コズミックイラ71 5月5日―。
「この作戦により戦争が早期終結に向かわん事を切に願う。真の自由と正義が示されん事を・・・。」
プラントの軍作戦本部に一人の男の声がこだまする。
「オペレーション・スピットブレイク、開始せよ!! 」
先日新たに就任したプラント評議会議長、パトリック・ザラのその一声は全世界に戦慄を走らせた。
それは、地球連合軍のみならず、地上で待機していた多くのザフト兵にとっても寝耳に水の事であった。
目標は・・・・・アラスカ、JOSH-A。
「JOSH-Aだと!? ・・・へぇ、面白いじゃないか。さすがザラ議長閣下。やってくれる。」
「・・イザーク! 」
デュエルのコクピットに座る、その銀髪の少年に通信で声をかけたのは、藤色の長い髪をした橙の瞳を持つ女性・・・。
ザフト地上侵攻特務隊『青服』隊長、エリス・アリオーシュだった。
「やつらは目標をパナマだと信じて主力隊を展開させているんだろ? 正に好機じゃないか。これで終わりだな、ナチュラルどももさ。・・ストライクはもういないが・・・お前だってやつらを倒したくて仕方なかったんだろう? 」
「・・ミゲルの事を、言っているの? 」
「ああ。ミゲルにラスティ。そしてニコルやディアッカの無念と屈辱! このオレがまとめて返してやる!! 」
「・・・イザーク。・・・そうね。彼らのためにも、全力で事に当たるつもりよ。私も。」
コンコン。
その時、アマテラスの開きっぱなしのコクピットを叩く音がした。
「エリーちゃん、いますかぁ!? 」
ふわっとした声で話しかけてきたのは、エイス・アーリィ。
エリスの部下の一人であった。
ただし、この作戦のみの事ではあるが。
よくみると、その後ろにも3人の臨時部下の姿があった。
ヴェルド・フォニスト。
アルフ・ウォルスター。
そして、アイリーン・フォスター。
エイスを含めた彼ら4人は、ザフトの雇った傭兵部隊『カラーズ』のメンバーであった。
そして、今はエリスの部下として青いザフトの軍服に身を包んでいる。
もっとも、全員きっちりは着ていなかった。
アルフは前がはだけた状態で腕まくりをし、
エイスは「かわいくしましたぁ」と両袖を肩から切ってノースリーブにし、
アイリーンも「この軍服、苦しいわ」と大きく胸元をはだけさせている。
ヴェルドに関しては、もはや着ておらず、「暑いから」と腰に巻いている。
結成して間もないとはいえ、憧れの『青服』をこんな形で着こなす臨時の仲間にエリスは頭を抱えた。
「・・で、何のようかしら? エイス。用があるなら通信でといったはずよ。」
「ふ、ふぇ、エリーちゃん、怖いですぅ」
「せめて、隊長と呼びなさい!! 」
「まあ、いいじゃないかエリー。そうカッカするなって。な? 」
ヴェルドが笑いながらまた、隊長を呼び捨てにする。
しかも、『エリー』という名で。
「その、エリーって何よ・・どうにかならないの? 私は、エリス・アリオーシュよ。」
「だって、困るだろう? 」
「ああ、困る。」
「ええ、困るわ。」
ヴェルドの言葉に、アルフもアイリーンも頷く。
首をかしげるエリス。
「な、何がよ? 」
「お前の名前、ウチのエイスに似てるからさ。な、アルフ。」
「そうそう、だから作戦中名前を聞き間違えないようね。」
「色々話し合ったのよ? あなたに声をかけたら『後で、後で』って忙しそうだったから。勝手に決めたの。いいでしょ? 」
「な、そんな勝手な。だったら、『アリオーシュ隊長』とか、『隊長』って呼びなさいよ! 」
「だって、なあ? 」
「ああ。」
「そうよね。」
「そうですよぉ。」
4人は再び相槌を打つ。
たまりかねたエリスが4人に問いただす。
「それじゃあ、なんかよそよそしいだろ? これから命かけて作戦を共にするのにさ。」
「そうだ。仲間としてキミと戦う以上、オレ達だってそれなりの接し方をしたいのさ。」
