〜第7章 熱砂の攻防〜
「おい、大変だぜリーダー!! 」
オアシスに張られたキャンプの中でも一際目立つピンクのテントの中で、例の専用の椅子で冷たく冷えた紅茶を飲んでいたフルーシェの元にガルダが駆け込んできた。
「あなたという人は。何かにつけて駆け込んできますけど、仮にもレディーのお部屋ですのよ? もう少しデリカシーを持っていただきたいですわ。」
「それどころじゃないんだよ!! さっきの地球連合の輸送船が!! 」
「・・スローンが、どうかしまして? 」
カップを優雅に口にしながらフルーシェは尋ねた。
「ザフトに襲撃されてんだよ!!! 」
「ぷはっ、な、なんですって!? 」
紅茶の噴出されたその先には、もちろんのことガルダの顔があった。
「・・・・・・。で、どうする。」
顔をぬぐいながらガルダはフルーシェに伺いを立てる。
「どうって、決まってますわね。」
「言うと思ったよ。実際世話になってるしな、奴らには。ユガにはもう準備させている。行くぞ!! 」
「ええ。あんないい船、宇宙人なんかに絶対に沈めさせはしませんわ・・青き清浄なる世界のために!! 」
砂漠の浄化を使命とする3人の使徒達は、黄金の座天使の元に向った。
「出てきたわね! 白いミコトォ!! 」
アマテラスは、攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫の一つ、高エネルギー収束火線ライフル≪マカルカエシノタマ≫を背中から抜き、飛翔するスサノオめがけて撃ち放つ。
「アマテラスか! くぅ!! 」
スサノオの空戦型背部換装パック≪ヤクモ≫が唸りをあげ、宙を舞うアマテラスから放たれるビームをことごとく回避する。
「・・・バックパックをつけている? 飛べるのか、あのミコトも!? 」
「そのようですね、メイズ。白いミコトはエリスに任せて、私たちはあの船から沈めましょう。」
「・・・ああ。いい判断だ、メリィ。」
メイズの赤紫のディン・ハイマニューバと、メリリムの純白のドライはそれぞれが美しい軌跡を描きながら、砂上を走るサンドブラウンのスローンに迫る。
「スローンは、やらせはしませんよ! 」
「私達の刃をかいくぐれるものならやってみなさい! 」
振動子付き重斬刀≪スーパーシャクスソード≫と15.75メートル対艦刀≪シュベルトゲベールMk.2≫をそれぞれ構え、2機の剣士はスローンの周囲に位置し、構えた。
「機体性能の違いというものを、見せてあげます! 」
メリリムのドライが、超高速でスローンに迫る。
その速度は、カルラの駆る漆黒の悪魔、ツヴァイと同等。
硬質メタルウイングを広げ、地を這う座天使を切り捨てようとさらに加速する。
「メリィ!! うかつに飛び込むな!! 」
メイズの言葉は少し遅かった。
「多目的ミサイル『イフリート』、てぇ!! 」
「飛んで火にいる夏の虫ってね!! 」
レヴィンの放った≪イフリート≫はスローンの周囲に灼熱の衣を展開した。
急加速をしていたドライは停止する事ができずその炎の壁に激突する。
「きゃあああ! ・・し、しまった!! 」
ドライのコクピットに立て続けに鳴り響くアラーム。
メリリムが背後を振り返ると、≪シュベルトゲベールMk.2≫を振りかざすブルーセイヴァーの姿が飛び込んできた。
「2度も3度も、同じ手が通じると思わないでよね!!! 」
回避不可能のタイミングで、≪シュベルトゲベールMk.2≫が振り下ろされる。
が、その寸前に、左後方から来たメイズのディン・ハイマニューバの特攻がブルーセイヴァーを弾き飛ばした。
「くぅ!! ・・・頼んだわ! ・・・シャクス! 」
だが、さらにそのディンを猛追する機影があった。
「!! ・・ジンか・・・」
「いきなりですが、チェックメイトです!! 」
