AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

第16話 リターンマッチ

 

 

 7月1日 09:28 サンタレン基地から東へ約200先のアマゾン

 

「ギドー! お前は!俺が相手だ!」

 

 アルカナのバオウは、周囲の木々をなぎ倒し、ギドーのダガーを追い詰めて行く。

 

「ハッ!そういうことか!乗ってやるよ、テメェの策にな!」

 

 ギドーの レイダーストライカーを装備した105ダガー特装実験型 はバーニアの出力を最大にし、アルカナに追いたてられるがままに元の戦場を離れていく。

 

「た…隊長!」

 

 ストライクダガー隊の面々は、切迫した声でギドーに繋がる回線を開いた。

 

「浮き足立ってんじゃねぇ!ブリーフィングで言ったことくらいまだ憶えてんだろうが!俺がいねえからってガキみてえにピーピー弱気になってんじゃねぇぞ!

 

 オルマズド!あとはテメェが暴れたいようにやりやがれ!どうせ新しいオモチャをいじりたくてしかたねぇんだろ!?」

 

 通信の間、常にギドーは怒鳴りつづける。動揺する隊員に激を飛ばし、喝を入れる。

 

「…言われなくてもボクはボクの好きなようにやるさ。

 

 ボクはあのディンとドス黒いMSをやっつければいいんだったっけ。

 

 …今度こそやっつけてやる」

 

 敵意を剥き出しにしたリジョンは、空高くからこちらを狙っているディンに狙いを定めた。

 

 

 

「グゥルの調子はどうですか、デュミナさん」

 

「う〜ん?イイ感じよ。何ていうの?下界の民に思い馳せて〜って歌いたくなっちゃうくらい気持ちイイのね、空飛ぶのって」

 

「……。 ト○ガリ○ッズですか…」

 

 シャッフルとウォーリァーは、グゥルでアルカナ、アイズの後を追っていた。

 

 地上を進むよりは速いが、さすがにあの2機と併走できるほどのスピードはだせなかった。

 

「ドマン君には、可愛そうなことをしてしまいましたね」

 

『う〜ん。まぁ、あいつのボイスはそういうMSなんだから仕方ないでしょ。不機嫌だったらあとでテキトーになんか奢ってやればいいんじゃない?』

 

 これから戦地へ赴くにしては、不思議にリラックスした雰囲気。

 

 それは、これから始まる戦いの緊張をほぐすためでもある。

 

『ガウルさん、デュミナさん!早く来て!ダガー隊を押さえてください!』

 

 唐突に、ピケルの怒ったような通信が入ってきた。その声の限りでは、まだ余裕がありそうだった。

 

「もう少しだけ…いや、もう大丈夫、こちらも肉眼で君を確認した」

 

 ガウルはシャッフルのカメラアイからの画像で、地上から襲いかかるビームの雨とソーガの猛攻をひたすら回避し続けるディンの姿を確認できた。

 

「こちらデュミナ。あたしもよ。ご苦労さん、ピケル」

 

 そう言って、デュミナは口の両端を吊り上げた。憎悪と邪悪を含んだ笑みだ。

 

 ガウルも、ゆっくりと息を吐き出し、体の奥で唸るような息を吐き、精神を集中させる。

 

「…それでは、私達もはじめましょう。ピケル、援護は任せた」

 

「はい!」

 

 ツートーンカラーのシグーと、赤黒いゲイツは、グゥルに乗ったままでダガー隊に突撃した。

 

 

 

 

 戦闘の約50分前 『HEAVENLY−SANCTUARY』ブリーフィングルーム

 

 ブリーフィングルームは、騒然となっていた。

 

「…では、ギドーはソウ君、君が押さえると…?」

 

 無言でうなづくソウ。

 

 今回の作戦では、地球軍の最大の脅威であるギドーと、次いで強力なスカイグラスパーのパイロットを誰かが孤立させる必要があったのだが、そのギドーを誘う役にソウが立候補したのだ。

 

「しかし、彼は…」

 

 まだ不安そうなガウルの言葉を遮るように、ソウは口を開いた。

 

