Phase-10 CODE−襲来

 スカンジナビア王国。

 ヨーロッパ北部に位置する、中立国家。

 中立国であるオーブ連合首長国とは同盟関係にあり、時には軍事協力を行う事もある。

 そのスカンジナビア王国に、一隻の戦艦がたどり着いたのはオーブ襲撃事件から2週間が過ぎた時の事だった。

 青い戦艦、ミストラル。

 そのブリッジにいるリエンはモニターに映る最高指導者「ターニャ・フェルグリア」と話をしている。

『確かにこちらでMS開発の任を受けています』

「だったらすぐにその引渡しをしたいんだが……可能か?」

『一応MS自体は完成しております。カラーズの皆さんを連れて第四ドックへお越しください』

 ミストラルが停泊している軍事港から第四ドックまではジープで移動し。

 ドックの重い扉が開く。

 中に格納されているのは4機のMSだった。

 それぞれウィンダムをカスタムしたMSとなったいる。

 そもそもこの辺りでは最近頻発に戦闘が起きている。

 そのためことMSの素材には困らないのだ。

 もちろん中にはたいしたダメージも無く破棄されている、テスト用機と思われる機体もある。

 まずは依頼を受けていたアルフ、アイリーンの機体。

 かつて二人が乗っていたニグラ、ブレードのデータを解析。

 それを現時点での技術で再現した機体。

 CMS-X003、ブルーセイヴァー。

 CMS-X004、ミッドナイトノワール。

 ブルーセイヴァーは9.2m対艦刀を2振り装備。

 腕部にはビームガトリングを内蔵し、近接〜中距離戦闘をこなせるようになっている。

 また左腕には小型のバックラーを取り付けている。

 そしてミッドナイトノワールはビームライフル、ビームサーベルと武装事態は至ってシンプルである。

 しかし、背部には3本のプロペラントタンクを装着しており、バッテリー型MSの中でもトップクラスの稼働時間を誇っている。

「これが依頼されていた機体で……」

 ターニャが次の2機を紹介する。

「こちらがヴェルドさん、エイスさんの新型機です」

 CMS−X001、フレアヴァーム。

 CMS-X002、ホワイトイェーガー。

 この二機も、ヴェルド達が提供したデータを基に作られたMS。

 フレアヴァームはフレアの、ホワイトイェーガーはイェーガーの後継機と言う事になる。

 どちらも基の機体の特徴はそのままに、スペックアップを図った機体となっている。

「しかし気になるのは、MSだけは完成しているということだが……」

「その通りです。現状、この4機は外面だけが完成している状態で中身が無いのです」

「中身が、無い……」

「そこで彼らの今乗っている機体のデータを写す必要があるのです。もっとも、ブルーセイヴァー、ミッドナイトノワールの両機のデータは無いのでフレア、イェーガーの二機のデータの移動が必要なのです」

