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第13話 揺らぐ心

 

 『HEAVENLY−SANCTUARY』基地

 

 格納庫へと向かうソウの足取りはどこか苛立ちが感じられた。

 

 理由は既にわかっている。

 

 ピケルやアルナのことで気が紛れていたが、今思い出すだけでも腹立たしい。

 

 だからといってそれを表に出せない自分の性分すらも腹立たしく感じられた。

 

 今、当初の予定通り格納庫へ向かっていることがその最たる例だ。

 自分はまずやらなければならないことがあり、勝手なことができるのはそれからだ、という心の奥底からの命令が、ソウの欲求を封じ込めていた。

 

 入り口の前で大きなため息をひとつつき、ソウは格納庫へ入った。

 

 

 

 ソウがテイヴァという、この基地のMSの整備を担当する男と整備の事で話し合っていた時、ガウル達のMSも基地へ戻って来た。

 

  彼らのMSにも各所に被弾の痕や損傷が見られ、戦いの激しさを物語っていた。

 

  MS搭乗用エレベーターの上でアルカナのコクピット内のソウと話していたティヴァは、その帰還に真っ先に気が付いた。

 ソウも、半拍遅れてそれに気付く。

 

「おう!お疲れ!」

 

「ええ、ただいま帰りました」

 

 ハンガーに固定されたシャッフルから降り、ガウルがMS搭乗用エレベーターで降りてきた。

 テイヴァは、その後もデュミナとドマンに――同じ趣旨の言葉をかけにだろうか――向かって行った。

 

 まだ17歳のソウや、見たところ、26,7程度でしかなさそうなティヴァがラフな口調で話し掛けてきても、敬語で応対する30代前半のガウルは、
やはり敬語がクセなのだろうか。

 

「ソウさん」

 

 そのガウルが、アルカナのコクピットにいるソウに届くような大きな声で呼びかけた。

 

 用件は予想がつくので、ソウは返事をせずにガウルのいる場所まで向かうことにした。

 

 

 

 ソウとガウルはまたあの談話室のソファに向かい合った。

 

「…あのパイロット、ギドーとは少し因縁がある」

 

 最初に口を開いたのはソウだった。

 

 ソウは先刻の苛立ちは微塵にも見せない、いつもの落ち着いたソウに戻していた。

 

 実際は、未だに苛立ちが心にあったが。

 

 特に長くなる話でもなかった。ただ、ミシガンでアルナを助ける交換条件として、ギドーとタイマンを張り、ソウがそれに勝った。

 ギドーはそのことを根に持っているのだろう、それだけのことだった。

 

 ソウの話を聞き終えたガウルは、渋面をつくり、むぅ…と難しそうな唸り声をあげた。

 

「それで、あのパイロットはギドー・エスコルドと名乗ったのですね?」

 

 無言でうなずくソウ。

 

「…なんと…『三ツ目の狂獣』と相見えることになるとは…」

 

 深刻さの窺い知れる、押し殺したような声だ。

 

「『三ツ目の狂獣』…?」

 

 あのチンピラ風情の男がそんな異名を持つほどのMSパイロットだったのか?

 

 その疑問をほぼそのままガウルに聞くと、彼は一言、こう言った。

 

「ギドー・エスコルドという地球軍兵は《メビウス》でジン3機を撃破したという記録があります」

 

 少しの間、それが意味する理由がソウはわからなかったが、MAとMSの戦力対比を思い出すとその意味がわかった。

 

 

 

 少々、数学的な話をする。

 

 地球軍のMA、《メビウス》とザフト軍のMS、《ジン》の戦力対比は1:5と言われている。

 

 これは言いかえれば、ジン1機を落とせば、メビウス5機を落としたともとれる。

 

 つまり、ギドーはメビウス15機を墜とせる、と言いかえられる。

 

 そしてこれは、ギドーがジンとの戦力対比が1/5であるメビウスに乗っている時の話だ。

 

 仮にギドーがジンに搭乗していた場合、彼はメビウスを75機も墜とせるということになる。

 

