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 第17話 義勇軍vs正規軍vs傭兵集団

 

 

 ギドーは、自身の周りの時間の進行が非常に遅くなったように感じた。

 

 M1の剣の切っ先が動画のスロー再生のようにゆっくりと迫る。

 

 この速度なら避けられそうだが――生憎、緩慢なのはギドーも同じのようだ。

 

 もどかしくも彼の手は操縦桿を操作しようとした。

 

 愕然とする自身の動作のろさ。

 

 駄目だ。 間に合わない。

 

 コクピットのディスプレイに剣が大きく写し出される。

 

 ギドーは自分の死を覚悟したが、それでも最大級の敵意を目の前のMSのパイロットに与えるかのように、ディスプレイの剣を睨んだ。

 

 死の瞬間が――訪れなかった。

 

 『くっ…!』

 

 クリフのうめき声が聞こえたかと思うと、目の前の剣は急激に軌道を変え、何者かと鍔迫り合いを始めた。  

 

 たちまち、時間の流れが元に戻り、ギドーの時間の概念も元の速度に戻る。

 

「…っ…!」

 

 ギドーが我に帰ると、クリフのM1はアルカナが打ち下ろしたビームサーベルを剣で受け止めていた。

 

 

 

「……妙だな。 なぜその剣はビームサーベルと接触する?」

 

 ソウはいたって冷静に、状況の奇妙さを見抜いた。

 

 何故ビームサーベルを受け止める剣が有り得るのか。

 

『フッ、これから死ぬ貴方に教えても仕方が無いでしょう』

 

「……」

 

 クリフの人の神経を逆撫でするような物言いがソウの琴線に触れたのか、アルカナは更に強い力で切り結んでいたビームサーベルの刃を押しこんだ。

 

 空中にいるM1はアルカナの剣圧で徐々に地上へ押し戻されていく。

 

『ぐ…ぐっ…!』

 

「教えたくないのか…まぁ、どうでもいいさ、そんなことは。

 

 それより、そこのダガーは俺の標的だ。お前達が誰かは知らないが、邪魔をするな」

 

 ソウがギドーを庇ったのは、ただそれだけの理由だった。善意などではない、ともすれば幼児の物欲にも似た理由だった。

 

『フッ…御心配なく。貴方が死にさえすれば、私達もすぐに…撤退しますよ!』

 

 M1は切り結んだまま、頭部バルカンをアルカナに向けて撃った。

 

 アルカナは咄嗟に上昇し、その弾丸と同じ速度で空へ退いた。

 

 瞬時に、音速以上の速さで。

 

 およそ他のMSには不可能な芸当だが、アルカナの爆発的な加速力と最高速度なら、それほど難しいことではない。

 

 超高速で飛ぶアルカナには、追随してくる弾丸は止まっているように見えた。 

 

 ビームサーベルを薙いで弾丸を無力化することなど、造作も無かった。

 

 

 

「なっ…な…に…?」

 

 それまで平静を装っていたクリフも、流石に驚愕した。

 

 当然だ。こんなふざけた回避方法などMSにできる筈が無い。

 

 仮にそのような運動性を持つMSがあったとしても、今のような動きを常人がすれば急激にかかるGで即死だろう。

 

 それをも可能にするのが、あの《アバター》だというのか…?

 

『クリフ、お前はアルカナに手を出すな。あの地球軍兵を相手をするのがお前の役目だろう?』

 

 ジンハイマニューバに乗っていたルーグがクリフに通信を入れた。

 

「ええ…わかっていますよ。私に課せられた任務、《目標以外の敵機の排撃》…

 

 フッ、しかし貴方方もできるだけ早く目標を撃破していただきたい。

 

 私相手では、今の《三つ目》など歯牙にも掛からない…」

 

 嫌味のある言動はクリフの性格が原因だが、今回はそれよりもギドーに勝てるという自信からくる発言だった。

 

 かつてギドーと戦線を共にしていた時のあの強さが感じられない。

 

 今のギドーは、恐怖を知らない新兵が、多少のスキルを覚えた程度にしか感じられなかった。

 

「まったく…、これでは《三つ目》の名が泣きますな…フッ」

 

『なに生意気言ってんだよ。たった今までアルカナにやられそうだったのは何処の誰だい? 