「わかってるよ。ギドーは強い。それは実際に戦った自分自身がよくわかっているつもりだ。

 

 だからこそ、俺はあいつを倒したい。

 

 俺のことを弱いとタカをくくった奴を許せる性格じゃ無いんだよ」

 

 今まで、ソウの内に秘められた激情を知らなかったパイロットの面々は、目を丸くしてソウの顔を眺めていた。

 

 いつもと変わらない、クールな表情だったが、彼の体からは戦いに臨む者が出す闘気が感じられた。

 

 ソウは、あまり人前で感情を表に出さないし、冷静さを欠くことも滅多に無い。

 

 だが、幼少の頃から、武術をハロルドに教わっていたソウは、喧嘩事にだけは絶対に負けないというプライドを持っていた。

 

 そのプライドをギドーに傷つけられた。その傷は、ギドーに自分が上だと認めさせない限り、塞がることは無いだろう。

 

「…そうですか。わかりました。では、ギドーを孤立させる役はソウ君に任せます。異論は無いですね?」

 

 ガウルは、パイロット達の顔を見まわした。

 

「まぁ…本人がやりたいって言うんなら、あたしは構わないわよ。あんたって結構強いみたいだし」

 

「少なくともオレよりはソウ君のが適任ッスね」

 

「ソウさん、頑張って下さいね」

 

 反対する者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 戦闘の約20分前 サンタレン基地

 

 レーダーは、レジスタンスの襲撃を事務的に、素早く知らせた。

 

 その知らせは、まずテリトリアルへ、そしてギドーへと伝わった。

 

 知らせを聞いたギドーは、誰にも聞こえないような小さい舌打ちをした。

 

(ハッ…レジスタンスめ。こうも早く準備を整えてくるとはな。

 

 こっちはまだパイロット達の養成も済みきって無ぇってのによ)

 

 パイロットの養成、ギドーがレジスタンスと接触した際にこれが必要だと痛感した。

 

 前回の戦闘では正直、ギドー自身がレジスタンスの戦力を甘く見ていたことも反省のひとつであったが、それ以上にパイロットの質が低すぎた。

 

 ビームライフルでの適切な射程距離のとり方、遮蔽物の有効利用、仲間との連携、

 

 どれもが不足し、戦闘どころではない新兵ばかりだった。

 

 最もその新兵達は先の戦闘でほとんどがやられ、今残っているパイロットは墜とされなかっただけの、それなりの腕を持っている。

 

 ある者は思慮深い冷静な行動、ある者は忠実にギドーとの連携に参加したし、元々才能があったり経験が豊富なパイロットもいた。

 

 畢竟するに、先の戦闘のおかげで図らずも優秀な人材を絞り込むことができたのだった。

 

 彼等をしっかりと鍛錬すれば、あるいは彼等だけでこの基地を守り通せるのではないか…?とも思え、ギドーの目前にも希望の光が垣間見えたものだった。

 

 しかし、今はまだ未完成だ。ようやくレジスタンスのMSの弱点と、そこを攻める為の初歩的な連携を教え始めたばかりだ。

 

 今のパイロットの錬度では、最悪墜とされることは無くとも、レジスタンスを倒すことは不可能だ。

 

 だから、ギドーはスクランブル直前の短時間でのブリーフィングで、これだけ言ったのだった。

 

 

 攻撃はしなくていい。とにかく避けて、防御しろ。あとは俺とオルマズドが片付ける。

 

 

 即ち、ダガー隊は全て囮ないしは足止めに徹しろ、ということだった。

 

 そして、それを踏まえたフォーメーションを設定し、とにかく生き残ることを最優先っするよう命じた。

 

 最も、これはギドーが隊員の命を案じての命令ではなかった。ギドーは、兵をボードゲームの駒のように扱いはしないが、だからといって情に厚いわけでもない。

 

 何しろ、今のサンタレン基地にはもうこれ以上のストライクダガーが無く、補充の頼りも望み薄なのだからもう1機でも欠くことはできない。

 