「アルフの言う通りよ、エリー。それとも、エイスの事を『エイー』とか呼んだ方がいいかしら? 」
「そ、そんなのやですぅ〜〜〜! 」
微笑む3人と、慌てるエイスを見て、エリスも思わず噴き出した。
「ぷっ。フフフフ、あなた達戦闘前だっていうのに、変なやつらね。いいわ、勝手に呼びなさい。ただし、戦闘中の指揮は私が取ります! それには従う事。」
ヴェルドが、 「了解だ、エリー。」
アルフが、 「まかせてくれ、エリー。」
アイリーンが、 「あなたの力は知ってるから、期待しているわ、エリー。」
そして、エイスが
「よろしくおねがいしますぅ、エリーちゃん。あ、そうだコレ、付けてください。」
と、エリスに何かを渡した。
「これは? 」
「ハチマキですよぉ! 」
よく見ると、ヴェルドの額には赤の、
アルフには黒の、
アイリーンには青の、
そしてエイスには白のハチマキがまかれており、そこには『COLORS』の文字が書かれている。
エリスが手渡されたのは・・・オレンジのハチマキ。
「本当はグレーがあまってるから、それでもよかったんだけどね。」
「ダメです!! ヴェルドさん! グレーはだめですぅ!! 」
「エ、エイス。だけど、あいつはさあ。」
「ホンットにあんたはデリカシーないわね! グレーはダメなの!! ね、アルフ。」
「・・・そうだな。あいつも、まだ生きてるし・・・。」
「そういう問題じゃありません!! アルフさん!! あ・・・・。」
ポカンとするエリスに気付いた4人は、話を元に戻す。
「これは、エイスがつくったハチマキさ。それぞれのパーソナルカラーに染めてある。エリーのはそれ。」
「私たちは、今はザフトの青服であると同時にカラーズよ。あなたも、そうであって欲しいと思って・・・。勝手かしらね? 」
エリスは微笑み、そしてそれを額にまいた。
「ええ、勝手ね。でも・・・この色は、好きよ。・・・みんな、私ももう2度と部下を失うような真似はしないつもりだけど・・・・・・・この戦い、絶対に生き残ってね。」
「いつでもどこでも駆けつける! 」
「・・・的確かつ迅速に。 」
「どんな仕事もきちんとこなしますぅ! 」
「私たち『カラーズ』に、不可能はないわ! エリー。」
いつの間にか、5人は右手を伸ばして重ね合わせていた。
そして、『6』人目のカラーズ、エリスが4色の隊員に檄を飛ばす。
「行くわよ! みんな! JOSH-Aへ!! 」
「「「「ラジャー!! 」」」」
5月8日―。
スピットブレイクの攻撃第一陣がアラスカに到達した。
そして、青服カラーズを乗せたボズゴロフ級戦艦『ティアマト』も、ついにJOSH-Aの 領空に到達する。
5機の色とりどりのMSのカメラアイに光が宿り、彼女達の初の共同任務が始動する。
「ヴェルド・フォニスト、フレアヴァーム、行ってくる! 」
赤い砲撃手が、
「アイリーン・フォスター、ブルーセイヴァー、出るわ! 」
青い剣士が、
「アルフ・ウォルスター、ミッドナイトノワール、発進する。」
ダークグレーのアサシンが、
「エイス・アーリィ、ホワイトイェーガー、行きまーーーす! 」
白い高速の戦士が、その寒空に飛び出した。
そして、
「MIHASHIRAシステム・・・今回は使う事になるかもね・・・。エリス・アリオーシュ、アマテラス、行くわよ!! 」
オレンジの太陽神が空をかけ、5色の虹のような軌跡を描きながらアリオーシュ隊は空を駆けてゆく。
「フン、エリス達がでたか。よし、こちらも発進だ! イザーク・ジュール、デュエル、出るぞ!! 」
グゥルを装着したデュエルや、数々のディン、ジンの群れが飛び立っていく。
正に、地上最大の戦闘が今幕を開けたのだった。
「ザフトどもめ、我らが連合軍艦隊の力見せてくれる!! 」
果敢にも海上戦艦とVTOL戦闘機スピアヘッドの部隊でザフトのMSに挑む地球連合軍。
「ナチュラルごときがぁ!! 小ざかしいんだよぉ!!! 落―ち―ろー!!!!! 」
