AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

第14話 新たな牙

 

サンタレン基地、士官居住区の一室

 

 

 報告書作成のため、ギドーは苦手なデスクワークに取りかかっていた。

 

 まずは先刻に受け取ったダガーのパイロット達の報告書のチェックをする。

 

 基本的な誤字脱字、意味の不明な文章の有無、他のパイロットの報告書との矛盾点、その他報告書として不適切な箇所等を探す何ともつまらない作業だ。

 

「ったく、MSの指揮が執れるっつてもこういう仕事も回ってくるのは勘弁だよな…

あ、ここスペル間違ってるしよおぉぉぉ!」

 

 ただ、この作業もたまにおもしろい発見があったりする。

 

 レジスタンスの3機の陸戦型MSと交戦をし、生き残ったパイロットの報告書が、ギドーの興味を引いた。

 

「…ハッ。レジスタンスってのは、妙なモノを持っているモンだな」

 

 そこには、レジスタンスのシグーとの戦闘が事細かに説明されていた。

 

 何でも、そのシグーは戦闘中に認識がその他のザフトのMSの識別にランダムに入れ替わるということだ。

 

 昨日、ギドーが徹夜で調べたのは一目で強さがわかったディンとゲイツ、そしてあの憎きソウがパイロットの青いデコッパチなMSだけだった。

 

 前日の徹夜が祟って問題のシグーやジンの映像を見ている間に眠ってしまったのだった。

 

 ギドーが起きたのは翌日の昼間だった。昨日と同じ服装だった。

 

 その日も忙しく、基地のパイロットへ自分が新たな隊長となったことの簡単な挨拶、テリトリアルから渡された作戦の書類の修正等の理由で続きの映像を見る暇が無かったのだ。

 

 ところで、テリトリアルから渡された作戦原案は恐らくテリトリアル達基地の上層部とここの士官クラスのパイロット達によって組まれたのだろうと思われた。

 

 だがテリトリアル達の影響で教本通りの柔軟性が少なく、パイロット達のせいでMSの性能を理解していない間抜けな作戦内容となっていた。

 

 とてもではないがそのまま作戦を実行することはできなかった。

 

 ギドーが手を加えたのも仕方の無いことだった。 

 

 パイロット達は『三つ目の凶獣』の異名を持つギドーを畏敬の対象で見ていたので、まだ反発は少なかった。

 

 しかし、古株連中のテリトリアル達はそうではない。

 

 生え抜きの若造に自分達が考えた作戦を否定されたのが面白くなかったようで、ギドーの作戦にあれこれと難癖をつけてきたりチクチクと嫌味を言ってきた。

 

 とはいえ、ギドーが肌で感じた前線の経験や、テリトリアルから渡された映像ディスクの感想から考えれば、まず間違い無くその作戦が上手くいくわけが無いと予想できたので、何とか説得して半ば強引ながらも自分の案を通した。

 

 その作戦も何事も無く進めばよかったのだが、レジスタンスに輸送船《アルニタク》を墜とされ、それに搭載されていた30機近くのストライクダガーが消え、更に元々基地にあった13機のストライクダガーとそのパイロットも失っては、テリトリアルからの嫌味小言はまず間違い無く避けられない。

 

 それを考えるとテリトリアルと会うのは本当に嫌なことだった。

 

 まぁそれはそれはともかく。

 

 このパイロットの証言は貴重なものだ。

 

 これが本当なら厄介な相手だ。早急に対策を考えなければならない。

 

 少なくとも、あのシグーを含めたレジスタンスのMS達が6機の防戦型フォーメーションで戦っていた時にはその現象が確認できなかったということは、その特殊兵装は絶えず起動させられるわけではないということだろう。

 

 また、そのダガーとシグーが戦闘していた時は、ギドーのダガーは何の問題も無く動いていたことから、その兵装には射程があり、それはそう長いものではないということもわかる。

 

 発動できる『条件』と『範囲』がわかれば、何かしらの対策が講じられるかもしれない。

 

