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第6話 うごめく影

――ソウ達がイリュージョン社を脱走した30分後――インダストリアル社の会議室の内の一室――

「改良版『ブラックダスト』、なんとか使える代物に仕上がりました。既にシャトルでの輸送準備は整っています。そして、これがDUELとDISCシステムのデータです。」
 そう言いながら、フィルモスは目の前のよく肥えた腹を持った男に1枚のディスクを渡した。
 『ブラックダスト』とDUEL−DISCシステムの取引が、フィルモスがインダストリアル社に行った理由だった。
「ご苦労だったな、フィルモス君。」
 男の名はマタザ・カネクラ。ブルーコスモスの幹部で、『ブラックダスト』を注文したのも彼だった。
 50過ぎのその男は、全身がブクブクと太り、セムシ男という言葉がよく似合いそうな顔、頭は殆ど禿ており、その露出した頭も含め、全体的に脂ぎっていた。そして地味なねずみ色の背広、ハッキリ言って、同姓からも異性からも嫌われそうなルックスだった。
 ルックスという点においては、長身痩躯、目に何かの力を秘めたような顔で、美丈夫という言葉の似合うフィルモスの方が、断然上だった。茶色で、やや長めの髪を真ん中で分けている所も、フィルモスのルックスを上にしていた。
「じゃあ、支払いだ。要望通りに全額現金で持ってきた。」
 そういうと、マタザはいくつものジュラルミンケースをフィルモスの前のテーブルに並べた。その中にあった金額は、小国の国家予算にも匹敵しかねない、膨大な金額だった。とはいえ、その大部分はDUELとDISCシステムが収めていた。それほどまでにインダストリアル‐イリュージョン社(I2社)の開発したこの技術は非常に価値のあるものだった。
「はい。確かにお受け取りしました。」
 フィルモスはそう言って、後に控えさせていた部下達にジュラルミンケースを運ばせた。
「それと、例の実験体の方は…?」
「ああ、それも私のシャトルの中に居るよ。性別、人種、遺伝子分類も関係無く、9歳から18歳までの子供が100人だ。」
「ありがとうございます。それだけの人数、格安でお売り下さるとは…。」
「なに、戦争孤児をかき集めればわけの無いことさ。こんなものが金になるならいくらでも戦場を広めてやろうか?なんてな、…フフフ。」
「ハハハ、それはありがたいことで。」
(下衆め…!)
 フィルモスは顔は笑顔で、心ではマタザの悪態をついていた。
(俺が好き好んで人体実験をしてるとでも思ったか!?どうせ貴様はそのアズラエル達に内緒で集めた孤児達を売った金で自分の私腹を肥やすつもりなんだろう。戦争を広げる?ふざけた事を言うな。)
 フィルモスは顔をうつむかせながら、更に罵倒の言葉を頭の中で繰り返していた。
(…まぁいい。俺がこいつ等に力貸してやってるのは金の為だけだ。せいぜい利用するだけ利用させてもらおう。とにかく、今は金が必要だ。でないと、俺は…、俺は……――。) 
「…モス…、…フィ…ス君…、フィルモス君?」
 自分の事を呼ばれていることに気付き、フィルモスはハッと我を取り戻した。
「用も済んだことだし、そろそろ私は帰らせてもらうよ。」
「あ…そうですか。おい、彼を案内してさしあげろ。」
 部下にマタザをシャトルまで案内するように言う。マタザが部屋を出ると、フィルモスも席を立った。まだフィルモスには出席しなければならない会議があった。
(どんなことをしようとも…、俺の野望は必ず成し遂げてやる…!)
 フィルモスは改めて決意を固めた。 

「…協力?」
  突拍子もない申し出に、ついソウは聞き返してしまった。
「はい。あなたの強さは今の戦闘で理解しました。私達と一緒に、地球軍と戦って欲しいのです。」
 ガウルは真剣な顔で答えた。
「…いいのか?俺はそっちの敵にはならないと『思う』と言っただけだ。正体もわからない人間と一緒に戦ってくれだなんて、どういうつもりだ?」
 ソウは疑問に思った事を言って述べた。
 当然の疑問だ。会ったばかりの人間にそんなことを聞くなんておかしな話だ。
「あ、すみません。急にこんな事を言い出したりなんかして…。詳しい話は私達のアジトでさせてもらって構いませんか。そこであなた達の話も聞かせて下さい。」

