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第12話 オリオンのベルトを破壊せよ 《PART3》

 

 

 ギドーから通信を受けた輸送機のパイロットは、しかしどうすることも出来なかった。脱出すらできない。気付いたのがあまりに遅すぎた。

 

 ギドーから通信を聞いた5秒後、バズーカ弾は右角を飛んでいた輸送機のエンジンに着弾、数秒後にそこから火災が発生、被弾から1分も待たずに輸送機は空中で爆破炎上した。

 

 

 

『《アルニタク》が…落ちた…』

 

 旗艦である《アルニアム》の機長の呟きがギドーにも回線を通じて聞こえた。

 

「ちっ…輸送機!これ以上落とされたくなかったら死ぬ気で逃げろ!ここは押さえる!」

 

『りょ…了解した。あと5分、いや2分稼いでくれ』

 

 ソウも気に入らないが、それよりも今、輸送機を落とした、あの右肩に『借金地獄』だのと書かれているふざけたジンとその一味のMSを落とすのが先だ。

 

 ギドーのダガーはすでにライフルもシールドも無く、残りバッテリーも少ない。あるのはこのビームサーベル1本のみ。これだけで何とかするしかない。

 

 それにそろそろブーステッドマンのリジョンも時間切れのはずだ。

 

「おい、クソガキ。調子はどうだ?」

 

 依然、ディンと交戦中のリジョンに通信を開いた。

 

『ハァ…ハァ…う…うるさい…うっ…こんな…やつに…』

 

 リジョンはもう限りなく限界に近いらしく、顔は仮面のせいでよく見えないが、呼吸が苦しそうだった。もう数分も持ちそうに無い。

 

「もう2分我慢しろ。輸送機が逃げ終えたら俺達も撤退するぞ」

 

『うぅぅうぅ…くっ、わ…かった…』

 

 殆どうめき声だ。2分持たないかもしれない。くそ、あっちのお守も必要か?

 

『隊長!』

 

 密林の向こうから、4機のストライクダガーが姿を現した。ガウル達を迎撃に行った部隊の生き残りだ。

 

「おう。生きてたか。その様子だと他はみんなやられたようだな」

 

『はい。何分、まだ嘴の黄色いヒヨッコ共でしたので…申し訳ありません』

 

「いや、いい。それよりお前等、俺はあのデコッパチとディンを相手にするから、俺の僚機共と一緒に向こうの3機のMSへの攻撃に当たれ。ブリーフィングで説明した守備型のフォーメーションで押さえるだけでいい。」

 

『はっ』に

 

 後からやってきた4機のダガーはギドーの僚機のダガー2機と合流し、戦闘に突入した。

 

 

 

「……?」

 

 ガウルは考えあぐねた。 

 

 6機のダガーは、ガウル達の前で2列に並ぶと、シールドで機体を隠したまま、その場から動かなくなった。

 

『何スかね、アレ。フォーメーションのつもりッスかね…』

 

『そんなところじゃない?ま、そんな小細工なんてぶち抜くだけだけど…ね!』

 

 ウォーリァーが敵に一直線に突っ込む。一見無謀にも見えるが、デュミナの技能ならそれも可能となる。

 

 6機のダガーがウォーリァーにビームライフルとイーゲルシュテルンで集中攻撃をかける。が、それをウォーリァーは複雑なステップとシールドでことごとく受け流しながら尚も接近する。

 

『もらった!』

 

 手頃な標的を見つけ、《ギルティア》を打ちこもうと腕を構えた。

 

 しかしその瞬間、ダガー達は左右3機ずつに分かれ、デュミナから遠ざかった。そしてバラバラになったダガーは一斉にドマンの乗るボイスへそれぞれの持つ射撃系兵器で攻撃した。

 

『うわぁ!』

 

 次の標的となる輸送機へバズーカの照準を合わせていたドマンは面くらい、照準合わせを中断し、回避行動に入った。

 

(これは…なるほど、全員で囮になって対象一つを攻撃する陣形ですか)

 

 静かにダガーの出方を伺っていたガウルはフォーメーションの構造を悟った。

 

 まずは相手の出方を伺い、対象以外の攻撃は極力回避に専念し、対象1体を全員で攻撃する。この場合の対象はボイスなのだろう。消極的で攻撃はあまり考えていない、生き残ることを主眼に置いた陣形だ。