 ギドーの考えはとりあえずそこまでだった。それ以降の具体的な研究や対策は、今やることではない。

 

「…それにしても」

 

 ギドーはそのシグーの特殊な能力について書かれた報告書を眺めながら、

 

「こんなにわかりやすくて読みやすい報告書って珍しいよな…」

 

 と呟いた。

 

 実際、その報告書がしっかりと書かれているから、ギドーも今のように敵の能力の予想ができたのだった。

 

 その報告書の作成者の名前を覚えておこうと思う程だった。

 

 次の報告書を手に取った。

 

  目を通した瞬間、ギドーの目がクワッと見開かれた。

 

「あんのクソガキャァァァ!」

 

  叫びながらガタリと立ち上がり、肩を怒らせながらいきり立って自分の部屋から出ていった。

 

 

 

「オルマズド!テメェ!なんだこりゃあ!」

 

  リジョンの個室のドアを蹴り飛ばし、ギドーがドカドカと入ってきた。

 

 しかし、リジョンはギドーが部屋に入ってきた時からずっとドアに背を向けたまま、

 

「静かにしてて!」

 

と、ギドーを一喝した。

 

 その態度にギドーの怒りのボルテージが一瞬グンと上がったが、彼女の背中姿は

何やら真剣に何かの作業をしているようだったので、とりあえずギドーはそれ以上怒鳴るのをやめた。

 

  こちらに背を向けながら、黙々と作業をしているリジョン。それをギドーは、背中を近くの壁に寄り掛かけて腕組しながら黙って眺めていた。

 

 ややあって、

 

「出来た!」

 

  リジョンの嬉しそうな声が聞こえた。

 

  …『出来た』って言ったってことは何か作っていたということか…?

 

「おい、何作っていたんたよ」

 

  リジョンの肩越しから首を突き出して覗き込むギドー。

 

  彼の目に映ったのは、リジョンの幼い指に複雑に絡み合った毛糸の紐だった。

 

「…なんだ、これ…?」

 

「ストライクダガーの頭部」

 

 どこか得意気な声でリジョンが答えた。

 

  なるほど、リジョンは創作あやとりにでも興じていたのだろう。確かに言われれば、ダガーのヘッドフレームに見える。

 

 そしてこの辺りがバイザーアイで、ここがセンサーで…

 

 …って、ちょっと待てコラアァァ!

 

「…まさかテメェ、さっき俺を怒鳴ったのは…これを作っていたからか…?」

 

 わなわなと肩を震わせ、押し殺した声で尋ねると、

 

「? そうだけど」

 

 ギドーの頭の中で、『何か』が弾けた。

 

 それは、《SEED》だの《DUEL》だのといったものではなく、強いて言うなら『堪忍袋の緒』とでも言うべきものだった。

 

 

「ハアァァ!?ふざけるな!ンなモン作る暇があんならまずテメェの仕事をしてからにしやがれ!」

 

 ギドーはいきり立って彼が手にしていたものを彼女の目の前に突き付けた。

 

 それは、リジョン・オルマズドが書いた報告書だった。

 

リジョンはその仮面に覆われた顔を怒り狂ったギドーに向けた。何となく、『何をコイツは怒っているんだろう』とでも言いたそうな雰囲気だ。

 

「何だこのレポートは!こんな文章で誰に渡せるんだ!」

 

「…ちゃんと書いたよ」

 

「どこがだ!