 

 忘れてんじゃないだろうね?あの《三つ目》はそのアルカナにダガーで張り合ってんだよ』

 

 今まで黙っていたが、その鼻に掛かった言い方を日頃から疎んでいたミーネがとうとう横槍を入れた。

 

「だから何だと言うのだ。それで、この私があのような男に劣るとでも?」

 

不快感も露わに声を張り上げるクリフ。

 

『い…今は喧嘩は…や、やめるん…だ、だな…』

 

 4つ足のジンのパイロット、ゴーグが仲裁に入る。

 

 しかし、彼ではこの2人の仲裁は出来ない。この筋肉質の男は、見た目とは裏腹にとかく気が弱いのだ。

 

「うるさい、俗物。貴様如きが私の行動に口だしするな」

 

『脳味噌筋肉男がなにをほざくんだい? いいからアンタは1人でダンベルで遊んでな!』

 

 互いが互いを攻撃対象にしていたはずが、ゴーグの仲裁をキッカケに彼を標的としてしまった。

 

『が…う…』

 

 2人に捲くし立てあげられ、返す刀を持たないゴーグは、その筋骨隆々の体を雨に濡れた子犬のように震えさせた。

 

『お前達、いい加減にしろ。今は任務中だぞ』

 

『そうだよ、クリフもミーネも、もう止めなって』

 

 見かねたルーグとバクウのパイロット、チックが仲裁に割って入った。

 

『フン…』

 

『ハッ…』

 

 事態を止められる人間の関与のおかげで、ようやくクリフとミーネの貶し合いが収まった。

 

『ところでチック。レジスタンスへの潜入工作、ご苦労だったな。この辺りのトラップはもう無力化されてるんだな?』

 

『はい! この辺りって罠が無駄に多いんですよ。 全部知ってるのは1人しかいないですし、大変でしたけど、もう大丈夫です!』

 

 チック=アラルゴ。

 

 《黒蠍》の密偵役、偵察役である齢15歳の少年だ。

 

 彼はソウ達が《HEAVENLY−SANCTUARY》に逃げ込んだ事を聞いた後にレジスタンスに潜入し、機密情報をルーグに送りつづけた。

 

 この日に戦闘があることを知った時は、その旨をルーグに伝え、つい先程も、MSパイロット達のみで行われるブリーフィングを盗聴し、その情報を送り続けていた。

 

『そうか。では手筈通りにあいつを追いこむぞ。ミーネ、ゴーグ、準備はいいな?』

 

『ええ、問題ないわよ』

 

 ミーネのMSは手首の動作だけで鞭の先端を引き寄せ、攻撃の準備を整える。

 

『お…オレも…!』

 

 ゴーグも機体の調子を確認する。

 

『よし。 ではそろそろ獲物を狩るとしようか。チック、援護は任せるぞ。

 

 アルカナが地上に近づいたら…』

 

 言いきる前にルーグは気付いた。

 

『テ…テメェラアァァァァァ!!殺ス! 絶対ェ殺ス!』

 

 ギドーが、殺気も露わにこちらへつ突っ込んでくる。

 

 

 

 クリフに殺されかけられ、ソウに結果的にではあるが助けられ、ギドーの自尊心はボロボロだった。

 

 その憤りは全て殺意に還元され、目の前の5機をその対象とした。

 

 もはや、目に写るもの全てが彼にとって敵にしか見えない。

 

「殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」

 

 ギドーが《凶獣》と呼ばれる理由が戦闘時の異常な興奮状態だ。正に今、ギドーは《凶獣》と化していた。

 

 牙を剥き、爪を突き立て、眼前の獲物を確実に死に至らしめんとする獣に。

 

 突っ込みながらビームライフルの照準を5機の傭兵集団のMSに合わせる。

 