「その作業はどのくらいかかるんですかぁ?」

 エイスが尋ねる。

 全てのデータの移動、OSとのバランスチェック。

 その他諸々の駆動実験を含むと最低でも2日はかかると言う。

 それまでミストラルはスカンジナビアに泊まる事になる。

「どうしましょう、艦長。2日の間、停泊する事になると……」

「そうだなぁ……。今日一日くらいは上陸許可を出す。オーブからここまで長い移動だったから疲れも溜まってるだろうし」

「分かりました。では後で艦内放送で連絡を」

「ああ」

***

 数分後。

「おい、聞いたかアキト」

「何だ」

 ロイドがなにやら上機嫌な様子でアキトに声をかける。

「上陸許可だってよ。いやあ、久々の陸地だな!」

「……ああ、そうか」

「何だよ、楽しみじゃねぇのか」

 別段喜ぶほどでもないのだろう。

 子供ではあるまいし。

 ロイドはさっさと準備を済ませる。

「さーて、セフィに何か買っていってやるか」

「……そういえば、セフィの容態はどうなんだ?」

「うん? 今の所、発作が酷くなっている様子はないな。ただ、昔みたいに俺たちと一緒に戦うことは出来ないって聞いたがな」

「……そうか」

 思えば。

 セフィが仲間になってから三人で行動していた時間と言うものは驚く事に少ない。

 途中でアキトはザフトにおり、 終戦後のアキトはオーブの牢に入っていた。

 そうして考えてみると、三人でいたことがほとんど無いのだ。

「……仕方がない、付き合ってやる」

「本当か?」

「……お前のセンスでは、セフィが悲しむだろうに」

「……何お前、喧嘩売ってるの?」

「まさか」

 ロイドとアキトがそうして何を買うかを話していたとき、フエンは着替えていた。

 もし、何かの拍子でサユと再会した時、お土産として何か買っておこうと考えたのだ。

「フエン、お前も何か買いに行くのか」

「ええ。姉さんに会った時、何かあったほうが良いかと思って」

「なるほどな……。俺も何か買って行ってやるか、メリーナにでも」 

 メリーナはデュライドの幼馴染。

 地球から遠く離れたコロニー「ディナ・エルス」にいる。

 戦争が終わったら、ディナ・エルスに一度戻ろうと考えているのだ。

 それが、どれだけ先になるかは分からないが。

「さて、行こうか。フエン」

「あ、はい」

***

 ブリッジではリエンとミリアが話をしていた。

「あら、艦長は行かないんですか? 折角の上陸許可なのに」

「艦長が艦を離れてどうするよ。流石にそこまで自由じゃないさ」

「ふふ、ですね」

「これからまた、戦いの日々が続くかもしれない。こういうときくらいは羽でも伸ばさせてやらんとな」

「……結構考えてるんですね」

 かなり心外ではあるが、彼女なりの冗談なのだろう。

 さて、ここで話は数分前に遡る。

 それはカラーズの新型のお披露目の後の事。

 ターニャがリエンを別室に呼びつけた。

 そして一枚の写真を見せた。

 ぼやけていて詳細は分からないが、それはMSの写真。

 連合とも、ザフトとも違う見たことのない機体。

「これは?」

「最近このあたりでよく目撃されているMSの写真です。エアカメラで近づくにはこれが限度で……」

「新型か? 連合のものか……」

「あるいはザフトの新型でしょうか。どちらにしてもデータが揃わない以上、このMSには注意をすべきかと」

 そして時間は戻る。

 最近妙な事が多い。

 おおよそ一年前の月面ノースブレイド基地襲撃事件を皮切りに。

 連合のプラント本国への核攻撃。

 オーブにいるラクス・クライン襲撃。

 そして未確認のMSの存在。

 世界はどうなっているのか。

(連合、ザフトの両軍と繋がっている人間がいるのか……? そんな人間が、存在するのか!?)

