機動戦士ガンダムSEED DOUBLE FACE Re-Act -Code Name:Star Dust-

 C.E71年に勃発した大規模戦争が、第二次ヤキン・ドゥーエ宙域戦を持って終結を迎えてから4ヶ月。
 
 世界は、以前のような平穏さを取り戻そうと、奮闘していた。

 ナチュラル、コーディネイター関係なく協力し合おうと言う思想が広まりつつあった。

 それもこれも、かの悲劇の地「ユニウスセブン」にて締結された「ユニウス条約」がもたらしたもの。

 核兵器の使用禁止。

 保有MS数の上限。

 ミラージュコロイドの使用禁止。

 それらは軍事兵器に新たなステージを切り開かせた。

 その中で、C.E.72、9月。

 L4プラント、アーモリーワン。

***

 彼は、研究者だった。

 かつての大戦で、ナチュラルとコーディネイターは和平への道を見つけ出した。

 しかしそれは、彼にとっては「敗戦」そのものだった。

 ある人物はこう言った。

 戦争は、勝って終わらなければ意味が無い、と。

 彼も、その言葉に賛同していた。

 ナチュラルなど、自分たちへの嫉妬心の塊で。

 大層な言動で、暴れまわっている野蛮人だ。

 彼の提案するプロジェクトはどれも魅力的なものだった。

 ナチュラルに対してのみ働く電磁兵器など。

 「戦争中」ならば上層部はその案を取り入れていただろう。

 だが、今は違う。

 彼は今日も、自分の考えた案を上層部に持ちかけていた。

「ですから! これが正式採用されれば、ナチュラルだって大人しくなるはずです!」

「いい加減にしたまえ……。今は戦争中じゃないんだ」

 さらりと、簡単に書類の冒頭部分だけを流し読んだザフトの士官は、書類を机の上に置いた。

 戦争中ではないと、少し前から言い聞かせてはいるのだが中々その言葉を受け入れようとしない。

「戦争中だとしても、MS開発に時間も資金も割いている状況で、限定状況下でのみ働く細菌兵器などに何の意味がある?」

「それは……」

「意味の無い兵器を作ったとしても、時間と労力の無駄なのだよ」

 男は黙り込んだ。

 自分の考えを全否定された。

 彼の拳は強く握られていた。

「もし採用されるとしたら、ナチュラルと共存できる平和的な「モノ」を作るんだな」

 それだけ言うと、士官は軍服を正して部屋を出た。

 残された男は、机の上に無造作に置かれた書類に手を伸ばした。

 何が悪い。

 何が間違っている。

 自分の。

「何が違うと言うんだッ!?」

 書類を破り捨てる。

 ナチュラルと共存?

