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第15話 反撃準備

 

 

6月29日 21:24

『HEAVENLY−SANCTUARY』格納庫

 

「ビームサーベルねぇ…。ちょっとここの規模じゃ無理だなぁ…。パーツも無いし」

 

 テイヴァは渋面を浮かばせ、ソウに告げた。

 

「ミラーフォースから部品を流用する…という方法は?」

 

「ミラーフォースを流用って、お前簡単に言うけどなぁ、あんな複雑なモンどうやっていじれってんだよ。

 

 …そりゃ確かに、ミラーフォースのビーム発生ユニットならアルカナの電力に耐えられるだろうし、部品も、コネクターが無いけどバオウを解体していいってんなら無理じゃ無いだろうけどな。

 

 けどな、それでもし、バオウが使い物にならなくなってビームサーベルも完成できなかったらどうするんだよ」

 

「……冒険はできない、か…」

 

 ソウはため息をつきながら頭を浅く垂らした。

 

 今朝の戦闘で、ソウは1つの確信を持った。

 

 バオウやフェニックスではギドーの機体の運動性に追いつけなくなるであろう、ということ。

 

 元々、アルカナの大剣は重量を感じない宇宙空間での使用を主としており、重力下ではその威力を遺憾無く発揮することは難しい。

 

 それでも普通のMSよりも腕力のあるアルカナなら、一般兵のMS相手なら気にするほどでもなかったのだが、ギドー相手ではそうもいかない。

 

 それを解決する答えがビームサーベルの装備、だったのだが…たった今、その選択肢も消えてしまった。

 

(どうしよう…いっそ重斬刀を装備しようか…)

 

 ソウが床を見つめ、口元を片手で隠して代案を模索していた時、MS出入り口の方からトラックのエンジンらしきディーゼル音が聞こえた。

 

 

 

同時刻 『HEAVENLY-SANCTUARY』 談話室

 

「で、敵MSが3―J14エリア…ここッスね。起爆式の地雷が仕掛けてあるッス。だからマップ3で戦闘する時はとりあえず敵をここにおびき寄せたいンスよ」

 

 ドマンは手元の、基地周辺の地図を広げ、その3―J14エリアをアルナが判るように指差した。

 

「はぁ…なるほど…」

 

 アルナもドマンの指差す場所を凝視し、その場所を懸命に覚えようとしている。

 

 今、ドマンは基地周辺の防衛施設をアルナに説明していたのだった。

 

 地球軍が直接、『HEAVENLY-SANCTUARY』の基地を叩こうとしないのは、周囲が木々で覆われ、MSでの進行が困難であることや、レジスタンスのMSが強力であることも理由の一つだが、最大の理由は基地周辺に様様なトラップが仕掛けられているからだ。

 

 以前、地球軍はMSや戦闘車両での基地への侵攻を試みたことがあるが、悉く基地周辺の密林に隠された地雷や隠し機関銃、迎撃ミサイルの餌食となった。

 

 それらは基地の建築工事と同時並行で進められたものであり、それだけでかなりの防衛力を誇る。

 

 しかし、その罠の数は相当なものであり、その種類もミサイルから地雷、煙幕などと多彩であり、それらを全て把握している者はレジスタンス内でもほとんどいない。

 

 唯一、それら罠の設置場所を全て把握しているのがドマンなのだ。

 

 ガウルやデュミナのようなコーディネーターでも、ましてピケルのようなブーステッドマンでもないドマンが、この基地でMSを操縦することのできる理由がここにある。

 

 ドマンのMS、ボイスは、基地周辺に仕掛けられた罠を発動させることができる唯一のMSだ。

 

 その機能を生かし、ドマンは技量やMS性能が上の地球軍を相手に優位に戦うことができる。

 

 技量自体は他の3人に劣るが、それを補う知識と気転で、彼は地球軍と渡り合っているのだった。

 

 ただ、このシステムには重大な欠陥がある。

 

 構造上、基地周辺の罠は皆ドマンが動かすことになり、予期せぬ方向からの襲撃をオペレーターが察知した場合、その情報をドマンに送り、彼が発動させるという流れになる。

 

 しかし、ドマン自身が眼前の戦闘に没頭し、その通信を把握しきれないことも有り得る。

 

 その時でも仕掛けを有効に使えるようにするために、ドマンはオペレーターのアルナに罠や周囲の地形を把握させ、同時に、MSと罠を併用する戦術を指南していたのだった。

 