 必然的に負担の大きくなるリジョンは文句を言いたそうだったが、そんなこと気にしていられなかった。

 

 

 

 

 実際、ソウは作戦を順調にこなしていた。薄ら怖さを感じる程に。

 

 あまりに素直に事が運びすぎたことから、恐らくギドーはこちらの作戦を知り、それでもこちらの誘いに乗ったのだろう、とソウは思った。

 

 妙な胸騒ぎがする。何故奴はこうも簡単に隊から離れたのか。自分が居なくともストライクダガー隊が無事でいられる、そんな保険があるのだろうか。

 

 あるいは、自分など1人で片付けられるとでも思っているのかもしれない。

 

 だが同時に、それらを今考えても仕方の無い事だとも思った。

 

 向こうのことはガウル達に任せよう。今自分が考えることはギドーを倒すことだ。

 

 舐めてかかって来れば、手痛い一撃を加えてやろう。そう思うことにした。

 

 もうこのあたりでいいだろう、と納得できる距離を取り、ようやくアルカナはバオウを振るうのを止め、地面に降り立った。

 

 そこは、木々の生い茂る見通しの悪い鬱葱としたジャングルのど真ん中だった。

 

 ギドーの機体は見えない。だが、レーダーは近くに敵がいることを示していた。

 

 自分の真正面、約60m先。そこにギドーがいるはずだった。 

 

 刹那、コクピットの警報が唸る。

 

 その意味を理解する前にアルカナは横に飛んだ。

 

 警報が知らせたものの正体は、回避行動で失いかけたバランスを取り戻した後に知った。

 

 つい今までアルカナ立っていた場所の真後ろにあった木に、煙を噴出す穴が空いていた。

 

 その穴は貫通しており、ビームムライフルの攻撃だとすぐに理解できた。

 

「ハッ!避けたか!やるじゃねぇかよ、ええ?ソウ・クレスト!」

 

 アルカナに通信が入ってきた。

 

「ギドー…!」

 

 声の主の姿は見えなかったが、すぐ近くにいることは間違い無い。

 

「この一撃で決まるかとも思ったんだがな。ガキにしちゃあ、悪くない勘してるじゃねえかよ」

 

「そう簡単に当たるかよ。…アルカナを舐めるな」

 

 

「ハッ!その機体はアルカナっつうのか!」

 

 再び鳴り響くアラーム音。またロックされた。

 

「舐めるなとか言ったなぁ…なら」

 

 今度の攻撃は…

 

「こいつは避けられるか!?」

 

「! 上か!」

 

 ギドーは上空から、アルカナの頭部に狙いを定め、撃った。

 

 立て続けに三連射。

 

 ビームはアルカナのミラーフォースに遮られた。

 

 ダガーは間髪入れず、今度は両腰のビームサーベルを2本とも抜き取り、ダガーの眼前でクロスさせたままアルカナに突っ込む。

 

 アルカナは後ろへ跳躍。

 

 タッチの差でダガーの刃はそこの地面を切り裂くに留まる。

 

 追撃の頭部バルカン。

 

 これは木々に阻まれ、ろくなダメージにならない。

 

 ふとギドーが近づくと、今度は自分がアルカナを見失ったことに気がついた。

 

 だがレーダーにはまだ反応がある…

 

 そこで気付いた。

 

 7時の方向から、バオウで木々を切り裂き、猛烈なスピードでこちらに迫り来るアルカナに。

 

 PS装甲すら苦としないバオウにとって、熱帯雨林のひ弱な木など紙切れ同然である。

 

 一気に間合いを詰めたアルカナは左手のフェニックスを横薙ぎに振るう。

 

 ダガーはシールドで防御。

 

 剣と盾の鍔迫り合いとなった。

 

 剣に、盾にお互いの全力を注ぐ。

 

 空気が震え、大地がおののく。

 

 互いが互いを睨みつけ、辺りに他を寄せ付けない領域を創り出す。

 

 

「はぁぁぁ……はぁ!」

 

