Phase-02  動き出す世界<SIDE-A>

 L4プラント「アーモリー・ワン」での新型機強奪事件。

 その様子は世界各国に伝えられた。

 地球軍が、オーブが。

 その様子を目にしていた。

 こと首謀者である地球軍には非難の声も上がっていた。

 ただ、彼らにも言い分はあった。

 元々平和な現在、何ゆえ新型機を作る必要があるのか。

 戦争の火種になりかねない元を摘み取ったまでの事、と。

 それにしてもやり方が横暴すぎると言う意見が噴出したのは言うまでもない。

 そのせいでザフト軍派が地球軍の各基地に襲撃を仕掛けると言う最悪の事態が巻き起こってしまった。

 それは、地球よりはなれた月面ノースブレイド基地でも。

***

 基地内のアラートサイレンが鳴り止まない。

 敵の襲撃が続いているのだ。

 この間の謎のMSによる襲撃事件といい、何故こうも頻繁に。

 考えている暇は無い。

 フエンは、ヘルメットを手に乗機であるイルミナに乗り込んだ。

『フエン、敵は正規軍ではない。ただの暴徒だが』

「乗っている機体はしっかりしたもの、って事ですよね、デュライドさん」

 フエンの拳が硬く握られる。

 ただただ世界を混乱させたいだけではないか。

 アーモリー・ワンが襲撃を受けて、怒りに震えるのも分かる。

 ただ、怒りに身を任せてこんな混乱を招くような事をしても、何も変わらないと言うのに。

『フエン、進路クリアだよ。気をつけて』

「分かってるよ、姉さん。フエン・ミシマ、イルミナ、行きます!」

 ノースブレイド基地よりイルミナが出撃する。

 ザフトの一派。

 正規軍に比べて確かに操縦技術は甘いようだ。

 反撃の事も考えずに弾丸をばら撒くばかり。

『フエン、機体を爆散させるな。掴まえて事情を吐かせるんだ』

「ええ、それが今回の蜂起の事情を聴くのに手っ取り早い方法ですものね」

 イルミナのビームライフルが火を噴いた。

 放たれたビームは敵MSの頭部を吹き飛ばし、モニターを殺す。

 そして武装を剥ぎ取り、鹵獲する。

「素人が……!」

 デュライドの乗るヴァイオレントのビームソード「デュランダル」が唸りをあげる。

 ノースブレイドより遅れて出撃した守備隊も、中々奮闘している。

 この調子ならば、基地への被害は心配無さそうだ。

 ザフトの一派による蜂起は鎮圧され、捕獲されたMSよりパイロットを引き摺り下ろした。

「どうしてこんなマネを……? 乗っている機体がいくらザフトのものとは言え、正規軍相手に……」

 デュライドの問いに、彼らは沈黙を保った。

 答えられない、答えたくないのだろうか。

 一先ず彼らは捕虜として拘留することとなった。

 そしてこの騒ぎも沈静化したのだった。

 ただ、フエンは連れられて行く一派を見て、これからの戦乱の世界の事を考えていた。

 また2年前のような、戦乱の世界に戻るのだろうか。

「こんなの……」

「フエン? どうしたの?」

「こんなの、おかしいよ……! 平和だったのに、わざわざ戦争を引き起こすような事をして……! ザフトもおかしいけど、強奪に向かったこっちだっておかしいじゃない!」

「……が、これが戦争さ」

 デュライドの言葉にフエンはまだ納得できない。

 もしこちらが新型機を強奪しなければ、それは確実に前線に投入され自分たちに対しての脅威となっていただろう。

 自分達は軍人である前に人間だ、死にたくは無い。

 相手が何か新型を作っていたのなら、投入される前に破壊するか奪えば良い。

 それによって戦闘が起こるのならば、それを沈めるのもこちらの役目。

 そんな火種を生み出した自分たちの責任だから。

「お前は優しいからなぁ……お姉ちゃんに似てさ」

 フエンとサユが顔を見合わせる。

 似たもの姉弟とは、この事か。

***

 月面ノースブレイド基地が襲撃された時、アーモリー・ワンでの戦闘は激しくなっていた。

 シンの操るソードインパルスは二振りの対艦刀を振り回し、敵機に応戦していた。

「はぁぁぁぁっ!!」

 シンの叫びに呼応するように、インパルスが走る。

『シン! 命令は捕獲だ! 破壊するんじゃないぞ!』

「分かってますよ、トライン副官! でも、何だってこんな簡単に強奪なんて!!」

 シンの頭の中には今は怒りしかない。

 せっかく平和になっていたというのに、地球軍のせいでこんな戦闘が起きてしまった。

 考えられるのは唯一つ。

 ザフトの中に地球軍と繋がっている人間がいる、つまり内通者がいるとしか考えられない。

 黒いMS―ガイアは距離を取り、インパルスの出方を伺う。

