AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
第9話 模擬戦
 
6月27日
 
――インダストリアル社――
 
「こいつ等が実験体の子供たちか。」 
 
 フィルモスはガラス越しにある部屋にいる子供達を眺めて呟いた。
 
 先日、マタザとの取引で得た子供達だ。
 
 子供達はそこにいる子供達全員が横になることがギリギリ可能な程度広さのそ
の部屋で、子供達は眠っていたり、不安からかおどおどした眼でこちらを見つめ
ていたり、部屋の隅ですすり泣いていたりしていた。
 
「この中にSEEDが確認できた奴はいたか?」
 
 フィルモスは後に振り向き、そこにいた女性に言った。
 
「まだ全サンプルを確認した訳ではありませんが、これと確証の持てるサンプル
体は確認できてません。」
 
 フィルモスに話し掛けられた女性、ピィオ・ブリスコラは手にしたクリップボ
ードの資料を見ながら告げた。
 
 あめ色の髪をうしろで髪留めで留めており、赤縁の眼鏡をかけている。年齢は
フィルモスとほぼ同じかそれ以上だろうか?いかにも仕事が出来そうな雰囲気だ
 
 ピィオは眼鏡の縁をつつと上げながら、自分の解答に更に付け足しをした。
 
「しかし、SEEDと断定はできませんが、平均よりドーパミン放出量が高いサ
ンプルは1人ですが確認しています。」
 
そうか。それで、そのサンプルの遺伝子分類は?」
 
「コーディネーターの男の子です。」
 
 
 
 フィルモスは、SEEDの研究を進める過程で、ある仮説を打ち出した。
 
 SEEDとは、脳内でドーパミンが大量に放出できる人間が持つ能力なのでは
ないのか?ということ。
 
 ドーパミンとは、神経伝達物質の1つである。人間なら基本的に誰でも体内で
生成できる物質であり、これが過剰に脳に放出(例えば覚醒剤乱用などで)される
と、快楽を得、興奮し、集中力が高まるのだが、副作用として幻覚を見たり、妄
想、恐怖感、過覚醒などの症状が発症することになる。
 
 つまり、普通は大量のドーパミンを放出する人間は精神を害しているというこ
とだ。
 
 ところが、フィルモスは研究をする中で、特にコーディネーターに多いのだが
、興奮時のドーパミン放出量が普通より多いのに精神的に異常の無い人間がいる
ことを知った。そして、彼等はいわゆる「SEED」呼ばれる物を持つ者達との
共通点を多く持っていることも研究の結果判明した。
 
 この事から、フィルモスは「『SEED』所持者とは、脳内で大量のドーパミ
ンを放出出来、且つその状態に耐え得る脳及び体を持った者」だという仮説を打
ち出した。
 
 
 
(やはり俺の仮説は間違ってはいないらしい。) 
 
 ピィオの報告を聞き、フィルモスは思った。
 
「それで、そいつはこの中の誰だ?」
 
 フィルモスに聞かれ、ピィオは部屋の中を見まわした。少しして、
 
いました。あの子です。あの赤い髪の毛の。」
 
 ピィオはこちら側から見て左端の壁にもたれて座っている少年を指差した。
 
 歳はもしかしたら10代にもなっていないかもしれない。着ている服はズタボ
ロ、色白な体のいたるところに擦り傷や切り傷、青あざがあり、なんとも痛々し
い。難民となり、家族とはぐれ、独りでいたところを連れ去られて来たから
いったところだろうか。
 
