Phase-13 Alliance攻防戦−陽電子砲発射阻止−

 5月9日、09:30。

 アークエンジェルブリッジ。

 マリューの指示の元、離陸の準備が進められていた。

 MSドックにはストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、アカツキ、グフソニックとグフアライブ。

 そしてインパルスが2機。

 それだけの戦力がアークエンジェルには格納されている。

 ラクスもアークエンジェルに乗り、指示を出すと言う。

 彼女の恋人であるキラも、それを承諾していた。

 しかしながら他の人間はそうも思わないようで。

 一つの組織を束ねる人間が、こうも簡単に戦場に赴いて良いのだろうか。

 いまやラクスの影響力は大きい。

 彼女の考えに賛同する人間だって、この世界に五万といるのだ。

 なので、本当は皆反対だった。

 アスランの口から、キラにラクスは残るように伝えたが。

 キラは大丈夫の一点張りだった。

 僕が守るから。

 そう言ってラクスの乗船を許してしまった。

「アルトさん達の方は?」

『オーブ輸送機も離陸準備は順調です。ただ文句ばかりっている連中がいますがね』

 モニターの後ろではアルトとキースが文句を言っていた。

 おそらくどうして自分達だけ輸送機なのか、と声を荒げているのだろう。

 それをなだめているのは先日合流したルーウィンである。

 彼はどこへ行っても苦労性のようだ。

 通信を終えたオーブ輸送機内。

 アルトとキースは相変わらずだった。

「何で輸送機なんかで……! 納得いかないわ!」

「まったくだ!」

「落ち着けって。作戦前だろう」

 今回の作戦。

 それはこういうことだった。

 ルーウィンの持ち帰ったデータディスクによると、Alliance本部には巨大な陽電子砲が設置されていると言うデータがあった。

 そのデータはちょうど正面を向いており、攻め込もうとするとレーザー照射により正確な位置をつかまれ、チャージが完了し次第発射される。

 そして確認されただけでも陽電子砲防衛のため「YMFG-X7D ゲルズゲー」が3機、配置されている。

 ゲルズゲーはその陽電子リフレクターにより、あらゆる攻撃を弾き返す強固な盾を持っている。

 そのゲルズゲーに手間取っていると、陽電子砲の餌食になってしまう。

 今回は、陽電子砲を叩くことを最終戦にしなければならない。

 そこでストームに白羽の矢が立った。

 他のMSで敵の戦力をあぶり出し、高高度まで上昇したストームが奇襲を仕掛ける。

 ストームの性能と、ルーウィンの腕ならばゲルズゲーを退けながら、陽電子砲を叩くことも出来なくもない。

 その作戦を聞いたルーウィンは快く承諾した。

 危険な作戦である。

 少しでも遅れれば、陽電子砲の餌食になるのは必至。

「……あんたは平気なのね、こんな心もとない輸送機で出撃なんて」

「戦うのに、輸送機も戦艦もないだろう? どんなに良い戦艦でも、クルーの腕がヘタレなら意味無いさ」

「妙な説得力があるようなないような……」

 そんな話をしていた。

「ヒール中佐はいるかしら?」

「? 俺ですが?」

 キースが呼ばれた。

 声の主は、エリカ・シモンズ技術主任だった。

「貴方のウィンダム、ちょっと調べさせてもらったわ」

「いきなり何スか」

「良い物をあげようと思ってね。こっちにいらっしゃい」

 アルト達もついていく。

 キースのウィンダムだけ、外に出ていた。

 いつもならば背中にはジェットストライカーが装備されている。

 そのウィンダムを見てキースは目を疑った。

 ウィンダムの背中には灰色のストライカーパックが装備されていた。

 I.W.S.P。

 そう呼ばれているストライカーパックである。

「これ、貴方のウィンダムに装備させてもらったわ」

「I.W.S.Pなんて……キースに扱えるのかしら?」