 ガイアの中で、ステラは慎重になっていた。

 目の前のMSのパイロット、自分にぴったりくっついてくる。

 MS戦闘用に体に処置を加えられたエクステンデッド、それがステラ達。

 机上の空論ではあるが、コーディネイター以上にMSを動かせるとまで言われている。

「何なの、あんた……!」

 ガイアが変形し、突進する。

 グリフォン2ビームブレイドを展開し、すれ違いざまに斬撃を浴びせる。

「何なのよ!!」

「ステラっ!」

 スティングの駆る緑のMS―カオスは背中の機動兵装ポッドを分離させ、多方向から攻撃を仕掛ける。

 空間認識能力のある人間でなければ使用することの出来ない兵装ポッド。

 それを意図も簡単に使用できる。

 シンは目の前の敵の操縦技術に舌打ちをした。

 奪ったばかりの機体でこうも戦える。

 相当の手垂れか。

「ミネルバ! フォースシルエットの準備を!」

 離れた場所に鎮座している母艦「ミネルバ」に要請する。

 インパルスの装備換装を行い、更なる追撃を行うのだ。

 だが、それまで若干時間がかかる。

「ハッハァッ、何やってんだよ、二人とも!!」

 水色のMS―アビスがカリドゥス複相ビーム砲、連装ビーム砲を放ちインパルスを追い詰めていく。

 近接戦闘用のソードシルエット装備のインパルスでは、火力の高いアビス、多方向からの攻撃を得意とするカオス相手ではこちらの分が悪い。

 さらに四足獣型MAへと変形できるガイアがいては。

 ソードシルエットのエクスカリバーが、アビスのビームランスと交わるが追撃を受け真っ二つに割れてしまう。

 フォースシルエットだってまだ届かない。

 しかし、そんなシンの下に現れたのは二機のMS。

 白いザクファントムと、紅いザクウォーリアだった。

「ルナマリア……レイ!」

「シン、お待たせ! 頑張ってたみたいじゃない」

 ルナマリア・ホーク。

 シンと同じく赤服を纏い、ザクウォーリアを操る少女。

 ビーム突撃銃を構え、ガイアに向かってトリガーを引いた。

 ばら撒かれるビームの弾丸に、ガイアは体勢を崩した。

『まさかカオス、アビス、ガイアが強奪されるとはな……地球軍はよほど戦闘が好きらしいが』

「地球軍……レイ、それって」

『つい先刻、アーモリーの軍事宇宙港が襲撃を受けた。管制室にいた兵士の話によると、地球軍のダガータイプが現れたと』

 これではっきりした。

 地球軍はあの戦争で何も学んではいなかった。

 こうして再び戦争を引き起こして、世界を混乱させて。

 また、あんな悲劇を繰り返すのか。

『シン、シルエットの換装をしろ!』

「ああ、これで決着をつけてやる!」

 背中のソードシルエットを切り離し、飛来したフォースシルエットに換装する。

 機動性能を高めたインパルスは、ガイア達3機を追い詰めていく。

「ふん、装備の換装をした所で!!」

「待て、アウル! そろそろ時間だ! ネオが待ってる!」

「ハンッ……バスが来たってか!? おい、ステラ、行くぞ」

「倒す……ネオの敵!!」

 ガイアが走る。

 今回の目的は敵新型機の強奪。

 十分目標は達成できた。

 このままアーモリー・ワンに留まる理由がない。

「おい、ステラ! 時間だ!!」

 スティングの声にも、ステラは止まらない。

 目の前の敵は排除しないと、自分達の居場所を奪っていく。

 その考えで頭の中が一杯いだったのだ。

 どうにも止まらないガイアに対し、痺れを切らしたアウルが吐き捨てるように叫んだ。

「ならばお前、今ここで死ねよ!!」

「!?」

 瞬間、ガイアの動きが止まる。

 動悸が激しくなり、呼吸が乱れる。

 スティングがアウルを叱責するが、アウルは仕方がないと言い、特に悪びれる様子もない。

 ブロックワードと呼ばれる、エクステンデッドに施された緊急用のストッパーのようなものである。

 特定の単語を耳にしたとき、その全ての機能を停止させる効果があるため、滅多に使用することはない。

 しかし今回のようにエクステンデッドの暴走がはじまった場合は止むを得ないが。

「あ……死ぬ、死ぬのは……ダメ……!」

 ガイアがふわりと浮上し、飛び去る。

「ダメェェェェェッ!!」

「くそっ、アウル、この事はネオに報告するからな!」

「はいはい……。じゃあな、間抜けなザフトども!!」

 三機のMSが逃走を図る。

 シン達がそれを追う。

 このままみすみす逃がせば、世界はまた戦乱の世界へと逆戻りだ。

 それだけは、何としても阻止しなければ。

