Phase-15 Alliance攻防戦−決戦へ−
ストームとアルトはアークエンジェルに合流した。
Alliance本部より少し離れた湖のほとりだった。
現在、5月9日11:15。
何とか体制を整えるために、アークエンジェルブリッジでは作戦会議が開かれていた。
アルトとルーウィン、キースには後でその内容が伝えられる。
今のアルト達は機体の整備にかり出されていた。
基地ではないので整備士が足りない。
それにストライクフリーダムなど特機が多いならなおのことで。
「それじゃあ向こう側のスパイって、フィー姉の妹さんだったわけ?」
「そういうことだ」
ルーウィンは基地内でのことをアルトに話していた。
フィーナのことや、ヴァシュリア本人に会ったこと。
そして目の前で。
「姉妹で、ねぇ……。大変だったんだね」
「そうだな」
アルトが珍しくしんみりとしている。
フィータはアルトにとっても姉のような存在。
姉妹揃って危険なことをしていたとなると、彼女も辛かった。
「で、キースはどこ行ったんだ? 見当たらないけど……」
「向こうでウィンダムについて、色々と話しているわ。やっぱ無理なのよ……」
I.W.S.Pをウィンダムに乗せるなんて。
彼女はそういった。
確かにウィンダムのバッテリーでI.W.S.Pが機能するかどうかと言えば、おそらく「NO」であろう。
ストライクに搭載させてもその容量喰いから、生産が見送られたのだ。
怪しいものである。
「まぁ、キースがI.W.S.Pを上手く扱えるかどうか……」
「だろうなぁ。大丈夫か、キース」
そんなことを言っていると。
アークエンジェルのクルーの一人が顔を出した。
輸送機の後部格納庫。
そこに声が響いた。
「ルーウィン・リヴェルさん、ちょっと良いですか?」
声をかけたのは茶色の髪の女だった。
「何か?」
「第4基地からの電文です。こちらをどうぞ」
女が差し出したのは、一枚の紙切れだった。
その文面に書かれている内容を読んでいく。
最初は関心が無さそうだったルーウィン。
その電文、実は色々と回りめぐったものだった。
大本の差出人は、ザフト軍南アメリカファンダル基地からだった。
それを第4基地がキャッチし、アークエンジェルへと流した。
「どうしたのよ、貸しなさいよ」
無理やりに奪い取るアルト。
その内容に、驚きを隠せなかった。
紙を運んできた女も、その内容を見たらしくうつむいている。
「あんた、どうするのよ……。ここに書いてあることが事実だとしたら」
「帰る」
「は、ハァッ!?」
「南アメリカに今すぐにでも帰る!」
言うが早いが、ストームに飛び乗ろうとする。
しかしながらそんなことが出来る状況でもない。
今は敵本部の近くにいるのだ。
ここまで来て戦力が離脱するのは、いただけない。
アルトも何とかルーウィンにとどまるように説得をする。
「だから、大丈夫だって! ……多分」
「そらみろ、多分じゃないか! 心配なんだよ……フィエナが入院したなんて!」
そうである。
文面にはただこう書かれていた。
フィエナが入院した。
戻れるようなら戻れ、と。
いつに無く取り乱すルーウィン。
フィエナのことになったら必死である。
「病名とか何も書いていないのが気になるけど、向こうにはアンタの仲間もいるんでしょ? だったら心配することなんて」
「俺はあいつの夫だ! ああもう……こうしている間に」
これはちょっと酷かった。
確かに文面には病名など何も書いていない。
それは果たしてどういう意味で取ればよいのだろうか。
アルトは大丈夫と言っているが、ルーウィンには気休めにもならない。
むしろ彼を慌てふためかせるだけである。
余計な事したかしら。
茶髪の女はそう考えていた。
***
やはり無理だったようだ。
ルーウィンのところに電文が届けられたのとほぼ同時間。
キースはモルゲンレーテ技術主任のエリカ・シモンズと話していた。
エリカがキースにとI.W.S.Pを持ってきた。
もちろん、バッテリー云々の問題というのも解決できるものだと思っていた。
「バッテリーを入れ替えればいいじゃないか」
キースが書類を見ながらエリカに詰め寄る。
「それをしたら機体全体のバランスが狂ってとても動ける状態ではなくなるわ。それでも宜しいのなら……」
「それは嫌だけど、I.W.S.Pくらい強力なものでなければ、これから生き残れないかもしれないし」
これから行われるのは決戦である。
そのためには多少でも強力な兵装を搭載しなければ。
あとは自分の腕がついていくかどうかであるが。
「それに」
「それに?」
「……あいつを殴りたいと思う」
少し前まで自分達の仲間として一緒に行動してきた男。
カイを殴りたい。
その思いもあった。
