機動戦士ガンダムSEED DOUBLE FACE FINAL −THE LAST TRAGEDY ASTRAY−

 ユニウス7落下事件、『ブレイク・ザ・ワールド』から数日後のプラント首都、アプリリウス市は混乱を極めていた。
 地球に対して突然引き起こされた悲劇に、誰しもが不安を顔にし、その報復を恐れた。

 その不安定な町の空気を切り裂くかのように、快音をたてながら一台のオープンカーが物々しくそびえる一つの建物へとひた走る。
 その建物とは、プラント評議会のある『議長府』。

 コンコン―。

「入りたまえ。」
「失礼します。」

 その建物の一室で、入室を促した男の前に一人の女性がその姿を現した。
 オレンジ色の光をたたえる瞳に、長い藤色の髪をなびかせるその女性は、一風変わった青色のザフト軍服を颯爽と身に纏っていた。

「地球圏専属特務隊・ブルーフェイス所属、エリス・アリオーシュ、勅命によりましてカーペンタリア基地より参りました。・・・・オーソン・ホワイト議員。」
「うむ。遠路、ご苦労だったね。そして、久しぶりだね。元気だったかい? 」

 オーソンと呼ばれたそのプラント評議員は微笑みながら、エリスに話しかけた。
 そう、彼とエリスは面識があった。それは、誰にも語られる事のない歴史に残らない戦い―。
 2年前、世界の破滅を目論んだコトアマツカミを抜けたオーソンは、エリス、ブリフォー、メイズ、メリリムとともにプラントに戻った。そして、ヤキン・ドゥーエ攻防戦の熾烈な戦いの中、エリス達はゲイツを駆って戦い抜き、オーソンは己の罪を償うかのように評議員として影ながらエリス達兵士を支えた。
 後に、暫定評議員に選出されたオーソンの計らいで、エリス達『青服』はフェイスに昇格。
 ブリフォーはジブラルタルに、メイズ、メリリムはディオキアに、そしてエリスはカーペンタリアへと派遣される事となったのである。
 そう、今の彼らはザフト地上侵攻特務隊ではなく、こう呼ばれていた。
 ザフト地球圏専属特務隊・ブルーフェイス、通称『青服』、と―。

「『青服』である君を呼んだのは他でもない。ちょっとよからぬ情報を掴んでね。」
「よからぬ情報、ですか? 」
「ああ、まずこの映像を見てくれたまえ。」

 そういうと、オーソンは背後にある大型スクリーンに、『その映像』を投射した。
 そこには、廃棄コロニーと一機のMSの写真が映されている。

「・・・・・このMS、見覚えはないかね。」

 急に神妙になったオーソンの問いかけに、エリスは愕然とした。

「こ・・・・これは・・・・・・『ガンダム』?しかもこれは、あの・・・」
「そうだ。肩のマークを見てもわかるように、このMSは明らかに『ネオジェレイド』所有のもの。若干形態が異なる部分はあるが、『ディフェニス』、といっても差し支えないだろう。」
「『ディフェニス』!? それは確か、ネオジェレイド創設者であるロイド・エスコールの機体。しかし、あの組織はそのロイド・エスコールとハイウェル・ノースの死によって、もう大分まえに壊滅したと・・・まさか。」

 エリスの問いにオーソンは頷いて続けた。

「そうだ。彼らの残党がまた、動き出そうとしているようだ。」
「一体何のためにです? 」
「そこなのだよ。問題は。」

 一呼吸置き、オーソンはその重い口を開いた。

「・・・我々の掴んだ情報だと、彼らはどうやら地球に向けてコロニー落としをかけるつもりらしい・・・! 」
「な・・・・・!!! 」

 エリスが驚くのも当然である。先日ユニウスセブンの破片が地球に降り注いだばかりだというのに、再び地球にコロニーを落とそうなどというのだ。

「目的や詳細は分かっていない。また、この事はまだ内部機密で公表もされていないことだ。しかし、恐らく彼らの目的は亡き総帥、ロイド・エスコールの意を継いだ、世界の革変といったところかな。どちらにせよ、身勝手なことだ。」

 エリスの拳に力がこもる。
 何故、またこんなことを・・・・! 

「事が表立ってからでは遅いからね。だが、先の核攻撃の一件もあり、今は地球との関係も微妙な時期だ。下手に軍を動かせば、誤解を招きかねない。現在デュランダル議長が連合との共同作戦の交渉をしているらしいのだが、恐らく少数部隊ということになるだろう。そこで、君にもその部隊のひとつに加わって欲しいのだよ。コロニーの直接破壊は、議長推薦の別働隊が行う事になっているのだが、君と『彼』の2人の部隊はその別働隊の援護を頼みたい。」
「『彼』? 」
「もう先に行っているはずだから、案内しよう。ついて来たまえ。」

 そういうと、オーソンはエリスをつれてその部屋を後にした。
 エリスがつれてこられた場所は、MS格納庫。
 そこには、ニューミレニアムシリーズと呼ばれる、ザクウォーリアやザクファントムが所狭しと並んでいた。

「やあ、遅かったじゃないか。」
「すみません、議長。」

 待っていたのは、現在のプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルと、赤服を纏った一人の青年だった。
 格納庫の上方を仰ぎ見ていたその青年は、独特にセットされたオレンジ色の髪の毛を揺らしながらエリスの方に向き直る。
 そしてギルバートがおもむろに口火を切った。