「あと、なるべくこっちのユニットが3―G8から3―G12辺りに寄らないように誘導して欲しいッス」

 

 ドマンが指差した場所は、アマゾン川の水が分岐し、水が溜まり沼のような状態になっているところだった。

 

「なんで?」

 

「ここら一帯は沼地なんスけど、毒蛙の住みかになっているッス。

一度、その事を知らないでMSがこのエリアに入っちゃったことがあるらしいんスけど、その後基地に戻ってきたMSにその蛙が脚部の隙間に入りこんだまま基地に入っちゃって、整備どころじゃなかったらしいッス。だから、ここにはあまり入りたくないんスよ。

 

 ……まぁ、ここに行くのもやむを得ない状況もあるかもしれないッスけど」

 

「へぇ〜、そうなんだ」

 

 ドマンの説明を、アルナは逐一ノートに書き綴っていった。

 

「ふぅ…とりあえずマップ3の説明はこんなモンッスかね。一旦休憩にするッスか?」

 

 凝りを取ろうと肩を大きく回しながらドマンはすぐ後のソファーに座りこんだ。

 

「え?あ、うん。いいよ」

 

 アルナも、小さいため息をついて集中を解いた。

 

「それにしてもアルナさん飲みこみが速いッスね〜。教えるのが楽ッスよ」

 

「え〜、そんなことないよ。罠の数多いし、戦術とかって難しいし」

 

「大丈夫ッスよ。今のペースでいけばかなり使いこなせるようになるッス。

 

 あ、俺コーヒー飲むけどアルナさんはどうッスか?」

 

 ドマンは立ちあがり、談話室の隅にあるコーヒーメーカーに向かった。

 

「あ、じゃあお願いね」

 

「ういッス」 

 

 コーヒーメーカーに抽出用のコーヒー粉末を入れる。

 

 その作業を休めずに、ドマンはアルナに話し掛けた。

 

「ソウ君…とアルナさんもか。2人とも地球軍の襲撃で親を亡くしているんスよね」

 

「…うん」

 

 アルナはその時の惨劇を思い出し、うつむいた。

 

 ドマンも、こんな暗い話はしないほうが…?とは思ったが、あえてさらに続けた。

 

「だから戦うんスかね、ソウ君は」

 

「…え?」

 

「やっぱり復讐、なんスかね、南アメリカ合衆国の人間じゃないソウ君がこのレジスタンスに協力してるのって」

 

「違うと思う…」

 

 アルナは本心からそう答えた。

 

「違うんスか?」

 

「わからない。でも、あいつは復讐とか、そういうのが嫌いな子だから。なんかね、ソウが尊敬する人がそう言ったんだって」

 

 アルナは、ソウが以前何かのきっかけでそう言っていたことを思い出した。アルナはその人物の顔も名前も知らない。ただ、その人物がソウに大きな影響を与えていたのだろうということまでは想像していた。

 

「…じゃあソウ君はなんで戦ってるんスかね」

 

 こう言っていても、別段ドマンはソウが気に入らなくてそう言っているわけでは無かった。

 

 なんとなく、彼はアルナにシンパシーのような物を感じていた。

 

 幼馴染みが復讐のために戦っている、それは、自分にとって辛い。アルナもそうなのかもしれない、と思っていたからだった。

 

 無論、そんなことはわからないアルナは、ドマンの態度に少し不信感を持った。

 

「じゃあ…ドマン君、って呼べばいいのかな?」

 

「いいッスよ。何スか?」

 

 ドマンは背を向けたまま返事を返した。

 

「ええと…じゃあ、何でドマン君は戦うの?」

 

「……そうッスね。……まぁ、黙って見ていられなくなったから…ってところッスかね」

 

 答えている途中にコーヒーを入れ終えたドマンはコーヒーカップを2個持ってソファに座った。

 

 カップからは、砂糖もミルクもないコーヒー独特の、上品な香りが込み上げてくる。

 

「見ていられなくなった…」

 

「幼馴染みが、ズタズタにされた妹の復讐のために戦っているンす。なんだか、その人が可愛そうで見ていてやりきれなくて。せめて、その人の傍にいて見守ってあげたいな、って思って、ってところッスね」

 

 答えてながら、ドマンはその幼馴染みを思い出していた。

 

 普段はいつもと変わらない姉御肌な性格を演じているのだが、1人きりになると首にかけているロケットの妹の写真をいとおしむように微笑みながら見るのをドマンは何度も見かけていた。

 