 

『きょうは  れじすたんすとたたかった。

 

僕は へんないろの  ディンとたたかった。

 

ちょこまかとうごいて  いやだった。

 

せんとうきでは  もうあいつと  たたかいたくないなと  おもいました。

 

おわり』

 

なんて文章でいいワケ無ぇだろうが!」

 

ギドーはオーバーリアクションとノリツッコミを駆使して散々に怒りをぶちまけた。案外、ギドーはお笑い芸人としても成功するかもしれない。

 

リジョンは、自分の報告書と怒り心頭のギドーの顔を交互に見比べ

 

「…これじゃ駄目なの?」

 

「駄目に決まってるだろうが!なんだこのガキの絵日記みたいな――…」

 

 そこまで怒鳴って、ギドーは気付いた。

 

 ああ、こいつもガキだったんだ。

 

 それならまぁ仕方ないか。だって所詮ガキなんだから。まともな報告書など書けるわけが無いのも仕方ない。ガキなんだから。フフフフ。

 

「ハッ。まぁお子ちゃまにはまだ無理か。しょうがねぇよなぁ、まだガキなんだからな。

 

ハッハッハッ…ってあれ?」

 

 彼なりに精一杯の嫌味を込めてあざ笑ってやったが、当のリジョンはそんなギドーの言葉などには全く耳を貸さずに、せっせとあやとりに興じていた。

 

 ギドーなど全く無視して。

 

「こ…このクソガキャアア!」

 

 再びブチ切れたギドーは、地団駄を踏みながら唾が飛ぶのではないかというくらいに怒鳴りまくった。

 

「クゥルラアァァ!人の話は聞きやがれ!」

 

 あやとりの紐を強引に奪い、怒鳴り散らす。さすがにリジョンも不機嫌そうな顔をギドーに向けた。

 

「うるさいな。どうせ僕は報告書も書けないガキだよ」

 

 …あれ?

 

 こいつ実は話聞いていた?その上であの態度…?

 

 なら自分の嫌味は全く効果が無かったということか?

 

 ギドーも自分の怒りが強風にあおられた風車のように空回りしているのをひしひしと感じた。リジョンの一言に一瞬躊躇したが、首をぶるぶると振り、気を取りなおす。

 

「っ…つーか、テメェ、仮にも上官の俺を舐め過ぎてんじゃねぇのか!?そういやさっきも俺に会うなり馬鹿とか言ってどっか行きやがったしよ!」

 

「……」

 

 無理矢理話題をすり替える。どうにも苦しいすり替えだったが、意外にリジョンに少し逡巡のかげりが見えた。

 

「さっきのこともこの際、どういうことか教えてもらおうじゃねぇか」

 

「う…うるさいな!今はそんなこと関係無いだろ!」

 

「関係無く無ぇし!てか、いきなり馬鹿とか言われて何とも思わない奴がいるかよ!」

 

「お前は馬鹿なんだから気にしてもどうせすぐ忘れるよ!」

 

「ハアァアァア!? こ…このクソガキャ…」

 

 いがみ合う2人。目線と目線がぶつかり合い、火花が散る。そこに。

 

「失礼しま〜す。オルマズド少尉は〜…ああ、隊長もいるんですか〜」

 

 出入り口の方から野太い、間延びした声が聞こえた。

 

 2人がきっと振り向くと、部屋の出入り口の前に太った男が立っていた。

 

 ギドーの記憶では、確かテイラー・ブラテナスというストライクダガーのパイロットだった。先刻の戦闘で、例のシグーを含むレジスタンスの3機のMSの迎撃に向い、生き残ったダガーのパイロットの1人だ。

 

 そしてテイラーがこの男なら、先刻のシグーの報告書を書いたのも彼ということになる。

 

 確か階級は軍曹だったはずだ。

 

「何だ!」

 

「なに!」

 

 2人は荒荒しく、邪魔だといわんばかりに聞き返す。しかし男は特に動揺するでもなく、用件を伝えた。

 

「テリトリアル大佐から伝言です〜。エスコルド中尉とオルマズド少尉は〜至急、大佐の部屋に来るように〜、だそうです〜」

 

 ついにこの来ちまったか、と言わんばかりにギドーは舌打ちをした。

 

 

 

「サンタレンに赴任しての初戦闘、ご苦労だったな。

 

 大した戦果だよ。ストライクダガーを計42機失い、敵を1機も撃破しないとは。いやいや、驚かされる」

 

 ギドーとリジョンが大佐室に呼び出されて早々に言われたのはテリトリアルの嫌味たっぷりの皮肉だった。

 

「面目有りません…」

 

 テリトリアルの嫌味を平身低頭で聞くギドーだったが、ギドーの脳内に存在する、

『ぎどーくんのあぶないあくむのごうもんべや♪』の中では、鎖でがんじがらめにされたテリトリアルをギドーが釘バットで何十回も殴打していた。

 

(テメェの作戦でやってたらこっちは確実に全滅だったんだよ…!)