 結局、ソウはとりあえずこの正体不明のレジスタンスのアジトへ行くことにした。
 もともと行く当ても無い。今のところは敵と思えないし、付いて行っても問題無いだろうと思った。
 アルカナは目の前の「UNKNOWN」のディンの進路に沿って飛んでいた。アルカナとディン以外のMSは飛べないので、先にアルカナとディンが行く事になった。
「でも変な話ね。いくらソウが強かったからって、会ったばかりの人を軍に誘うなんて。よっぽど人手が足りないのかな。」
 アルナもソウと同じ疑問を持っていた。アルナは狭いコクピット内でなんとか都合よく座っていた。
「……どうなんだろう。人手が少ないからって信頼の置けない人を誘うのはおかしいとは思うけど…。何もわからないのを考えても仕方ないよ。行けばわかるさ…、ってアルナ?」
 反応が無いのを妙に思ってアルナを見ると、またうつらうつらと眠っていた。考えてみれば、アルナもソウも昨日から今日までほとんど寝ていない。しかもアルナはまだ病みあがりの身だ。体力が無いのも当然だった。
 その寝顔は無邪気でとても可愛らしかった。自分に寄り掛ってきて邪魔だから起こそうかと思ったのを取り消すくらい、幸せそうな顔だった。
「ふぅ…。まぁ、いいか。」
 ソウは左肩にいるちょっと邪魔な障害物に構わず、アルカナを操縦した。

『HEAVENLY−SANCTUARY』のアジトは、一介のレジスタンスとは思えない程に設備が整っていた。
 そのアジトは、一見するとただの大岩の一群にしか見えなかった。
 それがディンが近くに来るや否や、その岩の内の1つがゴゴゴゴゴと横に動き、そこから相当な広さの空洞のある洞窟の入り口が現れた。中にはかなり立派なMS修理工場とMS格納庫があった。恐らく、修理はもちろん、簡単な改造さえも可能だろう。 

「ごくろうさまです〜。係さんたちの案内にしたがってMSを入れちゃってくださ〜い。」
 ディン(もどき)のパイロットの指示通りにアルカナを格納させる。作業を終え、ソウがなかなか起きないアルナを悪戦苦闘しながらもやっとの思いで起こしコクピットを降りると、12、3歳くらいの女の子が待っていた。ディンのパイロットの子だ。さっき、ガウルと名乗った男と一緒にいた1人だ。
「初めまして〜。私はピケルス・ホワイトって言いま〜す。ピケルって呼んで下さいね〜。」
 そう言ってピケルはペコリとお辞儀をした。
 「あ、ああ…ソウ・クレストだ。よろしく。」
「ええと、アルナ・フィルよ。よろしくね。」
「ソウさんとアルナさんですね〜。よろしくで〜す。私達の『おうち』を案内しますね〜。」
 ニッコリと笑いながらそう言って、ピケルは奥へと進んでいった。『おうち』とはここのことだろう。ソウとアルナもその後を付いていく。

(ちょっと、あんなちっちゃい子がパイロットなの?なんかますますここって怪しくない?)
 ピケルの後を追いながら、小声でアルナがソウに聞いてきた。
(いや、でもあの子があのMSを操縦してたのは間違い無いよ。)
(そうなの?)
(うん。さっきの戦闘でディンのパイロットと喋ったんだけど、その時の声とあの子の声は同じだったし)
 しかもとても強かった。幼気な見た目とは裏腹に、高度な操縦技術をもっていることは確かだった。

 ピケルに連れられ、ソウ達はアジトをいろいろと案内させられた。やはり、相当大きな洞窟だ。おそらくは、元々かなり深かった洞窟を改装したのだろう。ただ、司令室などの機密情報のある部屋には、さすがに今は入れてくれなかった。
 談話室でソウ達を4分ほど待たせて、ピケルが駆け足で戻って来た。少し遅れてガウルと知らない女性が来た。
「今、ガウルさん達が戻って来ました〜♪この部屋でお話するそうです〜。」
 先に部屋に入ってきたピケルが楽しそうに告げた頃には、もう2人は部屋に入っていた。
「ピケルが案内したそうですね。どうでしたか?私達のアジトは。」
「…すごいところだね。一介のレジスタンスのアジトにしては、随分と設備が豪華だと思ったよ。」
「そうですか。それはこの方のご協力があってこそです。」
 そう言って、ガウルは隣に居た女性を見た。年は20代中頃だろうか。赤に近い綺麗な色の長い髪、天使のような優しい表情、美しいという言葉の似合う大人の女性だった。
「初めまして。私の名はドリアード・スピリットハートです。貴方方のお名前はガウル様から聞きました。ソウ様とアルナ様ですね。少しお話させて下さりますか?」
 微笑しながらドリアードは言った。