 発砲。

 

 五筋のビームは、的確にMSのコクピットを狙っていた。

 

 ルーグは飛翔し、ミーネは真横に飛び、チックは急加速でビームを避ける。

 

 いかにも重鈍そうなゴーグのジンは、両腕のシールド状のプレートでビームを受け止める。

 

 そしてクリフは、手にした長剣の刃でビームを切り裂いた。

 

 クリフの長剣の刃は、地球軍の戦艦《アークエンジェル》の装甲や《フリーダム》のシールドに使われる《ラミネート装甲》と同じ物で出来ている。

 

 ビームの熱を吸収するこの装甲は、ビームライフルの一撃を防ぎ、ビームサーベルと切り結ぶことができる。

 

『フッ…先程よりは手応えのありそうな相手になりましたね?《三つ目の凶獣》。

 

 その闘志、その言動…、多少は以前の勘が戻って来た…といったところですかな?

 

 改めて、貴方はこの《旋風の貴公子》がお相手しましょう』

 

 クリフは尚も速度を変えずにこちらに向かってくるダガーに相対し、手にした長剣を構えた。

 

「うるせえ!邪魔するならテメエを最初に血祭りにしてやるよ!クリフ!」

 

 手にしたビームサーベルを振りかざし、ギドーはそのまま真っ直ぐに突っ込んだ。

 

 かつて戦場を共にした者同士ぶつかり合う因縁めいた戦いが始まった。

 

 

 

 上空へ逃げたソウは、冷静に新たな敵の戦闘能力の考察を始めた。

 

 ギドーの言葉を借りれば《黒蠍》といった、あのMS達は、それぞれ得意な戦闘方法があり、それらを連携させて自分を倒そうとしているようだ。

 

 2丁銃のジンハイマニューバは、先刻の通り豪雨のように弾を撃ち続け、こちらの頭を押さえる役割。

 

 そこを仕留めるのが双鞭のメタリックブルーのジン。

 

 地上で網を張るのが目的なのであろうバクゥ。

 

 まだ表立って交戦していないが、外見から察するに、MS自体のパワーが武器なのであろう4本足のジン。

 

 そして接近戦に優れた、ビームサーベルで切断できない長剣を携えた……あの機体は見たことが無い。顔はどことなくアルカナに似ているが…ああ、確かオーブのMSだ。ニュースで見たことがある。

 

 各機の背部に装備されているあの仰々しいバックバックを見る限り、バクゥ以外は長時間飛行が可能なのだろう。

 

 たった今、そのオーブ製のMSとギドーのダガーが交戦状態に入ったのを確認した。

 

  殆どのMSが飛行可能という事は、恐らくこのアルカナとの戦闘を意識しているのだろう。速度では及ぶべくも無いが、こちらが空を飛べる以上、地上からよりは空中で戦うほうが遥かに有利だからだ。

 

 アルカナとの戦闘を意識しているということは、前もってアルカナのスペックを知っているからだろうか。

 

 ならばフィルモスと関係があるとみてよさそうだ。

 

 他に自分を狙う第三勢力にも心当たりがない。

 

 結論として、アルカナ対策を講じたあのMS達と戦うにはこの状況のまま戦うのは厳しいことは間違い無い。

 

 この状況では。

 

(仕方ない…気は進まないが、《DUEL》を使うか…)

 

 一瞬の激痛と引き換えに、アルカナと一体になったかのような運動性を得るあの力を。

 

 ソウはコードを手に取った。

 

 

同時刻 アマゾン

 

「やあぁぁぁぁ……はあ!」

 

 リジョンの駆るソーガは、上空から攻撃を仕掛けてくるディンへ向け、超大型チャクラム式ビームブーメラン《グラントサーヘブ》を投げつけた。

 

 グラントサーヘブの外周に鮮やかに光るビーム刃が形成され、アイズに襲いかかる。

 

 アイズは2丁の重機関銃の銃口をグラントサーヘブへ向け、発砲した。

 