 出力で一日の長があるアルカナは渾身の力を込め、フェニックスを思いきり振るった。

 

「グッ…!クッソ!」

 

 バランスを崩したダガーはよろけ、一瞬無防備となった。

 

 その隙を、アルカナは逃がさない。

 

 重たいバオウとフェニックスを投げ捨て、本来その二振りの大剣が収まっているべき腰部のバインダーから2本のビームサーベルを取りだし、ギドーに迫った。

 

「ちぃっ…!させるかよ!」

 

 よろけたダガーは、しかし自ら地面を蹴り、地面に仰向けに平行になる。その状態で背中と脚裏のバーニアを全開に。ダガーは背中でホバリングをしつつ、猛スピードでその場を移動、密林の中に潜り込み、アルカナの攻撃から逃げおおせた。

 

 レイダーストライカー、GAT-333《レイダー制式仕様》の背部ユニットを、エールストライカーと合体させた、高機動型のストライカーだ。

 

 エールストライカーを凌ぐその出力は、重力下でもダガーは自由自在に飛行できる。

 

 今のように、自重を全て支えながら高速で動くことも可能だった。

 

 一旦距離を置き、体勢を立て直したギドーは反撃をしようとビームライフルを構えたところで気付いた。

 

 上空から一機のポッドがこちらに落下してきていることに。

 

(なんだありゃあ…?ザフトの降下用ポッドのようだが…)

 

 ソウも、そのポッドの存在に気付いていた。

 

(……?)

 

 やがてそのポッドを固定していたボルトが炸裂し、空中で解体される。

 

 そこから現れたのは4機のMSだった。

 

(ザフト…か?しかしなんでこんなところに、このタイミングで?)

 

 ギドーが何処の勢力なのかを考えていると、突如、空中から降下してきたMSの1機が、ギドーのレイダーストライカー・105ダガーにビームを撃ってきた。

 

「うおっ!?」

 

 とっさに上昇し、ビームの雨から逃げおおせる。

 

「…っの!一体何だってんだ!なんでザフトが今更、この地域に、しかもあんな少数で攻めこんで…ん?」

 

 ギドーは、こちらにビームライフルを撃ってきたアストレイタイプのMSの左肩に印されたエンブレムに気付いた。

 

 抽象的に描かれた黒い蠍のエンブレム。

 

(あれは…、そうか、あれが噂の傭兵部隊、《黒蠍》! 《虚空のハンター》か…!)

 

 伝説的な強敵が襲来してきたことを、ギドーは理解した。

 

 

 

 残りの3機のMSは、アルカナに集中攻撃をかけてきた。

 

 1機は以前宇宙で見たことのあるジンハイマニューバと同型のMS。両手には重機関銃をやや小型化したような銃器を装備している。カラーリングは多少変更されてあり、濃い緑色と茶色、黒色の幾種もの直線が重なり合った迷彩色に近い模様だった。

 

 残りの2機はジンのようだが、1機は両腕がデスメタルバンドの衣装のような有刺鉄線が撒き付いたような装飾がされた、メタリックシルバーのMS。

 

 もう1機は足が4脚、腕もMSの脚部のような太さで、背中に対となるキャノン砲を装備、手には杓丈のような杖を持ち、4本の脚部にはそれそれ1個ずつMSの脹脛ほどのバレルを装着した異形のMSだった。

 

 それら3機のMSは、それぞれの持つ射撃兵器でアルカナに攻撃をしてきた。

 

 アルカナは小刻みに進路を変え、ビームや弾丸を避けつづける。

 

 だが、敵の攻撃は非常に統率が取られており、空中にいたアルカナは3機のMSの降下と同じ速度で地上へと退かなければならなかった。

 

(あれは…ザフトか?いや、それよりも…この状況がまず過ぎる…)

 

 既にアルカナは地上に降ろされ、ミラーフォースを展開し防御に徹していた。ギドーがどうなっているのかを確認する暇もない。

 

その時、レーダーに反応が。全く予期せぬ方向から、敵機が接近している。

 

(このうえまだ…敵がくるのか!)

