AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

第一話 ギャンブル

 ソウ達が洞窟に隠れて数時間後、地球軍の襲撃は終わった。外はすでに薄暗かった。
 元々大した戦力も無い小さな町だ。正規軍が本気を出せば、こんな町など、それこそ
「赤子の手をひねる」ほど簡単に落とせる。
 ソウは薄れていく騒音で戦闘が終わったことを悟った。
 今ソウとアルナは、二人が持っていた無け無しの水と食料で夕飯代わりにしていた。
 ソウとしては、すぐにでも怪我を負ったアルナを治療するために、相応の施設に連れて行きたい。
 彼女の例の傷は、さっきよりは大分良くなったが、それでもどうも傷口がふさがりきらない。
もっとも手当ての甲斐もあってか血はほとんど出てはいないが。
 しかし、今はまだ不安定な治安だろうから病院も開いてるか怪しいし、
第一、この戦闘で病院が残っているかも疑わしい。
 仮にあったとしても、恐らくは地球軍が占領しているだろう。
 そうだとしたら、コーディネーターのアルナを連れて行くのは危険だ。
下手をすれば、アルナが殺されるかもしれない。

 殺される。

 その言葉で、ソウはふとさっき殺された両親のことを思い出した。
 今考えてみるとなぜあのパイロットは二人を殺したのだろう?無抵抗な二人をあの場で殺す必要が無い。
 それとも戦争はそんな単純なことも考えられなくなるのだろうか。
 あるいは、あのパイロットはただ単に殺すのを楽しむ狂人だったのだろうか。
 そんな最後は意味の無い堂々巡りに終わりそうなことを考えていると、
「何考えてるのよ。あっ、もしかして黄昏ちゃってた?ソウってよく黄昏るもんね。」
 可愛らしくも少し意地悪にアルナが話し掛けてきた。ソウは少し苦笑気味に、
「そんなんじゃないけどさ。さっき死んだ父さんと母さんのことを、ちょっとね。」
「あ、ゴメン…からかっちゃったりしちゃって…。」
「いいよ、別に。なんか少し気が晴れた。」
 アルナの明るく元気な声は、聞いたらいつだって元気になれる、そんな感じがする。
「…ねぇ、ソウ。」
「ん、何?」
「この洞窟ってさ、私達が小っちゃい時によく遊んだとこだよね。」
「うん。懐かしいなぁ。ここでやった隠れん坊。ここって結構深いから隠れる場所が結構多くて。」
「そうそう。で、みんなは見つかってるのにソウだけがどれだけ探しても見つからなくてさ。」
「最後は俺が洞窟の奥の化け物に食べられたんじゃないかって大騒ぎになったんだっけ。」
「アハハハ、そうそう。よくそこまで細かく覚えてるね。」
「だって鍾乳洞につかまって下を見てたらいつのまにか俺が殺されているんだよ。そりゃ面白かったさ。
 見ながらずっと笑ってたけどね。
 あの時最初に俺が化け物に食べられたんじゃないかって言い出したのってヒータだっけ?」
「そうそう。で、それを真に受けたフィンが最初に泣き出して。」
「最後は俺以外のみんなが泣き出しちゃったんだよね。ソウが食べられちゃった〜って。」
 ソウがここまでいい終えた時、ふと、アルナの顔が曇って見えた。
「……ヒータとかフィン、みんな今頃どうしてるかなぁ…。」
「……元気だといいね。ゴタゴタが済んだらまた会えるかもしれないし。」
「…私のパパとママも死んじゃってもし友達も死んじゃってたら…。」
 そうだ。アルナの両親も殺されたのだ。
「私、もう嫌だよ!これ以上私の知ってる人が殺されるなんて…。」
 アルナは今にも泣きそうな声をしている。
「ねぇ、ソウ。」
「?」
「ソウは死なないでね。」
「……。」
「みんないなくなっちゃって、これでソウまで死んじゃったら...そんなの嫌だよ!」
 そう言って、とうとうアルナは泣き出してしまった。
 ソウとアルナは幼少の頃からの幼馴染みだ。
 だからソウは、アルナをまるで双子のきょうだいのように大事に思っている。
(もっともアルナはソウとは違う意味で、彼を大切に思っているが)
 その気持ちが、ソウにある決心をさせた。
「大丈夫。俺は死なないよ。」 
「え…?」
「俺は死なない。で、アルナも死なせない。絶対に。約束するよ。」
 優しい顔で、しかし非常に説得力のある喋り方でそう言った。
 普段は無口で冷めた性格のソウだが、一旦やると言ったことはやる。
そういう性格なのだ。このソウという男は。この性格はアルナをよく知っていた。
 そんな性格のソウが、「約束する」と言ったのだ。決してその場しのぎの言葉ではないということだ。
 この言葉にどれだけアルナは救われたのだろう。
「だからさ、もう泣かないでよ。ね?」
 気がつくとアルナはさっきよりも大粒の涙を流していた。しかし、その顔はどこかうれしそうだった。