 ピィオが言ったように、髪の色は燃え盛る炎のように紅い。幼い顔には、虚ろ
な眼も相俟って、どこか神聖な雰囲気さえある。
 
 その少年は足をだらしなく折り曲げ、焦点の合っていない虚ろな瞳で天井を見
上げていた。
 
「あいつがSEED所持者候補なんだな?」
 
「はい。そうです。」
 
「それで、あいつの名前は?」
 
「それがどうも彼は一部記憶障害があるようでして、名前も聞けませんでした
。」
 
「そうか。」
 
 フィルモスはぽそりと呟くと、少年達のいる部屋の扉へと歩み寄った。
 
「しゃ社長?何を。」
 
 ピィオの声を無視し、フィルモスはその扉の鍵を解除、部屋に入った。
 
「止めてください!危険ですよ!」
 
「いやなんでだよ。」
 
「この子達は私達を決してよく思ってはいないのですよ!?何をされるか。」
 
「大丈夫だよ。ガキばっかじゃねぇか。」
 
「ですが!子供とはいえ、殆ど大人の体躯の子だっているんですよ!?」
 
 ピィオの抗議も空しく、フィルモスは部屋の中をずんずんと進んで行く。先程
の緋い髪の少年の元へ向かって。ピィオは今だに抗議しながら、彼女もいつのま
にかフィルモスと一緒に同じ部屋に入ってしまっていた。
 
 気がつくと、周りの子供達の多くの冷たく、怖い視線がこちらに向き、ピィオ
は息が詰まる思いだった。
 
 あまりの怖さに、周りの視線などに構わずつかつかと歩くフィルモスの背中に
隠れるように歩いていた。 
「よお。」
 
 緋い髪の少年の前まで行き、フィルモスは軽い感じで声をかけた。
 
 少年は、すぐそばにフィルモスが来たことも知らないのではと思う程に呆けて
いる。 
 
………。」
 
 話し掛けられた少年は、しかし何も返事をしようともしないでぼーっと天井を
眺めている。
 
「俺はフィルモスって言うんだ。よろしくな。」
 
ふぃるもす?」
 
「ああ。フィルモス・コンクラクト、お前さんは名前、わからないんだって?」
 
 フィルモスの問に、少年は小さくコクンとうなずいた。
 
「そうかー。おし!じゃあお前が名前思い出すまで、とりあえず俺が名前をつけ
てやるよ。」
 
なまえを? くれるの?ふぃるもすが?」
 
「ああ。嫌か?」
 
 少年は首を横に振って答えた。むしろ、非常にわかりづらいが、喜んでいるよ
うにも感じられる。
 
「よし。じゃあそうだな、勝利って意味の《VICTORY》の『V』の字
が2つある『W』の発音がいいかな、よし、今日からお前のファーストネーム
はワネッド、それでファミリーネームは、よし、トランプのゲームに『アルコ
ート』てのがあるが、中々良い響きじゃないか?」
 
「わねっどワネッド・アルコートぼくのなまえワネッドアルコート
 
 ワネッドと名づけられた少年は、暫くその名を繰り返していたが、その内にこ
ちらへ顔を向かせ、
 
「ありがとう、ふぃるもす。」
 
 にっこりと笑ってそう言った。
 
 
 
「もう!なんであんな危険なことをしたのですか!
 
 部屋から出るなり、ピィオは開口一番にそう言い、フィルモスに食ってかかっ
た。
 
「悪い悪い。そう怒るなよ。別に何も無かったんだしよ。」
 
 フィルモスはピィオをなだめるように言った。
 
「それはそうですがでももうあんなことは止めてください!あの中に入るな
ら、せめてちゃんと護衛をつけて下さい!」
 
「わかったわかった。わかったから。もういいだろ。」
 
 ピィオの小言はもううんざりだといった風にあしらった。
 
 ピィオはまだなにか言いたそうだったが、もう何を言ってもこの男は聞こうと
しないだろうと悟り、それっきり言うのを止めた。
 
それにしても、さっきのガキ、何ていうか、妙な感じだったな。」
 
 口数は異様に少なく、喋ってもぽつりぽつりとしか言わない。常に上の空で不
思議な子供だというのがフィルモスの印象だった。
 
(これじゃあ、あんまり良い結果は得られないかもな
 
 数少ないSEED候補があんな呆けた子供ではと少し落胆している節もあり
そうだ。
 
「ええ。それにしてもどうしたのです?社長があんな子に名前を付けてみたりな
んかして。社長は精神病を煩った人は嫌いなのでは?」
 
「別に。ただの気まぐれさ。」
 
「罪悪感から少しでも逃れたい、そういうことではないのですか?」
 
 ピィオの言葉に、少しフィルモスはうろたえる。
 
まぁ、そうかもな。あんなことで許してくれるとも思えんが。」
 
 名前程度のものをあげたくらいで自分がこれから彼等にすることを彼等が許し
てくれるはずはないないだろうが、それでもなんとか少しでも許してほしい、
そんな理由での行動だったと言われれば、確かにそうなのかもしれない。
 
