を実現していた。

 その頃には飛行可能な「ジェットストライカー」が主流装備となりつつあったが。

「そんな人間が、ただの人間に過ぎないヤツが、全てを悟ったような顔をして戦場を駆け巡ることに、苛つきさえ覚える……!」

「お前だってただの人間の一人に過ぎないくせに!」

「そうさ、ナチュラルだろうとコーディネイターだろうと、一人の人間! なのに世界は何時までも何時までも戦争戦争と……!」

 ウィンダムめがけてライフルを乱射する。

「そんな人間を、誰が裁く!」

「くそっ……照準が!」

「人間は、人間が裁くしかない!」

「そんな理屈、おかしいだろう!」

 ライフルを捨てる。

 緊張?

 恐怖?

 ルーウィンの、鑢のように乾いた喉が鳴る。

 人は人が裁く。

「ならばお前は、俺が裁く!」

「出来るか、貴様のような重荷を背負っている人間に!」

 再びの鍔迫り合い。

 重荷。

 ロベルトはそう言った。

 一体ルーウィンの何が重荷なのか。

 分からずにいた。

「重荷なんて、背負っていない!」

「そうか、そう言いきるか……」

 ウィンダムが離れた。

 方で息をするルーウィンは目の前のウィンダムを睨んだ。

「フィエナ・アルフィース……お前は彼女を守る故、あまり力を出せずにいたのではないか?」

「……人の妻の名前を軽々しく呼ばないでもらいたいな」

「貴様は支えなどといっていたが、重荷だったのではないか? 彼女を傷つけたくない、守りたい。その気持ちが大きくなりすぎていたのではないか?」

 それはルーウィンにとってどうでもいいことだった。

 そう、どうでも良いことだったが。

 何故だろう。

 言い返すことが出来ない。

 もしかしたら自分でも、気付かないうちにそう考えていたのだろうか。

「図星か、ルーウィン・リヴェル!」

 反応が、遅れた。

「そんな人間が、私を裁くなんてことは到底不可能……。潔く消えろ!」

「……だ」

「何だと?」

「嫌だッ!」

 ストームの右腕が切り裂かれた。
  
 しかしそれで良かった。

 切り裂かれた腕が爆発し、ウィンダムのモニターを包む。

「さすが、Project Destroy事件を解決した男……。スカイグラスパー2号機、ソードを射出しろ!」

 ソードが射出され、装備を換装する。

 エネルギーが回復し、地上に降り立つ。

 地上からビームブーメランを投げ、ストームの翼を貫いた。

「くそっ……!」

 ストームも地上に降りる。

 背部が爆発し、その勢いで地面に膝をついた。

「アムフォルタスは……一回だけ!?」

「そろそろお前ともお別れだな、ルーウィン・リヴェル……」

 シュベルトゲベールの切っ先が、ストームの顔面に突きつけられた。

 このまま突かれたら、ストームの頭部は吹き飛ぶ。

 ライフルは無い。

 サーベルも一振りのみ。

 アムフォルタスビーム砲は使えて一回。

「夫が先に逝く……彼女も可哀想だなァッ!」

「まだ、俺は死なない!」

 ストームが突っ込む。
 
 シュベルトゲベールの先端が、ストームの頭部に突き刺さる。

 それでも、勢いは止まらなかった。

 止まるどころか増していき、ウィンダムのソードを奪った。

 シュベルトゲベールを振り上げ、ウィンダムの胴体に突き刺し、押し倒した。

 地面に仰向けになり、土ぼこりが舞う。

 動かないようにシュベルトゲベールを強く、強く押し込んだ。

「ぐ、がぁっ!? き、さまぁぁぁっ!」

「悪いけど……俺はまだ死ぬことなんて出来ない! 今、そしてこれからも!」

 ストームが悲鳴に似た駆動音を響かせる。

 もう限界はとうに超えているのかもしれない。

 空中から援護に向かってきたランチャーストライカー装備のスカイグラスパーの翼を切り、後部を持つ。

 サーベルを捨て、そのスカイグラスパーを地上のウィンダムめがけて投げた。

 錐揉みしながら落下するスカイグラスパーが、ウィンダムに直撃した。

「お前達は間違っているって、気付けよッ!」

 アムフォルタスビーム砲を放った。

 砲身が放たれるビームの熱に耐えられず、溶解していく。

 出力が見る見るうちに下がっていく。

 モニターの隅には試作型ハイパーデュートリオン停止までのカウントダウンが表示されている。

 暫くして、地表が爆発した。

 爆発の風圧はストームにまで届き、姿勢を崩される。

 試作型ハイパーデュートリオンが停止し、ストームが地上に落下する。

 ハッチを開ける。

 空中では幾度と無く爆発が起きている。

「……あぁ、全く。ご苦労だったな、ストーム」

***

 アルトはAlliance本部の前にいた。

 本部正門には護衛用のMSが配置されている。

 敵機の攻撃を降り注ぐ中、迷いなくアルトは突き進む。

 その勢いにたじろいだのか、攻撃の手が休んだ。

「あんた達、退きなさい!」

 切り捨てる。

 門を切り破り、中に入る。

 本部の中はMSが配置されていなかった。

 不気味なまでに静まり返っている。

「……静かすぎる?」

 するとだ。

 目の前の格納庫と思われる建物のハッチが開いた。

 息を呑む。

 それはデータディスクで見たMS。

 旧人類と新人類の、境界を明らかにするMS。

 そう呼ばれていた。

 AMS-XXX、ディフェニス。

「ようこそ、Allianceへ」

「ふん……歓迎されるような空気じゃないわよ」

「そうか、残念だ。私は君と一度話したいと思っていたんだがな」

 ディフェニスが動いた。

 ゆっくりと、確実に一歩ずつ。

「さあ、始めようか。私は君と戦いたいと思っていた。以前からな」

 
(Phase-16 完)


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