Phase-04 Break The World <SIDE-B>

 全世界に発令された避難勧告。

 人々は政府が用意した地下シェルターへと避難を始めるが、数が足りるはずが無い。

 地球全土の人間全てを納めるほどのシェルターが無いのだ。

 しかも、一つの町の人間を納めることも出来るかどうか。

 オーブとて、それは同じだった。

 軍の人間が総出となって、人々を先導するが中々上手くいかない。

「予想落下時間まで残り5時間……時間が無いぞ!」

 リエンの声に、慌しく奔走する。

 ヘリが上空を飛び、アナウンスを流す。

『この先のシェルターは一杯です! 誘導員の指示に従い、第四シェルターへと向かってください!』

 この忙しい時に、カガリはいない。

 本来ならば彼女が率先して指揮をとらなければならないのだが、彼女は宇宙。

 ここは、頼りないが彼に頼むしかない。

 リエンは車を出し、すぐにある男の下へと向かう。

 オーブ中央行政府。

 そこでは対応に追われている議員たちがいる。

 その中の一人。

「失礼する!」

「君はルフィード大佐!? 一体何をしているのだね!」

「失礼すると言っているんです。ユウナ・ロマ・セイランはどちらに!」

「彼ならあそこだが……」

 指を指した先にユウナはいた。

 代表がいない今、彼がこの国の指揮をとらなければならない。

 しかし彼も今までぬるま湯に使って育ったようなお坊ちゃんだ。

 頼りがあるといわれれば、首を横に振るしかない。

 だが、今力になるのは彼だけなのだ。

「だから! この国のシェルターはいっぱいだって……あ、ちょっと!」

 どうやら一方的に電話を切られたようだ。

「ユウナ・ロマ・セイラン!」

「あ、ああ、何の用だい? 今僕は忙しい」

「もう地下のシェルターが一杯だと言うことだが……」

「ああ、そうだよ! それに変わる所を探しているのに、どこもかしこのオーブを頼りにして……!」

「そこで考えたんだが」

 リエンの言葉に、ユウナはほとんど興味も無しに聞いていた。

「セイラン家専用のシェルターがあったはず。あれを一般解放してもらいたい」

「ば、馬鹿を言うんじゃないよ! あれは僕ら専用の―――」

「今はそんなことを言っている場合じゃないだろ!」

 リエンの激昂に、ユウナが肩をすくめる。

「……って、アスハ代表だったら言うぞ?」

「ぐ……」

「別にこの騒ぎが収まるまでだ。それとも、国民を見殺しに……」

「分かった! 分かったよ、もう! ウチのシェルターを開ける! それで良いでしょう!?」

「ご協力、感謝しますよ」

 してやったり顔のリエンをよそに、再び鳴り響いた電話の対応に追われるユウナ。

 セイラン家専用シェルターを開けると言う指示を、リエンが伝え。

 避難している国民を、そこで誘導する。

 その中で、オーブ・オノゴロ島の郊外に位置する教会。

 そこでは年端もいかぬ少年、少女たちが避難を始めていた。

 マルキオ導師達につれられ、彼らはシェルターへ。

「あら……?」

 その時、一人の少女が辺りを見回す。

 風になびく、軽くウェーブの掛かった桃色の髪が印象的な。

「キラ……?」

 ラクス・クライン。

 かつてC.E.71年大戦を終結へと導いた人間の一人。

 その平和的思考は、今のプラントに深く根付いている。

 ラクスが海岸まで戻り、一人の少年を見つけた。

 しかし、声はかけない。

 その少年は、もの悲しげな瞳で紅く染まる空を見ている。

 もう既に、ユニウス・セブンは肉眼でもはっきりと分かるほど、地球に迫っていた。

 紅く燃える空。

 その少年の瞳に、ユニウス・セブンはどう映ったのだろう。

 ようやく、ラクスが少年に声をかける。

「……キラ、ここにいましたの」

「ラクス……」

「危ないですわ。オーブ全土に避難観光が出ているのは、知っているのでしょう?」

「うん……。ちょっと考えていたんだ」

 波打つ音が響く。

 彼は考えていた。

 かつて、戦争に巻き込まれ、大人の都合でMSに乗り。

 しかし本当に守りたいものが出来、彼は自分の意志で軍に残った。

 その中で親友を失い、親友と殺し合い。

 軍の醜さを目の当たりにし、そして。

 世界の全てを憎んでいる男と戦い、戦争は終わったと思っていた。

 だが、今の世界はどうだ。

 2年前とさして変わらないじゃないか。

 ならば自分たちのあの戦いは何だったのか。

 全く無意味なものだったのだろうか、と。

「……僕達は、何のために戦っていたんだろう……」

「キラ……」

 彼の拳が硬く握られる。

 無駄な戦いなどもう見たくない。

 このままでは彼らのしてきた事がすべて無駄になってしまう。

 今の彼に力は無い。

 かつて乗っていたフリーダムは廃棄され、今のキラはただの人だ。

「とにかく今は、シェルターに向かいましょう。全ては、その後に……」

「うん……そう、だね」

 ゆっくりと歩き始める。

***

 ユニウス・セブンが砕けた。

 その知らせが入ったのは、予想落下時間より3時間40分ほど前の事。