 何発も、何発も。

 

 だが、弾丸はブーメランの遠心力によって弾かれ、有効打にならない。

 

 あの程度では、あの速度を落とさせることも、ましてや《グラントサーヘブ》を破壊することもできない。

 

「そのまま…墜ちろおぉぉぉ!」

 

 だが、相手は《HEAVENLY−SANCTUARY》のエースパイロットの一角であり、その中でも最も回避運動に長けたパイロットとMSだ。

 

 アイズは背部の6枚の羽を巧みに操作し、不規則な機動でグラントサーヘブを回避した。

 

「ああ…!それなら、直接やっつけて…!」

 

 ソーガは腕部大型ビームクロー内臓攻盾《ディボルク》のビームクロウを展開し、上空のアイズへ迫った。

 

 だが。

 

『ほらほらぁ…背中がさみしいよ!』

 

「っ…!」

 

 殆ど直感のみに従い、リジョンは機体を転身させ、ディボルグを構える。

 

 デュミナのMS、ウォーリァーが、何時の間にかソーガに肉薄し、ギルティアを打ちこまんとしていた。

 

 ギルティアが打ち出される。

 

 リジョンは、両腕のシールドを操り、ギルティアの一撃を受け流した。

 

「くっ…!邪魔するな!」

 

 ソーガは反撃のビームクロウを振るった。

 

 ウォーリァーはビームコーティングされたシールドでその斬撃を受け止める。

 

 ウォーリァーもビームクロウを展開した。隙を見計らい、ソーガに詰め寄り切り掛かる。

 

 それも、リジョンの計算の内だった。

 

 あたかも追い詰められるかのように、ソーガはウオーリァーの攻撃を徐々に後退しながら回避する。

 

 そして。

 

 目標の地点についた。

 

「よし…いけえぇぇぇ!」

 

 先刻、アイズに向けて投げたグラントサーヘブが上空からその回転の勢いを落とすことなくソーガの元へと降りて来た。

 

 ソーガの間近で戦っていたウォーリァーにグラントサーヘブを直撃させるように誘導するのはそれ程難しいことではなかった。

 

『え…なに、時間差攻撃!? これを見越してたの?』

 

 デュミナもソーガの後退に違和感を感じていたので、死を呼ぶリングの存在に気付いたのはそれほど遅くは無かった。

 

 だが、今度はソーガがウオーリァーを逃がすまいと攻めこんでくる。

 

 ウォーリァーの退路がグラントサーヘブの落下軌道上にしか無いように追い詰める。

 

「やられろおぉぉぉ!」

 

 墜ちた。

 

 そう確信した。

 

 だが。

 

『やるわねぇ…でもね…、こっちにも《ギルティア》ってのがあるのよ!』

 

 ウォーリァーは、それまで後退していたのを急にソーガへ前進し、ビームクロウを無闇矢鱈に振りまわした。

 

 闇雲な反撃は、端から見れば殆ど特攻のようだったが、予期せぬ急な反撃に、ソーガは一瞬だが、身を引いた。

 

 その一瞬の直後、グラントサーヘブが直撃するはずだ。

 

 『さて…と。ブチ貫くよ!』

 

 ソーガに与えた僅かな隙の間に、ウォーリァーはその両手に装備された《ギルティア》の杭打ちの部分をシリンダーに再度装填する。

 

 グラントサーヘブがウォーリァーに牙をむく。

 

 死のリングの刃先がウォーリァーの装甲に接触する、その直前、

 

『そぉらよ!』

 

 ウォーリァーは両手を突き出し、ギルティアを放った。

 

 2本の杭打ち機は的確にグラントサーヘブの刃先を捉えた。

 

 ギルティアの先端と尚も強烈に回転するグラントサーヘブの刃が接触し、激しい火花を散らす。

 

 瞬く間に回転の勢いが落ちるグラントサーヘブだが、ウォーリァーはその勢いに耐えきれず、グゥルから足が離れた。

 

 

 

 足場を無くしたウォーリァーは、重力に従い地面に着地した。

 