 

 しかも、ウォーリァーは遠距離攻撃はできないので距離を空けておけば問題無い。一応、重機関銃を装備してはいるがガウルのシャッフルも似たようなもので、ダガー達にとって最も危険なのが輸送機を攻撃出来るボイスだ。それを撃墜とはいかなくとも、輸送機へ攻撃できないように威嚇すればいい。

 

 こちらのユニットの特徴を把握した上での陣形だ。しかも、ガウルの機体、シャッフルはすでにバッテリー不足でシャッフルシステムが使えない。燃費の悪さがシャッフルシステムの弱点だった。

 

(これは…非常に由々しき事態ですね…)

 

 シャッフルも手近な敵機に重機関銃で応戦するが、守りに入ったダガー達はシールドでガードしてしまう。

 

「ドマン君、輸送機攻撃に集中して下さい。デュミナさん、攻撃はもういいです。ドマン君の防衛に専念しましょう」 

 

『りょーかい。まったく、ムカつく陣形ね…』

 

『了解ッス』

 

 だが、先程の戦闘もあり、彼等の機体も装甲がかなり危険な状態になっていた。その状態でダガーのビームライフルを凌ぐのは無理があった。どうしても避けてしまう。するとドマンも回避行動をとらなければならなくなり、結果的に輸送機に攻撃できない。

 

(これでは輸送機への攻撃はとても…それにそろそろピケルも時間切れになる頃のはず…)

 

 ガウルはこの作戦が失敗に終わることを予感した。

 

 

 

「ううううるらああぁぁぁ!」

 

 ギドーのダガーがビームサーベルを振りかぶってアルカナに斬りかかる。空いている左手は照準を合わせるためか、指を広げて腕をアルカナに伸ばしている。それはまるで歌舞伎で大見得をきった役者のようだ。

 

 間合いに入った瞬間、ギドーのダガーは右手のビームサーベルを思いっきり振り下ろした。

 

 その動作はDISCシステムの発動したアルカナにはとても緩慢な動きに見えた。

 

 ソウは焦りもせずにアルカナをダガーの死角――ダガーの左手側――に滑りこませた。そこから頭部を狙ったハイキックを繰り出す。しかし、その蹴りの軌道上にぬっとダガーの左腕が現れた。ハイキックを左腕で止められた。

 

『ちっ…サーベルはフェイントか…!』

 

「はっ!いつまでも同じ手に引っかかると思うな!」

 

 ダガーは受け止めた右足を掴み、そこを基軸に自らをアルカナの上へ押しやった。

 

「これが今までの屈辱の礼だ!」

 

 ダガーはアルカナの上から地面に這いつくばる虫を踏み潰すかのように真下に蹴り飛ばした。バランスを崩したアルカナは地面へ急降下していく。その反動を利用してダガーは更に上へ飛んだ。

 

『くっ…っそ…!』 

 

 コクピットに響く金属が擦れ合うような耳障りな騒音がソウを襲う。

 

 アルカナはスラスターを稼動させ、地面に叩きつけられはしなかったが、その間にギドーのダガーは更に上空での戦闘に介入しようとしていた。

 

 

 

 満身創痍のリジョンは、それでも戦闘を続行していた。

 

 確かに自分の機体操作も危なくなってきたことが実感しているが、それはむこうのディンも同じようだった。

 

 それまでのような高次元で優雅な回避行動が、機体をスラスターで無理に振りまわすような、乱暴で粗雑な動きに変わっているのがわかる。現に、今までは全く当たらなかったこちらの攻撃が、直撃とはいかなくとも、ある程度装甲にダメージを与えている。

 

 大丈夫だ…、まだやれる。

 

 そう思った瞬間。

 

 少しの間見失っていたディンが、いつのまにかリジョンのスカイグラスパーの右翼に急接近していた。その距離30m前後。

 

 スカイグラスパーと同じスピードで飛んでいるので振り払うことができない。

 

「はぁ…はぁ…クソッ!」

 

 スカイグラスパーはビーム砲をディンに向け、躊躇無く発砲する。この距離であの状態の敵は回避もできず、6枚ある翼のひとつに風穴を空けてしまった。が、今度は向こうが両手に持ったレールガンをこちらへ向けてきた。

 

「……!」

 

 引き離そうと機体を上下左右へ揺らす。しかしむこうもその動きに合わせてくる。付かず離れずの距離を維持したまま、ディンはスカイグラスパーのエンジン部へ照準を合わせ発砲―…

 

『そぉらよ!』

 

 ガイコツカラーのダガーが、弾を撃とうとしたディンの横腹へショルダータックルを打ち噛ました。右手にはビームサーベルの柄が。ビーム刃は形成されていない。恐らくエネルギー切れだろう。

 

(え…?何でこんなところにこいつが…?)