 

と叫びながら。

 

 無論、ギドーのレジスタンスに対する認識不足も無い訳では無いが、赴任早々の戦闘だったのだ。そんなことを言われてもギドーとてどうしようもない。

 

「…ふむ、自分のおかげで損害がこれで済んだ、とでも言いたそうな眼だな」

 

 図星のギドーはその驚きが露骨に顔に出た。

 

「…まぁそう思っていても構わんよ。君には大口を叩くだけの実力と実績があることだしな。ともかく早急に報告書を出してもらおうか。

 

 …さて。私も何も、君に嫌味を言うためだけにここに呼んだわけでは無い。君達に是非見せておきたいものがあるのでね。

 

 先程、君達が護衛をした輸送機、あの中に是非君達に乗ってもらいたいMSがあるのだよ」

 

 ギドーは例の試作機のことを思い出した。そういえばまだ見ていなかった。

 

 テリトリアルが「付いてきたまえ」と言い、部屋から出て行った。2人もその後をついて行った。

 

 

 

 テリトリアルに連れられて来たのは、MS格納庫だった。例の試作機とやらは、輸送機から下ろされてここに格納されたのだろう。整備士達が、戦闘で傷ついたダガーを修理していた。

 

「見たまえ、あれがその試作機だ」

 

 テリトリアルが見る先には、2機のMSがあった。

 

 1機はXシリーズのようなカメラアイに両腕に対となってある爪付きの小振りな盾、背中に巨大なリングが装備されており、その外周は刃になっていた。

 

 今は灰色のモノトーンカラーで、恐らくフェイズシフト装甲なのだろう。

 

 もう1機はストライクダガーに似ているが、頭部にアンテナがあることや、ビームサーベルが両腰にあること、その他細部が微妙に違っていた。

 

「右の機体がGATX170《ソーガ》、左がGATT01A1《105ダガー特装実験型》だ。

 

 この2機に、是非君達に乗ってもらいたいのだよ」

 

 大佐は振りかえり、何かを期待するような目で、2人を見た。

 

 

 

(すげえな…。Xナンバーにダガーの上位機種かよ…)

 

 『三つ目の凶獣』の異名を持つギドーも、実はメビウスとストライクダガーにしか搭乗したことが無く、このようなエースクラスの機体に乗るのは初めてだった。

 

 しかも片方はXナンバーだ。

 

 あの数々の武勲で有名な《ストライク》や、今、地球軍のMS最強とも噂される《カラミティ》《フォビドォン》《レイダー》等のバケモノと同じ血統のMSが今、彼の目の前にあるのだ。

 

 もう一方の105ダガーは、基本性能こそXナンバーに劣るが、ストライカーパックの装備可能な点を始め、ストライクと同等の性能を持つ頭部センサー、ラミネート装甲の使用など、ストライクダガーとは比べるべくも無い優位性を持った機体だ。

 

 …いや、今テリトリアルは《105ダガー『特装実験型』》と言っていた。本家と何が違うのだろうか。

 

「……さて、君達はどっちに乗りたい?」

 

 そう言われ、思わずギドーとリジョンは顔を見合わせた。先程の喧嘩などすっかり忘れきっていた。

 

 ギドーは正直、どっちでもいいと思っていた。

 

 破格の性能のXナンバー、堅実な強さを持つ105ダガー、どちらも魅力を感じる。

 

「…いきなりでは選べない、か。

 