 C,E70に起こった世界樹攻防戦で、ザフトのエースパイロット、『ラウ・ル・クルーゼ』がMA37機、戦艦6隻を撃沈し、ネビュラ勲章を受章したことを
考えると、上記の事の重大さが理解しやすい。

 

 もちろんこれは、単なる机上の計算であり、不完全極まりない穴だらけの計算だ。

 

 そもそもナチュラルのギドーは、ジンをクルーゼほど上手く扱えるかどうかわからないし、撃墜数自体はクルーゼの方が断然上だ。

 

 また、グリマルディ戦線で『ムウ・ラ・フラガ』もメビウス0でジンを4機落している。

 

 一概にギドーがクルーゼを上回っていると言える訳ではない。

 

 だがしかし、メビウスでジンを倒すというのは、やはり非常に難しい、偉業なのだ。

 

 そしてそれは、やはりギドーが凡庸なパイロットでは無いと言うには十分過ぎる事実だった。

 

「確かにそれは…相当凄い」

 

 ソウは素直な感想を述べた。

 

「MSが戦場に表れて以来、戦争は量より質の方に比率が上がってきました。
今、ギドーという高い質が表れたということは、もしかしたら何機ものストライクダガーを相手にするよりもずっと危険なことになるのかもしれません」

 

 ちなみに、その理論を突き詰めて造られたのが、ソウの駆るアルカナだ。

 

「…あいつについてまだ思うことがあるかも知れないが…こっちも聞きたいことがある。

 

 『ブーステッドマン』について…教えて欲しい」

 

「ソウさんがその言葉を知っているということは…ダイアンさんが教えたのでしょうね」

 

「あのパーマのおばさんか」

 

「ダイアン・ケイトというのが本名で、ここでメディカルスタッフをしていただいています。…私も本業は町医者なのですけどね。

 

 もうすでにご存知でしょうが、ピケルはブーステッドマンといい、地球軍が身体能力で劣るコーディネーターに対抗するために『造られた』人間です。

 

 『γ-グリフェプタン』という、特殊な薬物で肉体や精神を強化し、戦闘技術を鍛え、コーディネーターにすら凌駕する身体能力を得ていますが、
代償としてその人間は精神に異常をきたし、薬物に依存する体になってしまいます。 

 

 …コーディネーターと戦うためだけの、戦うことしかできない存在です」

 

 感傷的に、自嘲的に淡々と喋るガウルを、ソウは疑り出した。

 

「それは…ガウル…ないし、このレジスタンスの誰かが、彼女のような兵器同然の子を造って、戦わしているということか…?」 

 

 今の話を聞く限り、そうでなければここにブーステッドマンがいるのはおかしい。

 

 突如、ソウとガウルの間にあるテーブルがバン!と鳴った。ガウルが平手で叩いたからだ。

 

「まさか!そんな事は断じて有り得ません!」

 

 ソウの問いに、ガウルは今まで見たことが無い程にいきり立って否定した。突発的な怒りに我を忘れていた。

 

 …怒っている。最も突かれたくない部位をいじられて。ソウは龍の鱗を逆撫でしたような気になった。

 

「…すみません」

 

 急に声を張り上げられて驚いた顔のソウを見たガウルはすぐ我に帰り、元座っていたソファーに座りなおした。

 

「あの子…ピケルがどうしてここにいるのかは私からは言えません。ピケルたっての希望です。

 

 …ですが、これだけは信じてください。私は、ピケルを我が子のように大事に思っています。本当は戦地などに出したくない程に。

 

 …いいえ、あの子はもう私の子同然です。私より先に死なせたりはしません」

 

 それはつまり、ガウルはピケルを兵器として扱う気は無く、とても大事に――恐らく自分自身より――するという意思の表れだった。

 

 その誠実で決意が見える宣告は、ソウを納得させるには十分だった。

 

「そうか…。無遠慮なことを聞いてすまなかった。どうして彼女がここにいるかも気にはなるが…彼女のプライバシーを尊重するよ」

 

 ソウは正直に謝罪した。悪気が無かった、など関係無い。自分が護りたいものを侮蔑されることが耐えがたい侮辱だというのは、
アルナを護るために体を張っているソウには痛く共感できることだ。