 しかし破砕が出来たとは言え、まだ破片が完全に燃え尽きたと言うわけではない。

 世界中に降り注ぐ流星の雨。

 それらは人の作り上げたものをことごとく粉砕していく。

 アテネ、ロンドン。

 ゴビ砂漠に、ワシントン。

 全てを砕き、全てを破壊し。

 世界は震撼した。

 オーブとて例外ではなく。

 ほぼ同時的に巻き起こった地震により、ビルは倒壊し、大地は崩壊した。

 シェルターより出てきたは人々は、あまりの惨状に嘆いていた。

「しかし……酷いな」

 呟いたのはアキトだった。

 軍本部にて世界各国の様子を見ている。

 隣にいるロイドも、同じ考えだった。

 ただ、これでも被害は最小限に食い止めたほうなのだ。

 もしもユニウス・セブンそのものが落下していたら。

 あまりの景色に、考えたくも無い。

「今回の事でミストラルの発進も2週間先延ばしか……。仕方がないがな」

「まぁな。けど」

 ロイドが握っていたアルミ缶が、みしみしと音を立てる。

「誰であろうと今回の事件……許しておくかよ……!」

 もう犯人はこの世にはいない。

 だが、その事をロイド達が知る由もない。

 そこへ、リエンがなにやら神妙な面持ちで現れた。

 二人に声をかける。

「ああ、二人ともここにいたのか」

「大佐。一体どうしたんです」

「ちょっと、な……」

***

 事の起こりは2時間ほど前。

 まだユニウス・セブン落下のごたごたのほとんどが片付いていない現状。

 ユウナはカガリのいない穴を埋めようと必死だった。

 その最中、地球軍の上層部が先日の答えを聞きに足を運んだのだ。

 そんな事に時間を割いている暇など無いのだが、無碍にして何かされたらたまらない。

「しつこいねぇ、君達も! この忙しい時にこられても、困るんだよ!」

「まぁ、そう声を荒げなくても……。ただ、こちらとしては早い内にお答えを頂きたいんですがね」

 このまま彼らの答えを待っていてはいつまで立っても埒があかない。

 ぎろりと睨みつける。

 セイラン家は確かに、名のある名家。

 だが、それだけだ。

 彼らが表舞台にあまり立てないのはその意志の弱さにある。

 常に周囲に意見をあわせるそのスタイル。

 故に彼らは常に影に隠れている。

「ふ、ふん、そんなに凄んだって、ぼ、僕たちにだってプライドがある! かつてオーブを焼いた地球軍と手を取り合う気なんて―――――」

「分かりました」

 ユウナは耳を疑った。

 隣に座っていたウナトは、今、何と言った?

「と、ととと父さん!? 一体何を!?」

「では、これで私どもと貴方方は同盟国ということで……」

 士官が会釈をし、不敵な笑みを浮かべる。

 ユウナは父であるウナトの事が分からなかった。

 士官が立ち去った後、ユウナはウナトに詰め寄った。

「父さん! 一体何を考えているんだい!!」

「……これで良いんだ、ユウナ」

「……父さ、ん?」

「我々が首を横に振れば、奴らは国を焼こうと再び攻めてくる。今の地球軍を見てみろ、コーディネイターどころか自分たちに協力しない国を焼き滅ぼしているではないか……! 代表がいない今、私達は……私達が、国を守らなければならんのだ!」

「それはそうだけど……! こんな事、カガリが知ったら……」

「……国のためだ。全ての責任は私が負う」

 それは、カガリの口から議会の席を抹消されても構わないと言う事。

 ウナトとて、それなりの覚悟でいるのだ。

 その事について、ユウナはすぐに各議員たちを集め決定事項を伝える。

 当然、ほぼ全員から反発の声が上がる。

 ただ、ウナトの国を再び燃やしたくないと言う気持ちは本物で、それを伝えた所反発も収まった。

 その場に居合わせたリエンも、ウナトの言いたいことは彼も理解できる。

 ただ、代表抜きで決めてしまったのはやはりどうかと思う部分もある。

「と、言う事でオーブは地球軍と同盟を組むことになった」

「そんな……! だって地球軍は……!」

「何も言うな、ロイド」

 リエンは多くは語らない。

 ただし、一言だけ。

 セイラン家の気持ちも考えてみろ、と言う。

「国を守るため、彼らも断腸の思いだった……そう言う事ですか?」

 アキトが口を開いた。

 静かに頷くリエン。

 彼らは軍人、国の決定には従わないとならない。

「地球軍と同盟を組んだ事により、俺たち独立遊撃隊に補充兵として2名ほど着任する予定だ」

「補充兵、ね……。ユニウス条約ギリギリじゃないですか」

「まぁな。その補充兵が、どのような働きをしてくれるか、それは来てみないと分からんがな」

 リエンも詳しく聞かされていないようだ。

 何にせよ、これでミストラルの戦力は六機に増えた。

 ロイドは、期待と同時に不安を抱いていた。

 戦力が増えるのは良いのだが、それだけ戦争が激化して行くと言う事。

 果たして、二年前の大戦の意味は何だったのだろうか。

 ロイドには、それが意味を成しているのかどうか、理解に苦しむ所ではあった。


(Phase-04 <SIDE-B> 終)


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