ジンの≪スーパーシャクスソード≫の刃が、メイズのディン・ハイマニューバに迫る。
「させない!! メイズ、我慢して!!! 」
ドライの手にした2丁のビーム散弾銃≪タスラム≫が火を噴き、剣を構えて飛んでいたジンに向ってディン・ハイマニューバもろとも無数のビームの雨を浴びせかける。
ビーム弾幕に体制を崩し、ジンは刃を振り落とせず落下した。
「・・・メイズ!! 」
「・・ぐ! ・・・、メリィ、このままではカルラの2の舞だぞ。落ち着け。まずはこの2機を早急に、落とす・・・・!! 」
「・・・了解しました! 」
「・・・今回は、私達もいけそうですねぇ、アイリさん! 」
「ええ、そう何度もやられっぱなしじゃ『カラーズ』の名が泣くからね! 」
「ゴッドフリート、照準! 援護するわよ!! 」
「あの羽ザフトども、マスターのアジトの恨み、百倍にして返してやるぜ!! 」
アイリーンとシャクスが構え、スローンの≪ゴッドフリート≫が火を噴く。
2機の堕天使と座天使軍団の互角の戦闘が幕を開ける。
「白い・・・ミコトォーーーーーー!!!! 」
その頃、怒りの炎をたぎらせるアマテラスがスサノオに猛攻を仕掛けようとしていた。
その手には、攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫の一つ、高出力ビームブレード≪ヤツカ≫が握られていた。
「おまえが、ダヌーを! ・・・・ノイッシュを! ・・・ディランをぉーーーーー!!!!! 」
エリスの叫びと共に空中で振り下ろされる≪ヤツカ≫と、スサノオの赤熱した9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫がぶつかる。
「くっ・・・このぉ! 」
烈火のごとき勢いに機体ごと天高く押されてゆくスサノオ。
その時、幾千の声の内の一つがコウの心とシンクロした。
『・・・ハーッハッハッ、私にはそれを遮る盾があるのだよ!!!! 』
「! ・・・・た、盾!!! 」
スサノオは≪ツムハノタチ≫でうけたアマテラスのビームブレードを自機の左側にそらしながら体勢を変え、左腕に装着されているエネルギー拡散反鏡盾≪オキツカガミ≫で受け直す。
盾にぶつかった≪ヤツカ≫のビーム刃は、その威力をはじかれて拡散した。
そして、その隙をコウは見逃さない。
「くらえ!! ザフト兵!!! 」
右腕に持つ≪ツムハノタチ≫をアマテラスめがけて横一文字に振り切ろうとするスサノオ。
「ナチュラル如きがっ・・・甘いのよ!!!! 」
スサノオの放つ赤熱の刃は、アマテラスの左腕によって防がれた。
背部に背負う攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫から抜き取った実体弾衝撃緩和盾≪ヘツカガミ≫を左腕に装着していたのである。
衝撃緩和のために盾から噴出される空気の塊が、≪ツムハノタチ≫を徐々に押し戻す。
「なんだって!? アマテラスにも・・・・あの盾があるのか!? 」
密着した状態で膠着状態になる両者。
そして、驚くコウにエリスが全周波回線で通信を入れた。
「ナチュラル!! おまえに殺された同志の仇!! 今日こそ討つ!! 無能なナチュラルはナチュラルらしく・・・おとなしく死になさい!!! 」
「!!!! 」
コウはリューグゥでの戦闘を思い出していた。
空中に投げ出され、爆砕した3機のグーン。
彼らは・・・・・・・オレが、斬った。・・・殺した・・・。
愕然とするコウに、エリスの言葉は続く。
「だいたい、お前らがあんなものを作るから!!! あんなものに・・・あいつは、・・・あいつらはぁ!! 作った奴もろとも、殺してやりたいよ!!! 」
エリスの言葉は、ミコトシリーズだけではなく、Gシリーズにも向けられたものだった。