 

「あ、…いいえ、謝ることはありません。私も自分を見失ってしまいました。大人気無かったと反省します」

 

 ガウルも頭を下げた。冷静な性格や、今のように自分の非を素直に認めるところを見る限り、この2人の性格はとてもよく似ていた。

 

 

 

 医務室のベッドで、ピケルは昏々と眠っていた。

 

 その寝顔を、ソウとの話を終えてここに様子を見に来たガウルが眺めていた。

 

 医務室にはピケルとガウルだけで、ダイアンはいなかった。

 

 こうしてすやすやと気持ち良さそうに寝ているピケルを見ている限り、この子がコーディネーターにすら肉薄するMSパイロットと言われても
実感が沸かない。

 

 何の前触れも無く、ガウルは先程のソウの言葉を思い出した。

 

(彼女のような兵器同然の子を造って、戦わしているということか…?)

 

 ソウが言ったこと自体はもう怒ってもいないし責めもしないが、その言葉だけが妙にガウルの頭に響いていた。

 

 …本当はこの子を戦わせたくなどないのに。 

 

 

 

 今から2年前、まだ南アメリカ合衆国が大西洋連邦に統合される前だった。

 

 深夜、マナオス郊外のある診療所に、1人の少女が強盗に入った。

 

 10歳にも満たなさそうな幼い体で、カールの入ったピンク色の髪の毛が印象的な少女。

 

 よほど疲れているのか、目の焦点は合っていず、呼吸も浅い。汗も全身から噴き出していた。

 

 服装はダボダボのシャツと下着姿で、全身が薄汚く汚れ、血痕がチラホラと見えた。靴は履いていなかったので、幼い脚は土色だった。

 

 そして手には拳銃――女の子の護身用としては扱い辛過ぎる軍用のものだった――が握られていた。

 

 少女は診察室の机で事務仕事をしていた三十路近い男にその銃口を向け、こう要求した。

 

 お金と、パンと、お薬を寄こせ。

 

 幼く、憔悴しきった少女のその物言いと目つきは、それでも力強く、殺気立っていた。

 

 だが、残り僅かだった体力は彼女を裏切ろうとしていた。

 

 銃の狙いを定められない。床が、壁が、辺り全体がグニャグニャに揺れて見える。

 

(だめ…)

 

 目の前の男の顔が崩れて見える。

 

(まだ…倒れちゃ…だめ…)

 

 少女は必死に意識を取り戻そうとする。

 

 駄目だった。

 

 男が何か行動を起こす間も無く、少女はその場に突っ伏し、気を失った。

 

 

 

 少女が目を覚ますと、その体は真っ白なシーツと暖かい布団に寝かせられ、清潔な服に代えられていた。
汗や泥で汚れていたはずの体も、サッパリしている。

 

 少女はしばらくの間、ここが何処で、何故自分がこんな格好をしているかわからなかった。

 

 白いカーテンで小さく区切られたベッドには、高くに設けられた小さな窓から爽やかな朝日が射し込まれ、ベッドの上の少女を優しく照らしている。

 

 壁は上品で清潔そうな白い壁紙に覆われているので、照明も無いのに窓からの日だけでとても明るい。

 

 全く、少女には憶えの無い場所だった。

 

 警戒はしていたが、ここが危険な場所では無さそうだということくらいは彼女にもわかった。

 

 暖かい。気持ち良い。安らげる。もっとずっとここに居たい。

 

 ここは、刃物の痛みも、薬物の苦しみも、命の危険も…自分を苦しめるものは何も無い。安心してくつろげる平和な空間だ。

 

「ああ。起きましたか」

 

 突如、カーテンが開けられ、三十路前後の男が姿を現した。

 

 短めに整えられた黒髪、整った顔、優しそうな瞳。

 

 あの夜、少女が銃口を向けた男だった。 

 

「!?」

 

 少女は慌てて跳ね起きようとしたが、急に動いた瞬間、頭がグラッと痛み、力無くへたってしまった。

 