 

 その敵機は、地上から侵攻しているにしては非常に素早く攻めこんできた。

 

 予期せぬ地上の敵機からの熱源を確認。

 

 ビームライフルよりも破壊力の高いビーム砲の攻撃。

 

 咄嗟の判断で、アルカナはミラーフォースを捨て、真横に吹っ飛んだ。姿勢を崩し、転倒したアルカナは地面を転げ回った。

 

 一拍も置かずにアルカナがすぐさっきまでいた地点に二筋のビームが通過。

 

「っこの…!いきなりなんだ! …ギドー…、奴の増援か!?」

 

『ハアァァ!?違げーよ! あれは傭兵集団だ!』

 

「うぉ!? 回線、開きっぱなしだったのか…」

 

 ギドーに回線が開いたままだということを忘れていて、まさか聞かれていると思わなかったソウは、ギドーの反論に本気で驚いた。

 

 その間に、アルカナは崩れた体勢を立てなおし、反撃に移れる状態までになった。

 

「…傭兵? 傭兵がなんで俺を攻…」

 

 ソウが言おうとした言葉が最後まで言われることは無かった。

 

 後から今しがた、ビーム砲を撃ってきたMSがアルカナに襲いかかった。

 

 4本足の犬に似た形状のMS、バクゥだ。

 

 口にあたる個所には両側に伸びるビームサーベルがちょうど犬が棒をくわえるように装備されてあり、それが一直線にアルカナを捉えようとしていた。

 

「お前がさっきのビームの持ち主か…!」

 

 アルカナは軽いステップを踏み、そのリズムのままバクゥの頭を踏みつけ、上空後方へと飛んだ。

 

 しかし、そこにジンハイマニューバの両手に携えられた銃がこちらを狙う。

 

 発砲。それも1発や2発ではない、マシンガンの土砂降りの弾丸。

 

 狙いを定めた精密な射撃では無いが、命中率の高い攻撃。

 

 左右へ大きく旋回し、辛うじてその猛雨を掻い潜ったアルカナに、今度はメタリックシルバーのジンの刺付きの双鞭が待っていた。

 

 先刻のメタリックシルバーのジンの両腕の刺はただの飾りではない。本来は対MS用の鞭だ。

 

 アルカナを左右から挟みこむように打ちつけられる。

 

 既に、アルカナに退路は存在しなかった。

 

 下に降りればバクゥが牙を剥き、上空に逃れればジンハイマニューバの弾幕が振りかかる。後方には、いつの間にか先程の異形のジンが地面に降り立ち、背中のキャノン砲をこちらに向けている。

 

 そして今、動かなければすぐにあの鞭の一撃を食らうことに。

 

 駄目だ。避けきれない。

 

 

 

 そう思った時だった。

 

 

 

『邪魔してんじゃ……ねぇよクソヤロー共が!』

 

 奴の声が聞こえたと思った時には、黒蠍の陣形はあらかた崩されていた。

 

 105ダガー特装実験型は地上の重装備のジンにビームライフルで牽制しつつ、一気に飛翔、上昇。

 

 頭部バルカンとレイダーストライカー固定装備のガトリングでジンハイマニューバにちょっかいを出しながら双鞭のジンに跳び蹴りを浴びせた。

 

 ジンを蹴った勢いで、ダガーはアルカナにビームサーベルを振り上げ、突進してくる。

 

『ハァ!そいつは俺が墜とす機体なんだよ!ポッと出のテメェ等が遊んでいいオモチャじゃねぇ!』

 

 陣形が崩れ、アルカナはビームサーベルを構え、ギドーのダガーへ飛び出した。

 

 アルカナが横薙ぎ、ダガーが打ち下ろそうとした瞬間――

 

 ソウの目の前にいたダガーが横殴りの強い力に吹き飛ばされた。

 

 空中にいたダガーは、その衝撃でバランスを崩した。

 

 

 

「ぐ…ああ…! っつぅ…、なんだ、今のは!」

 

 辛うじて空中にいる間に姿勢を安定させたギドーが確認したのは、先程自分にビームライフルを向けてきたMS、M1アストレイだった。

 