 気がつくとすでに真夜中だ。外の空気はもう涼しさを超えて寒さを感じる程になっている。
アルナはもう眠っている。ハードな一日だったのだ。疲れていても当然である。
 ソウも流石に疲れていた。外から吹く風が冷たくて、たくし上げていたシャツの袖を下ろす。
 それでもまだ寒くて、荷物にあったマッチで焚き火をしてみた。これは正解だった。なかなか暖かい。
 その火のそばに腰を降ろした。
 チロチロと揺れる火を眺めながら、ソウは今日の事を思い出していた。
 地球軍が自分の町を襲撃してきたこと。
 その際に両親を失ったこと。
 アルナと一緒にこの洞窟に逃げ込んだこと。
 そして、さっきのアルナとの約束。 死なせない、確かにそう言った。
 でもその約束はそんなに大変なことではないのかもしれない。
 少なくとも地球軍のこの町への攻撃はもう無いだろうし、気がかりだったアルナの怪我も、
さっきの彼女を見た限り、思ったほど重症というわけでもなさそうだ。
 ならわざわざ危険を冒してまで病院へ連れて行く必要も無い。
ここから数十キロ離れた、まだ平和な町も知っているから、必要ならそこまで行けばいい。
 あとはどこに亡命するか…そんなことはまた明日にでもアルナと一緒に考えればいいことだ。
 そろそろ自分も寝ようかと思ったとき、アルナが妙に息が荒いことに気づいた。
 寝ているがなんだか苦しそうな顔をしている。
 額に手を当ててみると、相当高い熱を出していた。
 おかしい。
 コーディネーターが熱風邪なんてそうそうなりはしない。
 事実、これまでにアルナが風邪を引いて寝込んだなんてことがない。
 さっきの傷口からなにか病原菌でも入ったのだろうか?
いや、それでもコーディネーターが簡単には熱を出したりはしない。
 そういえば、今でこそ、ほとんど塞がったが、さっきの傷の治りの遅さも妙だった。
そのこととも関係があるのだろうか?
 とにかく何か手を打たないと、この熱ではアルナが死にかねない。
 洞窟内には澄んでいて冷たい水の貯まっている場所もある。
その水につけてタオルを冷やし、アルナの額にのせてやった。
少しは楽になれたのか、アルナの荒い息が少しは治まったようだ。
 こんなところで死なせはしない、ソウは静かに眠っているアルナを見ながら思った。

夜が明けるまで、ソウはずっとアルナの看病をしていた。
(といっても乾いたタオルを再び水につけて冷やすくらいしかできないが)
 それでもアルナの容態は悪化こそすれど良くはならなかった。
 このままでは本当に命に関わる。
 かといって昨日考えていた町まで連れて行くまで、アルナがもつとも思えない。
 危険ではあるが、どうせこのままではアルナは死んでしまう。ソウはある賭けをした。

 ソウの賭けはこの町の病院へ連れて行くこと。
 昨日の戦闘で壊れていればそれまでだが、無事ならまだ可能性が無いわけでもない。
 ここからなら全力で走ればアルナを担いでいても三十分もあれば行けるだろう。
 荷物をまとめ、今だ苦しそうに眠っているアルナを背負うと、ソウは洞窟から駆けでた。
 