デュエルの左肩から220ミリ径5連装ミサイルポッドが火を吹き、次々と戦艦や戦闘機に被弾させてゆく。
海からはグーンやゾノが、そして空からはジンやディンがその海上を火の海へと変えていった。
その戦闘域での戦況は8割方ザフト軍が押していた。
しかし、一機のMSの登場が戦局を大きく狂わせる。
そのMSはディンやジンを次々と撃破して行き、海中に潜むゾノ達も水面に顔を出した瞬間に正確なまでの射撃を受けた。
「な、なんなんだ!! あの白と青のMSは!! 」
イザークが吼えるその先にいたのは
「・・・ザフトに告ぐ。撤退しろ。さもなければ討つ。・・・任務だからな。」
「貴様! 何者だ!! 連合のナチュラルが何故MSを!!! 」
「・・・オレはサーペントテールの叢雲 劾。・・繰り返す。引かねば・・・討つ! 」
「サーペントテール!? ・・傭兵風情が、調子に乗るなよぉぉ!!! 」
イザークのデュエルの砲撃がアストレイ・ブルーフレームに迫る。
しかし、それらはきれいにかわされてゆく。
その間隙を縫ってデュエルのアサルトシュラウド装甲にブルーフレームのビームライフルが見事に被弾する。
そして、デュエルの発射したミサイルの何基かをビームライフルで見事に打ち抜いて作り上げた爆煙を利用して、ブルーフレームは鮮やかにデュエルの背後を取った。
「終わりだ・・! 」
デュエルの後頭部でブルーフレームのビームサーベルが振り下ろされようとした時だった。
強力な一筋の火線が遠方より放たれ、ブルーフレームを退けさせる。
その炎光を放ち、太陽の光を背負って飛来したのは虹色の部下を引き連れる太陽神・アマテラス。
輝くイエローのフレームと決意のオレンジの装甲が陽光に映え、その様は正に太陽の女神、天照大御神そのものであった。
「イザーク! 大丈夫!!? 」
「エリスか! 邪魔を・・。」
「こいつは、私たちがやるわ! あなたは一度クストーに戻って、内陸部へ侵攻を! 」
「・・・ちぃ! ヘマしたら承知せんからな、エリス! ・・・それと、傭兵ども! エリスをしっかり援護しろ! いいな! 」
皮肉交じりにエリスを気遣うイザークに、虹の戦士達は言う。
「何を言うかと思ったら。」
「・・・だな。」
「そうですぅ。」
「ええ。」
そして、4人の声が一つになる。
「「「「当たり前だ!! 」」」」
「行くわよ!! みんな!! 」
5色の機体が宙を舞った。
「・・・あれは、『カラーズ』? ・・・中立のやつらが何故ザフトに。・・・まあ、任務は任務。遂行する・・・!! 」
ガイのブルーフレームも空を駆けた。
「喰らいやがれ!!! 」
フレアヴァームの350ミリ超高インパルス砲≪アグニMk.2≫と2門の腰部大口径ビームキャノン≪パラノイア≫が一斉に火を吹く。
しかし、ガイのブルーフレームはそれを難なくかわしてゆく。
「甘いですっ!! 」
「お見通しよ!! 」
高速戦闘を得意とするホワイトイェーガーが、火線をかわすブルーフレームの周囲を旋回するように飛翔して重突撃銃を放ち、ブルーセイヴァーが今回追加装備されたフライトユニットをふかして、15.75メートル対艦刀≪シュベルトゲベールMk.2≫と振動子付き重斬刀≪スーパーシャクスソード≫を両腕に構えて迫る。
「・・・見事なコンビネーションだ。さすがはカラーズ、といったところか。だが!! 」
ブルーセイヴァーのビームライフルが高速で旋回するホワイトイェーガーの重突撃銃を撃ち抜いた。
そして、バーニアを全開にして加速し、すれ違いざまにブルーセイヴァーの左腕の≪スーパーシャクスソード≫の根元を狙ってビームサーベルで斬り捨てる。
「きゃあ! 」「なんですって!!? 」
驚愕する白と青の傭兵。
その時、ブルーフレームにも衝撃が走った。
「な・・・なんだ・・・? 」
ガイが目をやると、何もない空にうっすらと姿を表すミッドナイトノワール。