ただただ自分がカイやロベルトの思うように踊らされていたと考えると。
「あなたの考えは分かったわ。でも、難しい注文よ」
「……」
「でも、やるだけやってみるわ」
「シモンズ主任……」
「I.W.S.P自体の出力を落とせば何とかなるかもしれないわ。ただ手数で攻めることになりそうだけど、あなたに出来るかしら?」
そんなこと言うまでも無い。
「やってみせますよ、必ず」
***
11:40。
アークエンジェルブリッジ。
マリューたちはこれまでの戦況を整理していた。
Allianceには連合・ザフトの戦力が集まっている。
その中には地球軍ガルナハン基地で戦ったゲルズゲーの姿もあったことから、双方の大半の戦力は生産されているという可能性が浮上した。
「では、こちらの戦力をいくつかに分けて戦う、と?」
アスランがモニターに映し出されたマップを見ながら。
マリューが説明する。
現在ルーウィンの活躍により陽電子砲は使えなくなった。
修理しようにも時間がかかるため、今後陽電子砲の危険性はゼロに等しい。
だが相手は何を仕込んでいるか分からない。
「固まっていては思うように動けないわ。何しろ相手は世界、と考えても良いのだから」
「とんでもないやつらに噛み付いたものだな、俺たちも」
ムウの言葉に沈黙する。
連合、ザフトの戦力があるということは世界を相手にするも等しいということ。
「分散するのも分かるが、その分防御に斑が出来ないか?」
「大丈夫」
そういったのはキラで。
視線が彼に集まる。
「守るから……この船も、皆も」
決意は固い。
***
Alliance本部。
スア・ペリオと捕らえていた敵軍のパイロットの脱走。
それにより本部は混乱していた。
「どうするおつもりで?」
ロベルトがヴァシュリアと話している。
今のロベルトはAlliance副指令の座についてる。
今回の第4基地の大量の情報収集、そして戦力分析などの功績を称えられたものである。
「愚問だな、ロベルト。奴らは私に牙を向いた。猛獣は、牙さえ抜いてしまえば」
ヴァシュリアはその手に持っていたグラスを握りつぶした。
赤い雫が、床へと落ちていく。
「怖くない」
「では総力を持って」
「そういうことだ。ディフェニスの準備もしておけ。私も出る」
「了解」
ロベルトが部屋を出た。
一人残ったヴァシュリアは本棚から一冊のファイルを取り出した。
その表紙にはこんなことが書かれている。
『SEED因子について』
かつて自分が書いていたレポートを取り出し、読む。
昔の自分は青かった。
若い故に、何に対しても希望を抱いていた。
そのファイルを荒々しく投げつける。
忌まわしい。
全ての存在が。
忌まわしい。
この世界が。
いつまで経っても、戦争。
戦争、戦争、戦争!
「くく……はははっ……! アーッハッハッハッ!」
彼の笑い声は、部屋中に響く。
「おかしい、実におかしいよ、この世界はァッ!」
そうさ、いつだって。
平和にしたい。
手を取り合いたい。
そう言っておきながら、その最後に待つのはなんだ。
関係の無い人々の叫び。
罪の無い人々の涙。
そして骸。
「だからこの世界を一度リセットする……!」
リセットして、自分の手中に納めてやる。
そうすれば必ず、理想的な平和の世界になる。
「おろかな旧人類よ、ひれ伏せ。これからは我ら新人類の世界……」
そして世界よ変われ。
私の手によって。
***
12:40。
アークエンジェルブリッジより、作戦内容が配布された。
作戦愛用は敵戦力の駆逐および敵本部の制圧。
そのために小隊を作り、行動することになるとのこと。
第1小隊はキラ、アスラン、ムウ。
第2小隊はシンとルナマリア。
第3小隊はイザークとディアッカ。
第4小隊はアルトとルーウィン、キース。
それぞれがアークエンジェルを防衛しながら、敵を倒していくことになる。
「なるほど、こちらの戦力を分散させて敵を倒す、か」
ルーウィンはまじまじと紙を見る。
「防御は手薄になるかもしれないが、まぁバランスは取れている……かな?」
「とにかく攻めればいいのよ! そうすれば万事解決じゃない!」
いつになく強気である。
こちらがやられる前に攻め込めば有利になる。
その分リスクも大きいが。
あまり一人で突出してしまうと、逆に窮地に経たされてしまう。
そんな時のための小隊だと思うが。
「作戦開始時刻は今から1時間後の13:40に開始します。それまでに各員搭乗機のチェックを」
「了解!」
「それでは、解散とします」
解散となった後、ルーウィンは少し前に渡された紙を読んでいた。
フィエナが入院、か。
心配でならなかった。
出来るなら今すぐ戻りたいが。
もうそんなことも言ってられない。
「よう、どうしたんだ?」
背後からの声に振り返る。