「…っと、大丈夫ですか?」

 

 よろけた少女に駆け寄り、腕で支えて介抱する。

 

「……!」

 

 まったくわからない今の状況と、その男の優しい――怖いくらいに――腕に驚き、彼女は身を仰け反らせ、壁側へ弾かれるように寄った。

 

 背中をぴったりと壁に密着させ、身をすくめる。掛かっていた布団を引き寄せ、自分の体をそれに隠した。

 

「…そんなに怖がらなくてもいいですよ」

 

 男は苦笑しながら慇懃に言った。

 

 その通り、自分は怯えている。

 

 このあまりに都合の良すぎる環境。

 

 目の前の男の理由のわからない親切。

 

 わからない。

 

 多分、この環境はこの男の持ち物なのだろう。それはいい。

 

 だが、何故そこに自分がいるのだろう。

 

 それがわからない。

 

 自分は、この男に銃を向け、恐喝をしようとしたのに。

 

 それなのに、目を覚ました場所は留置所の牢屋でも、寒く寂しい外にでもなく、綺麗なベッドの上。

 

 その寝床も、彼女を利用するための、娼館のようなところでなく、ただ自分が休むためだけに設けられたもの。

 

 そして、それらの持ち主であろうこの男は今、自分を優しく介抱してくれた。

 

 全て彼女の予想に無かったものだ。

 

 『研究所』から逃げてきて以来、今まで一度もなかった状況だ。

 

 食べ物を盗めば何処までも追いかけられ、捕まればひどい虐待を受けた。

 

 買うための金など持っていないので、危険でもそうするしかなかった。

 

 夜の街を歩いていて変な男に妖しい店に連れて行かれそうになったこともあった。

 

 その時は、持ち前の身体能力と、『研究所』から逃げる際に盗んだ拳銃で凌いだ。

 

 同じように、強盗や恐喝をすれば、大抵は警官や、被害者の仲間に制裁を受ける、それが普通だった。

 

 こんなことは全く一度も無かった。

 

 強盗をした相手に、ここまで親切に、優しくしてくれたことなど、一度も。

 

「……どう…して…?」

 

 壁の隅でうずくまり、顔を布団で隠しながらボソッとそれだけ言った。

 

「…何が、ですか?」

 

「…どうして…ぶたないの…?」

 

 男は一瞬、怪訝な顔つきをしたが、誠実に、

 

「患者に手は上げられませんよ。しかも、こんな小さな女の子に」

 

「…嘘だ!」

 

「……」

 

「そんなの…嘘だ!お前は…私を利用するんだ!…騙されないぞ!

 

 いつか…私を裏切って…痛いところに連れて行くんだ!

 

 だって…誰もこんなことしないもん!してくれなかったもん!

 

 どんなに私が苦しくたって、誰もこんなことしてくれなかった!」

 

 叫び、訴える声がどんどん上ずってきているのが少女自身よくわかった。

 

 自分は騙されている。今の暖かさは偽りで、いつかこの男にいいように使われる。

 

 それが今までの経験からの彼女の結論だった。

 

「だから!お前は…!私を…、私を―…っ?」

 

 尚も言い知れない不安を吐き出すように叫ぶ少女の顔に、男の手が伸びた。

 

 やっぱり、叩かれるんだ。

 

 そう確信した少女は、深い落胆と、ほんの少しの安堵を感じた。

 

 しかし、その大きく温もりのある手は、決して彼女に危害を加えることなく、ゆっくりと優しく、彼女の頬を撫で、親指で少女の瞳にいつの間にか
浮かんだ涙を拭き取った。

 

「大丈夫です。痛い思いも、辛い思いも、させませんよ」

 

 男の言った護られるかのようなその言葉は、彼女がまた涙を浮かべさせるのに十分過ぎるほど、彼女の心に響いた。

 

 ぽろぽろと、止めど無く流れる涙。絶対的な安心感、包まれるような優しさ。

 

「…本当に…しないの?」

 

「はい」

 

「銃を…向けて…脅した…のに…」

 

「脅されてなどいませんよ」

 