 そんな戯言に、付き合っているほうが時間の無駄と言うものだ。

「思い知らせてやる……」

 もはや遅い。

 否定されようが、受け入れられようが。

 もう始まっている。

 彼の計画は、もう実用段階にまで。

「この俺の有用性を、思い知らせてやる……! そして、後悔させてやる……! 俺を無碍にした事をッ!!」

 それから4ヶ月、彼の消息は分からずにいた。

 ところが。

***

 地球軍月面ノースブレイド基地。

 大戦後、この基地は宇宙で展開する地球軍の仲介基地となっていた。

 地上から宇宙へ上がり、まずはこの基地で補給や整備を行い。

 体勢を整えてから戦場に向かう。

 それが主流となりつつあった。

 この基地のMSパイロット、フエン・ミシマ少尉。

 第二次ヤキン・ドゥーエ宙域戦を生き抜いたパイロット。

 乗機はMMS-X015「イルミナ」。

 別段高スペックと言うわけでもない、汎用型MS。

 幾つもの戦場を潜り抜け、彼は成長していた。

 ただ一つ、今でも心の底で気になることがあった。

 第二次ヤキン・ドゥーエ宙域戦、ひいてはボアズ攻略戦よりも少し前。

 アークエンジェル級三番艦が宇宙に上がったとの報告を受け、対象を敵艦と認定。

 迎撃に出たときだ。

 そこで彼は一機のMSと対峙する事となった。

 赤と白の、ツートンカラーのMS。

 まるでイルミナとは正反対のMSだった。

 途中まではイルミナが押していた。

 しかしある一瞬から、戦局は一変。

 イルミナは右腕を切り落とされ、アークエンジェル級三番艦は月面宙域を離脱。

 任務は失敗に終わった。

 後の情報で、そのMSはGAT-X142「ブレイズ」と判明。

 パイロットはロイド・エスコール。

 フエンと同じ少尉だった。

 どちらも―イルミナは形式番号こそ違うが―GAT-X105「ストライク」系列のMSである。

 なのにあの差は何だったのか。

 ぼうっと窓の外を見ているフエンの口からはため息しか出ない。

 その後のボアズ攻略戦では地球軍は核ミサイルによる掃討作戦を展開。

 今の地球軍は嘗ての面影はもうない。

 ブルーコスモスと言う組織に侵食されすぎたのだ。

 彼らは、彼らが離脱したのはもしかしたら。

 この事を見越しての離脱だったのだろうか。

(まさか……エスパーじゃあるまいし……!)