 

 アルカナを踏み台にしたギドーは、遥か上空のここまで一気に跳躍してここまで来ていた。

 

『きゃあぁぁぁ!』

 

 ディンはバランスを崩し、きりもみ状に落下していった。ギドーはディンをもうこれで終わりだと思っていたが、地面に墜落する前にアルカナに助けられたのを確認していた。

 

 アルカナがディンのレールガンを持ち、こちらに発砲してくる。

 

 しかし、元々射撃系兵器を持たないアルカナでは、アイズのレールガンを扱うのは難しく、その弾道もギドーのダガーには当たりそうになかった。ギドーもイーゲルシュテルンで牽制し、応戦する。

 

『もう時間だ。撤退するぞ』

 

「…う?…うぅ…わか…」

 

 消え入りそうな弱々しい声で返事をしたリジョンは、機体を旋回させ、基地へ戻った。

 

 

 

「全員、撤退だ!今すぐ逃げろ!」

 

 輸送機が安全な地域に入ったことを確認したギドーは友軍全員に繋がる回線を開いて叫んだ。

 

 瞬間、それまでガウル達を相手にしていたダガー達がそれまで続けていた攻撃を止め、一様にアマゾンの鬱葱とした森林の中へ姿を消した。

 

 ジンやシグーは重突撃機関銃で尚も攻撃を仕掛けてきたが、生い茂る木々が照準を邪魔し、加えて上空から落下中のギドーがイーゲルシュテルンで威嚇射撃を行ったため、その攻撃は徒労となった。

 

ギドーもわざと木々の深い、むこうのMSから遠いところに降り立ち、そこから基地へ戻って行った。

 

 

 

「…私達も戻りましょう」

 

 力ないガウルの声。

 

 落とせた輸送機は1機だけ。そしてあのガイコツカラーのダガーとスカイグラスパーのことを考えれば、力ない声も当然だった。

 

『…そうッスね』

 

『…りょーかい』

 

『わかった』

 

『……は…い』

 

他のパイロットも皆似たような反応だった。彼等の機体もそれなりのダメージを受けていた。基地で修理ができる範囲だったが、すこし時間がかかりそうだ。

 

「…ところで、ソウ君」

 

『?』

 

 アルカナは、飛行が困難になったアイズを抱きかかえたまま着地していた。その抱き方は『お姫様抱っこ』だったので、ソウは何となく、アルナが見たら機嫌を損ねるような気がした。

 

「あの白黒のダガーのパイロットのことを知っていたようですが」

 

『ああ。その話も一応しておいたほうがいいか。基地に帰ってからでいいか?』

 

「それは構いませんが…それよりアイズが飛べないのならそのまま急いで基地まで運んであげてください。ピケルが疲れきっていますから」

 

 確かに、ソウもそれほどよく見ていられたわけではないが、あのスカイグラスパーと戦うのはかなり大変だっただろう。しかしアイズは確かに今は飛べなさそうだが、歩くことはできるのだし、そもそも何故早急に基地に戻さなければならないのだろう。

 

 疑問はあった。

 

『ああ、わかった。なら先に帰っておく』

 

 しかし、それをここで聞くことはしなかった。よくわからないが、そんなことを教える時間ももどかしい程に緊急性がある気がした。

 

 アルカナはアイズを抱き上げたまま空高く飛翔し、ある程度の高度をとった後、一直線に基地へ向かった。

 

 

 

 基地に戻り、格納庫のMSデッキにアルカナを格納したソウは、コクピットから身を出した。

 

 ピケルも自力でアイズをMSデッキに格納し終え、コクピットから這い出してきた。

 