 その時の彼女の表情がどれほど痛々しいことか。

 

 結局、彼女はいくらストライクダガーを破壊し、踏みにじり、潰しても、その武勇は決して彼女の心の傷を埋めることはできないのだ。

 

 ならせめて、自分は彼女の演技の共演者になってやりたい。それで一時的にも悲しみを忘れられるのなら。

 

 彼女の妹――ドマンが密かに憧れていた女性も、それを喜んでくれると思う。例えその女性がもう変わり果てていても。

 

 

「おい!ドーマーン! いつまでボケッっとしてんの!」

 

 意識が元にもどった瞬間、ついいましがたまで考えていた顔がすぐ眼前でドマンを睨んでいた。

 

「うわぁ…うわあああ!デュ、デュミ姐…」

 

 驚きのあまりにドマンは座っていたソファから落ちそうになった。

 

「…ったく、話し掛けて全っ然反応しないんだから…何考えてたのよ、アルナちゃんほったらかしにして」

 

 見ると、確かにアルナはこちらをキョトンとした目で見たままだった。

 

「ふっ…何を考えていたって、そんなこと、男が可愛い女の子と一緒の部屋にいたら考えることはただ一つッス! ズバリ!どうやったらこの子と今夜…」

 

 派手な効果音と共にデュミナとアルナの合体攻撃ダ○ルゲ○ガンフ○アが炸裂した。

 

「グホォォォ!エ…エス○バリス…スか…」

 

 無駄にかっこいいうめき声を漏らし、その場に伏せながらも、彼はツッコミを忘れなかった。

 

「はぁぁ…まったくアンタはどこまでこう…アレなんだか…ってこんなことしてる場合じゃなくて…

 

 そうそう、ドリーちゃんが帰ってきたわよ!しかもコンテナ付きで!」

 

「ええ!マジッスか!こんなところでかっこよく倒れてる場合じゃないじゃないッスか!

 

 早く行くッスよ!ほら、アルナさんも!」

 

 「あ、アルナちゃんは一番前ね。真ん中だと下半身直結男がいつ襲ってくるかわからないから」

 

 デュミナはアルナを自分の前に勧めた。

 

「大丈夫ですよ。その時は顔面に裏拳の一つでも入れてやりますから」

 

 アルナは以前ソウにかました一撃を再現するかのように腕を振った。

 

「…ひどいッス」

 

 結局、ドマンは最後尾のままで、3人は談話室を足早に後にした。

 

 

 

 ドリアードは『HEAVENLY−SANCTUARY』に多額の金額を投資している。

 

 その結果、このレジスタンスは量産機の改造版ながらもMSという強力な兵器を手に入れ、そのMSを有効に運用するためのこのような基地まで所持することになったのだ。

 

 最も、戦争に必要なのは兵器だけではない。弾薬や燃料、基地の維持費、MSの修理に使う資材も必要だ。このレジスタンスはメンバーの食事も支給してるのでその費用も必要となる。

 

 それら諸々に掛かる経費のため、ドリアードは今もコネを駆使して金策を実らせているのだ。

 

 そうして集めた資金から必要な経費を抜いて余った金額で買える新たな『何か』を持ってくるのだった。

 

 ある時は某社で製作された不可思議な特殊兵装であったり(ちなみにその特殊兵装は若干形を変え、今はウオーリァーの《ギルティア》となっている)、ある時はジャンク屋から格安で購入されたMSだったり。

 

 それはレジスタンスのメンバーのひとつの楽しみにもなっていた。

 

 

 

 デュミナがダッシュして格納庫に来た時には既にソウ達のMSの手によって格納庫にコンテナが搬入され終え、もうコンテナが開けられていた。

 

「遅れてゴメンね〜! あれ、もうコンテナ無いんだ…ていうか、もう開けちゃたのね…」

 

 恨めしそうにデュミナは言う。

 

「デュミナさん、ずるいです〜。ドマンさん呼んで来るって言って、結局搬入さぼりたかったんじゃないですか〜」

 

 口を尖らせてピケルは抗議した。

 

 デュミナにドマンとアルナの冷たい視線が刺さる。

 

「あ…あははは…ごめんね〜、いや、でも誰かが行かなきゃ…はい、すみませんでした」

 

 何とか言い訳をしようとしたが、周囲の冷たい視線に負け、素直に謝った。

 

「ドマン君の欲しがっていたものもありますよ」

 

「え、俺がッスか?」

 