色黒の男がそこにいた。
ディアッカ・エルスマン。
その人だった。
「何だ何だ、しけた顔してるな! もっとグゥレイトに行こうぜ!」
意味が分からない。
ため息をつく。
ディアッカは何が起きたのか分からず、ルーウィンの持っていた紙を奪い取る。
「何だ、これ」
「あ、こらっ!」
「ふーん……なるほどねぇ」
内容を読んで、にやにやと笑みを浮かべる。
「で、このフィエナって子はお前の何なんだ?」
「そうか……ディアッカたちが来たのはちょうど俺たちがいなかった時か……。フィエナは、その……だな」
「こいつの妻よ」
アルトが言う。
いつの間に近くにいたのだろうか。
それだけ言うと高笑いして走って逃げた。
そしてディアッカという男が騒がないわけがない。
色々と騒ぎ立てる彼を尻目に、ルーウィンはストームの足元に。
「妻が入院するなんて一つしかないだろうが」
「ん?」
「子供じゃないか?」
「はは、そんなまさか」
だってフィエナのお腹は大きくなってなかったし。
そういうがディアッカの熱は冷めない。
何だかやかましくなってきたので、適当にあしらうことにした。
***
13:30。
まもなく離陸し、再びAlliance本部に攻め込む。
この戦いで、今後の世界が決まる。
アルトはコクピットのなかで、ただ一点を見ていた。
一点といってもそこには何もない。
何も考えずに、ただじっと見ていた。
何もない宙を。
そうしていると、キースのウィンダムが輸送機に姿を現した。
起動実験をしていたようだ。
ラダーを使ってキースが地面に降りた。
そこでアルトも覚醒し。
「キース!」
「アルト、どうした?」
「ウィンダムの調子はどうよ!」
キースは答えた。
I.W.S.P自体の出力を6割程度にまで下げたため、ウィンダムでも十分装備可能となった。
その分、各兵装の威力も下がってしまったが、それはキース自身も十分分かっていた。
手数で攻める。
それが今回の出撃で求められるキースの戦い方である。
「大丈夫だ、心配するなよ?」
「そ、それくらい分かってるわよ、バカっ!」
「それじゃあ、またあとで」
「うん!」
小さくなるキースの背中をアルトはじっと見ていた。
エルス、ようやくここまで来たよ。
あなたを殺したAllianceは。
「私が潰す……!」
『これより作戦を開始します。各員は準備をやめ、所定の位置についてください。繰り返します。これより作戦を開始します』
ついに始まったか。
アルトはコクピットから降り、ノーマルスーツに着替えようとした。
輸送機についているロッカーは小さい。
そのロッカーに無理やり軍服を入れ、スーツを着る。
ヘルメットを手に、ロッカーを出るとルーウィンとキースの二人と入れ違う。
「よう」
「ん」
それだけで十分だった。
小刻みに揺れる輸送機の中で、3人は多くは語らなかった。
「それにしても大変だよな、ルーウィンも」
「どういうことだ?」
「これ新婚旅行じゃなかったっけ」
忘れていた。
確か新婚旅行という名目でフレスベルグに来ていたのが、いつの間にかこうして戦いに身を投げていた。
きっとフィエナも困っただろう。
「またフィエナをつれて出かけろよ。罪滅ぼしだ」
「そうだな。俺、この戦いが終わったらフィエナをつれて、またどこか出かけるよ」
「それが良いだろ」
二人はほぼ同時にノーマルスーツに着替えた。
「よし行こうぜ、キース」
二人はハイタッチをした。
***
「Alliance本部まで、距離600!」
「総員、第一戦闘配備発令! パイロットは搭乗機にて待機!」
「ゴットフリート、1番2番起動!」
アークエンジェルの装備が展開される。
第一戦闘配備の指令はアルト達にも伝えられ。
それぞれの機体に乗り込んだ。
アルトは目の前の敵を潰すために。
ルーウィンは無事に帰るために。
キースはカイから話を聞くために。
それぞれの思考を頭に、OSを立ち上げる。
「よし、行くぞ!」
「アンタが指揮を執るわけ? ……まぁ、付き合ってあげない事も無いけど……」
「いいじゃないか、ルーウィンで。俺なんか指揮官ってキャラじゃないだろう?」
ハッチが開く。
アークエンジェルからMSが発進していく。
遅れないように、アルトたちも出撃する。
「キース・ヒール、ウィンダム、出るぞ!」
I.W.S.Pを装備したウィンダムが勇ましく発進する。
「ルーウィン・リヴェル、ストーム、発進する!」
白と青の、暴風の名を冠するMSが飛びたつ。
「アルト・オファニエル、アルト、出るわよ!」
真紅のMSがその手に力を握り締め。
決戦の地へ。
(Phase-15 完)
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