ミゲルや、ダヌー達を殺した機械を作った者たちが憎くて仕方なく出た言葉であった。
しかし、・・・・・。
「・・・・たじゃないか・・・・。」
その時、スサノオから放たれる空気が変わった。
コウの瞳に青い炎が燃える。
「殺したじゃないか!!!! あんたはぁぁっ!!!!!! 」
忘れようとしていた父の死因を、コウは深い憎しみと共に思い出す。
「なにを・・・・!!! 」
言いかけるエリスを無視するかのようにスサノオの強烈な前蹴りがアマテラスの胴体に直撃し、そのまま2機は距離をとった。
「許さないのはこっちだ!! あんたが、父さんを・・・殺したりしなければ!!!! 」
「ごちゃごちゃとわけの分からない事を!! あいつらを殺した、お前がぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
アマテラスは攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫から取り出した対装甲ビーム散弾砲≪チガエシノタマ≫を右腕に、対艦バズーカ砲≪イクタマ≫を左腕に掴み、一斉放火をする。
ドライの≪タスラム≫よりも強力な、無数に輝くビーム光弾の雨がスサノオの逃げ場をなくし、対戦艦用の破壊力を持つバズーカの弾丸数発がスサノオを襲う。
「あんたが殺さなければ・・・オレだって、こんな事にならなかったんだぁ!!!! 」
スサノオの両掌から、強烈な勢いで烈風の塊が迸る。
すべてを破壊するかのような猛威を持ったその風は、砂漠の砂塵もあいまって巨大な2つの砂嵐となって天高く渦を作る。
「ザフト兵ぃーーーーーー!!!!! 」
「ナチュラルーーーーー!!!!! 」
2機の神々の激突は文字通り大気を揺るがし、熱砂の大地をさらに熱く焦がしてゆく。
「あれは・・・コウ君達なの!? 」
2機の神々と距離を置いて戦っていたアイリーンは遠くの空に立ち上る2本の竜巻とそこに展開する無数の光を見た。
遠方からでも、その激しい戦闘の様子を伺う事はたやすい事であった。
それほどの、激戦。
2機の堕天使と座天使たちとの戦いも膠着したまま続いていた。
カルラの教訓を生かし、コンビネーションを駆使してスローンの火炎弾幕を掻い潜り、2機にも確実に攻撃を仕掛けてくるメイズとメリリムの2機の堕天使。
しかし、スローンを守りながらアイリーンとシャクスもまた、それぞれの剣を振るって2機の堕天使の攻撃をことごとく迎え撃ち、追い討ちをかける。
スローンもこの動きの速い堕天使に対して、≪イフリート≫と≪ゴッドフリート≫、≪イーゲルシュテルン≫などを多彩に使い分け、剣士達のために敵機の隙を作り出そうと奮闘していた。
しかし、アイリーンにはどうしても気がかりな事があった。
それは、時間である。
長期戦になるということは・・・それだけ、コウの身に負担がかかると言う事だ。
自覚症状がほとんどないということも手伝っていつまた倒れるとも限らない。
最悪の場合も、考えられるのである。
「くっ、シャクス!! 」
「アイリさん! コウ君のことですね!! 確かに時間をかけすぎている気がします!!何とかしないと!! 」
「副艦長!! アイリさんかラジエル艦長にコウの救援に行ってもらえないでしょうか!? 」
「そうよ!! コウが、コウが死んじゃうわ!!! 」
「わかっているわ! でも、それではこちらも持ちません!! 」
「ええい! うっとおしい羽ザフトがぁ!! クールに落ちろぉ!!! 」
レヴィンの放つゴッドフリートが空しく虚空のかなたに消える。
皆焦り始めていた。
そして、メイズもメリリムもその隙を逃さない。
「・・・メイズ! 」
「・・・ああ、彼らは心なしか浮き足立っている。恐らくあの白いミコトが気になっているのだろうが・・・・。チャンスだぞ! 」
「はい、メイズ。一気に片付けましょう! 」