「・・・最強の傭兵、ガイ・ムラクモ。相手にとって不足はない。いくぞ! 」
ミラージュコロイドを再び展開し、その姿を消す暗黒のアサシン。
そして上空からは赤とオレンジの可視のモビルスーツから無数の火線がブルーフレームを襲う。
その攻撃に気を取られる隙に、不可視のミッドナイトノワールが攻撃を仕掛ける。
「・・・奇襲とは、一撃でしとめなければただの自殺行為にすぎん! 」
ブルーフレームは空中の火線があたかもすり抜けて行くかのように全砲撃をかわしてゆく。
「なぜだ! 何故当たらない!! 」
「く・・・広範囲に広がる対装甲ビーム散弾砲『チガエシノタマ』まで避けるなんて、なんてヤツなの!? 」
ヴェルドとエリスが焦り、そして
「うわぁぁぁぁ!!! 」
飛翔するブルーフレームのビームサーベルが何もない空を切り、そこから爆炎があがる。
姿を表したミッドナイトノワールは背中のフライトユニットを半分斬られ、出力を低下させて海面へと落下してゆく。
「「「「アルフ!! 」」」」
叫ぶ4人。
そして、いち早く飛び出したブルーセイヴァーがミッドナイトノワールを空中でキャッチした。
「大丈夫!!? アルフ!! 返事して!!! 」
「ああ、大丈夫さ。アイリ。・・・出力は低下したが、支えられれば何とか飛行も可能かな・・。」
「・・・はぁ・・よかった。」
アイリが安堵のため息を漏らすのも束の間、ガイからオールバンド通信が入る。
「なぜ、中立の『カラーズ』がザフトにいるのかは知らないが同業のよしみだ。ここで引けば追う事はしない。・・・引いてくれ。」
「・・そう言う『最強の傭兵』さんは、何故連合なんかに雇われているんだ? 」
この最強の傭兵とカラーズ達は実は旧知の仲であった。
しかし、お互いの立場を守るべくその事は触れずにガイは話を進めてゆく。
「・・・詳しい事は言えん。・・が、どうやら戦力不足のようでな。」
「・・・パナマに戦力を集めたからって事、ですかぁ? 」
「・・・どうだろうな。」
ガイは話をはぐらかす。
それは、ヴェルド達に対する無言での訴えだった。
詳しい事はガイも知らないが、どうも連合軍の様子がおかしいと感じていたのだ。
その様子にもちろんヴェルドは気付いていたが、彼よりも口を開くのが早かった者がいた。
「・・・アルフ、アイリ! ・・あなた達はJOSH-Aに潜入して、様子を探って来て!! なんだか知らないけど・・・嫌な予感がするの!!彼の相手は・・・私とアマテラスがするわ!! 」
「・・・了解! 」「エリー、気をつけてね!! 」
なぜ、こんな判断をしたのだろう。
この時のエリスにはわからない事だった。
そんなエリスの一瞬の疑念を掻き消すようにアルフとアイリーンはその場を離れ、そして、太陽神の両脇に炎の砲撃手と純白の戦士が並び、構える。
「いくわよ、ヴェルド、エイス! 」
「ああ、気張っていこうぜ、エリー、エイス! 。」
「はいっ!! 負けませんよ! 」
「・・・お互い雇われの身。仕方ないな。」
3体1の激戦はさらに続いてゆく。
人気のない暗闇の司令室で、一人の男がデータを引き出す。
「ほう・・・。」
つぶやいたその仮面の男は背後に迫る気配を感じ、とっさに発砲した。
いや、気配というよりも・・・同じ気。
「久しぶりだな、ムウ・ラ・フラガ。せっかく会えたのに残念だが、今は貴様に付き合っている時間がなくてな。ここに居るということは貴様も地球軍では既に用済みか。落ちたものだな、エンデュミオンの鷹も! 」
銃撃の合間を縫ってラウは話した。
そして、銃撃をかけるムウを嘲笑うかのごとく、ラウはその場から姿を消した。
ムウはラウが先ほどまで覗いていたディスプレイにおもむろに目を向ける。
「!! これは!? 」
ディスプレイに映るソレに驚愕するムウ。
それは、かつて月面で多くの友の命を奪ったものと同じものだった。
そんなものが、このJOSH-Aに仕掛けられているなんて。
ガタ!