「黙れ、アルト! 使いこなしてみせるさ!」

 ウィンダムを輸送機に積み、いよいよ離陸する。

 Alliance本部より数十キロ離れた地点より、ストームを一足先に発進。

 その後は至って普通の出撃を装い、戦闘を仕掛ける。

 最終的にはAlliance本部の占拠、ヴァシュリアの身柄の確保が目的である。

「アークエンジェル、発進!」

 マリューの号令と共に、不沈艦が上空へ舞い上がる。

***

 10:10。

 予定より少し遅れて、作戦予定地点。

 輸送機の後部ハッチが開いた。

「それじゃあ、先に行って待ってる」

「死ぬようなこと言うなよ」

「それもそうだな、キースの言うとおりだ」

 ルーウィンがストームの操縦桿を握り締めた。

「ルーウィン・リヴェル、ストーム、発進する!」

 落下するように空に舞うストーム。

 そのまま変形し、急上昇を始めた。

「さて、俺たちも始めるぞ。良いな、アルト」

「……分かってる」

「あいつらが出てきても、大丈夫か?」

「うん、任せておきなさい! キースも、あんたの仕事をきちんとこなしなさいよ!」

 アルトに乗り込み、OSを立ち上げる。

 キースもウィンダムに乗り込んだ。

 それよりも少し早く、アークエンジェルからMSが出撃した。

 まずは敵を誘い出すための陽動。

 そしてなるべく本部から引き離さなければならない。

 その様子は、Alliance本部からでも見ることが出来た。

 薄暗い部屋の中でモニターの光だけが点滅し、ヴァシュリアの顔を照らしている。

 その表情を悟ることは難しいが、彼は薄笑いを浮かべている。

 どこまで愚かなのだろう、旧時代の人間達は。

 司令室への通信回線を開く。

「MS隊を第18小隊まで出撃させろ。他の戦力は出すな」

「……」

 その隣でスアは彼の一挙手一投足をその目に焼き付けていた。

「それと、陽電子砲近辺にゲルズゲーを配置しろ。そうだ、全て、だ」

 モニターの中で戦っているのは、第4基地の精鋭達だが、一機足りていない。

 何とも分かりやすいことだ。

 その場にいないMS、そしてパイロットがどれほどの腕を持っているか分からないが。

 この計画は止めることができない。

「……ヴァシュリア様?」

「もしこちらが劣勢に経たされるようなことがあれば、私が出る。ディフェニスの力を持ってすればやつらを消し去ることなどたやすい」

「……」

 ヴァシュリアの心は隙だらけ。

 彼女が動いた。

 スアはヴァシュリアとすれ違うと同時に、彼の腹部に何かを当てる。

「何の冗談か」

「……今すぐ、MS部隊を止めてください。いえ、止めなさい」

「ほぅ……」

***

 フォースシルエットを装備したシンのインパルスと、ブラストシルエットを装備したルナマリアのインパルスが肉薄する。

 ヴァジュラ・ビームサーベルとビームジャベリンによる多重攻撃。

 そのまえにシグーにダガーLなどは消し飛んでいく。

「こいつら、本当に向かってくる!」

「でも、これがこの世界の本当の姿なのかもね……」

「どういうことさ、ルナ」

 コーディネイターとナチュラルが一緒に暮らすことの出来る世界。

 Allianceはそれを目指している。

 この戦闘における彼らの戦力がそれを物語っている。

 ルナマリアたちも、その想いで戦っているはずなのに。

 どうしてすれ違ってしまったのだろう。

 目指すものは同じはずなのに。

「気をつけろ、来るぞ!」

 アスランの声で、正気に戻る。

 目の前のゲイツRのビームサーベルがルナマリアの左肩を切り落とした。

 火花が散り、機体が激しく揺さぶられる。

「この、やってくれちゃってぇっ!!」

 ケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲を放つも、その後方に控えていたザクファントムのビームライフルがカウンターで放たれる。