2機の堕天使が油断していたスローン達に襲い掛かる。
メイズのディン・ハイマニューバが赤紫の軌跡を描きながら2本のビームサーベルを構えてスローンに飛び、
メリリムのドライが純白の軌跡を描きながら2枚の硬質メタルウイングを広げてブルーセイヴァーに襲い掛かる。
「し、しまった!! 」
アイリが、
「副艦長!! 」
シュンが、
「ディンがくるわ!! 」
サユが、
「・・・急速回避!! 」
マナが、
「間にあわねぇ! 」
レヴィンが叫ぶ。
撃沈されたか・・・・と思われた瞬間だった。
ディンは背部の高速飛行バックパックから火を噴き、砂丘に落ちた。
その背中にはジンの投げつけた≪スーパーシャクスソード≫が突き刺さっており、程なくして轟音と共に爆散した。
「メ・・・・メイズゥー!!!! 」
絶叫するメリリム。
そして、戦う剣を失ったジンは・・・・。
ブルーセイヴァーの正面に火花を散らしながら立ちふさがるザフトの機体の背中がみえた。
否、それはザフト軍のものではなく、大切な仲間の駆る緑のジン。
迫り来るドライの眼前に立ちふさがり体でその突撃を止めた後、シャ スはなんとドライの顔面にジンの拳を叩き込んでいた。
しかし、その代償は大きく・・・・・。
2枚の硬質メタルウイングをまともに喰らい、左腕から胸部を少し掠めて頭部まで切断され、ジンはその機動力を失っていた。
「シャ、シャクスーーーー!!!! 」
アイリーンが悲鳴に近い声を上げる。
「ラジエル艦長!!! 」
「シャクスさぁん!! 」
「ちぃ!旦那ぁ!! 」
「いやあっ、シャクスゥー!!!!! 」
シュンが、サユが、レヴィンが、マナが、そして
「・・・先生!? ・・・・・。」
ナターシャが絶望の声をあげようとしたそのときだった。
「総員!! 気を引き締めろ!!! 」
シャクスの怒号に近い艦長命令が、スローンとブルーセイヴァーに響く。
「・・・私なら、大丈夫です!! それより、今は目の前の敵を退ける事を第一に考えなさい!! まだ、・・・一機残ってます!!! 」
「「「「「「! 」」」」」」
シャクスの言葉がクルー達の心に再び火をつけた。
「副艦長、ディンの撃墜を確認! 残り一機であります!! ・・・敵モビルスーツ捕捉! 頭部カメラアイを損傷している模様! 」
「ラジエル機! 中破! フォスター機は・・・まだ大丈夫ですねっ!!? 」
「当然よ!! サユちゃん! マナ、こいつは私に任せてシャクスを!! 」
「ええ頼むわね、アイリ。ナターシャ!!戦闘用ジープを出してシャクスを収容!!できるかしら!?」
「・・・当然です!」
「いよっしゃあ、シャクスの旦那の近くまで行ってやるからちょっと待ってろよ! ナターシャ!! 」
レヴィンの駆るスローンはシャクスの救援に向う。
「メイズを、メイズを・・・・・よくもぉ!! 」
壊れたカメラアイの奥から怒りの瞳を向けたドライの前に、ブルーセイヴァーが立ちふさがる。
「あんたの相手は、私よ!! 」
にらみ合う両者。
『コウ君・・・。今は、あなたの事を信じるしかないようね・・。死なないで! 』
様々な思いを胸に、純白の堕天使と青の剣士がぶつかり合う。
スサノオとアマテラスは、砂塵舞う砂漠の大地に立ち、お互いをにらみ合っていた。
風の神の放った竜巻によりアマテラスは脚部装着型空中飛行ユニット≪ハチノヒレ≫を破壊され、その装甲にもかなりの損傷を受けていた。
そしてスサノオもまた、対艦バズーカ砲は回避したものの、太陽の神の降らせた光の弾雨をまともに喰らい、空戦型背部換装パック≪ヤクモ≫はその機能を失っていた。
装甲もあちこちから煙を上げている。
地上に降り立った手負いのミコト。
状況は互角。しかし、