 ソウとアルナ、ガウルとドリアードの4人は、2組が向かい合うように談話室のソファーに座った。
 最初に話を始めたのはガウルだった。
「CE70、2月19日のことです。連合はここ南アメリカ合衆国へ侵攻し、パナマ基地を制圧しました。そして、合衆国を無理矢理大西洋連邦の一部に加えました。
 …南アメリカ合衆国はコーディネーターに寛容であったため、ここには大勢のコーディネーターが暮らしていました…。そんな彼等を連合は片っ端から収容所へ連れこみ、…虐殺したのです。その中には私の友人も数多く居ました…。私自身もコーディネーターであったため、身を隠さなければなりませんでした。
 しかし今から1ヶ月ほど前、ザフトがパナマ基地を制圧したために、南アメリカ合衆国での地球軍の力は極めて貧弱になったのです。この時、私は思いました。これで自由になれると。
 しかし、地球軍の基地はパナマだけではなく、南アメリカ大陸の各地に造られていました。連合はそれらを拠点とし、またパナマからザフトを追い出し、南アメリカ合衆国の自治権を我が物にしようと再び軍備を固め始めたのです。
 サンタレン基地もそんな基地の1つです。この基地の周辺には鉱物資源があり、連合はその鉱山の開発のため、私達の暮らす町、マナオスから次々と人々を搾取しているのです。
 この状況を解決するべく、私達はレジスタンス『HEAVENLY−SANCTUARY』を結成しました。しかし当初はMSなど無く、ほとんど無意味なテロ行為しかできませんでした。その時、私達に力を貸してくださったのが、ドリアードさんです。
 彼女は若くして南アメリカ合衆国上院議員の1人になられた方です。その時のツテを駆使し、私達に様様な援助をしてくださりました。そして合衆国の持っていたプラントとのツテでジン等のMSも提供してくださりました。今の組織がここまで発達できたのはドリアードさんが居てくださったからこそです。」
 ガウルはそこまで話し終えた後、一旦話を止めた。
 なるほど、一介のレジスタンスがここまで豪華な設備を持っている理由はこの美人なパトロンのお陰か。ソウの疑問が少しずつ晴れていった。しかし、1つだけまだ疑問があった。
「そうか。そっちの事情は大体掴めた。今度はこちらから話す番なんだろうけど…、1つだけ聞かせて欲しい。俺達を仲間にしようと思った理由を教えて欲しい。単に俺が強かったからか?」
「ああ、それは……――。」
「それはアルカナを私が知っていたからです。」
 ガウルの言葉を制するように、不意にドリアードが喋り始めた。
「議員の頃のフィルモス様のツテで、アルカナはイリュージョン社のMSであることは知っていました。そして、その性能も。その情報はレジスタンスの皆様にお伝えし、もしこの機体が仲間になれば心強いと冗談半分で言ったいたのです。そうしたら、本当にここに来られて…。正しく貴方の仰る通りです。ごめんなさい。突拍子も無い事を聞いてしまって。」
「そうでしたか…。」
 案外単純な理由で少し拍子抜けしたが、それより驚いたことは、ガウルとはタメ口調で話していたのが、ドリアードとだといつのまにか口調が敬語調になっていたことだった。(別にガウルを見下していたわけではない。ソウは基本的にタメ口調で話すクセがあった)ドリアードには、フィルモスに似た、なにか不思議な威圧感があった。
「そろそろ貴方方のお話もお聞かせ下さい。なぜザフトでもない貴方がアルカナに乗っているのですか?」
 ドリアードに催促され、ソウは自分のこれまでの事を話した。
 自分達の住んでいた町が大西洋連邦に攻撃されたこと。
 その際に、ソウもアルナも両親を亡くしたこと。
 アルナがイリュージョン社の生物兵器で瀕死の状態になったこと。
 アルナを助ける条件のためにソウがサイボーグになったこと。
 サイボーグになる手術の途中にソウが謎の力を使って死亡を装い、うまく脱走し、その際にアルカナ見つけたこと。
「そうでしたか…。あなたはアバターなのですね。確かにそうでないと、アルカナは使いこなせないでしょう。」
 ドリアードは何処か納得気に言った。そばに居たガウルも似たような反応だった。
「え…?ちょっと待ってください。アバターって…?」
 急に知らない単語が出てきて、ソウが問う。
