C,E71、
血のバレンタインに端を発した地球、プラント間の戦争は、
ヤキン・ドゥーエ攻防戦をもってひとまずの終わりを遂げた。
この話はその『終わり』までを壮絶に生きた少年と少女の物語である。
C、E71、 6月17日
地球連合でも勢力のある大西洋連邦はその勢力を更に拡大させるため、
近隣の連合に組していない地域も(武力をもって)介入させていた。
最も横暴な大西洋連邦に心を良くしない地域も多く、勢力の拡大の成果も
芳しくはなかったが。
ソウの住んでいる地域もまた、
その横暴な『訪問者』を良しとしない構えだった。
良しとしなかったのだ。
だからだ。今、自分達の町が連邦のMS、
『ストライクダガー』の大群に襲われているのは。
町は炎で包まれ、逃げ遅れた人々は容赦無く殺され、
そこは阿鼻叫喚という言葉が御誂え向きな凄惨な場所になっていた。
ソウ一家は急いで最寄の避難シェルターへ向かって走って行った。
そこで気づければ良かったのだ。
するべきことは『避難』ではくなその町からの『脱出』だということに。
「くそっ!なんてことだ!シェルターは1席も空いてないなんて!」
ソウの父は最後の望みを賭けて向かったシェルターの
入り口にあるインターホンからの応答を聞いて愕然とした。
「ほ…他に避難するところは無いの!?」
母は半ば涙目になりながら、金切り声を上げている。
「………前によく遊び場にしていた洞窟になら…。」
先の二人よりは明らかに落ち着いた声はソウ。
ソウはこういう性格なのだ。切迫していて皆が焦っているときでも
割と冷静に構えていられる。
「そ、そうか…。ならその洞窟まで案内してくれ。」
父が返答する前にソウはすでに目的地はこっちだと言わんばかりに
数メートル先に進んでいた。
誰もいない道を駆ける三人。
これがもうちょっと町から離れた山道とかだったなら
逃げ切ることもできたのだろう。
しかし、三人が走っている所は町外れの山部ではあったものの、
割とダガーのパイロットの目に付き易い道だった。
更に運の悪いことに三人を見つけたダガーのパイロットは
性格の危険な、人殺しの好きな人間だった。
三人にダガーのビームライフルの銃口が向けられる。
(!!!なんだ…この嫌な予感…)
不気味な殺気に思わず足を止めるソウ。
一閃。
本当に一瞬だった。後ろに何か強烈な熱と光を感じたのだ。
振りかえってみると、そこにさっきまで
自分を追いかけてきた父と母の姿は無く、
あるのはさっきまで父と母だった肉片と血のりだけだった。
「父さん!母さん!」
さすがに愕然とするソウ。
しかし、それでも彼の本質はあくまで冷静沈着なのだ。
次の瞬間には別のことを考えていた。
次に殺されるのは…自分だ。
ビームの震源を目で追っていく。
「あれか…。」
両親を殺した犯人を特定した時には残虐な犯人はすでに
ソウをロックオンしていた。銃口が緑色に光る。
ソウは死を覚悟し、目を固くつむった。
(……?)
おそるおそる目を空けるとそこにはすでに犯人の姿は無かった。
実はダガーのビームライフルのエネルギーが尽きたため、
犯人は彼を殺せなかったのだ。
そしてそいつは、補給の為に一旦撤退していた。
危なかった。奇跡的に助かった。
しかし、こんなところにぐずぐずしていたらいたら、今度は確実に殺される。
後ろ髪を引かれる思いで両親の亡骸を残し、ソウは洞窟まで駆け出した。
二度と狙われないように木々の間を選んで。
逃げている途中、女の子がうずくまってるのをみかけた。
「アルナ!」
「ソウ!」
アルナと呼ばれた女の子はうれしそうに笑顔をみせる。
「一人なのか?おじさん達は…?」
「……死んじゃった…。」
「そう…。じゃあ、俺と同じなのか。」
「あ…、じゃあソウのおばさん達も…」
「うん…。でも良かった。アルナだけでも無事で。」
「…ありがと。でも…無事じゃないんだ。」
アルナのその一言で気づいたのだが
彼女の足から相当な量の血が流れ出ている。
「なっ…!とにかく、避難しよう。ほら、小さい頃に遊んだ洞窟、
あそこに逃げ込もうよ。そこで少しでも応急手当をするからさ。」
「無理よ…。だって、もう歩けないもん。」
「…わかった。じゃあ俺が負ぶっていくよ。」
言うが早いがソウはさっさとアルナを背負う。
「痛ッ…ちょっ、ちょっと!もっと優しくやってよね!」
などと悪態をついてる割には、アルナはソウに負ぶわれることに
少しうれしそうな顔をしていた。最もその顔はソウには見えないが。
アルナを負ぶって走ること10分。ようやく洞窟の中へ入った。
アルナの手当てをしようとしたが、
2人とも大して荷物は持っておらず、ろくに処置もできなかった。
血が少なくなってきたからだろうか。さっきよりも元気が無くなっている。
傷自体はそれほど大きくなく、彼女はコーディネーターなので
(両親はナチュラル)すぐに死ぬ、ということはなさそうだが、
いつまでも持つわけがない。
それになぜか血がなかなか固まらないのも不思議だった。
早く、相応の施設へ連れて行かなければ、命に関わる。
とはいえ、もうしばらくはここにうずくまっていなければならない。
少なくとも阿鼻叫喚の地が廃墟と名前を変えるまでは。
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