「あ…っ…! …まぁいいわ。やっぱ接近戦は足がつかないとやりづらいしね」

 

 ピケルの通信が入った。

 

『デュミナさん!大丈夫ですか!』

 

「ええ、大丈夫よ。 …ほらほら、そんな不安がらなくたって大丈夫よ。ちゃんと足あるでしょ?」

 

 落ちつきないピケルをなだめるデュミナ。

 

『だ、だって今デュミナさん…敵の直撃を受けて…』

 

 ピケルが動揺していた理由は、上空にいてウォーリァーの背中しか見えていなかったピケルの視点からだと、デュミナの機体がグラントサーヘヴの直撃を受けたように見えていたからだった。

 

「あ〜〜、大丈夫大丈夫。ちょっとギルティアの調子がおかしくなっちゃったけど、それだけだから。 …ほらもう、そんな泣きそうな声出さないの! ガウルさんに笑われちゃうよ?」

 

 実際、本当にウォーリァー自体のダメージは軽微なものだった。ギルティアもまだ稼働しそうだし、グゥルから派手に落ちた割には機体に少なくとも今のところは問題無かった。

 

 ただ、

 

「ま、でも…ちょ〜っとおイタが過ぎちゃったかな…?」

 

 危うくやられそうになったデュミナの心境は、決して穏やかな物ではなかった

 

 自分を策に填めようとは、随分と味なマネをしてくれるではないか。

 

 面白い。久々に倒し慨いの有りそうな相手だ。ここは是が非でも自分が倒してやろう。

 

 デュミナは、標的の位置を確認する。

 

 上空から、高速でこちらに迫ってきた。

 

 ソーガは再度、両腕のビームクロウを展開した。向こうも格闘戦を挑むつもりだ。

 

 ソーガのビームクロウをシールドで防御。

 

 反撃にギルティアを打ちこむ。

 

 ギルティアの破壊力はアルカナのバオウにこそ劣るものの、最大出力で打ちこめばPS装甲をも貫通することができる。

 

 その一撃を、ソーガは体を捻って避ける。

 

 ソーガの反撃とウォーリァーの追撃。

 

 一進一退のハイレベルな接近戦だ。

 

 実力では今まで接近戦の経験が多いデュミナが有利だが、ソーガの性能も並みではないし、リジョン自身も凡庸なパイロットではない。

 

『デュミナさん!援護します!』

 

 上空から、アイズはレールガンで援護射撃を試みようとするが、

 

「やめなさい、ピケル!」

 

 デュミナはそれを遮った。

 

『え…なんでですか!』

 

「こいつはあたしが仕留める!あんたはガウルさんの援護に行きなさい!」

 

邪魔をされたくない。こいつは自分だけで倒してやりたいのだ。 

 

『で、でも…その機体って多分Xナンバーですよ! デュミナさんだけじゃ…』

 

「あたしだけじゃ…何?」

 

 冷ややかなデュミナの口ぶりに、ピケルは思わず口をつぐんだ。

 

「あたしだけじゃこいつは倒せないけど、あんたが手伝えば倒せるって…?」

 

『そ…そんなわけじゃ…』

 

 デュミナに辛辣に言われ、再びおどおどとし始めるピケル。

 

 その反応を見て、デュミナはすぐに思わず取ってしまった自分の態度に後悔した。

 

 あ〜あ、やっちゃった。

 

 このすぐカッとなる性格はいい加減になんとかしなければ…。

 

「あ〜、ゴメンゴメン。ちょっと言いすぎたわね。でもあたしの心配なら無用よ。それくらい、あんたもわかってくれるでしょ?」

 

「……はい」

 

 デュミナが掛け値無しの優秀なパイロットだという事は、ピケルも知っていた。

 

 《ギルティア》のような扱いの難しい兵器もそつなく使いこなすその格闘センスは、ピケルさえ及ばない。

 

 荒荒しく、怒涛のような止め様の無い暴力的な戦闘スタイルに、何機ものストライクダガーが餌食となった。

 