 ガウルが指差す方向にあったのは、2つのコンテナだった。既にその観音開きの扉は開けられており、そこから見えたものは…

 

「おお!グゥルッスか!」

 

「え、ググる?」

 

「アルナちゃん、ネットのやりすぎよ」

 

「はい。ジャンク屋から格安で譲り受けられましたので。ただ、残念なことに買えたのは2機だけでした。…ご期待に沿えきれず、すみません…」

 

 ガウルのすぐ傍にいたドリアードが答えた。

 

 彼女の物言いは、何か重大な失敗の謝罪のように覇気が感じられなかった。

 

「え?…あ、あ〜いやいや、本当うれしいッスよ!これでもっと早く移動できるッスね!」

 

 ドリアードをなだめるように、ドマンはできる限りの明るい口調で慰めた。

 

 …何となくガウルの視線が気になったが彼は無視することにした。

 

「ん?あっちのコンテナは何?グゥルの入ってるやつより随分と大きいけど」

 

 デュミナは少し離れた所にあるコンエナを指差した。

 

 そのコンテナは扉は開いているがこちら側からは見えない。

 

「あれ…?あそこにいるのってソウ君ッスよね?」

 

 ドマンはそのコンテナの観音開きの扉の前でつっ立っているソウを見つけた。

 

 

 

  ソウの見据える先――コンテナの中には漆黒の大剣バオウと白金の刃を持つフェニックス、更にアルカナの予備パーツと思われるものがいくつかあった。

 

「……」

 

 妙な不安がソウを襲った。

 

 この2本の大剣はアルカナ固有の装備だとうことは、アルカナのデータを見てわかっていることだ。

 

 ということは、イリュージョン社からこれらを入手したということになる。

 

 そして、そのイリュージョン社から逃げてきた自分を彼等が放っておかないという保証もない。 

 

 ならば、あの会社とコネクションのあるこの組織は果たして本当に安全なのだろうか。

 

 …いや、仮にここが危険で、速やかに立ち去るべき場所だったとして、他に何処に行けばいいのだろうか。

 

 もう自分には住む家も何も無いのに。

 

 アルカナでアルナと一緒に目的も何も無いまま、戦争が終わるまであちこちを逃げ続けるか? …とても無理だ。アルカナに乗って逃げている途中で何かしらの勢力に発見されるのは間違い無い。その後は――

 

「おいソウ!聞いてんのかよ!おいクルァ!」

 

 ソウの黄昏を打ち破る声が。テイヴァの怒気を孕んだ叫び声だった。

 

「…ん、あ、ああ。悪い、なんだって?」

 

 ソウの声はまだ、何処か呆けた感じ、意識ここに在らず、といった体裁だ。

 

「ホンットになんも聞いてなかったのかよ…。だから、バオウに余裕ができたんならビームサーベル製作してみてもいいんじゃねえのか、って言ってんだよ」

 

「ああ…そうか…なら早速ミラーフォースをいじって…」

 

「その必要は無いと思います」

 

 のろのろと動き出したソウを呼びとめたのはドリアードだった。

 

「……? どういうこと…ですか?」

 

 やはり彼女の前では敬語調になってしまう。調子が狂う。

 

「要はビームサーベルがあればよろしいのですよね。コンテナに《ラケルタ・ビームサーベル》というものが有るはずですから、それを殆どそのまま使えるはずです」

 

「……。本当になんでも用意するんですね、あなたは…うぉ?」

 

 冷静なツッコミを入れるソウを押しのけ、過敏に反応したのは機械マニアのティヴァだった。

 

「はぁ!? ラケルタも?あの《フリーダム》、《ジャスティス》に装備されてるあのラケルタ!? ちょ…ちょっといじらせて!どこ!どこにあんのそれ!」

 

 鼻息荒く、ドリーアドの両肩を掴んでゆすりながら迫りかかるティヴァ(興奮状態)。その剣幕はドリアードでさえ困ったようで、間もなく、ガウルとドマンになだめられるようにして連れ出されて行った。

 

 ともかく、これであのギドーとの勝負にも明るみが増して行った。

 

 彼の心は、どこか復讐に似た向上心に覆われていた。

 

 

 

6月30日 03:34(標準時) ヴェサリウス級戦艦《クルムス》発令室

 

 美しく輝く地球が見える。

 

 地表の、約70%を覆う鮮やかなライトブルー、細切れに点在する柔らかいホワイト。

 

 地表の多くは緑色だが、各所にある黄色――砂漠地帯だ――も不思議な魅力がある。

 