「それではやはり始めるのですね。『PH計画』を。」
 
「ああ。気が進まないのはわかるがそうも言ってられん。既に1人候補もいる
ことだしな。予定通りの手筈で進めてくれ。」
 
「かしこまりました。では、残りのサンプルを調べておきます。」
 
「ああ。」
 
 フィルモスが返事をすると、ピィオは踵を返して向こうの廊下へ歩いて行った
 
 独り残されたフィルモスは、チラリとサンプルの子供達のいる部屋の窓を見、
そのまま自分もどこかへ歩いて行った。
 
 
 
「ワネッド・アルコートふふふ、『ぼく』のなまえ、『ふぃるもす』が『ぼく
』にくれたなまえ。」
 
 ワネッドと名づけられた少年は部屋の壁に寄り掛り、相変わらず虚ろな瞳で天
井を眺めていたが、フィルモスが付けた名前をずっと嬉しそうに反復していた。
 
 
 
――『HEAVENLY−SANCTUARY』の格納庫――
 
脚部アクチュエーターの出力比率を10%下げて『ミラーフォース』の出力
を上昇
 
 姿勢制御の精度を高めるにはやっぱ運動性と反応がかなり落ちるかまぁし
ょうがないか。」
 
 アルカナのコクピットで、独りディスプレイに向かって呟きながらキーボード
を叩くソウの姿があった。
 
 ソウは、先日の戦いで得た経験から、アルカナをカスタマイズしようとしてい
た。
 
 操縦に慣れていないソウは、少しでも守備力を上げようと『ミラーフォース』
の出力を上げ、安定した運用をしようと姿勢制御の精度を上げてみた。
 
 こんなことをしなくとも、DUELがあれば自由自在に機体を動かすことは
できる。しかし、あのDUELというものは発動させるとどうも頭が痛くなる。
まるで頭の血管が過剰に血液を流し込んでいるような感じの痛みだ。
 
 ならば出きる限りDUELを使わずに操縦できたほうがいい。そのためのカス
タマイズだった。
 
 それにしてもこういう事をする時には、この体は便利だ。この間はこんなコン
ピュータの操作なんてできなかったのに、サイボーグになって以来、不思議なく
らい操作方法が理解できる。
 
 それはアバターに装備されているインフォメーションシステムの恩恵なのだが
、そこまで詳しくはソウも知らなかった。ただ、アバターになったことが理由な
のだろうな、とは思っていたが。
 
 計画していたOS調整があらかた済んだ。
 
 気付くと、ソウは昨日から今朝までほとんど寝ずにアルカナの整備をしていた
 
 今やっているOS調整の前に、ソウはアルカナの表面にこびり付いた汚れを取
っていた。
 
 性質上、接近して剣で斬りつけることの多いアルカナはどうしても頻繁に相手
の機体のオイルを被ってしまう。その汚れを、ソウはかなり時間をかけて取って
いた。そしてその後、休みもせずにOS調整を始め、今に至っていた。
 
 どうりで眠いわけだ。
 
 部屋に戻って少し休憩するべく、ソウはコクピットから降りた。
 
 MS搭乗用エレベーターにソウが乗った時、ガウルが格納庫に入ってきた。
 
「おや?ソウさん、アルカナの整備ですか。」
 
 ソウと目が合ったガウルが(入り口からなので)大声で話し掛けてきた。
 
「ん、まぁ、そんなところか。少し自分の使いやすいようにOSをいじってみ
たんだが、いかんせん実際に動かさないとどうにもどこかで試しに操縦
できないか?」
 
「テストですか。そうですねぇ、この基地には一応MSテスト操縦用のスペー
スがありますので、そこを使いますか?」
 
「そんなものまであるんだこの基地は。」
 
 たかだかいちレジスタンスの基地の規模では無い。
 
「ええ。それがないと私達がMS操縦の実技訓練ができませんから。」
 
外でやればいいんじゃ?」
 
「あまり敵に見られたくないですし、それに、そこは元々あったものですから。
」 
 
「なるほど。」
 
 思わずソウは納得してしまった。
 
 
 