 インパルスの胴体を光が走り、爆発した。

「ルナッ!?」

 思わず叫ぶシンだが、爆発の中から現れたのは一機の戦闘機だった。

 とっさの機転で胴体を切り離し、コアスプレンダーで脱出を試みたのだ。

「大丈夫か、ルナっ!」

「何とか……。でも、インパルスが……!」

「あんなやつら、俺が蹴散らしてやる! アークエンジェル、ソードシルエット!」

 すぐさまソードシルエットが飛来する。

 エクスカリバーレーザー対艦刀を抜く。

「であああああああああっ!」

 エクスかリバーを胴前に構え、突進する。

 別段「SEED」が発現したわけでもない。

 ただ、今は目の前の敵を倒すことだけ、シンの頭の中にある。

***

 敵を陽動する作戦は順調に進んでいた。

 遥か上空、ストームは待機していた。

「そろそろ頃合いか」

 ヘルメットのバイザーを下ろす。

「よし、仕掛ける!!」

 勢いよく急降下する。

 体に異常なまでのGがかかる。

 ルーウィンの体が潰されそうになる。

 雲を貫いて、Allianceの本部が見えた。

 確かに本部の中心に陽電子砲が確認できた。

 それは真正面を向いている。

「あれが、目標か……!」

 地上の直前で変形し、アムフォルタスビーム砲を構えるが。

 アラートがトリガーを引くのを邪魔をする。

 レーダーに三機のMSの反応。

 ライブラリーが照合したのは、ゲルズゲーだった。

「やっぱり、簡単にはいかないか……!」

 ライフルでけん制する。

 それさえも陽電子リフレクターの前には威力がない。

 気色の悪い虫のように、地上をはいつくばってゲルズゲーが迫る。

 若干の恐怖を覚えるルーウィン。

 ゲルズゲーがスラスターの力で浮上してきた。

「舐めてくれる……! 空中戦でストームに敵うと思うな!」

 ビームサーベルで一機のゲルズゲーの両手足を切り裂いた。
 
 胴体をサーベルで貫き、一蹴。

 まずは一機。

 次のゲルズゲーに狙いを定める。

 三機まとめて相手にするからてこずるのだ。

 こうして一機ずつ倒していけば。

「何だ、楽勝じゃないか!」

 逆手に持つサーベルで、ストームは迫る。

 二機目を倒し、残るは一機のみ。

 手早く倒して、陽電子砲を止めなければ。

 そう考えていた。

 しかし。

「アラートだと!? 援軍か……?」

 違った。

 陽電子砲の地点からのアラートサイン。

 ルーウィンは目を疑った。

 陽電子砲がチャージを始めていた。

***

「ふっ……あっははははははっ!」

 スアに銃を突きつけられたまま、ヴァシュリアは笑った。

「……何を」

「どうやら奴らは計算間違いをしていたようだな。何のためにゲルズゲーを3機出撃させたか、貴様に分かるか、スア・ペリオよ」

「…………」

「ゲルズゲーが三機とも全て破壊されたとき、陽電子砲は発射される。連動していると言うことだ……! 今はそののチャージ中だ」

 どちらにしても陽電子砲は発射される。

「所詮足掻いても無駄だったんだよ、彼らはな……!」

「貴方と言う人は!」

「騒ぐな、スア・ペリオよ……。それとも、お前も彼女のように死にたいのか?」

 一瞬のスアの油断。

 それが形勢を逆転させた。

 腕をつかまれ、力の限り投げ飛ばされた。

「ぐっ!」

 観賞植物が倒れる。

「知らないとでも思ったか? スア・ペリオ……」

 簡単なアナグラムだった。

 「スア・ペリオ」=Sur・perio。

「スア・ペリオを並び替えると……Superior、スーペリオ……」

 戦慄した。

 そこまで分かっていて自分を泳がせていたこの男の考えに。

「なぁ、フィーナ・スーペリオ……?」

「このぉぉっ!」

 もてる力を振り絞り、ヴァシュリアに殴りかかる。

 それすら、当てることは叶わない。

 右手で軽々と払われ、再び地面に膝をついた。

「本当ならば、すぐにでも殺してやるつもりだったが……貴様の情報処理能力には目を見張るものがあってな。フィータ・スーペリアと言い、貴様と言い……」

「……い」

「本当に道化としては最高だなァッ!」

「うるさいっ!」

 刹那、彼女の顔面に激痛が走る。

 鼻から血を垂れ流し、口で息をする。

 その鋭い眼は、ただまっすぐにヴァシュリアを捉えていた。

「ここまで泳がせて、生かしてやった恩を忘れたというのか……だったら今ここで」

 フィーナの髪を掴む。

 そのまま耳元に近づき。

「嬲り殺してやろうか?」

「あ、ぐ……」