「誰だ! 」
背後の物音に銃を構えるムウに声をかけたのは、それぞれが黒と青のハチマキをして青いザフトの軍服を着た2人の傭兵だった。
「オレ達は傭兵部隊『カラーズ』だ。・・この基地を調べに来た。」
「ア、 アルフ!? 」
包み隠さず正直に話すアルフにアイリーンは動揺するが、その様子にムウも時間が惜しくなり、包み隠さず状況を説明した。
「・・サイクロプスだと・・!! 」
「東アジア共和国に『潜入』した時にザフトの狙いがここで、それも連合に筒抜けになっているって事までは掴んでいたけど・・・まさか、そんな! 」
そうであった。
ある『情報屋』の垂れ込みでザフトの狙いがパナマではない事を掴んでいたカラーズは、戦局を見極めるために『情報屋』の勧めと旧友の紹介で、連合軍の任務を請け負うという形で東アジア共和国に潜入したのだった。
そして、そこでなにやら不穏な情報をキャッチし、確認のために今回のザフト軍のオペレーション・スピットブレイクの依頼を受けたのだ。
だが、それがこんな最悪の形だとは・・・・。
「とにかく、オレは守りたい大切な仲間を・・・アイツを、助けに戻る! あんたらも逃げろ!! 」
「すまない、フラガ少佐。アイリ! オレ達も戻るぞ!! 」
「ええ、急いで知らせないと!! ヴェルド、エイス、・・・エリーが!! 」
真相を知った3人はそれぞれの大切な仲間達の元へと走って行った。
「エイス・・・大丈夫か? 」
「はい・・・なんとか。」
戦場は陸上に移っていた。
そこには全ての砲を破壊され片膝をつくフレアヴァームと、フライトユニットを破壊され横たわるホワイトイェーガーの姿があった。
「くそ!! オレ達じゃ、ガイ一人まともに相手できないのか!! こうしている間にも、エリーが!! 」
「く・・くやしいですぅぅ!!!! 」
ヴェルドがコクピットを叩き、エイスは唇をかみ締めて悔し涙をこぼす。
そして、東アジアで生まれたミコト一号機・アマテラスも窮地に立たされていた。
5対1ですらまともに相手できなかったブルーフレームを相手に、エリーも奮闘したがこのままではやられるのも時間の問題だ。
すでに攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫の内、砲撃系の武装はすべて破壊されている。
両腕にはエネルギー拡散反鏡盾≪オキツカガミ≫と実体弾衝撃緩和盾≪ヘツカガミ≫、両足には脚部装着型空中飛行ユニット≪ハチノヒレ≫、そして右手には高出力ビームブレード≪ヤツカ≫を装備していた。
スペックでは確実にこちらの方が上であった。
しかし、・・・。
「・・くそ、強すぎる!これまでなの!! 私は、また・・・・! 」
エリーはガイとヴェルド達の関係を知らない。
ここで自分が負ければ、また・・・・・。
失ってしまった彼らのように・・・。
ダヌー、ノイッシュ、ディラン、ブリフォー、メイズ、メリリム・・・・そして・・・。
「・・・私は・・・。」
エリスの瞳にふと一つのスイッチが映る。
それは・・・。
「・・・・私は、力が欲しいの・・・。それはもう、復讐のためのものじゃなくて・・・みんなを・・・守るための力が!! 」
ヴィィィィィ・・・・・・・
今、最古のミコト・アマテラスの体にもう一人のパイロットが宿る。
『・・・・よ! エリス、元気だったか? 』
その声は・・・・・・!