 そのスペースとは、どうも元はダムか貯水地だったようだ。
 
 縦幅(およそ)70m×横幅(およそ)110m×深さ(およそ)65mの巨大な空
洞で、周りはコンクリートで固められている。
 
 確かにこれほどの広さならMSのテスト操縦もできるだろう。
 
 そのスペースは地下にあり、スペースの壁に取り付けられている簡素な人用の
階段以外で上り下りする場所は無く、MSはスラスターを使って昇り降りする必
要があった。壁にはあちこちに排水溝のようなパイプが顔を出している。
 
 格納庫にあったMSも通れる扉を進んだ先にあったその広く深いスペースへ、
アルカナは降り立った。
 
 動作テスト本当は寝てからでもよかったのだが、今できることは今やっておき
たい、ソウはそういう性格の人間だった。
 
 
 
 アルカナのテストを始めて10分は経っただろうか。アルカナがスペースの四
方をせっせとランニングしていた時、一体のMSが降り立った。
 
 黒と白のツートーンが印象的なMS、ガウルの機体であるシャッフルだ。 
 
 シャッフルの両手には2本の模擬刀が握られている。片方は大きさからいって
バオウと同じくらいの長さの刀、もう一方は依然、宇宙でジンと戦ったときに見
た重斬刀サイズのものだ。
 
「?、ガウルもMSのテストに来たのか?」
 
「ええ。」
 
 はっきりとしない返事を返したかと思うと、シャッフルは走っていたアルカナ
の前に立ち止まった。前方の障害物と接触しないよう、アルカナも走るのをやめ
る。
 
「ソウさん、これから私と戦ってみませんか?」
 
 コクピットに響くガウルの声とほぼ同時に、シャッフルはその左手に携えてい
た対艦刀の模造刀をアルカナの前に差し出した。  
 
なんであんたはそう唐突なことを言うんだよ。」 
 
 前回のレジスタンスへの勧誘といい、今回といい、どうも彼は早々と結論を言
ってしまう性格らしい。
 
「そういう性格ですから。」
 
 
 言っちゃったよ、こいつ。
 
 
 という突っ込みをソウは声には出さなかった。
 
 
 
 唐突とはいえ、ガウルの提案はソウにとってもメリットは多い。
 
 元々、MSでの戦闘経験が浅いソウである。少しでも実戦になれるためにはこ
ういった訓練も必要であろう。
 
まぁ、いいか。テストの最終確認も兼ねて模擬戦、やってみるかな。」
 
 アルカナはシャッフルの左手に握られた長さが大体バオウに近い模造刀を受け
取った。
 
「決まりですね。では、この模造刀で相手の機体のどこにでもかすれば勝ち、と
いうことで。」
 
「ああ、わかった。」
 
 2機のMSがお互い、壁の端まで移動した。相手へ両機とも剣を構えた。模擬
戦とはいえ、辺りの空気はピンと張り詰める。
 
「いくぞ!」
 
 先に行動を起こしたのはアルカナだった。剣を腰の辺りで構え、シャッフルに
突進していった。
 
 シャッフルもアルカナへ向かって走り出す。
 
 アルカナがシャッフルを自分の剣の射程範囲内に捉えた瞬間、腰の位置にあっ
た剣を一気に上に向かって切り上げる。
 
 だが、シャッフルはその斬撃を右手に持っていた重斬刀で受けたかと思うと、
左手を剣の柄に当て、右手を軸にし、左手に力を入れ、攻撃を受け流した。それ
はちょうどテコの原理のようで、アルカナ腕は、剣もろとも高く跳ね上げられ、
アルカナ自身もバランスを崩してしまった。
 
 すかさず、シャッフルの剣がアルカナに突きを繰り出す。
 
 だが、アルカナはスラスターも使ってバックステップを踏む。シャッフルの剣
はアルカナに触れることはできなかった。
 
「さすがに簡単には勝たせてくれませんね。」
 
 ガウルがコクピット内でぼそりと呟く。今の攻防を制せなかったのをくやんで
いるようでもある。
 
 
 