 背中には長時間飛行が可能なフライトパックが装備され、腰には刃渡りはおよそ10mはあろうかという細身の長剣――というよりもサーベルに近かった――がバインドされていた。

 

 今の衝撃はあのMSが体当たりをしたからだった。

 

『フッ、どうもお久しぶりです、ギドー曹長』

 

 105ダガーの回線に気取ったような、どこか他人を見下すような口調の声が入ってきた。

 

 だが、ギドーはその声が誰だか思い出せないでいた。

 

 曹長時代のギドーを知る人間は多く、今の声だけではわからなかった。

 

「ああ?誰だテメェ…」

 

『フッ、頭が弱いのは相変わらず、ですか。 

 

 《旋律の貴公子》と言えばお分かりですかな?』

 

 旋律の貴公子、その二つ名を聞き、ようやくギドーはM1のパイロットの顔を思い出した。

 

「…ハッ。そうか…クリフ曹長…か、テメェは」

 

 

 

 旋律の貴公子。

 

 以前ギドーが所属していた艦隊のメビウス部隊に、唯一、近距離戦闘用に、メビウスの左右フレームしたジンの腕部にエッジをつけて改造したロボットアームを装備させたパイロットがいた。

 

 パイロットの名はクリフ=メキュールといった。

 

 クリフは、ロボットアームによってメビウスとは思えない強さを見せていた。

ジンとタイマンを張れる機体など、ガンバレルを装備しているメビウス0と彼の改造メビウスくらいであった。

 

 戦闘時に見せるロボットアームを使った優雅な動きは、まるでバレエか新体操を連想させ、常に一定のリズムで敵を墜とす、リズミカルな戦いだった。

 

 《旋律の貴公子》とは、この頃から呼ばれていた。

 

  ギドーとクリフは、共に同艦隊のメビウス小隊の小隊長であった経歴を持つ。お互いがお互いを知ったのはこの時だった。

 

 最も、名前とその武勇伝を軽く知っている程度であまり接点は無かったが、実際に何度か顔を合わせたり、共同作戦を行ったこともあった。

 

 その後、ギドーは地上の作戦に当たるため地球へ。以来、クリフのことは聞いていなかったが…。

 

 それが、今になり、しかも敵味方に別れて再び相間見える時がくるとは。

 

 

 

『ご名答。最も、今の私に曹長などという階級はありませんが。

 さて、ではあなたはもう帰ってもよろしい。そのMS…アルカナとか言いましたか。それは私共が始末します』

 

 M1は、ビームサーベルを構え臨戦体勢を取っているアルカナを指差した。

 

「ハッ! テメェも相当馬鹿なんじゃねぇか!? 言っただろ!そいつは俺の獲物だ!」 

 

ギドーはバーニアを全開にし、M1に突っ込んだ。ビームサーベルを持った右腕を伸ばし、光の刃を突きたてんばかりに突進する。

 

『フッ…』

 

 回線から人を侮蔑するような鼻笑いが聞こえた。 M1は、ビームライフルを腰のバインダーに固定し、もうひとつの武器である長剣を手に取った。

 

「ハッ! 実体剣なんざ!ビームサーベルに通用するか!」

 

 ギドーのダガーが持つビームサーベルの切っ先は、確かにM1のコクピットを貫いた―――はずだった。

 

 だが、M1は手にした長剣を手首のスナップのみで横に振り、そこから1歩も動かずにビームサーベルを弾いた。

 

「うぉ!?」

 

 まさか。重斬刀や対艦刀はビームサーベルの餌食になるのがセオリーだというのに…。

 

 突撃攻撃を避わされ、勢い余ったダガーは再度バランスを崩し、致命的な隙――それでも並みのパイロット相手なら些細なものだったが――をクリフに与えてしまった。

 

『やれやれ…。腕がなまりましたか? 《三つ目の凶獣》ともあろうあなたが。それは残念だ…死んでいただこう』

 

 無防備なダガーに、殺意の剣が迫った。


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