「・・・ミ・・・ゲル・・・? 」
『ああ、久しぶりだな。エリス。』
「あなた・・・・なんで!? 」
『話は後だぜ、エリス。・・今は戦争中だ。気を抜けば守れるものも守れずに・・・死ぬぜ・・! 』
「! 」
説得力のあるミゲルの言葉にエリスははっとなった。
「私はみんなを守りたいの! ミゲル、力を貸して! 」
『当たり前だぜ! 言ったろ? お前とオレが組んだら、最強だってな!! 見せてやろうぜ、『黄昏』の二つ名は伊達じゃないって事を!! 』
アマテラスの体を光が包む。
いや、光を放っているのは≪トクサノカンダカラ≫のリングと、その背部・・・。
バクン。
攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫の背部からMSが両掌で抱えるほどの大きさの球体ユニットが一つ飛び出し、アマテラスの頭上に浮かんだ。
「な・・・なんだ、あれは? 」
ガイが怪訝に思ったその瞬間だった。
その球体から紅蓮の炎が迸り、見る見るうちに巨大な炎の塊と化した。
それは正確には炎ではなく、コロナ状のビームプロミネンス。
「こ、これは!? 」
『これがアマテラスの奥の手、ナビゲーター制御型ビームプロミネンスユニット『タカマガハラ』さ! さあ行くぜ、エリス! 』
「ええ、ミゲル!! 」
ビームをまとう太陽と、≪トクサノカンダカラ≫を輝かせ、高出力ビームブレード≪ヤツカ≫を構えた太陽神アマテラスがブルーフレームに同時に迫る。
「・・・!!! 」
先ほどとは見違えるように動きがよくなったアマテラスと強力なビームをまとう太陽に、ガイのブルーフレームも動きを捉え切れなくなる。
そして、その『黄昏』の2人は本来の強い心で、こう叫ぶ。
「傭兵如きが、『生意気なんだよ』「生意気なのよ」!!! 」
アマテラスの≪ヤツカ≫がブルーフレームのシールドとぶつかり火花を上げ、そして背後から≪タカマガハラ≫の紅球が迫る。
「・・く! 」
なんとか左に体をそらしてそれをかわすブルーフレームの右腕は、太陽の炎に包まれて根こそぎ落とされる。
そして、体勢を立て直そうと体を起こすブルーフレームはその動きを止める。
そこには、飛んできた≪タカマガハラ≫を左手で受け止め、あたかも太陽を手にもつ神のごとき一機が悠然とガイを見下ろしていた。
≪タカマガハラ≫使用時のアマテラスは、両腕と両足に部分的ではあるが対ビームコーティング膜が展開されていたのだった。
圧倒的な力に目覚めてしまった日本神話の主神の力の前に、ガイですら焦りの汗がにじむ。
その時だった。
「そこまでだ! エリー、ガイ! 今はそれどころじゃない!! 」
「・・・アルフ? 」
駆けつけたアルフとアイリが、エリスとミゲルを止めた。
「やっぱり、何かつかんだのか? 」
ヴェルドの問いにアイリーンが答える。
「地球連合軍本部の地下に、サイクロプスが仕掛けられているわ!! もうじき暴走してこの辺一体が巨大電子レンジになる!! 」
「「「「『!!!!! 』」」」」
ヴェルドが 「なんてことを! 連合軍め!! 」
エイスが 「ど、どうしましょう〜〜〜!? 」
アルフが 「くそ!! 」
アイリーンが 「早く逃げないと!! 」
ガイが 「・・・しかし。」
様々な想いを口々に言う傭兵達に、一つの命令が下された。
「シャキッとしなさい! 『青服』・アリオーシュ隊はこれよりこの戦域を離脱! その際ザフト・連合問わず、できるだけこの情報を流しながら戦闘を食い止めます!! ・・・この任務の・・・・『私たちカラーズ』の最後の仕事よ! いいわね! 」
虹の戦士達は微笑んだ。
そして、全員が始めて敬礼で返す。
「「「「了解!! 『隊長』!! 」」」」
5色の戦士達と最強の傭兵が、虹色の軌道を描いて空へと駆ける。
フレアヴァームはガイのブルーフレームとともに連合軍艦隊を主に説得しながら南東へ帰還飛行し、ホワイトイェーガーはアマテラスから脚部装着型空中飛行ユニット≪ハチノヒレ≫を借りてブルーセイヴァーと共にミッドナイトノワールを支えながら南西へ。