「エリス・アリオーシュ君だね。はじめまして、ギルバート・デュランダルだ。」
「地球圏専属特務隊・ブルーフェイス所属、エリス・アリオーシュです。」

 ギルバートに最高の敬礼をもって返すエリスに、赤服の青年が話しかけた。

「エリス・・? エリスじゃないか。久しぶりだな。いつぞやの墓地以来かな。」
「あなた・・・ハイネ? 」

 2人のやり取りに、ギルバートとオーソンは顔を見合わせる。

「なんだ、知り合いかね。なら好都合だな。君たち2名のフェイスが今回の廃棄コロニー破壊作戦、“オペレーション・メテオブレイク”のパートナーということだよ。オーソンから大まかには聞いているね? 」

 エリスとハイネは頷いた。
 ギルバートはニコリと微笑み、視線を上げる。

「・・そして、これが君たちの新しい機体だ・・・! 」

 突如ライトが煌々とつき、2機のMSの姿が目に飛び込んでくる。
 一機は一見すればザクのようだが、その細部が若干異なる新しいタイプのモノアイのMS。
 もう一機は、全身がグレーに染まった、どこかで見たことのあるツインアイタイプのMS。
 その姿を見て、エリスは叫んだ。

「これは・・・・・アビス!? 」
「その通りだよ、エリス君。この機体は、『ZGMF-X33S セイレーンアビス』。先日、アーモリーワンで強奪されてしまったZGMF-X31Sアビスの後継機だ。そう、君の機体だよ。カーペンタリアの『黄昏の海魔女』と呼ばれた君にふさわしい機体だろう? 」

 そこにオーソンが補足を入れる。

「本当は、ブリフォー達にもこのセイレーンアビスと同期開発の『サードシリーズ』が支給されることになっているのだが、開発が少々遅れていてね。君の機体だけ先にロールアウトすることになったんだ。今回の任務とあわせてね。」
「私の・・・・新しい機体。」

 エリスは新しい自分の相棒の姿をまじまじと見上げた。
 若干だがシャープに洗練されたフェイス。その独特の大きな両肩には2連装の砲が取り外されているが、両腰に≪バラエーナ改≫ビーム砲が追加されており、背部の≪バラエーナ改≫にはフリーダムとほぼ同型の高機動ウイングが追加されているのが見える。
 優雅な翼を持つその姿はまさに、セイレーンそのものであった。

「そして、ハイネ君。君は、この『ZGMF-X2000 グフイグナイテッド』を使ってくれたまえ。ザクと量産型コンペを争った機体だが、その性能はザクをはるかに上回る。実は、これは先行試作機でね。少々癖もあるかもしれないが、ゆくゆくはザクとともにプラントを守る大いなる力となりうる素晴らしいMSだよ。・・・・・どうだね、君たち。」
「はっ! ハイネ・ヴェステンフルス、グフイグナイテッド、確かに受領いたしました! 」
「エリス・アリオーシュ、セイレーンアビス、左に同じく。」

 敬礼する2名に、ギルバートは頷き、そして言葉をかけた。

「君達のこの任務次第で、地球の命運が決まってしまうかもしれない。くれぐれも、よろしく頼む。・・・・オーソン、作戦詳細と決行日程を彼らに知らせてあげたまえ。私はこれで失礼するよ。」

 そういうと、ギルバートは待機していた数名の秘書とともにその場を後にした。

「作戦決行は追って報告する事となるが、それほど遠い先の事ではない。なるべく早くに機体調整や操縦のクセの把握などを済ませておいて欲しい。作戦詳細は、ブリーフィングルームで話そう。」

 エリス達も、作戦詳細の説明を受けるためにその場を後にする。



 それから3日後、あらかた機体のOS調整などを済ませたエリス達は、ハイネの提案で、『ある場所』を訪れていた。
 両手には、オレンジ色に彩られた無数の花を持って。
 そう、そこは戦友たちが眠る墓地だった。

「ミゲル・・・・・また来たわよ。」
「よ、『元気』にしてたか? 」

 ミゲル・アイマンと書かれた一つの墓標の前で、2人は思い思いの言葉を口にしながら敬礼をした。

 ・・・・今度の任務は、地球が本当に危ないかもしれない。今地球にいるブリフォーやフルーシェ、メイズやメリリム、レヴィン達連合のみんなだって、死んでしまうかもしれない。絶対に失敗できないの。
 だから、お願い。私に、力を貸して・・・・ミゲル。

「オレとお前が組めば、最強さ。」
「・・・え!? 」

 一瞬ミゲルの言葉と聞き間違えるかのような言葉を放ったのは、傍らに立つハイネだった。

「考えてもみろよ。ヤキンを生き抜いたフェイスが2人もいるんだぜ? 失敗する要素なんかない・・とはいえないが、そんな思いつめた顔するなよ。大丈夫さ。」
「ハイネ・・・・。」
「この前のユニウスセブンの落下は直撃は避けられたものの、地球に多大な被害が出た。いや、地球だけじゃなく、プラントだって危うく核攻撃を受ける事になるまで発展しちまった。それなのに、今度はコロニー落としだと!? 手前勝手な理屈でせっかく訪れていた平和を壊そうとしているやつらには、オレは容赦しない。徹底的に・・・叩く! 」