「え…?だ、だって…」

 

「あなたは、必死に私に助けを求めていたではないですか。

 

 ボロボロの体と心を精一杯使って。

 

 でもあなたはそれを銃を使うことでしか表現できなかった」

 

「え…? え…?」

 

「私は、その助けを呼ぶ叫びに答えただけです」

 

 わかっていたのだ。この男には。

 

 自分の心の助けて、という訴えに。

 

「…お、おかしいよ。だって…こんなの、あんたには何の得にも…ならないじゃないか」

 

 最後にして最大の疑問。男は何て言って、自分を安心させてくれるのか。

 

 今や、少女はもう殆ど、男を信頼しきっていた。

 

 中々信じてもらえないので、男は苦笑を浮かべた。少し自嘲気味だった。

 

「そうですね。確かに私には何の得にもなりません。

 

ですが、助けを求めている子を見捨てることもできません。

 

 いいんですよ、そんなこと。損得なんてどうでもいいのです。

 

 だから、そんなこと気にしなくていいんです。

 

 …大丈夫ですよ。私は、あなたの味方です…」

 

 もう限界だった。

 

 涙を堪えられなくなり、ついに少女は声を上げて泣き出した。男の手をひしと掴み、クシャクシャの泣き顔を隠して。

 

 怖かった。寂しかった。助けて欲しかった。

 

 それを全て解決してくれたこの男、ガウルを、少女、ピケルは心から信頼していた。

 

 

 

 ふと、意識が戻った。

 

 医務室のパイプ椅子に座ったまま、ガウルは寝てしまっていた。

 

 ダイアンはまだ戻って来ていないようだった。

 

 (これはまた…古い夢を…)

 

 ピケルとの出会いなど、2年前のことを未だによく覚えているものだ。

 

 …まぁ、忘れられることでもない。

 

「…あっ」

 

 何かに気付いたような声。ベッドで寝ていたピケルが目を覚ました。

 

「…っと、ごめん。起こした?」

 

 いつもと違った口調でガウルは謝った。唯一、彼はピケルと2人きりのときのみ、敬語を使わずに会話する。

 

「ううん、いいんです」

 

 ニッコリと微笑み、首をこちらへ向けて、ピケルはおはようのあいさつをした。

 

 ピケルが、ガウルをこう呼びたがったあの呼称をつけて。

 

「おはよう、お父さん」

 

「うん、おはよう、ピケル」

 

 血は繋がっていないが、2人は正に親子と呼ぶにふさわしい仲だった。

 

 

 

 ガウルとの話を終えた頃には、時刻は16時を過ぎようとしていた。

 

 ソウはすぐ格納庫へ向かったが、アルカナの整備は終わっていた。

 

 いや、正確には『やれるだけやった』といったところだった。

 

 アルカナの腕こそ問題無く動くが、右のショルダー部分は粉々に砕けて無くなっていた。

 

 そうだ。これだ。

 

 ソウが苛立っている原因。

 

 ギドーと戦い、そして勝てなかったことだ。

 

 土俵は違えど、一度戦い勝った相手に、勝てなかった。

 

 何気にソウは勝負事でのプライドが高かった。

 

 特に喧嘩の類では。

 

 ソウの戦闘技術は修練に修練を重ねたもので、アバターになる前でさえ、ナイフを持った男相手にああも善戦できたのだった。

 

 そして、アルカナに搭載されたDISCシステムは、そのソウの技術を遺憾無く発揮できるものだった。

 

 それが、負けた。

 

 くやしい。

 

 俺はどうすればいい。

 

 俺はこれからどうやって強くなればいい。

 

 教えてくれ。

 

 ソウは、自分に戦闘技術を教えてくれた今は亡き師に、その答えを仰ぎたかった。

 

(…教えてくれ…ハロルド。

 

 俺は…どうやって強くなればいいんだ。

 

 どうしたら、あいつに勝てるんだ…

 

 …師匠…)

 

 アルカナの前に立ち、アルカナのカメラアイを睨みながらソウは念じた。

 

 答えが有るはずも無いとわかっていても。


(第十三話  完)


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