***

 三機のガンダムと、インパルス、ザク二機による戦闘の最中、アレックスとカガリを乗せたザクウォーリアはミネルバへと避難していた。

 シェルターはどこも一杯で、逃げ込むにはここしか無かったのだ。

 緊急着艦をし、アレックスはカガリを背負ったままミネルバへと降りた。

 その二人を待っていたのはミネルバ艦長のタリア・グラディスだった。

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」

「アレックス・ディノです。この度はこのような形で申し訳ない……」

「いえ、事が事ですわ。それよりもアスハ代表は?」

「額を切ったようで。一応応急処置はしましたが、念のため医務室へ運んでいただけないでしょうか」

 タリアが頷き、ミネルバクルーがカガリを医務室へと運んでいく。

 アレックスは尚も続く戦闘に不安を隠せない。

「やぁ、アレックス君」

 そんな彼に声をかけたのは、ギルバートだった。

 彼もまた、ミネルバに乗船し事の一部始終を見ていた。

 ギルバートは今回の強奪事件、地球軍のみの仕業ではないと考えていた。

 内通者がいると考えられる。

 ただ、カオスなど3機が置かれていた格納庫はザフトでも一部の人間しか入れない。

 その人間も突き詰めれば、限られてくる。

「何にせよ今は、彼らに任せるしかないのだがね……」

「……」

 アレックスはこの議長と話すと全てを見透かされそうな錯覚に襲われていた。

「タリア、外の状況はどうなっている?」

「ここでは分かりませんわ。一度ブリッジに向かわないと。それと、ここでは一応艦長ですが?」

「それはすまないね」

 ギルバートとタリアがブリッジへと移動する。

 艦傾斜ではないアレックスは、この場で待機することとなった。

 静かになる格納庫だが、数分の後、一機のザクウォーリアが着艦した。

 紅いザクウォーリア、ルナマリアの操るものだった。

 赤い髪の少女がラダーを使って降りてきた。

「参ったわよ。敵機を追撃していたら急に止まるんだもの」

 実はインパルスの援護に向かうまで、彼女のザクウォーリアはガレキの下敷きとなっていた。

 その際に駆動系にダメージを受けたのだろう。

 何せ急だったもので、彼女はメンテナンスもせずにインパルスの下へ向かっていた。

「あらヨウラン、こちらの方は?」

「ああ、オーブの要人さんだってさ」

「アレックス・ディノだ。訳あってこの艦に着艦させてもらった」

 ルナマリアがアレックスの顔をまじまじと見た。

 その顔に、誰かの影を重ねていた。

***

 アーモリー・ワン内での戦闘は尚も続いていた。

 カオスの波状攻撃によりフォースインパルス、ザクファントムの両機は翻弄されていた。

 そしてアビスとガイアがプラントの外壁を壊そうと攻撃を続ける。

 対峙している敵機はたかが一機。
 
 しかし、2機を投入していても中々撃墜する事ができない。

 理由は簡単。

 アーモリー・ワンにこれ以上被害を出すわけには行かないからだ。

 プラントを守るべく赤服を纏っているシンとレイが、プラントにこれ以上の被害をもたらすのはいかがなものか。

 それに対して相手はこちらの都合など知るはずがない。

「シン、あの二機を止めろ! 外に出られたら終わりだぞ!」

「分かってる! でもカオスが……!」

 カオスの兵装ポッドが2機を翻弄する。

 まるで三機のMSを相手にしているようだ。

「ここは俺に任せろ。先に行け!」

 レイが兵装ポッドめがけてビーム突撃銃を放つ。

 命中こそしなかったものの、その射撃精度はシン以上のもので。

 さすがにスティングも驚く。

 フォースインパルスが駆け抜ける。

「ハンッ、今更何をしようったって!?」

 アビスが振り向き、ビームランスを突き出す。

 それを避け、キックを浴びせるフォースインパルス。

 そのままガイアへと突進するが、一足遅かった。

 プラントの外壁が突き破られ、ガイア、アビスが外に離脱する。

 カオスもザクファントムを振り切り、宇宙へと逃げ出した。

「ミネルバ、こちらシン・アスカ! これより敵機を追い、宇宙へと出ます!」

『な、何を言っているんだ、シン! おい、シン!!』

 フォースインパルスを先頭に、ザクファントムが続いた。

 離れた場所のミネルバは、どうするべきかをタリアに委ねていた。

「艦長、どうします……?」

「迷っている暇は無いわ。これより、ミネルバを発進させます。アーモリー・ワン発進後、インパルス、ザクを支援。以後、カオス、アビス、ガイアの奪還を主な任とします! メイリン、コンディション・レッド発令」