 ハイネの瞳に決意の炎が宿る。そして、エリスにも。

「そうね、ハイネ。私たちがやるしか、ないんだものね。」
「ああ。さて、そろそろ戻ろうか。帰る頃には、オレのグフもオレンジ色に染まっているはずだしな。・・・ああ、ついでにお前のアビスもVPSがオレンジ色になるように設定頼んでおいたぜ? 」
「は? そんな事、聞いてないわよ!? 」
「ああ、そりゃそうさ。今言ったからな。余計なお世話だったか? 」
「・・・・・・。いいえ、ありがとう。」

 微笑むエリスにハイネもまた、微笑で返した。そんなハイネの瞳に3人の人影が映る。
 一人は白髪の眼光鋭き少年。
 もう一人は色黒の背の高い少年。
 そして、中央の一人は藍色の髪を肩口まで伸ばした少年だった。

「お前達・・・イザーク・ジュールにディアッカ・エルスマン。それにアスラン・ザラじゃないか! 」
「・・・・・・・・誰だ? 」
「ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしく! こっちはエリス・アリオーシュ。」
「どうも。」

 傍らから顔を出したエリスを見て、イザークが今更ながらに気付く。

「なんだ? エリスか。久しぶりだな。だが、お前はカーペンタリア勤務のはずだろう。何でプラントに・・・」

 イザークが言い終わるや否や、エリスが眼下に視線を送った。

 そこにはおおよそ場違いなひまわりの花が。

 それを見たイザークは一瞬悲しげな顔をして、納得したかのように言葉を収めた。
 イザークはアラスカのオペレーション・スピットブレイクの時にエリスとは共闘している。その時から知っていたからだ。エリスがミゲルの事を好きだったことも、アマテラスのナビゲーターとなったミゲルとともに戦った事も。
 そしてMIHASHIRAシステムのダウンとともに再び永遠に別れる事になったことも、後でエリスから聞き知っていた。

 話をすり変えようとして、エリスがハイネにどうでもいい事を聞いた。

「そう言えば先のプラント防衛戦にも、ハイネは出ていたのよね? 」
「ああ。戦艦を2隻も落としたんだぜ! 凄いだろ! 」

 自慢げに語るハイネ。

「ふん! そんなの自慢にもならんわ! 」
「お、言うねぇ。」

 どちらも負けず嫌いと言うところで張り合っているのだ。
 そして、話を変えようとしたエリスに精一杯の気を使っていたのだった。

「ハイネ、そろそろ行かなきゃ。」
「そうだな。じゃあな、3人とも。」

 3人を後にしながら、ハイネはつぶやいた。

「まだまだ頼もしい連中が、ザフトにはたくさんいるようだな。」
「・・・確かに。口は悪いけど、イザークはやり手よ。でも、アスラン・ザラは確か、消息不明のはずだと思ったけど・・・。」



 とある組織の夢の跡と『なっていた』コロニー―。
 そこには、決死の覚悟を決めた者達が集っていた。
 世界をより良く作り変えるべく、命を駆けた50数名の革命者達の姿が。

「勇敢なる、ネオ・ジェレイドの諸君! 先の戦闘により総帥ロイド・エスコールは死に、またハイウェル・ノースも死んだ! どちらも平和を心から望んでいた! しかし彼らは志半ばに倒れていった! われ等がその想いを継ごうではないか! 」

「おおおおおお!!! 」

 全員は両腕を大きく上げ、叫んだ。
 演説していた壇上の男は軽く手を挙げて微笑み、秘書らしき女性とその場を後にする。

「お疲れ様です。『総帥』。」
「・・・・2人の時はその話し方は止めてくれ。今だに慣れやしないよ、マヒル。」

 マヒルと呼ばれたその女性秘書は、ニコリと微笑んでかけていた伊達メガネをはずした。

「そうだな。でも、本当にこれでよかったのかよ? ・・・・ティル。」
「ああ。今の世界は腐りきっている。アキトも死に、そしてロイドも死んだ・・・。みなもろともに平和だけを望んでいたというのにな。それなのに、あの地球連合軍は一体何様なんだ・・・! ブレイク・ザ・ワールドの件、よく確認もせずにプラントを攻撃し、また悲劇を上塗りしようとする。プラントもそうだ。デュランダルとかいうトップのヤツがもっとしっかりとテロの可能性を示唆していれば・・・・。」

 ティルは言いかけて、その言葉を飲み込んだ。

「・・・全ての原因はこの世界の歯車が狂っている事にあるんだ。必ず犠牲が生まれ、だから必ず復讐するものが現れる・・・。だから、オレが変える! 地球連合もプラントも一度全て壊して、ナチュラルもコーディネイターも関係ない、真の理想の世界を!! 」
「・・・それが、死んだロイドの夢でもあったって言うんだろ。レジスタンスにいる時から、あいつはハーフコーディネイターとして自分にできる事はなんだろうって、よく言ってたよ。だから、あたしももう止めたりはしないさ。『あの機体』だって、あたしがつくったんだ。でも・・・・・。」

 マヒルは悲しそうに俯きながらそっとティルの胸元に額を当ててつぶやいた。

「あんたとあたしは一蓮托生さ。・・・どんな事があっても、一生一緒に・・・。」
「・・・・マヒル・・・・。」

 2人はそっと唇を重ねた。



 エリス達が基地に戻った直後、事態は急変した。
 なんと、ネオジェレイドがコロニー落としの決行日を電波ジャックをして宣言してきたのである。
 コロニー落とし決行まで、あと4日。