 先ほど投げられた痛みと、蹴りつけられたことによる顔面に生じた痛みのせいで、頭が働かない。

 まだ、戦える。

「さて、最初はどうしようか? 言ってみろ」

「そう、ね……。貴方に殺されるくらいなら」

 ポケットより小型のスイッチを取り出す。

 そのスイッチは彼女のベルトの爆弾と繋がっている。

 この至近距離で爆発を起こせば、人は耐えることが出来ない。
 
 それが例えヴァシュリアでも、だ。

「自分で死ぬ!」

 起動ボタンを押す。

 そこで意識が途切れる。

 予定だった。

 爆発も何も起きない。

 ヴァシュリアも、平然と立っている。

 どう言うことか。

「貴様の考えなぞ、お見通し、だ」

 ヴァシュリアのスーツの内ポケットから、別のスイッチが姿を現した。

「それ……そんな!?」

「もし、こちらが本物だとしたら……どうする?」

「あ、あああ………」

 フィーナを地面に下ろした。

 大丈夫だ、すぐには殺さない。

 限界まで、痛めつけてから殺してやる。

 ヴァシュリアは、そう、呟いた。

***

 ルーウィンは苦戦していた。

 ここにきて陽電子砲の起動というアクシデントに、集中力が途切れてしまった。

 ゲルズゲーのM7045/F7 ビームライフルの光が、少しずつだがストームを捕らえ始めた。

 それこそがルーウィンの集中力が途切れ始めた証拠。

「負けられないというのに……!」

 もし陽電子砲が発射されたらどうだろう。

 後方で戦っているアルトたちも無事ではすまない。

 それに、ここで死んだらフィエナはどうする。

 最近、ちょっとずつお腹が膨らんできていたというのに。

 二度、深呼吸をした。

「死ぬもんか……死ぬもんか!」

 ストームが全速力でゲルズゲーの懐に飛び込む。

 敵の攻撃も気にしてはいけない。

 傷ついていくストーム。

 ゲルズゲーの脚部のクローが、ストームの頭を掴もうと伸びるが。

 それよりも早く、サーベルで切り落とす。

 二本目のサーベルでライフルを持っている左腕を切り落とし、ストームはゲルズゲーを掴んだ。

 ゲルズゲーは通常のMSよりも一回り巨大である。

 そのため、通常機よりもエネルギーゲインの値が大きい。

「このまま、ゲルズゲーを陽電子砲にぶつければ!」

 このときルーウィンは気付いていないが、別段ゲルズゲーも「破壊」されたわけではない。

 故に陽電子砲も発射されることはない。

 だがチャージ中の陽電子砲。

 間違えれば自身の体が危ない。

 チャージ中の陽電子砲の正面に来た。

 ストームはゲルズゲーを持ち上げ。

 勢いのままに、投げつけた。

 砲身の頭からゲルズゲーが衝突し、そのまま砲身を潰していく。

「潰れろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 アムフォルタスビーム砲とビームライフルによる一斉射撃。

 ビームが直撃するなり、陽電子砲は爆発を起こした。

 爆発による衝撃がストームを襲う。

 その中の陽電子のせいだろうか。

 体中の細胞が悲鳴を上げている。

 我慢しろ、ルーウィン。

 最終的に大爆発を起こした陽電子砲。

 破片が、ストームに直撃する。

 上空に向かい、黒煙が立ち上る。

 それはすなわち作戦成功の意味である。

「はは……死ぬかと思った」

***

「陽電子砲の破壊を確認!」

「ストームは?」

「シグナル確認! 生きてます!」

「ラミアス艦長、全軍に撤退命令を出してください。近隣の平地で体勢を立て直しましょう」

「ラクスさん……」

「今回の作戦は終了しましたわ」

 マリューの指示で、今戦闘を行っているMSは全て撤退することとなった。

 MSの性能が良くても、数が違う。

 あまり深追いをして余計なダメージを受けては元も子もない。

 全機着艦まで、そう時間はかからなかったが。

「ルーウィンは? あいつは何をしているの!?」

「まだ、戻っていないようだ……」

「そんな!」

 輸送機がゆっくりと向きを変える。

 このまま発進したらストームは置いていくことになる。

「あのバカ……! 死んだらフィエナにあわす顔がないのに! アルト、出るわよ!」

 すぐさまアルトに乗り込み、ルーウィンを探しに出る。

 輸送機がこの地域から出るまで約3分。

 それがリミットである。

 
(Phase-13  完)

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