「は、はい!」

 オペレーター席にいた、メイリン・ホークはインカムを使い艦内にコンディション・レッドを発令した。

 まともな進水式もせず、急な発進となることにクルーは不安を抱いていた。

 ルナマリアに先導され、医務室へ向かっていたアレックスもまた、同様だった。

「コンディション・レッド……!? 戦闘に出るのか、この艦は!」

「え、ええ、そうですけど……?」

 ルナマリアは不思議でならなかった。

 何故オーブの人間が「コンディション・レッド」の意味を知っているのか。

(カガリだって乗っているのに……一体外はどうなっているんだ?)

「あの、医務室、着きましたよ?」

「あ、ああ……すまない」

 アレックスが医務室のドアを潜る。

 ベッドに腰掛け、軍医の治療を受けているカガリがアレックスに気付いた。

「アス……アレックス!」

「代表、お怪我の様子は?」

「あ、大丈夫みたいだ。かすり傷だ」

「それは何よりで」

 第一声にひやりとしたものの、その後は勤めて普通の会話だった。

 傷もそんなに深くはない様子で、カガリ本人もぴんぴんしている。

「それよりも、外は大変な事になっているようだな。オーブとの連絡は?」

「いや、それはまだ……。何しろ事が事ですので」

「そうか……。一度ルフィード大佐達にも知らせておかないといけないのに……」

 アレックスが瞳を伏せる。

 このまま、無事に済むとは思えない。

***

 宇宙空間に出たフォースインパルスとザクファントムは奪取されたカオス、アビス、ガイアを追っていたが、その3機が見知らぬ戦艦に着艦するのを目撃した。

 すぐさまライフルを構えるが、レイが何かを察知した。

 頭を突き抜ける、何かの感覚。

 彼は咄嗟に叫んだ。

「シン、2時の方向! 避けろ!!」

「レイ? 一体、うわ!」

 フォースインパルスの右足を何かが掠めた。

 それはマゼンタ色をした有線式の機動兵装―ガンバレルに酷似した武装だった。

 それが戻る地点にいたのは一機のMA。

 ポッドと同じくマゼンタのMAから、レイは不快なものを察知していた。

(この感覚は何だ……! 相手は……俺を知っている!?)

 再び放たれるポッド。

 その先からビームサーベルが形成され、2機を襲う。

「ふふ……ザフトの新型に、白いボウズ君か……! 面白い!」

 MAエグザスのコクピットで、仮面の男―ネオ・ロアノークは笑う。

 ザフトの新型の実力は分からないが、少なくとも白い量産機のパイロットは腕が立つようだ。

 それに、遺伝子レベルで何かを感じ取れる。

「それでは行こうか……慎ましくな!!」

 ネオの叫びと共に、ポッドが縦横無尽に動き回る。

 そろそろフォースインパルス、及びザクファントムのエネルギー残量が少なくなってきている。

 次々に襲い掛かるポッドに翻弄されながら、ザクファントムの中でレイはタイミングをうかがっていた。

 これほどの兵装だ、長時間は操れまい。

 そもそも人の集中力はそんなに長くは続かない。

 ましてや、思念で操作する平気ならばなおの事。

 ポッドがエグザスに戻った。

 その一瞬を、レイは逃がさなかった。

「そこだ!」

 ビーム突撃銃が弾丸をばら撒いた。

 エグザスの装甲を削っていく。

 尚もザクファントムからの攻撃は続くが、それを打ち消したのは敵母艦からの砲撃だった。

「アンノウン……! くそっ、地球軍は何を考えているんだ!」

『落ち着け、シン。間もなくミネルバが来る頃だ。それまで持ちこたえろ!』

 ミネルバが発進したと言う連絡は、二人にも届いていた。

 ただ、戦闘に集中していたために目を通すのが遅れてしまった。

 状況は圧倒的不利。

 この状況を打破するにはやはりミネルバの援護が必要だ。

 そのミネルバが到着するまで、落ちるわけには行かないのだ。

 敵母艦の主砲が2機を捕らえた。

「レーザー誘導……!? 避けてみせる!」

「させるか!」

 エグザスのポッドがフォースインパルスを襲う。

 4機のポッドにより、回避行動がままならない。

 レイのザクファントムが援護に向かうが、エグザス本体からの攻撃で中々近づく事ができない。

 敵母艦主砲に、光が収束されるのが見えたとき。

 一条の光が敵艦主砲を貫いた。

 ミネルバ、ザフトの女神が戦場に舞い降りたのは、3機が強奪されてから90分が経過した時だった。


(Phase-02 Side-A 終)


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