 急遽オペレーション・メテオブレイクに参加する総員はそれぞれの旗艦に乗り、破壊目標まで潜行することとなった。
 しかし、その数はナスカ級・・・・たったの2。

 地球連合軍の管轄宙域であるために、ギルバートの再三の交渉の甲斐もなく、2つの部隊のみにしか出撃許可が下りなかったのである。
 そう、地球連合にしてみれば、ネオジェレイドもプラントも今や憎むべき敵という意味では同じであるという見解を、露骨に示されているのだ。

「・・・で、オレ達ジュール隊で出撃ってわけ? 議長も無茶言ってくれるよなあ。」
「つべこべ言うな、ディアッカ。この情勢の中、出撃許可がでた事だけでもありがたいと思え! ・・・それに、エリス達『ヴェステンフルス隊』もいる。『あのMS』を運ぶ任務もある。今回だけは・・・・なんとしても食い止めるんだ。」
「・・・ああ。絶対にな・・・!! 」

 ヤキンを生き抜いた若き2人の戦士は、阻止できなかったブレイク・ザ・ワールドの分まで、今回の任務遂行に決死の決意をみせていた。


 艦長席に座るハイネが、オペレーターに艦の進行具合を聞く。

「そろそろ、本命の廃棄コロニーを捕捉する頃だな。レーダーに反応は? 」
「はっ、Nジャマーが散布されているようで、今のところ何も。」
「Nジャマー反応があるっていう事は、逆に言えば近いわね。そろそろ、MS隊にコクピット待機を命じま・・・・。」

 エリスが言い終わる前に、オペレーターから通信の報告が入った。

「ヴェステンフルス隊長! ホワイト議員から通信文です。こ・・・これは!!! 」
「どうした・・・!? 」

 その内容はこうであった。
 現在、月面基地の部隊がネオジェレイドと交戦しているという情報とともに、その宙域から少し離れた場所にある、通称『デブリネビュラ(残骸の星雲)』と呼ばれる密集したデブリ帯の中に、ネオジェレイドの機体らしきものが入っていくのが目撃されたらしい。
 そして、偵察型ジンの撮影映像に映っていたものは、なんと、デブリに隠れて動く、少し小型の廃棄コロニーだった。
 もちろんその目的は・・・・。

「なんてこった。ヤツラ、コロニー落としを失敗した時のために、もう一基保険をかけていたって事か! 」
「用意周到ね・・・・! 冗談じゃないわ。任務変更ね。本命コロニーの破壊はイザーク達に任せて、私たちはデブリネビュラの『予備(コロニー)』を叩く! 」
「ああ、ホワイト議員からも、そういう司令が出ている。・・・ジュール隊に通達! 本艦はこれより別行動を取り、予備コロニーの破壊に向かう! 」

 ヴェステンフルス隊のナスカ級は、一路デブリネビュラへと走った。


 
「どうだ、クルセイド。いけそうか? 」

 ストライクMk-Uのコクピットから降りてきたその少年に、ネオジェレイド総帥ティル・ナ・ノーグが話しかけた。

「ええ、先の戦闘で総帥のおっしゃっていた『イルミナ』とかいうMSを破壊してきましたよ。中々の腕でしたけど、いかんせんパワー不足です。俺の敵じゃない。」
「頼もしいな。だが、油断するなよ。奴らの真の強さはMSの性能にあるのではないのだからな。お前が慢心さえなくし、冷静に事に当たれば・・・・・成功しない事象などはない。期待しているぞ。」

 その会話に割って入るように、秘書のマヒル・ヒラガがティルに言った。

「総帥。そろそろお時間が・・・。」
「ああ、行こうか。」
「? ・・・総帥は、どこへ? 」
「私は、第2コロニーの方へ向かう。・・・どうやらザフトの犬にかぎつけられたようでね。向こうのMS隊のみではちときついだろう。」
「そんな! 総帥自ら行く必要なんか。それなら俺が!! 」
「我々は少数精鋭だ。私も先陣を切って働かなければな。それに、君がこの場を離れたら、本命の第1コロニーの方が失敗してしまう。ここは頼むよ、クルセイド・アヴァストラール。」
「! ・・・・はい。」

 どこでせしめたのだろうか、一隻の『アークエンジェル級』が、そのネオジェレイドのアジトから出航した。
 その艦の名は、『ミストラル』。

「・・・・ロイド。お前の意思はオレが継ぐ・・・。アキトと一緒に、見守っていてくれ。」



「ヴェステンフルス隊長! ここから先はデブリネビュラ帯に突入します。ナスカ級では進行不可能です。」
「ここからでは艦主砲も届かないか・・・・よし、MS隊、出撃だ!! 目標は、予備コロニーの破壊!! 各機3人一組で『コロニーブレイカー』を持っていくように! ・・・オレンジショルダーは伊達じゃないって事を、テロリストどもに示してやれ!! 」
「「「はっ!! 」」」