 ソウもコクピット内で呟いた。
 
「間一髪だったな。」
 
 今の立回り、どちらかというとソウの方が劣勢だった。こちらは回避しかでき
なかったが、向こうはこちらの攻撃を回避した上で反撃してきたのだ。
 
 少なくとも、技量はDUELを使っていないソウよりガウルの方が上だった。
 
 しかし、別にソウはこの模擬戦で勝とうとは思っていない。MSの操縦や戦術
を考えてみることの方が優先だと思っている。だから、勝とうが負けようがどっ
ちでもいいと考えていた。どうせ本番で勝てれば、それまでの練習での負けは気
にすることは無いのだから。
 
 とりあえず、今のガウルの剣をやり過ごした一連の動きは覚えておきたい。あ
れは中々使えそうだ。
 
「さて、次はどう戦うか。」
 
 自分から動くか?
 
 相手の動きを待つか?
 
 ならば、どうやって敵の攻撃を受けるか?
 
 さっきのガウルの動きを真似て?あるいはまたバックステップで?
 
 それともいずれとも違う何かを考えるか? 
 
 ソウが考えているのを好機と取ったか、今度はシャッフルがアルカナへかかっ
てきた。
 
 シャッフルの剣がアルカナの胴体をなぎ払おうと右腕を高く振りかざして向か
ってくる。
 
(胴体へ?、なら、これでいってみるか。)
 
 アルカナは自分の剣を正眼に近い形で、やや足を広げて構えた。
 
 シャッフルの剣がアルカナの胴体へともぐりこめる位置に到達した瞬間、シャ
ッフルの肩の高さにあったその剣が、アルカナの胴体目掛けて急降下した。
 
 刹那、アルカナはその爆発的な推力で急上昇し、シャッフルの一撃を躱わした
。そして、空中からシャッフルの脳天目掛け、剣を思いっきり振り下ろした。
 
 しかしシャッフルは、自分が持っていた剣を投げ捨てると、アルカナが剣を持
っていた手を、両手でガッチと掴んだ。アルカナの剣はシャッフルの頭に届いて
いなかった。
 
 両機の体勢は、シャッフルが空中にいるアルカナを支えているような構図だ。
アルカナの全体重が、シャッフルに乗っかっている。
 
「この状態でアルカナのスラスターを使えば!」
 
 ソウは、スラスターを今より少し強くした。アルカナの体重が更に増す。その
うち、シャッフルが耐えられなくなる。そうすれば、アルカナの面打ちがきまり
、ソウの勝ちとなる。
 
 シャッフルのマニピュレーターは、アルカナの重量とスラスターの力で悲鳴を
上げていた。火花が頻繁に飛び散る。
 
「もう少し!」
 
 ソウはスラスターの出力を更に上げた。
 
 その瞬間、シャッフルはアルカナの手を掴んでいた両手を残し、右足を自分の
体の後ろ側へ1歩下げ、体をアルカナからずらした。そのまま体を反転させ、ア
ルカナの手を持っていた両手を地面に叩きつけた。
 
 支えを失ったアルカナは、思いっきり床に体当たり、機体はボロボロになら
なかった。間一髪の反応でソウがスラスターを逆方向に噴射し、ぶつかる衝撃を
かなり軽減させたからだ。しかし、床にうつぶせに倒れ、絶望的な隙を無くすこ
とまでは阻止できなかった。
 
 すぐさま起き上がろうとするアルカナのカメラアイへ、シャッフルの剣が付き
つけられた。   
 
 
 