「……わかりました。なら、私はガウルさんを手伝ってきます」

 

「うん。しっかりね」

 

 アイズは踵を返すように方向を転換し、新たな戦地へ向かった。

 

 

 

 グゥルから降りたガウルは、たった1人で6機のストライクダガーと交戦していた。

 

 もっとも、まともに交戦したのは2機のストライクダガーとだけだったが。

 

 奇妙なことに、残りの4機のストライクダガーは、先程から殆どシャッフルに攻撃を仕掛けてこないのだ。

 

 最前線の2機、そこから残りの4機がシャッフルを中心におよそ50m置きにまばら離れてこちらの様子を監視している。

 

 その最前線の2機すらも、シャッフルを逃がさないように左右から取り囲んでいるだけだ。

 

 シャッフルが動けば威嚇か足止め程度の攻撃はするが、基本的に自分達から動こうとはせず、むしろいつでも逃げられる体勢でいる。

 

 その配置を知った時点で、すでにガウルは敵の考えを悟った。 

 

(なるほど…向こうも、とうとうシャッフルシステムを解析し始めたということですか…)

 

 ガウルがこのMSに乗ってからの地球軍との小競り合いでは、ガウルはシャッフルシステムの影響を受けた敵は確実に仕留めてきた。

 

 全ては出きる限りシャッフルシステムを秘密にし続けるためだ。

 

 だが、この間の戦闘で、とうとうシステムの概要を知ったダガーを逃がしてしまった。

 

 そこからバレてしまったのだろう。

 

 ただ、このようなフォーメーションを組むということは、能力が適用される最大範囲を連中が知らないから、と見ていい筈だ。

 

 知っていれば、システムが届かないギリギリの範囲からの集中砲火で攻撃してくるに決まっている。

 

 ガウルの強さは、カリスマ的な指揮能力と、シャッフルシステムに依存しており、戦闘スキルはドマンよりは多少上、目の前のダガーのパイロットと互角といった程度だ。

 

 基地の演習スペース模擬戦を積んで鍛えた至近距離での戦闘時や、前回での戦闘のような、シャッフルシステムに感染したMSを相手にするのであればともかく、ガウルの回避運動の技術は、ピケルやデュミナ、ソウのようなエースクラスのパイロットのそれと比べれば平凡極まりない。

 

 前述したような策を取られれば、――まして今のような一対多数での戦闘なら尚更――回避それほどが得意でないガウルはあっけなく撃ち落とされてしまうだろう。

 

 前線の2人が逃げ腰なのは、シャッフルシステムが発動されても生還できるようにするため、他のダガーが50m間隔で待機しているのはシステムの適用範囲を知るためだろう。

 

 これではシャッフルシステムに意味は無い。仮にここで発動しても、敵には全員逃げられ、次に戦闘があったらシャッフルシステムの範囲外――シャッフルから半径200m以上――から集中攻撃を食らい、終わるだけだ。

 

 ならば。

 

 それまで手近な木々に身を隠していたシャッフルは、重突撃銃を構え、木々から飛び出した。

 

 右側のストライクダガーへ、ろくに照準も合わせず連射。

 

 当たらない。弾丸はダガーの足元や周りの木々に穴を空けただけだ。

 

 だが、それで構わない。

 

 狙い通り、発砲されたダガーはシールドに身を隠し、防御に徹していた。

 

 ガウルは今の攻撃で倒す気など無く、単に速攻で相手の出鼻を挫こうとしただけだった。

 

 その隙に、シャッフルは開いていた左手で重斬刀を掴み、

 

「はあああぁぁ!」

 

もう一方のストライクダガーに突っ込み、切り掛かった。

 

 こうなったらもう、自力で何とかするしかない。いたずらにバッテリーを消費するシャッフルシステムは封印するしかない。

 

 迎え撃つストライクダガーは、意外にもそれに真っ向から立ち向かい、ビームサーベルを抜いた。

 

 ガウルの孤独な戦闘は始まったばかりだ。


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