 スパイクショルダーを黄昏色に染めたザクウォーリアが次々と出撃する中、2機のMSのモノアイとツインアイに決意の光が灯る。

「ハイネ・ヴェステンフルス、グフ、出るぜ! 」

 機体全体がザク同様黄昏色に染まったグフが、その翼を広げて宇宙へと飛んだ。

「エリス・アリオーシュ、・・・・『アビス』、行くわよ!! 」

 “深淵の海魔女”の名を持つその無彩色の機体は、VPSを展開して輝く太陽のような鮮やかなオレンジ色にその姿を変え、漆黒のソラへと翔けた。
 デブリをすり抜け、ヴェステンフルス隊は真っ直ぐに目的のコロニーを目指す。
 コロニーからは10数体のレイスがそれを迎え撃った。
 しかしその数は、オレンジショルダーのザク軍を引き連れるハイネ達にとっては物の数ではなかった。

「はっ! やはり、こちらは気付かれないと思って油断したみたいだな。数が少ない。ほらほら、ボディがお留守だぜ!!! 」

 グフの≪スレイヤーロッド≫が2体のレイスの腹部をまとめて貫いた。

「テロリスト如きが・・・生意気なのよ!! 」

 アビスの4門の≪バラエーナ改≫ビーム砲が火を吹き、グフに続く。

「ハイネさんとエリスさんに続けぇ!!! 」

 オレンジショルダーのガナーザクウォーリアの≪オルトロス≫が、スラッシュザクウォーリアの≪ファルクス≫ビームアックスが、ブレイズザクウォーリアの≪ファイアビー≫誘導ミサイルが唸りを上げ、次々とネオジェレイドの残党の機体をなぎ払っていった。

「よぉし、これならいける・・・・うわぁぁぁぁ!! 」
「マイク!!! ・・・・がっ!! 」

 2体、いや5体、6体と次々にオレンジショルダーのザクがシールドごと真っ二つとなってゆく。同時に、コロニーブレイカーも次々に破壊されていった。
 その所業をなした戦慄のアンノウンMSの両手には、血塗られた大いなる対艦刀が握られている。

「諸君、遅れてすまなかったな。」
「! 総帥!!! 」

 そのツインアイの赤い『ガンダム』に搭乗していたのは、ティルだった。
 そして、その因縁のMSの名は・・・・。

「『ブレイズディフェニス』・・・・! かつての総帥にしてわが親友、ロイド・エスコールの愛機の名と力を継ぐ、ネオジェレイド究極のMSだ。ザフトの戦士達に継ぐ! 私はネオジェレイド総帥、ティル・ナ・ノーグ! 大人しく引けば命まではとらない。だが!! 」

 言葉を止めたティルは、おもむろにブレイズディフェニスに握られた2本の対艦刀を翼のように下方に広げ、構えた。

「・・・向かってくるなら、この大いなる運命の刃・・・・対艦刀≪ダブルフェイス≫が貴様らの命を絶つ事になる・・・! 」
「・・・・・・ティ・・・・・ティル? 」

 ネオジェレイド総帥が、かつてのタケミナカタのクルーであり、仲間であったティルだと知り、愕然とするエリスをよそに、オレンジショルダーの≪オルトロス≫が一斉に火を吹いた。

「たった一機で、何が出来る! これでネオジェレイドも終わりだ!! 」

 数本の火線が宙で一つに交わり、巨大な一筋の光線となってディフェニスに迫る。
 しかし、光り輝くもう一体のMSの前にその光線は霧散した。
 そして、その光の中から迸るビームマシンガンの嵐が、残るザクを次々に戦闘不能にしてゆく。

「ティルには指一本触れさせはしないよ! このあたしがね。」

 そこに立つのは、『装甲した光』を纏った一体のMS。かつて、ロイドとともにネオジェレイドとして戦った北欧の勇者、ロスト・ヴェルファーレが乗ったMS、ハイペリオン3号機、ジークフリート。

「マ・・・マヒルまで!? 一体・・どうして!!! 」

 エリスの叫びに、ティルが静かに答える。

「エリスさん、人の心は変わっていくものなんですよ。そう、時代が変わってゆくのとともにね。・・・どうやら、あなたの部下は引く気はないようだ。なら、容赦なく排除させてもらう。ネオジェレイドと・・・・来るべき新しい世界のために!! 」

 狂気ともいえる決意を胸に、ディフェニスとジークフリートが宇宙を駆ける! 

「くっ、エリス!! ぼさっとするな!! くるぞ! 」
「! ・・・・、え、ええ、分かっているわ、ハイネ。・・・でも! 」

 アビスの右手に握られた特殊兵装杖≪ガンバンテイン≫と胸部の≪カリドゥス≫複相ビーム砲からビームが迸る。

「なんでなのよぉ! ティル!! マヒル!!! 」

 アビスから放たれた悲しみの火線を掻い潜り、ディフェニスの≪ダブルフェイス≫がエリスに迫る。

「あなたには・・・・分かりはしない!! オレがこの胸に掲げた炎の意味など!! 」
「くぅ・・・!! 」

 すんでのところで≪ダブルフェイス≫をかわすアビス。しかし、ディフェニスは≪ダブルフェイス≫を柄の部分で連結させ、回転させるかのように振り回し、アビスを追撃する。

「エリス!! この・・・赤いヤツ!! 」

 ハイネのグフがディフェニスに向かってスレイヤーロッド放つが、それは途中で先端を切断され爆砕した。
 そこには、収束光波ブレード≪バルムンク≫を構えたジークフリートが行く手を遮っていた。