そして、器用に≪タカマガハラ≫の太陽に乗ったアマテラスが南へとその神々しい姿を走らせた。
目的はただ一つ。
この理不尽な戦争で命を懸けて戦う人々を一人でも多く救うため。
そして、サイクロプスの起動―。
後日、この太陽の女神と虹色の戦士達の姿を見たものは意外にも少なかったという。
それほどの犠牲であった・・・。
数日後、ザフトのカーペンタリアで4人の若者が一つの部屋に入れられていた。
身にまとうその隊服は、それぞれのパーソナルカラーに染められた傭兵部隊『カラーズ』の印。
そしてその場所は、暗く湿ったその場所の周囲を囲むはコンクリートの壁と鉄格子。
彼らはコーディネイターであり、一度軍に協力をしたのがまずかったらしい。
ザフトは4人に軍属を求め、協力しなければ解放しないというのだった。
その部屋の前に立つオレンジの瞳の青い軍服を着た少女が4人に言い放つ。
「・・・まだ、協力する気にはなれないかしら? いつまで『捕虜』でいるつもり? 」
「あいにく、オレ達のモットーは中立でね。」
「・・・そういうとだ。」
「残念だけど、もう協力は出来ないわ。エリー。」
ヴェルド、アルフ、アイリーンの言葉にエリスはため息をついた。
「・・・そう。なら、仕方ないわね。私は明日ここを経つ事になったの。パナマにね。」
「パナマ? ・・・今度はパナマを攻めるんですかぁ? 」
「・・『捕虜』のあなた達に話す事なんてないわ。・・・これは、独り言だけどね。」
エリスの言葉に4人は耳を傾ける。
「今、アマテラスの『調子が悪くて』ね。明日搬送するとき『何か起きないか』心配で仕方がないのよね。・・何事もおきなければいいけど。」
「「「「??」」」」
首をかしげる4人に、エリスは言い放つ。
「ま、あなた達『捕虜』には関係ないわね。ここをもし出られたなら、傭兵なんてやめて『南』の方にでもお行きなさい。・・・きっと、キレイな『虹』が見えるわ。」
「??? ・・・アリオーシュ特務兵。そろそろ、お時間です。」
見張りの兵がエリスに声をかける。
そして、エリスは4人を見つめると後ろを向き、言った。
「せいぜい、・・・・・元気でね・・・。 」
次の日の事だった。
ドォォォン!!
衝撃と共に牢の壁が崩れ、閉じ込められていたヴェルド達の前に道が出来る。
そして、なにやら叫び声が聞こえる。
「何事だー!!? 」
「アリオーシュ特務兵のアマテラスの武装が、暴発したらしい!! 急いで消火作業を!!! 」
基地内は非常にあわただしい。
「ハハっ、エリーのやつ、芝居が下手だな。ホントにさ? 」
「全くですぅ。冷や冷やしました。」
「・・・さて、じゃあこの建物の『南』側はというと・・・あの倉庫だな。」
「私達の『虹』を返してもらいに行きましょうか。さあ、どう行く? やっぱり裏から行く? 」
アイリーンの言葉に、ヴェルドが答えた。
「エリーが切り開いてくれた道さ。もちろん正面から行く!! 」
「・・ああ、そうだな。」
「はい! いきましょう。」
「・・・もう。知らないわよ? 」
そして、4人の傭兵部隊『カラーズ』は駆け出した。
「・・・うまくやりなさいよ。みんな。」
『きっと大丈夫さ。あいつらなら。』
慌てふためく整備兵に取り囲まれたアマテラスのコクピットの中で、エリスは何かを握り締めるように持っていた。
それは、あのオレンジ色のハチマキ。
『さて、オレ達も行こうか。『エリー』? 』
「ふふっ、そうね。でも、その名で呼んでいいのはあいつらだけよ? 」
エリスの口元に笑みが浮かぶ。
そして、ヴェルド、アルフ、アイリーン、エイスの口元にも・・・。
ここから、彼らの本当の戦いが始まる。
機動戦士ガンダムSEED DOUBLE FACE ASTRAY RAINBOW ―6人目のカラーズ エリー―
〜Fin〜
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