 ピケルは汗だくだった。

 

 それだけではない。

 

 顔は青ざめていた。

 

 呼吸が苦しそうで、肩で息をしていた。

 

 瞳孔が見開かれ、意識がはっきりしていないようにも見えた。

 

 それでもピケルは、よたよたとしながらも自力でコクピットからエレベーターに乗って降りてき、そこで力尽きた。ぱたりとその場に倒れこむ。

 

「……大丈夫か?」

 

 エレベーターで降りてきたソウが、ピケルのそばに寄り、声をかけた。

 

「うっ…」

 

 呼吸が苦しいのか、こちらの声は聞こえていそうだが、返事ができないようだ。

 

 その時、格納庫から内部へと通じる通路から誰かがやってきた。

 

 女性だ。50代後半、60代かもしれない。ふっくらとした体におばさんパーマ。ソウはまだ見たことの無い人だ。

 

「お疲れさん。1人で立てる?」

 

「はっ…はい…」

 

 よろよろと立ちあがるピケル。まともに歩けるかどうか不安だ。

 

「ちょっと、あんた」

 

 おばさんは傍にいたソウに顔を向けてきた。

 

「暇ならその子を医務室まで連れて行ってやってくれ」

 

「ん…ああ、わかった」

 

 ソウは依然ふらついているピケルを抱きかかえ、おばさんの後をついていった。

 

 

 医務室まで行く途中の廊下で、アルナと会った。

 

「ソウ〜!お帰り!…って、……どうしたの?ピケルちゃん…」

 

 アルナはソウの腕の中でぐったりしているピケルを見た。明らかに具合が悪そうだ。

 

「…なんでソウがピケルちゃんを抱っこしてるの…?」

 

「ん…、MSから降りてからずっとこの調子なんだよ、彼女」

 

「ふ〜ん…」

 

「この子はね、MSを動かせる代わりにまともな体を失っちまった子なんだよ」

 

 おばさんが事も無げに言った。

 

「え…?どういうこと…ですか?」

 

「…彼女もアバターなのか?」

 

 MSを自在に操る力の代償に人間の体を失ったソウが聞いた。

 

「いいや。ピケルはブーステッドマンってやつさね。地球軍がコーディネーターに対抗するために『造った』人間さ」

 

「『造った』…?」

 

「そう。詳しいことが知りたけりゃガウルにでも聞きな」

 

 それっきり、おばさんは何も言わなくなった。

 

 

 

 ピケルを医務室まで連れて行くと、おばさんは「ここまででいい」と言い、ソウからピケルを取り上げて医務室の扉を閉めた。

 

 ソウはアルカナの整備のため、格納庫へ行こうと思ったが、それより気になることがあった。

 

「アルナ。何でさっきからそう不機嫌なんだよ」

 

 廊下で会って以来、どうもアルナの様子がおかしい。

 

 ソウをどこか相手にしていないような感じがする。

 

「別に。不機嫌なんかじゃないわよ」

 

 反論するアルナの口調が彼女の機嫌の悪さを物語っている。

 

「ならなんでそんな早足なのさ」

 

 つかつかと何処かへ行こうとするアルナにソウは歩調を合わせている。

 

「別に。なんだっていいじゃない」

 

 ますます速度をあげるアルナ。

 

「アルナ」

 

「うるさい」

 

「どうしたのさ」

 

「話し掛けないで」

 

「…アルナ」

 

「話し掛けないでって言って…きゃ!」

 

 しつこく食い下がるソウを睨みつけようと後ろを向いた瞬間、アルナの体が宙に浮いた。

 

 ソウが彼女を抱き上げたのだ。先刻のピケルの時と同じ、『お姫様抱っこ』で。

 

「ちょ…ちょっと!何すんのよ!…ソウ?」

 

 アルナが見たソウの表情は――何というか、困った顔だった。眉が八の字になっている。

 

「…なんでそんなに怒っているのさ」

 

「…べ、別に怒ってなんか…」

 

「怒っているよ」

 

「だから別に…」

 

「俺がピケルを『お姫様抱っこ』していたから…?」

 

「……」

 

 ソウに考えを見透かされ、アルナは口篭もった。

 