 だが、もし自分がもうちょっと行動力のある人間だったら地球軍に反旗を翻していたのは確かである。

 フエンは、彼らほど強くもないし行動力があるわけでもない。

 それは自覚していた。

「ミシマ少尉! ちょっと良いですか?」

「え、ああ……何でしょう」

「エマージェンシーです! すぐに出撃準備を!」

***

 3時間前。

 ノースブレイド基地より50kmほど離れた暗礁宙域。

 そこに浮かぶ一隻の戦艦。

 地球軍で使われている150m級の巡洋艦。

 そのブリッジに彼は座っていた。

 4ヶ月前、ザフトに見切りをつけ独自の研究を続けていた男。

 名を、ハイウェル・ノース。

 ナチュラルともコーディネイターとも決別し、文字通り世界を敵に回そうとする行為。

「ハイウェル様、首尾は宜しいようです」

「これが実験の最終段階だ……。これで思い知らせてやる、ナチュラルとコーディネイターの脳に、有用性を!」

 ハイウェルの指示で、ブリッジクルーがインカムに向かって喋り始める。

「そして刻め、ハイウェル・ノースの名を! スターダスト!」

 その声に呼応するMSが1機。

 白を機長とした、モノアイタイプのMS。

 ザフトのジン、ゲイツ。

 地球軍のダガータイプとも違う。

 全くの異形のMS。

 両足の脹脛には機動力を高めるためだろうか、スラスターが設けられている。

 右手にはビームライフルが握られ、装備に関してはごく普通のようだ。

 そのコクピットで、少女は呟いた。

「スターダスト……私の、名前……。任務、遂行します」

『良いか、月面にある地球軍の基地を跡形もなく吹き飛ばせ。容赦などするな、徹底的にな!』

「了解、スターダスト、行きます」

 星屑。

 その名を持つ少女の操るMSが巡洋艦より発進した。

 それを察知したノースブレイド基地では、補給中の艦を緊急展開。

 基地護衛の任務につかせた。

 フエンも乗機であるイルミナに乗り込む。

 OSを立ち上げ、火器セーフティを解除する。

『フエン、大丈夫?』

「姉さん?」

 モニターに映り一人の女性、サユ・ミシマ。

 フエンの姉であり、ノースブレイド基地のオペレーター。

 そのサユがフエンに状況を説明する。

 MSは1機でこの基地に乗り込んできている。

 守備隊のMSもこうしている間に撃破されているという。

『デュライド君もいるから、きっと基地防衛は大丈夫だと思うけど……無茶だけはしないで』

「……ん、了解だよ。フエン・ミシマ、イルミナ、行きます!」

 イルミナが戦場に出たとき既に展開していた艦隊の3分の1が壊滅していた。

 恐ろしいスピードで、艦がただの鉄くずとなっていく。

「何だよ……この敵……尋常じゃない!」

『イルミナ……フエンか!?』

 一機の薄紫のMSがイルミナに接近した。

 フエンと同期のMSパイロット、デュライド・アザーウェルグの操るヴァイオレント。

「デュライドさん! 戦況は?」

『俺にも分からん……今出撃したばかりだ。ただ、敵はかなりの速度でこの宙域を制圧しつつあると言う事だけだ……』

 あり得ない。

 たかが一機のMSでこの宙域一帯を制圧するなど。

 それこそコーディネイターの中でも上位の腕を持つパイロットと。

 ZGMF-X10A並みの性能を持つMSが揃わないと成しえない。

「!? ヴォルティールが……!」

 今もまた、一隻の艦が沈んだ。

 瞬間。

 デュライドの声が響いた。

『来るぞ、フエン!!』

 イルミナのスラスターペダルを踏み込む。

 接近する敵機から距離を取る。

 近接戦闘に特化しているヴァイオレントが先手を打つために、敵機に接近。

 右腕のビームソード「デュランダル」を振り上げる。

 だがその太刀筋は見切られ、カウンターでビームライフルの一撃を喰らってしまう。

 衝撃で、デュライドの体が揺さぶられる。

「デュライドさん!」

 フエンが向き直る。

 敵は一機。

 機動力に特化しているせいか、ところどころフレームがむき出しとなっている。

 防御力は低い、と見て良いだろう。

 イルミナが相手の出方を伺うけん制の意味もこめてライフルを放つ。

 閃光が敵機の肩を掠める。

 やはり、相手はこちらに向かって突進してきた。

「食いついた!」

 二射目を放つ。

 敵の機動性は確かに高い。

 だが、機動性が高いと言うころは急制動がかけられず、回避運動にも多大なGが掛かる。

 今、突進のスピードを殺さずに回避運動を行えばそれころ体が潰れるようなGが襲い掛かる。

 そうなれば中のパイロットも無事ではない。

「……」

 敵機のコクピットの中の少女は、冷静で。

 ビームの筋を見極めていた。

 確かに今の自分には強烈なGが掛かっている。

 しかしながら、耐えられないわけではない。

「……エネルギー残量、75%、任務続行可能領域。反撃に移ります」

 ビームライフルの先端より、今度はビームの刃を形成。

 イルミナに切りかかった。

 ライフルとサーベル、双方の姿を持つ武装という事だろう。

 イルミナのシールドがその一撃を防いだ。

 火花が両機を照らす。

 一体、相手は何者なのだろう。

 先ほどから無茶な操縦ばかり。

 おおよそナチュラルではない。

 コーディネイターでも、ここまで体が頑丈なのだろうか。

「く、ああああああぁぁぁぁっ!!」

 イルミナがシールドで振り払い、サーベルを握り締める。

 敵機も反応し、互いのサーベルがぶつかり合い、弾かれる。

『フエン、同時に仕掛けるぞ!』

「はい!」

 イルミナのサーベルと、ヴァイオレントの「デュランダル」による双方向攻撃。

 敵はシールドを持っていない。

 左右からの攻撃を避けるには、基本的には下がるしかない。

 その思惑通り、敵機は交代する。

 そこをイルミナが追撃する。

 大降りのビームソードを持つヴァイオレントでは追撃に向かない。

 対して必要最低限名武装しか持たないイルミナならば。

 スラスターを噴かして、更に伸びるように突きを繰り出す。

「ッ!」

「あた、れェェェェェッ!!」

 イルミナの放った突きは、敵機の装甲を掠めていた。

「当たらない!? くそっ!」

「……このMSに傷を……?」

『そこまでだ、スターダスト』

「……何故、私はまだ」

 モニター越しの男に、スターダストは問う。

 この機体も、彼女自身もまだ戦える。

 2体1でも、何ら問題はない。

『忘れるな、これは「テスト」だ、「実験」なんだよ。この結果を基に、その機体をさらに強化できる』

「……了解、任務終了につき帰還します」

 踵を返し、敵機が引き返す。

 エネルギーが尽きたわけでも、武装がなくなったわけでも無さそうだ。

 敵側の都合と言うものだろうか。

『無事か、フエン……』

「ええ、何とか……」

 結果的に艦隊は五隻が沈み、MSも十機以上が破壊された。

 フエンの瞳に映るのは被害を受けた月面宙域の惨状。

 彼が次にあのMSと対峙するのは、再び地球圏が戦場となる8ヶ月後の事だった。


(終)

 
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