「あんたの相手は、あたしだよ! オレンジの『ザク』!! 」
「さっきのアルテミスの傘をつかう紫のヤツか! いいだろう、『教えてやる』!! 」

 シールドから取り出したビームソード≪テンペスト≫に鋭き光刃を宿らせたグフは、一直線にジークフリートへと飛ぶ。
 突然の加速に虚をつかれ、左手の≪アルミューレリュミエール・ハンディ≫でなんとかそれを受け止めるジークフリート。

「くっ、速い! ザクじゃないのか、コイツ!! 」
「ザクとは違うんだよ! ザクとはっ!!! 」
「ああ、そうかい! ・・・でもね!! 」

 ジークフリートの≪フォルファントリー≫が前面を向き、一瞬の内に≪アルミューレリュミエール≫を展開する。
 単指向性の防御フィールドに弾き飛ばされるグフに、ジークフリートはビームサブマシンガン≪ザスタバ・スティグマト≫を乱射して追い討ちをかける。
 グフも体制を即座に整え、シールドで被弾を最小限に抑えながら4連装ビーム砲≪ドラウプニル≫で応戦する。

「やるな、紫!! 」
「当たり前だ!! あたしは・・あたしは、負けられないんだ。志半ばに倒れたロイドやマックスのためにも、そして・・・・・ティルのためにもぉぉぉ!!! 」

 ≪フォルファントリー≫が発射され、グフの右足を吹き飛ばす。

「くそっ・・・!! 」
「! ハイネ!! 」
「エリスさん、あなたは余所見をしている余裕なんかないだろう!!! 2年前のオレと同じと思うなよ、『青服』!! 」

 アビスもまた、ディフェニスに押されていた。
 MSの性能的には五分か、ザフト最新のサードシリーズであるアビスのほうが若干上回っていたが、かつての仲間が今回の事件の首謀者であるという事に、エリスは少なからず・・・・いや、大いに動揺しており、動きが鈍っていたのだった。

「こんな事をして、リエンさんやコウになんて言い訳するつもり!? 目を・・・覚まして、ティル!! 」

 ≪ガンバンテイン≫からビームサーベルを発生させ、ディフェニスに切りかかるアビス。しかし、その迷いある太刀筋が届くはずもなく、カウンターで右腕ごと≪ダブルフェイス≫に斬り落とされる。

「・・・・・師匠や、コウ先輩の背中を見ていた頃のオレは・・・・もういない!! すみませんが、死んでくれ! エリスさん!! 」

 背部自立型戦闘支援ユニット≪ディオガ・カデンツァ≫が分離し、アビスに向かって体当たりをかける。そして、ザムザザーと同じ超振動クラッシャーが発動し、ユニット全体が真紅に染まった。

「きゃあああ!!! 」

 突然の≪ディオガ・カデンツァ≫の超振動突撃をまともに受け、アビスの機体に激しい衝撃が走る。
 そして、ディフェニスの腰部450ミリ収束エネルギー砲≪カタストロフ・エデン≫の2門の砲口が、アビスを射程に捉える。

「・・・・すみません、エリスさん・・・・。」

 『終末の楽園』の名を持つ強力な光が、アビスを包み込む・・・。

「エ、エリスー!!!!! 」
「・・・ティル。エリスを・・・やったのか。くっそぉ! でも、・・・でも、仕方ないんだ!!! 」

 ハイネとマヒルの悲痛な叫びが響く。
 その声は、何故だろうか。エリスの心の中に届いた。

 そこは、不思議な世界だった。
 エリスの体はまるで宇宙に溶け込むかのように宙に浮いている。
 キラキラと輝く星のような光が体を包み込み、・・・いや、その光と一体となったような感覚だった。

 ・・・私は・・・死んだのかしら・・・・。でも、もう・・・・・・。

『もう、なんだよ? 』

 ・・・もう、いいの。私にできる事なんて・・・・。

『お前にしか出来ないことがあるじゃないか』

 ・・・え?

『お前がここであきらめれば、地球にいるブリフォー達やレヴィン達はみんな死んじまうんだろう? お前にしか助ける事が出来ないじゃないか。それに・・・ハイネさんだって。』

 ハイネ・・!?

『まだまだいけるだろう? お前を必要としてくれるやつらが待ってる。それに・・・あいつらを、ティルとマヒルを止められるのも、お前だけなんだぜ? オレも力を貸すさ』

 あなたも・・・・。

『そう、オレも一緒に戦う。オレとお前が組めば・・・・・最強さ! 』

 キィィィィン!

 エリスの瞳に何かがはじける。それは、彼女と『彼』の起こした、失われたシステム、『ダブルフェイス』の奇跡・・・・。

 ドォォォン!!