『・・・なんで・・・なんであんたは戦うんだ!! 』『・・・死ねぇ!!!!! 』『左翼に展開して、同時に撃つぞ!! 』『くそぅ!! このままでは!!! 』『戦わねばならんだろう! どちらがが滅びるまでな!! 』・・・・・・・・・・・。
幾千、幾万、幾億の言葉がコウの頭の中を駆け巡っていた。
「う・・・うるさい! うるさい、うるさい、うるさぁーい!! 」
絶望の前兆なのか、コウの目の下には大きな黒いクマが浮かび、全身はびっしょりと汗をかいていた。
一方、アマテラスのコクピットでは、肩で息をするエリスが最後の猛攻を仕掛けようとしていた。
「はあ、はあ、はあ。白い・・・・ミコトォっ!! お前は、ここで果てるのよォ!!!! 」
エリスは背部で少し煙を上げている攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫から脚部装着型陸上高速移動ユニット≪クサグサノモノノヒレ≫を抜いて両足に装着し、砂上を滑るように爆走した。
両腕には高出力ビームブレード≪ヤツカ≫と高出力ビームライフル≪タルタマ≫が握られている。
バクゥを彷彿とさせるほどの高速でスサノオの周囲を旋回するように、上空から見れば砂漠にスサノオを中心とした螺旋の軌跡を描くようにしてアマテラスが迫る。
旋回しながらアマテラスは高出力ビームライフル≪タルタマ≫を連射する。
「くっ・・・かわさなきゃ・・・があああああ!!!! 」
体中にしびれるような衝撃が走り、コウの体は動かなくなる。
その間にも見知らぬ無数の叫びや言葉が、流星のようにコウの頭の中に突き刺さっては消える。
「あ、あああああああああ!!!!!!! 」
白目を向き痙攣するコウの乗るスサノオは微動だにせず、アマテラスの螺旋の銃撃を受け続けた。
既にノイズのような声の渦の中にコウの意識は溶けていた。
無限の闇に、輝く無数の声の光が行きかい、その闇の中にいるコウもまたその光の一つ。
・・・オレは・・・・死ぬのか・・・・・
おぼろげな意識の中、光を失いその闇に溶け込もうとしていたコウのうつろな瞳に、一際輝く大きな光が飛び込む。
『・・・なぁんだ、あきらめるのか? 』
・・だ・・・・れ・・・・・・
『オレはあきらめないね。やる事やらずにあきらめたら生きててもつまらないだろう?』
・・・・・・
『見てろよ、マナ。オレはやってやるさ。なぁに、空を裂いて飛ぶ事なんて・・・・・・・・・・・・・・・・簡単さ! 』
コウの脳裏に笑顔を浮かべる男の顔が浮かび、周囲の闇を光が覆うように広がってゆく。
「・・・空を・・・裂く!!!! 」
コウの瞳に何かが弾ける。
スサノオのカメラアイが輝き、脚部のバーニアが爆風を上げる。
「な、なに!! 消えたですって!!? 」
それは、一瞬の出来事だった。
驚異的なスピードで砂上を切るように進むスサノオはアマテラスのビームライフルを軽々とかわした。
そして、アマテラスと距離をとって9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫を構える。
周辺の大気の力を全て吸収しエネルギーに変えてゆくスサノオの体は赤銅を超えた真紅の輝きを放ち、その光が乗り移ったかのように≪ツムハノタチ≫も赤熱してゆく。
荒ぶる嵐の神を取り巻く大気が、悲鳴を上げた。
「くっ・・そこかぁぁぁぁぁ!!! 」
高出力ビームブレード≪ヤツカ≫を構え、輝く風神に襲い掛かろうとする太陽神。
しかし、・・・。
斬!
スサノオの繰り出した一筋の斬撃は、その周囲の空気を焦がし紅蓮の炎の嵐を巻き起こしながら空と大地を切り裂いてゆく。
「・・・しまっ・・・・・・。」
エリスの瞳が絶望の炎の刃を捉えたその時。
『まだだ! 左に飛び込め!! 』
声に突き動かされるようにしてエリスは無意識に操縦桿を動かした。
そこに炎の刃が突き刺さる。
ゴオォォォォォ・・・・・・!!!!