 その輝きはいくつもの輝かしい宝石を贅沢なほどに重ね合わせて作ったかのようだ。

 

その星を1人の男が眺めていた。

 

 男は頬骨が見えるほど痩せており、眼鏡の裏に潜む瞳は、蜥蜴か蛇のようだ。

 

「ふっ、やはり地球は美しい。あの無粋な砂時計などに住むような人種が、我等以上の優良種であるわけがない」

 

 すると隣にいた女が切り返す。10代の小娘では絶対に持ち得ない、歳を重ねた女性が持てる艶を持った女性だ。

 

「何を言っているんだい。『宇宙から見ても綺麗』じゃなくて『宇宙から見た時だけ綺麗』の間違いだろ。一旦降りれば、不衛生だわ、変な生き物はいるわ、天気は一定じゃないわ、まったく人間の住むところとは思えないよ」

 

 プラントで産まれ育った彼女には、男の発言が気に入らなかったようだ。

 

 すると男はしかめっ面を作り、反撃した。

 

「ふん、何もかも管理され無ければ自分達で生きていくこともできないのか、コーディネーターは。まったく、養豚場の豚と何一つ変わらないな。…いや、食べられるだけ豚のほうがましか?」

 

 その物言いに、女は露骨に怒りを露わにし、辛辣な言葉を繰り出した。

 

「へぇ、言ってくれるじゃない、野蛮なナチュラルが。大体アンタ達ナチュラルは――」

 

 そこに、割って入ってくる声があった。

 

「け…けんかは…いけないんだな…」

 

 声の主は、2mを軽く越す大男であり、ヘビー級のプロレスラーを彷彿とさせる体格を持っていたが、その屈強な外見からは想像できないようなおどおどした言い方だった。

 

「ああ? あんたは関係無いんだから、とっとと消えな!この役立たずが!」

 

「そうだ。貴様如きのような無能な者が私の行動を止められようはずもない」

 

「うう…」

 

 喧嘩を止めるはずが、逆に攻撃対象にされてしまった。

 

「そこまでだ、クリフ、ミーネ」

 

 第三者、しかも自分達よりも立場が上の者の介入により、この喧嘩は終わりとなった。

 

「あらぁ、団長。それでフィルモスは何と言ったのですか」

 

 ミーネと呼ばれた女は、先程とは打って変わって優しい、どこか媚を売るような甘い声でルーグに言った。

 

「ああ。依頼内容の変更を告げてきた」

 

「ふん…あのネクラ顔め、何様のつもりで我等に物を言ってくるのだか…」

 

 フィルモスのことを嫌っている男――クリフという名前のようだ――は、先刻と同じような、刺々しい物言いでぼやく。

 

「クリフ、傭兵が雇い主の要望に可能な限り答えるのは当然のことだ。

 

 …それに、その変更のおかげで我々は仕事を達成しやすくなったのだぞ」

 

 ルーグは安堵ともとれそうな微笑を浮かべて言った。

 

「ほぅ、それは、いったいどういうことですかな、団長殿?」

 

 クリフは、なぜ自分のボスの機嫌が妙にいいのか、探ってみたくなった。

 

 ルーグ=スコルビオ、傭兵集団『黒蠍』のリーダーであり、かつてザフトにいた頃は、たった1人で地球軍のMA部隊に悟られずに接近し、奇襲、見事壊滅的なダメージを与え、『虚空のハンター』などと呼ばれたほどのエースパイロットだった。

 

 それが、どう流れて今のような傭兵稼業をしているかを知る人はごくごく少ない。

 

 クリフの問いに、そのハンターは微笑を崩さぬまま、左眼の眼帯をさすり、言った。

 

「依頼内容の難易度が下がったのだよ」

 

「難易度…?」

 

「アルカナのパイロットを生け捕る必要がなくなった」

 

「…ほう?それはまた、どういうことで?」

 

「詳しくは聞かされなかったがな。彼がそう言ってくるということは…そのパイロットの価値が無くなった、ということだろう」

 

 クリフの脳裏には、おぼろげにルーグの機嫌の理由がわかってきた。

 

「…では、私等はあのような面倒な作戦を無視してよい…と?」

 

「そういうことだ。潜り込んでいるチックにも伝えろ。『次の出撃時を強襲する。戦闘の用意を怠るな』。 さぁ野郎共、支度にかかれ!」

 

 『黒蠍』の母艦、クルムスの発令室は活気に沸いた。 



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