「な、何!? 」

 轟音のする方を振り返るティルが見たものは、全ての≪カタストロフ・エデン≫の光が避けるようにアビスをすり抜けて周囲のデブリを破壊してゆく光景だった。

「ば、ばかな!? ≪カタストロフ・エデン≫は直撃だったはず・・・ええい!! 」

 再び≪カタストロフ・エデン≫をアビスに向けて放つディフェニス。しかし、それは同じようにアビスを避けてゆく。
 アビスの両肩に搭載された、深海潜行用に追加されたエネルギー偏光装甲≪ゲシュマイディッヒパンツァー・ツヴァイ≫が発動し、全てのビームを捻じ曲げたのである。
 そして、エリスがおもむろに口を開く。

「・・・そんな小さな光なんて、太陽の大いなる光の前には届きもしないわ。あなた達がどんな想いを持って戦っているのかは知らない。でも、その想いのために平和に暮らそうとしている多くの人たちの幸せを壊す権利なんてない! ・・・・この私が・・あなた達を止める!! 」

 セイレーンアビスのツインアイが輝き、搭載された全ての砲を構える。

「目を覚ましなさい!! ティル!!! 」

 フリーダムのフルバーストをも凌ぐかのような、無数の強力な火線がディフェニスに迫る。しかし、グフと交戦中だったジークフリートがその前に立ちふさがり、≪アルミューレリュミエール≫を展開した。

「ティルは、やらせないよ!! 」

 全てのビームは、そのモノフェース光波防御フィールドの前に掻き消える・・・はずだった。
 しかし、そのフルバーストのビームは≪ゲシュマイディッヒパンツァー・ツヴァイ≫によってまるで生き物のように曲がり、正確に≪アルミューレリュミエール≫発生装置だけを連続で叩き、驚いた事に全ての発生装置を押し壊し、ジークフリートを貫いた。

「マ・・・・・マヒルー!!! 」
「・・・く・・・ティル・・・。あたしは大丈夫。でも、ジークフリートはもうダメだ。駆動系を・・・・・いや、駆動系だけを正確に撃ち抜かれてる。アルミューレを破壊して、さらに正確にジークフリートを撃ち抜くなんて・・・! 」
「エリス! 」
「ハイネ。あなたは下がっていて! ・・・・彼は・・・・ティル・ナ・ノーグは、この私が止める!! 」

 再び一騎打ちの形となるディフェニスとアビス。

「いいでしょう、世界を変えるというこのオレの想い、この対艦刀≪ダブルフェイス≫とともに受け止めきれるものなら受け止めてみるがいい!! 」
「いいわ。みんなを守りたいという私の想いと、この『ダブルフェイス』の力であなたを・・・・止めてみせる!! 」

 ≪ダブルフェイス≫を連結させ、真っ直ぐにアビスの元へ加速するディフェニス。

「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!! 」
「はああああああああああああ!!!!!!! 」

 そして、アビスもまた、背部の高機動ウイングから太陽の光を迸らせながらハイマットモードとなってディフェニスの元へと加速する。
 唯一の近接武装である≪ガンバンテイン≫をもつその右腕は先ほど斬りおとされ、いまや近接武装は一切ないというのに。

 ガカァ!!!

 2機が交錯し、すれ違う。

 アビスの体には≪ダブルフェイス≫が深々と突き刺さっていた。
 しかし、それは左肩のシールドを貫ただけで、本体に損傷はなかった。

 ウイングを広げ、体制を即座に立て直したアビスの全砲門が、≪ダブルフェイス≫を失ったディフェニスの背部に向けられる。しかし・・。

「・・・何故撃たない!? 」
「あなたの・・・・負けよ、ティル。もう、降参しなさい。ここで散っても・・・それは無意味よ。」
「あなたに・・・あなたに何が分かる!! ロイドも、アキトも、みんなこの世界の不条理な摂理が生んだ犠牲者なんだ!! オレは、それを変えるために命をかけた!! 無様に拘束され、もはやそれすら叶わないと言うなら、生きている価値など・・・」
「あるわ。あなたには、生き残る義務がある。」
「・・・・・? 」

 エリスの言葉の答えは・・・。

「ティル!! よかった、無事なんだな!! ばっかヤロウ!!! もう、ダメかとおもったじゃねーかよぉ!!! 」

 涙に声を震わせながら、ほとんど動かない機体の生き残ったバーニアをふかしながらディフェニスの側にやってきた、マヒル。

「あなたが死ねば、マヒルはどうなるの? 生きて・・・生き残って自分の罪を償いなさい、ティル。」
「マヒル・・・・・。エリスさん・・・・・。」

 ティルの頬に一筋の雫が伝う。

「おいおい、オレはいつまで蚊帳の外にいればいいんだ? エリス。」
「ハイネ。ごめんなさい、もう大丈夫みたい。」
「そうか。・・・・よかったな、エリス。」
「ええ。・・・・ありがとう、ハイネ。」
「よし、じゃあ、こいつら連れてプラントに戻るか。先の事はわからないが仕方がない。それに、そろそろイザーク達の方も片付いている頃だろう。確か、セフィウスって核搭載機を極秘裏に持っていってたらしいからな。おい、お前ら。引っ張ってやるから大人しく牽引されろよ? 」

 アビスとグフがディフェニスに近ずこうとした時だった。
 ディフェニスの両手から内蔵型ビームサーベル≪グロウスバイル≫が生成され、アビスとグフのバックパックフライトユニットを斬りおとし、さらに蹴りを繰り出して2機を弾き飛ばした。