大気を裂く音が、衝撃の後からエリスの耳にこだました。
こだました・・・?
エリスは自分の耳を疑った。自分はまだ生きている。
左頭をうずもれるようにして砂漠に伏したアマテラスの体は右肩の首の付け根から右腕にかけてを焼き切られていた。
が、エリスは生きていた。
そして、ちょうどその瞬間アマテラスの周囲に砲弾が被弾する。
「そこの白いMS!! 救援に来た!! 援護するぜ!! 」
2機のランドグラスパーに乗るブルーコスモスの使徒達が砂上を縦横無尽に駆けながらアマテラスを砲撃する。
「あの砂上船は・・・ブルーコスモス!? くそ・・・ここまでか。白いミコトォ・・・・覚えていなさい!!! あなたは私が必ず・・・・殺す!! 」
唇を血がにじむほどかみ締めたエリスは陸上高速移動ユニット≪クサグサノモノノヒレ≫のバーニアを全開にし、戦線を離脱した。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
メイズを討たれ、怒りに燃える純白の堕天使の猛攻を、ブルーセイヴァーは必死に受け続けていた。
「こいつ! ・・・きゃあ!! 」
ドライの高速飛翔から繰り出される翼の斬撃と、織り交ぜるように2丁のビーム散弾銃≪タスラム≫から発射されるビーム弾の雨がブルーセイヴァーを苦しめていた。
ザフトの最新鋭機というだけあってその性能は伊達ではないことを改めて思い知るアイリーン。
だが、ここまでやられずに戦う事ができたのはアイリーンの傭兵としての技能の高さであった。
中破したジンの元に、一台の戦闘用ジープが砂塵を巻き上げながら疾走する。
「・・・先生! 早く乗ってください・・・!! 」
運転しているのは、ナターシャであった。近くまでスローンに連れてきてもらったとはいっても、ビーム光弾が無数に飛び交い
荒れ狂う波のような形状の砂丘の上を華麗に走り抜けるナターシャの運転技術は目を見張るものがあった。
元々、ナターシャは初見でもどんな乗り物でも乗りこなせてしまう不思議な才があったのである。
ただし、MSの操縦だけはシャクスに禁止されているためにやった事がなかったのだが。
半壊したジンのコクピットから飛び降り、ナターシャの駆るジープに颯爽と飛び乗るシャクス。
助手席に座った彼の目は、悲しそうに愛機の姿を映していた。
「・・・エ〜クセレントな機体だったのですがねぇ。」
「・・・先生を守れて、あのジンは満足だったと思います。」
「そうですね、では行ってくださいナターシャ。」
ジープを再びスローンに向けて走らせるナターシャ。
しかし!
ジープの正面に、ドライの砕けた硬質メタルウイングが突き刺さる。
急ハンドルを切りナターシャはそれを見事に回避したが、車体はバランスを崩して砂上を転倒する。
シャクスはナターシャを抱えて素早く脱出し、受身を取りながら砂上を転がった。
硬質メタルウイングを砂上に突き刺したのはメリリムだった。
自らの硬質メタルウイングの片方を根元から折り、ナターシャの駆るジープを狙って投げつけたのである。
「メイズを・・・殺した奴!!! ・・・逃がさないから!!!! 」
怒れる堕天使が、シャクスとナターシャ目掛けて飛来する!