 ソウの予想通り、病院などの施設はほとんど地球軍に占拠されていた。
 地球軍はまだ占拠状態にしていない場所や偵察、警戒等の理由でジープをいくつも町に走らせていた。
 そんなジープの一つにソウは鉢合わせになった。
「誰だ!こんなところをふらふらと!」
 ジープの運転手は車を止められたこともあり、怒声を飛ばす。
「この町の住人です。お願いです!彼女を助けてやってください!」
「ん?なんだ?じゃあ病院にでもなんでも早く連れて行けよ。一応民間人でも診てくれるぜ?」
 お、意外と好感触?そう思った矢先、
「あ、ちょっと待て、そいつ、もしかしてコーディネーターじゃねぇだろうな?」
「……コーディネーターです。」
「ああ、じゃあやめておけ。それじゃあ診てくれねぇよ。下手すりゃ殺される。他をあたりな。」
「そんな…他のところまで運ぶだけの時間なんて…」
「そう言われてもなぁ…。とにかくここじゃあ…」
「連れていってやれよ。ここの病院へ。」
 驚くソウと運転手。望みを断たれたと思った矢先にまたチャンスが降って来たようだ。
 見ると、彼は普通の兵士とは服装も雰囲気も違う。軍人というかむしろ医者か学者といった感じだ。
「しかしフィルモスさん、コーディネーターじゃちょっと…」
「心配するな。お前には迷惑はかけない。診るのは俺達のメンバーだ。」
 学者の様な男はフィルモスというようだ。
「は!コーディネーターなんざ殺しちまえよ!」
 後ろにいた別の兵が汚い野次を飛ばすのを無視してフィルモスは更に言う。
「で、少年、お前とそっちのはなんて名だ。」
「俺はソウ、ソウ・クレストです。こっちはアルナ、アルナ・フィル。」
「ソウ…か。診てやらないこともないが、治療費はあるのか?言っとくがタダじゃないぜ?」
「そう言われても…金なんて…。」
「ま、お前が使える人間なら治療費代わりにしてやってもいいけど。」
「は?」
「お前もコーディネーターか?」
「え、ああ、そうですけど…?」
 いまいち話が見えてこないソウにフィルモアは話を続ける。
「じゃあナチュラルより強いんだよな?」
「…?あの、いったい何を…。」
「おいギドー、ちょっと耳貸せ。」
 ギドーとはどうやらさっき野次を飛ばした男のようだ。フィルモスはギドーの耳に何ささやいている。
「マジで殺っていいんだな?」
「ああ。それで死んだら別に必要ない。」
 なにやら不吉な会話を終えたギドーがジープから降りてきた。手にはナイフを持っている。
「ソウ!お前がそいつを負かせたら、アルナを助けてやる!そいつはお前を殺す気だから気をつけろよ!」
(!!!なんだそりゃ!!)
 呆気にとられるソウを無視して、ギトーがナイフを構えてこちらに向かってきた。 
 とにかくアルナを降ろし、ソウも仕方なしに構える。
「はぁー!」
 ギドーの突き出したナイフを紙一重で避け、顔面に渾身のパンチを決める。
「ぶっ!」
 鼻血をだしながらギドーはニメートルは吹っ飛んだ。完全にカウンターが決まった。
「これでいいんですね?」
 後ろに居たフィルモアにソウが聞く。
「どうかな?まだギドーは動けるようだが?」
 はっと後ろを向くと、もうギドーはナイフを向けて突進してきた。反応できない、殺られる。
 
 駄目だ。約束を破る、死ねない。 

 刹那、突然頭の中で『何か』が弾けた。
 頭がクリーンな感じになる。ギドーの動きがスローに見える。突き出されたナイフも見切れる。
 それから、もう二分は経った。
 ギドーはさっきからナイフを振りまわしているが、ソウにはかすりもしない。
 コーディネーターといえども子供相手にこんなにてこずっている、ギドーは焦り始めた。
「でやぁぁ!」
 至近距離まで一気に近付き、ソウの腹目掛け、ナイフに全体重をのせて突き出した。
 その手をソウは両手で掴み、体を真上に跳ね上げた。ギドーの腕を掴んで、倒立したような体勢になる。
 そこからギドーの後頭部へニードロップを決めた。
 また吹き飛び、泡を吐いているギドー、脳震盪で気絶したのだろう。
「それまで!ソウの勝ちだ!」
 フィルモスが叫ぶ。
 これでアルナが助かる、良かった。
 張り詰めていた緊張がプツンと切れたのか、ソウはその場に崩れるように倒れた。
 丸一日起きていたことで、体力的にも限界だったのだろう。そのまま眠ってしまった。




  トップへ