 ふむ、私の個人的な意見としてはブーステッドマンのオルマズド少尉がソーガに、

 

エスコルド中尉は105ダガーが向いていると思うがね」

 

「……」

 

 そういえば、カラミティ等連合の最新鋭MSの3機にはリジョンと同じブーステッドマンが乗っていると聞いたことがある。

 

 別にその組み合わせでも構わない。

 

「おい、テメェはどうしたい」

 

 隣のリジョンにも聞いて見る。

 

「……スカイグラスパーじゃなかったら何でもいい」

 

「なんだそりゃ…」

 

 呆れたような反応をしたが、思い出せば報告書にもそう書いていた。よほどあの戦闘機が扱いづらかったのだろうか。

 

「…まぁいいか。なら、決まりだな」

 

ギドーは左側の機体、リジョンは右の機体の前に立った。

 

「ふむ、やはりそれが良さそうだな.

 

 あとでそれらの機体について、メカニックに聞いておきたまえ。

 

 では、私は先に戻るとするよ」

 

 テリトリアルは格納庫を後にした。

 

 

 

 それぞれのコクピットで、各MSの担当となるメカニックが最終調整をしていた。

 

 ギドーも新たに受理したMSのメカニックに機体の特性を聞いた。

 

「…ってなんだよそりゃ。要は誰も使わなかったガラクタってことじゃねぇかよ」

 

「そう言わないでくださいよ。それでもストライクダガーよりも基本性能は充分高いんですから」

 

「つったって、新しいストライクカーパックの実験用の機体ってのが気に入らねぇ」

 

 コクピットに座り、機器をカタログで確認しながらメカニックの話を聞くギドーは明らかに不満そうだった。

 

 メカニックは苦笑いを浮かべながら話を続ける。

 

「ストライクの活躍のおかげで、企業がこぞって新たなストライカーパックの開発に取り掛かってますからね。今や企業にとっても製作の難しいMSに代わる新たな金の鉱脈なんでしょう。

 

 でもそのおかげで中尉も高性能なMSに乗れるんですから、あまり無碍に出来ないですよ」

 

「うっせえ。俺はストライクダガーでも十分なんだよ。馬鹿にするな」

 

「え、あ…すみません」

 

「ハッ…《レイダーストライカー》に《ソリッドストライカー》…か。

 

 …まぁこれくらいなら使えなくもないだろうが…

 

 …にしてもお偉方もこんな信頼できねぇ兵器しか寄越さねぇっつうのが好かねぇ」 

 カタログを見ながらぶつぶつと文句ばかり言っていた。

 

 

 

 メカニックからカタログをもらい、ギドーは自分の部屋に戻った。

 

 椅子に座る。まだ机仕事が残っている。しかも自分の報告書はまだ手付かずだ。

 

「あ〜メンドくせ〜〜! つーか、あのガキの報告書どうすんだよ〜!

 

 ディンの報告はあいつしかできねぇってのによ〜!」

 

 椅子に座ったまま、思いっきり背伸びしながら不平を漏らしまくる。

 

 大体、自分はただ戦うだけでよかったのに。

 

 敵と対峙するあの緊張感、力量が切迫した相手と戦う高揚感、そしてその敵を倒した時の優越感からくる喜び。それが楽しめるだけでよかったのだ。

 

 それが楽しいから殺し合うことが好きなのだ。

 

 最近、急に中尉に昇格したのだって、きっとここの隊長という肩書きを持たせ体のいい左遷をするためだろう。

 

 そして左遷の理由は恐らく、ソウとの喧嘩で負けたことが関係しているのだろう。

 

 案外、俺のことを心障者呼ばわりして毛嫌いしていたあのフィルモスとかいうクソヤローが1枚噛んでいるかもしれない。気絶した自分を捨てて行ったあいつならやりかねない。

 

 どのみち、ソウはぶっ殺すが。だってウザいし。

 

「あ〜ったくよ〜!だからガキは嫌いなんだよ!そして目下一番むかつくクソガキの報告書をどうしろっつぅんだ!」

 

 これまでのストレスを発散するかのごとく、背伸びをしながら部屋で独り騒ぐ。

 

 ……本当に報告書どうしよう…。

 

 …あとあいつのバカ発言の真相も聞いておきたい。

 

 あのデブが邪魔したから結局聞きそびれて…

 

 ……?