メリリムの心にはもう理性というものが残ってはいなかった。
「この、待ちなさい!!! 」
ブルセイヴァーも追おうとするが、ビーム散弾銃≪タスラム≫の弾幕で思うように追うことができない。
「あの、羽ザフト!! 旦那達から離れろ!! 」
「だめよ! レヴィン!! シャクスたちにあたってしまうわ!! 」
「副艦長!! ラジエル艦長たちが!!! 」
「シャクスさん、ナターシャちゃん、逃げてぇぇぇ!!! 」
レヴィン、マナ、シュン、サユが叫びスローンも追いつかない事を分かりながらドライを追う。
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
我を忘れているメリリムは、モビルスーツでシャクスとナターシャに特攻をかけた。
「・・・・・・ここまでですかね! 」
ナターシャをかばうように抱きながらシャクスも心を決めた。
「お控えなさい!! 宇宙人!!! 」
シャクス達の背後から一機のMSが飛び出し特攻をかけたドライの右肩あたりに噛み付き、ヒートファングをつき立てた。
噛み付いたのは、左の頭だった。
そのバクゥに似たサンドブラウンのMSは頭部が3つついており、あたかも地獄の番犬ケルベロスを彷彿とさせる。
「『ガルゥ』の力、特別に見せて差し上げますわ! 宇宙人!! 」
ガルゥと呼ばれたそのMSは中央の頭の口からビームを放ち、右頭の口から火炎放射を浴びせかけてドライの頭部と左腕をそれぞれ破壊した。
「きゃああああああ!!! 」
右肩に突き刺さったままのヒートファングの高熱と頭部、左腕の爆砕によって非常アラームが鳴り止まぬコクピットの中でメリリムは死の恐怖に駆り立てられた。
「メリィ!!! 」
遠方から放たれた高エネルギー収束火線ライフル≪マカルカエシノタマ≫の砲撃がガルゥを狙う。
それを察知したガルゥは、いち早くドライに噛み付いていたヒートファングを引き抜き、後方に跳躍した。
その隙に砂上を高速で滑るアマテラスは半壊したドライを抱えて疾走し、その場を離脱する。
「エリス! 」
「・・間に合ったようね、メリィ。・・・・メイズは? 」
「・・・・メイズは、メイズはっ・・・・・討たれ、ました! 」
「!!!! 」
緊張の糸がほぐれ泣き崩れるメリリムを抱えながら、エリスは拳を握り締める。
「・・・また!! 私は!!! 守れな・・・・・!! ・・・!! ・・・!! 」
エリスの瞳にまた、新たな悲しみと憎しみの炎が植えつけられた。
ガルゥのコクピットから降りてきた少女の姿にシャクスは驚いた。
「フルーシェさん!! どうして? 」
金色の巻き髪をかきあげながら、その青き清浄なる乙女は優雅に口を開いた。
「お怪我がなくてなによりでしたわ、シャクスお兄様。あの金色の船を見せていただいたせいでこのようなことになってしまったのでは、と思って助太刀させていただきましたわ。」
本当は、スローンが壊されるのが嫌だっただけなのだが・・・。
こういうところは、一党を率いるリーダーとしては抜け目がなかった。
「いやあ、本当に助かりましたよ。正に危機一髪でした! ありがとうございます。ほら、ナターシャもお礼を・・・・ナターシャ? 」
シャクスが見ると、ナターシャは大きく目と口を見開いて驚きの表情を見せている。
「・・・姉さん・・!! 」
「「えっ!? 」」
シャクスとフルーシェまでが驚く。
が、ナターシャの顔を見るなり大きな声をあげた。
「ナターシャ〜!!! 元気でしたの〜!!!? ホンッット、久しぶりですわねぇ〜! こんなところで会えるなんて、心配してましたのよ〜!!! 」
「・・・・・・お元気そうですね、姉さんも・・・。」
きゃあきゃあと騒ぐように喜ぶ金髪の姉フルーシェ・メディールとは対照的に、銀髪の妹ナターシャ・メディールは静かに微笑んだ。
しかし、再会を喜ぶ気持ちは変わらなかった。
劇的な対面シーンをぶち壊すかのように、一台のランドグラスパーが3人の元へと駆けつける。
駆け降りてきたパイロットの少年が血相を変えて叫んだ。
「フルーシェ!! 大変だよぉ!! あの白いモビルスーツのパイロットがぁ!!! 」
「「「「「「「「!! 」」」」」」」」
その場にいた全員に緊迫した空気が走った。
〜第8章へ続く〜
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