「それにしても、なんだって急に模擬戦やろうなんて言い出したんだ?」
 
 ソウが気になっていたことをガウルに問う。
 
 2人は格納庫の隅にあるベンチに座って休憩していた。
 
 ガウルは、手にしていたアイスコーヒーを一口飲むと、口を開き始めた。
 
「ここにはアルカナを除いて4機のMSがあります。その内、剣で戦うのは私の
シャッフルとドマン君のボイスだけです。
 
 しかし、ドマン君はあまり接近戦は好きではなく、剣での模擬戦をしても正直
、相手にならないのです。
 
 なので、剣技の得意なアルカナと練習して見たかったのです。今日はありがと
うございます。」
 
 なるほど、ガウルは自分の戦闘訓練をしたかったということか。ソウも模擬戦
はやって見たかったので両者両得だった訳だ。
 
 それにしてもあれほど機体を動かせるとはガウルも相当な技術を持ったパイ
ロットのようだ。
 
「ところで。」
 
 ソウは少々気まずそうな顔で、ハンガーに吊るされたシャッフルを見た。
 
 先程の戦闘でシャッフルのマニピュレーターは無理な過負荷を加えたせいでボ
ロボロだった。かなりのダメージだ。
 
「明後日までに直せるのかね、これ。」
 
「迂闊でした。」
 
 2人はほぼ同時に大きなため息をついた。
 
 
 
――サンタレン基地、司令室――
 
「エスコルド中尉、オルマスド少尉、遠路はるばるご苦労であった。」
 
 サンタレン基地司令のメフィスト・テリトリアル大佐は2人の補充兵にねぎら
いの言葉をかけた。
 
 メフィストは大西洋連邦の軍人にしては珍しいスラブ系の人間で、顔はもうす
ぐ60になる歳相応のしわや肉が付いており、細い吊り目が無骨な職業軍人さを
演出している。
 
 メフィストの前には、連日の徹夜で目に色濃い隈が出来たギドー・エスコルド
と仮面の少女(?)リジョン・オルマズドの2人が直立不動の体勢で起立している
 
「予定より一日早くここに来れたのは幸いだったな。これが予定通り明日来てい
たら、諸君等は長旅の疲れを癒せぬまま、任務についているところだった。」
 
(おいおいこりゃあ、無理して正解だったな
 
 2日間、一睡もせずに車を飛ばしていたギドーは自分の行為が肯定されたよう
で少しうれしかった。
 
 例の喧嘩以降、疲れたのか横でスースーピーピー寝息を立てていたクソガキを
よく蹴飛ばしも放り投げもせずに我慢して運転し続けた甲斐があったというもの
だ。
 
「諸君等は、明後日05:00、輸送船の護衛任務を受け持ってもらう。」
 
 護衛任務? こんなしょぼい基地に敵が攻めてくると? ザフトが?
 
「大佐殿、しかし、いくらなんでもこのような場所にパヌマのザフト軍が来ると
は思えませんが。」 
 
 ギドーが慣れない敬語で質問をする。少し失礼過ぎたか
 
「襲ってくるのはザフトではない。当基地の管轄内で暴れているレジスタンスの
MSだ。」
 
レジスタンスでありますか。」
 
「たかだかレジスタンスと侮るな。奴等はジンやシグー等、ザフトのMSを持
っておる。しかもだ、どうも特殊な改造が施してあるようで、中々撃退できない
のが現状だ。」 
 
 いちレジスンタンスに仮にも正規軍である地球軍がてこずっている?一体ど
れほどのMS達なのだろうか。
 
「そしてつい先日、全く見たことの無い新型らしきMSがレジスンタンスに加わ
ったようなのだ。そいつの性能はにわかには信じがたいものがある。諸君等には
、そのMSもろともレジスタンスを撃退してもらいたい。」
 
「はぁ。」
 
「ともかく作戦は明後日だ。今日は疲れただろう。少し休め。」
 
 テリトリアルがそう言ったので、リジョンは敬礼をし、司令室を後にした。ギ
ドーも早く寝ようと部屋を出ようとしたその時――
 
「ああ、エスコルド中尉、ちょっと待て。君に渡したいものがある。」 
 
 テリトリアルがギドーを引き止めた。
 
「何でしょう。」
 
 やや不機嫌気味に返事をする。ギドーの前に出されたのは1枚の映像ディスク
だ。
 
「これにはレジスタンスの所持するMSの映像が入っている。作戦までに目を通
しておけ。
 
 それとここでのMS指揮は君が執れ。『三つ目の狂獣』の名に恥じない戦果を
期待しているぞ。」
 
 最初の命令はともかく、後者の方は喜ばしいものだった。ちなみに『三つ目の
猛獣』とは、ギドーの異名である。
 
「はぁ了解しました。では、失礼。」
 
 待てよ?道中ず〜〜〜っと気になっていたことがあったではないか。
 
 リジョンとかいうあの忌々しいクソガキは一体なんなんだ?
 