 

 …報告書……テイラー……さっきのデブ……シグーについての報告書…

 

「ああ〜…。一応試してみるか」

 

 リジョンからディンの報告書を得る、1つの手段が閃いた。

 

 

 

「おいオルマズド」

 

 子供とはいえ、女性の部屋にノックもせずにずけずけと入るところはギドーの短所だろう。

 

 もっとも子供にデリカシーなんて関係無いと思っている節もあるのだが。

 

 机に向っていたリジョンは、肩をビクリと上げ、驚いた。そしてギドーを確認し、

 

「な、なんだよいきなり!部屋に入るならノックくらいしてよ!」

 

 誰もが予測するであろう当然の反抗議をした。

 

「ああ?知るかよ。ガキの部屋に入るのになんでいちいちンなことしなきゃなんねーんだっつうの」

 

「あの〜隊長。それはさすがに可愛そうだと思いますが〜…」

 

 ギドーの後から、もう1人、男が入ってきた。

 

 先程の太った男だった。

 

「ああ?うっせーな。いいんだよ、ガキに気なんか使わなくたってよ。

 

 …つーか話が進まねぇからさっさと用件を言っちまわねえと。

 

 おいテイラー」

 

「はい〜」

 

 テイラーと呼ばれた男はリジョンの前まで進んだ。

 

「はじめまして〜、かわい〜少尉さん。テイラー・ブラテナス軍曹です〜」

 

「え…あ、ええと、リジョン・オルマズド少尉…です?」

 

 向こうが自己紹介してきたのでリジョンも何となく自己紹介をした。

 

 何故か疑問系で。

 

 テイラーの喋り方は、しまりの無い気の抜けた喋りだ。男の低い声でそう喋るものだから、妙な感じだ。気持ち悪い、と言えば言いすぎなのだが、少なくとも美声とは言えない。

 

「で…そのテイラー軍曹が何でここに居るの?」

 

「あ〜それはですね〜、今後〜、少尉の報告書指導を〜させていただきます〜。どうもよろしくです〜」

 

 見た目と声の感じそのままのしまりの無い敬礼をしてテイラーは言った。

 

「…え?」

 

「テメェが報告書をまともに書けねぇんなら、こいつに教えてもらえって言ってんだよ」

 

「そういうことです〜。少尉の報告書の作成のお手伝いをします〜」

 

「え…あ…う、うん…」

 

 リジョンも事態がようやくわかってきた。

 

 多分、この男は報告書を書くのが上手くて、ギドーが手伝うように言ったのだろう。

 

 ギドーもたいなデリカシーの無いバカも惑星直列くらいの確立でならいいことをするものなんだな、とリジョンは思った。

 

「それでは〜、早速報告書を作っちゃいましょ〜ぉ」

 

「あ、うん」

 

「隊長〜、ここは自分に任せて下さ〜い」

 

「おう。早めに頼むぜ」

 

 ギドーが部屋から出て行くと、2人は報告書の作成に取りかかった。

 

 

 

 廊下に出ると、ギドーは安堵のため息をついた。

 

 テイラー、あのなよ〜っとした喋り方気に入らないが、この話を持ちかけたときに快く引き受けたり、先程のリジョンとの話し方を察するに、結構しっかりした奴のようだ。

 

 リジョンの報告書も何とかなりそうだ。

 

 あとは自分の報告書を…

 

「…ああ、その前にまだ見ていない報告書の訂正があんのかよ…」

 

 今夜も徹夜になりそうだった。一体いつから俺はこんな役回りになってしまったのだろう…。


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