「クロイツァー軍曹、近海の索敵状況はどうなっている?」

「ええ、半径30km以内に機影、艦影は感知できません。……艦長、俺とリィルも外行きたいんですけど」

「仕方がないだろう。交代要員がいないんだ。また今度な」

「残念だね、ヴァイス」

 リィルが笑みを浮かべる。

 交代要員がいないのでは仕方がないが、やはり外に出て久しぶりに買い物もしてみたかった。

 いつもよりも索敵に力を入れているのは、未確認のMSによる襲撃を防ぐ。

 さらに見つけ次第データを手に入れるため。

 MSのレーダーと戦艦のレーダーシステムでは格が違う。

 何時までも未確認のままでいさせはしない。

***

 その日の夜。
 
 フエンは夜空に輝く白銀の月を満ていた。

 丁度、今夜は満月である。

 白い光が辺りを優しく照らす。

 その月に姉がいる。

 今は何をしているだろうか。

 ちゃんと仕事をしているだろうか。

 そんな事をサユも思っているかもしれない。

 ため息が自然と出る。

 もう一度、月を見上げる。

 白銀の月に、一点の黒点が浮かんでいる。

 衛星だろうか、いや。

「近づいてくる……?」

 目を細めて、それを見る。

 人に似た形をしている。

 紛れも無くMS。

 フエンが走り出す。
 
 と、同時に艦内のアラートが一斉に鳴り響いた。

「艦長、MSが一機接近中です!」

「識別はどこだ!」

「識別は……不明! データベースにもありません!」

「光学映像、出ます!」

 モニターに移されたそのMS。

 白と赤のツートンカラーに、背中には放射線状に装備された板状の何か。

 右手にはビームライフル、左手にはシールド。

「何なの、あのMS……」

 リエンには見覚えがある。

 写真では画像が荒くて判断できなかったが、その形状は酷似している。

「総員、第一戦闘配備だ! フエン、デュライド、アキトに出撃命令、ミストラルはこれよりデータ収集及び軍港防衛に就く!」

 第一戦闘配備が発令されてからおよそ180秒。

 イルミナ、ヴァイオレント、M1アストレイが出撃する。
 
 カラーズの4機はまだ出撃できない。

 ロイドが乗る機体もまだ無い。

 この3機で相手をするしかない。

 スペックが分からない以上、下手な動きは出来ない。

 まずは相手の出方を伺うしかない。

 その戦闘の中、敵機のコクピットで彼はモニターを見ている。

「こいつらを倒せば、俺の力は証明される……! やってやる、やってやるさ!」

 シュウ・アステンが叫ぶ。

 シュウが乗るMS、CODE-Δのビームライフルが二発、放たれる。

 それはM1アストレイとヴァイオレントめがけて突き進む。

「チッ……ヴァイオレントの戦闘距離を読んでる……!」

「……焦るな。落ち着けば対処できる相手だ」

 SFSにのったM1アストレイ。

 まずはイーゲルシュテルンでけん制を行う。

 バランスを崩したところでビームライフルを撃つが、反応速度が速く、シールドで防がれてしまう。

「速い……! コーディネイターか……」

「キリヤ少尉、僕が行きます! 隙を突いて、迎撃を!」

「フエン……!? ……分かった!」

 イルミナが飛翔する。

 短時間ならばスラスターを全開にして、宙を舞う事だって出来る。

 チャンスは一度。

 輝く光の刃。

 同じくビームサーベルで防ぐCODE-Δ。

 激しい火花が散る。

 振り払おうとビームサーベルを振るうCODE-Δだが、イルミナが飛んだ後方からビームが現れる。

 M1アストレイのビームライフルが、CODE-Δの右肩を直撃する。

「……外したか」

「こいつら……ちょこまかと、五月蝿いんだよ!!」

 CODE-Δのカメラアイが輝く。

 恐るべき速さで接近し、M1アストレイの頭部を薙ぐ。

「……くそっ……!」

「キリヤ少尉!!」

「……フエン、同時に仕掛けるぞ!」

 ヴァイオレントの大型ビームソード「デュランダル」、イルミナのビームサーベルがCODE-Δを狙う。

 シールドは一つ、防ぐ事が出来るのはどちらか一つ。

 おそらく防ぐのは。

「くそぁっ!!」

 ヴァイオレントの「デュランダル」を防ぐ。

 やはり機体のダメージを抑えるために、「デュランダル」を防ぎに来た。

「フエン!」

「そう来るのは、読んでたッ!!」

 イルミナの振り下ろしたビームサーベルは、CODE-Δの右腕を切り落とした。

 主兵装であるビームライフルを失ったCODE-Δ。

 ビームサーベルだけで3体を相手にするのは、少し骨が折れる。

 他の武装は未だに調整中。

 ハイウェルの命でスカンジナビアの基地を襲撃するように言われていたが、ミストラルがいたのは予想外だった。

「分が悪いか……撤退する!」

 CODE-Δが踵を返す。

 深夜の戦闘は、何とか勝利を収める事ができた。

 ただ、相手のMSのスペックの高さが気になる。

 連合、ザフト以外であのスペックのMSを作れる人間がいるとは。

 艦に戻ったフエン達は早速先ほどのMSの解析データを見ることに。

「あのMSの武装はビームライフル、ビームサーベル、そして肩のビームランチャー。気になるのは背中の板状の装備……」

「推進剤でもつまってるのか?」

「いや、数が多すぎる……」

 こうして話し合うものの、その装備の正体が何なのか結局分からず終いである。

 だが、詳細な光学映像も手に入れることが出来た。

 今後、このMSの対策を立てることも可能になるかもしれない。

 近い将来、彼らはこのMSと死闘を繰り広げる事となる。

 そして、その末にどんな未来が待っていたとしても、それは避けられない。

***

 スカンジナビアでの戦闘が終了してから3時間。

 AM06:20。

 東アジア共和国海洋上に浮かぶ海洋施設がある。

 元々地球軍が設計した海上基地で、9つのユニットで構成されている。

 しかしある事件のあと、一人の青年がこの基地を地球軍より独立させる事を提案した。

 青年の名は、コウ・クシナダ。

 かつて小さくも世界を変えかねない戦いに身を投じていた。

 彼はこう言った。

 もうこのリューグゥを、戦火に晒したくない、と。

 かつて、日本に存在していた昔話に出てきた竜宮城。

 そこでは魚達が歌を歌い、美しい姫が平和に過ごしていたという。

 だからせめてその名に恥じぬよう、軍から切り離してもらいたいと。

 第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦後、このリューグゥに移ってきた人々も口々にコウの意見を支持し始めた。

 結局、人々の気迫に押されたのか地球軍はリューグゥを独立させる事を了承。

 中立の海洋施設として存在する事となった。

 マスドライバーは取り除かれ、更に新たなブロックを建設途中である。

 コウはそのブロックの開発主任として、リューグゥに戻ってきたのだ。

「火星でもいろいろあったけど、ロウさんたちは元気だろうか……」

 かつて一緒に旅をした一人のジャンク屋の名を呟く。

「あ、すいません。そこのその装置はもうちょっと右にやらないと、スペースが……」

 細かい指示であるが、完成後に最も良いバランスになるよう考えられているのだ。

「クシナダ主任、ちょっと良いですか?」

「何でしょうか」

「面会を求める方が来ているのですが」

「面会?」

 今日は特に会う人などいないはずだが。

 やや不振な匂いを感じたが、会いたいという人がいるのならば会わなければならない。

 白衣を調え、リューグゥ・メインブロックへと向かう。

 ソファに座っていたのは少女を連れた青年だった。

 その青年が立ち上がる。

 コウが抱いた第一印象は、非常に良い笑顔。

 だが、どこか仮面のような作り物の形。

「突然の訪問申し訳ございません。私はハイウェル・ノース。こちらはリアナ」

「コウ・クシナダ、リューグゥ技術主任です。えっと、ノースさん? 今日はどのようなご用件でしょうか」

 まずは探りあい。

 相手がどう出るか。

「いえ、全世界を回れど貴方にしか頼めない事でして」

「私に、ですか」

「ええ。データを見せていただきたいのです。かつて、貴方が乗っていたMSにも搭載されていた禁忌の力」

 コウの額に汗がにじむ。

 この男、どこまで知っている?

「MIHASIRAシステムの、データを」



(Phase-10  終)



   トップへ