「あの。」
 
「何だ。」
 
「あのクソじゃ無ぇ、あのリジョンとかいう子供は何なんですか。あんな子
供が本当に役に立つと?」
 
 メフィストはふむ、とため息混じりな相槌を打ち、ギドーに答えた。
 
「君の気持ちもわかるが。安心しろ。彼女はお前に勝るとも劣らぬ優秀なパイロ
ットだ。
 
 『ブーステッドマン』を知っているか?彼女もその1人だ。」 
 
 ブーステッドマン?あのガキが?確か、以前のオーブ戦で初めて実戦に投
入されたと聞いたあのブーステッドマンか。なるほど、だから補充パイロットと
して自分と一緒に呼ばれたのか。ギドーはとりあえず最初の疑問を解決できたが
、それはギドーに新たな疑問を抱かせることとなった。
 
「しかし、失礼ですがこのような大して重要な戦闘も無い場所になぜ、クソ
女のような貴重なパイロットが配備されたのですか。」
 
「ふむ君は話に聞いたよりは中々賢い人間のようだ。もう少し礼儀というもの
をわきまえてくれれば尚良いのだがな
 
 その通り、確かにここはザフトとの戦闘も少なく、彼女のような人材も本来は
いずれザフトとの最終決戦の為、月基地へ行くのが適材適所というものであろう
 
 だがな、仮にも正規軍である我々が、レジスタンス相手にてこずっているとい
う現状況を見過ごすわけにもいかんのだ。そんなことを放っておけば、我々大西
洋連邦はたかがレジスタンス1つも鎮圧できないのかと各国から馬鹿にされかね
ん。特に我々との関係が微妙なユーラシア連邦にはこんなことで舐められては困
るのだよ。
 
 第一、このまま我々が手をこまねいていれば、いずれ第2第3のレジスタンス
が出現し、戦後我々がここを治める際の障壁になりかねん。
 
 だからこそ、この基地の大幅な部隊強化をしたかったのだが、しかし前述の
ように、今地球軍はプラント本国の攻撃の為、大量の物資を宇宙に上げなければ
ならず、このような小さな基地へは、中々大量のMSを配備することは難しい。
 
 その穴を埋めるべくの君達なのだ。しっかり頑張ってくれたまえよ?」
 
 こんな面倒くさい話を聞くくらいなら言わなきゃ良かったとギドーは後悔し
たものだ。 
 
 
 
 自分の部屋に入ったギドーは、さっさとベッドに入って眠ろうと思った。だが
、先程渡されたディスクが気になる。
 
(正規軍を脅かすレジスタンス、ちっと気になるな。)
 
 結局、少しだけ見てから寝ることにした。どうせ明日は休めるだろう。部屋の
ディスプレイにディスクをセットした。
 
 成る程、確かに普通のMSとは変わった動きをする。特にディンに似た機体と
もう1機の赤黒い機体の動きはギドーも感心する程だ。これに加えて罠等を仕掛
けられたら、確かに苦戦しているのもわかる。
 
(あとは新型か
 
 あまり見るところの無いジンに似た機体のシーンは適当に飛ばしてその新型を
目に通しておこうとした。この青いデコッパチな機体か? 
 
 ほう、一撃でヘリをふむ、ふむ、ん?
 
 ギドーは一瞬目を疑った。一瞬で数百メートルも離れたヘリに追付いたその機
体の速さに。
 
(ちょっと待てMSでこんな動きあ有り得ねぇよ!)
 
 地球軍の新型で高機動が売りのMS、『レイダー』でさえ、ここまでの動きは
不可能だ。というか、これは人間の限界を超えているはずだ。にも関わらず、そ
の後もその機体はストライクダガー2機を落とすことに成功している。その光景
も、ギドーにはとても信じがたいものだった。
 
(一体どうなっている)
 
 ギドーはさっきまで襲われていた強烈な睡魔さえ忘れ去り、画面上の見なれな
いMSを食い入るように見ていた。


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