 ソウは、少年漫画でよくいるような「朴念仁」なタイプの男ではない。男にしては、かなり勘がいいし、女性の考えも、普通の男よりはある程度理解している。彼がアルナのアプローチに無反応なのは、幼少期の頃の刷り込みのせいで、アルナを姉的存在としか認識できないからだ。 (それはそれでかなりの朴念仁かもしれないが)

 

「あの子は自力で歩くのが大変そうだったから…」

 

「…分かってるわよ、それくらい…」

 

 今のアルナは、自分のワガママを指摘されたからか、ばつが悪そうにしていた。少し顔を赤らめて、そっぽを向いている。

 

 アルナも別にソウとピケルの間にいつの間にか恋愛感情が出来たとは思っていない。

 

 寂しかった。

 

  ソウが誰か、特に女性と優しく接しているのを見ると、どうにも寂しいのだ。

 

  ソウの優しさは自分に向いていて欲しい。

 

  それが醜く汚い欲望だということは彼女もわかっているのでおくびに出さない。

 

 それに、レジスタンス内でアイデンティティーを模索している今のソウの心をわざわざ自分に向けて邪魔してしまうようなことは、姉同然の幼馴染みであるアルナにはできなかった。 

 

 しかし、だからといってこの感情を無視することもできない。

 

  アルナは自分の幼稚さがどうにも情けなかった。

 

「あの子…ピケルちゃんを医務室まで運ぶためにああしたってだけなんでしょ?私だって、それくらいわかってるわよ…」

 

「ならなんで、そこまで拗ねるのさ」

 

「……ごめん」

 

 うつむき、顔を隠している。

 

「…もう、不機嫌は直った?」

 

 アルナは黙ってうなずいた。

 

 

 

 

 

 サンタレン基地・格納庫内部

 

 被害は思いのほか甚大だった。

 

 撃墜された《アルニタク》には、30機近くのストライクダガーが積まれていた。

 

 それら全てが無駄に散ってしまった。

 

「ちっ…」

 

 ギドーはその痛すぎる被害に頭を抱えた。これからテリトリアル大佐に報告しなければならない。その時にどんな嫌味を言われるかと思うと、舌打ちのひとつでもしたくなる。

 

 今、サンタレン基地にあるストライクダガーは全部で7機。これではかなり危うい。残りの2機の輸送機の内1機に搭載されているという試作機2機を合わせても9機しかない。

 

 ところでその試作機とは一体どのようなものなのだろう。ギドーが未知の兵器の事が気になり始めた時だった。

 

 リジョンが向こうからやってきた。

 

 もうすでにある程度の処置は終わったらしく、先程スカイグラスパーから降りてきた時に比べれば、その違いは一目瞭然だった。

 

 リジョンは、輸送機関連の詳細が書かれた書類を眺めているギドーのそばまで歩いてきた。ギドーもそれに気付く。

 

「あん?なんだよ」

 

「……」

 

 元々リジョンのことを快く思っていないギドーは、また何か文句でも言いに来たのかと思い、高圧的な態度をとった。

 

「………」 

 

 しかし、リジョンはギドーの前まで来ると、手をもみ合わせるように持て余しながら、うつむいたまま何も喋ろうとしない。

 

「…………」

 

(…なんだ?)

 

 ギドーが怪しみ始めた時。

 

 

「……途中で助けてくれてありがとう…」

 

 

 非常に声の小さい、か細い声だったので、ギドーにはよく聞こえなかった。

 

「…ああ?なんだって?」 

 

「あ…うう…えっと…」

 

 狼狽するリジョン。

 

 先刻のギドーの乱入でリジョンは助かったようなものだ。その時のギドーが、彼女にはちょっとだけ――本当にちょっとだけだが――かっこよく見えていた。

 

「何だよ。言いたいことがあるならはっきり言え」

 

 何をしたいのかわからないことに苛立つギドー。

 

「……」

 

「なんだよ。何の用だよ」

 

「…バカ」

 

「は?」

 

 リジョンのうつむいていた顔がきっとこちらを睨みつけ、

 

「バカ!」

 

 そう言い放ち、リジョンは走って何処かへ行ってしまった。

 

 残されたギドーは、最初ポカンとしていたが、最後に何を言われたかを理解し、

 

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 独り、怒りの雄たけびを上げていた。


(第十二話 完)

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