「あらあら、ご存知無いのですか。アバターとはイリュージョン社の開発したサイボーグ、つまりあなたのことです。」
「……そうですか。知りませんでした。」
「そしてあなたの機械を操る力はDUELと言います。まだよく分かっていない未知の力ですが、それを持っているということは、あなたはSEEDを持っていたのですね。」
「DUEL…、あ、そういえばアルカナのDISCとかいうシステムにもDUELの文字があったな…。」
「DISCシステムですか。イリュージョン社はもうその開発に成功したのですね。」
「……何でも知っているんですね、あなたは…。」
「あの…。」
「はい、どうしました?」
 不意にアルナがガウルに話し始めた。
「私達が前に住んでいたところ、今どうなっているか教えてもらえますか?」
「ミシガンでしたね。いいですよ。ちょっと待ってください。」
 そう言って、ガウルは少しの間席を外した。彼が戻って来たのはそれから5分後だった。手には1枚のディスクがあった。
「これがアルナさん達の居た町の2日前の様子です。」
 そう言いながら、ガウルは談話室にあったオーディオ・コンピューターにディスクを入れた。スクリーンにはどうやらプラントのニュース番組らしき映像が現れた。
 その番組では、ソウ達が住んでいたミシガンのある町が地球軍に占領されている特集をやっていた。コーディネーターと見るや、片っ端から捕まえ、反抗因子と見るや、その人達やアジトを完膚なきまでに破壊したり、野戦病院では酷い重症を負った子供達が苦しそうにうめいていた。
「…酷い…。」
 ぼそりとアルナが呟く。
「大西洋連邦は、ここだけに限らず、近隣の戦略的に関係が無くとも、中立、親プラント思想を持った地域に対して容赦無く制圧をしています。まるで自分達の力を誇示するように。」
「ここも…、このままだとそうなるのか。」
 ソウがガウルに問う。
「恐らくは。」
「…俺がレジスタンスに加われば、あるいは助かるかもしれないのか。」
「…あなたの力が私の思っているようなものなら、…恐らくは。」
「そうか…。」
 そう言って、少し考えた後、ソウは決断した。
「決めたよ。俺は戦う。せめて少しでも人を助けられるのなら。俺をレジスタンスに加えてくれ。」
「そうですか!ありがとうございます!」
 ガウルがうれしそうに言った。
「アルナ、良いかな。」
「うん。ソウが賛成なら私も賛成するよ。」
 ソウはレジスタンスに加わることにした。しかし、今言った事も嘘偽り無い戦う理由の1つだったが、ソウにはもう1つ、ここに加わりたい理由があった。
「それと、ドリアードさん、頼みがあります。」
「何でしょう?」
「俺達はもう、他に行く所が有りません。この戦いが終わったら、マナオスに住まわせて欲しいのです。」
 ソウが戦うことを決めたもう1つの理由、これから住むところの確保だった。
「ええ、もちろん構いませんとも。」
 ドリアードの答えはYESだった。

――ソウがレジスタンスのアジトに案内された頃――――地球軍、サンタレン基地――
「くっそ!一体何なんだあのMSは!」
 テリトリアル大佐は、昨夜、突如現れた謎の青いMSの戦闘映像を見て、激昂した。
 途中からレジスタンスの邪魔が入ったとはいえ、あの戦闘映像を見れば、あの未確認のMSがどれほど強力なものかは容易に理解できた。あの距離からヘリに数秒で追いついた凄まじいスピード、MSとは思えない巧みな剣技、ストライクダガーが弄ばれたのも納得できた。
「失礼します。」
 司令室に、情報を持ってきた兵が入ってきた。
「何だ。」
「昨日破壊されたMSの穴埋めのつもりか、新しく兵が補充されるとのことです。」
「兵の補充…?それで、一体どれだけの数が来る。」 
「いえ、それが…、どうもMS2体とそのパイロット2人だけだそうです…。」
「なんだそれは!まともな数ではないぞ!」
「いえ、しかし…、どうもエースクラスのパイロットのようです…。名前は…ギドーとリジョン、と言う者のようです。」
「……なるほど。そういうことか。こんな奴等をここに回してくるとは。一体上の連中は何をかんがえているんだか……。」


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