「な・・・お前!! 」
「ティル!? あなた・・・」
「お、おい、ティル、どうするつもりなん・・・」

 機動力を大幅に失ったハイネ、エリス、マヒルをその場に残し、ティルのディフェニスはコロニーへと飛んだ。

「! まさか、あいつコロニーを無理矢理落とそうとしてるのか!? 」

 ハイネの一言に、マヒルが叫ぶ。

「ティル!! もういいだろ!! やめろよぉぉ!!! 」
『・・・そんなんじゃないさ、マヒル。』
「え? 」
『もう遅いんだ。あのコロニーは既に止め様がないほど地球の重力に引かれている。このままじゃ、いずれは落ちる事になるのさ。今日中にね。』
「そ、そんな!! 決行日はまだ・・・」
『あれは嘘さ。そうでもしなければ、50数名の小数組織でプラントと連合を相手にはできない。そう、こっちのコロニーが本命だったのさ。だから、オレ自ら来たんだよ。』
「! ちょっと待って、ティル。あなた・・・・・まさか!! 」

 エリスの言葉にティルは微笑み、答えた。

『ええ。このディフェニスをコロニー内で自爆させます。核搭載機であるこのブレイズディフェニスなら、この程度のコロニーを砕く事はわけないでしょうから。』

「「「!!!! 」」」

「ちょっと待て、総帥さんよ!! 今、母艦から予備のコロニーブレイカーを取ってくる!! まだ4、5基はあるはずだ!! 」
『オレの機体しか動ける機体はないでしょう? それに、多分10基セットしても足りませんよ。・・・マヒル、ごめんな。ロイドの事が好きだったお前を、こんな事に巻き込んじまって。・・・・・エリスさん、マヒルを・・・・頼みます。』
「ふっ、ふざけんなよ!! あたしは確かにレジスタンスで一緒に戦ったロイドが好きだった。だから、ロイドの意思を継ごうとして立ち上がったあんたにも協力した。でも・・・・・今のあたしは・・・・あんたがぁ!!!! ティルゥゥゥゥ!!!!!!! 」
「止めなさい!! ティル!!! そんなの、絶対・・・絶対に間違ってるわよ!! 残されるものの気持ちも、考えなさいよ!!! 」

 エリスの中で、アメノミハシラでのミゲルの声がフィードバックする。
 しかし、それぞれの叫びは届かず、コロニー内にディフェニスの姿は消えてゆく。
 内部でキーボードを叩きながら、ティルは思う。

 ・・・ロイド、アキト・・・。オレは、またやっちまったのかな? お前らにいっつも勝てなくて、背伸びしすぎて空回りして・・・・・・・。
 リエン師匠。不出来な弟子で、すんませんでした。でも、オレ、後悔なんて・・・してないっすから。

 程なくして、コロニーは大きな光に包まれた。地球への脅威を消し去り、過去を清算するかのように。

「ティルーーーーーーーーーーーー!!!! 」

 大粒の涙を流しながら、マヒルは叫んだ。
 エリスもハイネも、何も出来なかった悔しさに歯軋りする。
 
 その時だった。

 コロニーの光から飛び出す、一筋の流星・・・・・。
 その天を熾やすかのような光の筋は・・・・・。

『エリス、マヒル、安心して。ティルなら無事だよ。』
「その声・・・・・・コウ? 」

 光の尾を引きながらその場に現れたのは、赤銅色のフレームを持つMS、スサノオMk-U・アスタリスクアストレイを駆るコウ・クシナダだった。

 あの爆発の直前。キーボードの自爆コードを押し終えたティルのディフェニスの元に、スサノオMk-Uが現れたのだ。
 そして、生きる事から逃げるようとするティルをコウは叱咤し、無理矢理スサノオMk-Uの中に連れ込み脱出したのだった。

「ティル!! よかった、無事で・・・よかったよぉ!! 」
『マヒル・・・・すまない。心配・・・かけたな。』

 愛する人の無事を知り涙が止まらないマヒルに、ティルは罰の悪そうにそう言った。
 スサノオMk-Uのコクピットの中で、ティルの瞳もまた、潤んでいた。そんなティルを傍らに微笑むコウに、エリスが問いかける。

「でも、コウ? あなた、何でこんなところに・・・・あなた確か、工業カレッジを卒業してジャンク屋の専属建築技師になってたはずでしょ? 」
「ああ、偶然月面のとある基地の改修工事の管理をしててね。そこで、リエンさんに会ってネオジェレイドの事を聞いたんだよ。予備コロニーがあるって事もその基地にオーソンさんから連絡が入ってて。フエンたちは本命破壊の方で手一杯だから急遽オレがこっちに派遣されたんだ。助っ人としてね。」
「でも、あんた・・・・・月面基地の改修って、なにやってたんだ? 」
「ああ、それは・・・」

 ハイネの問いかけに答えようとしたコウの言葉を、一際甲高い声が遮った。

「ダメダメダメ、ダメェェェェェェ!!!!! なにしゃべろうとしてんのよ、コウ!! ザフトのヒトに連合の工事内容なんか教えたら、ギルド首になっちゃうでしょ!! この若い身空で路頭に迷うのなんて、イヤですからね! 」
「あ、あはははは、そうだね。ごめん、リト。」
「・・ちっ、惜しい♪ 」

 わざと聞き出そうとしていたハイネはおどけながら言った。

「リト、とりあえず、『ホームU』にこの宙域にいるみんなを収容するからハッチを開けて。話はそれからにしよう、エリス。」
「ええ。それにしても、コウ。」
「ん? 」
「・・・・・あいかわらず、尻に敷かれてるのね。」
「・・・・・言わないでよ。」



 コウ達の母艦・ホームUは、エリス達のナスカ級とともにプラントまで行き、ティル達を連行した。
 連合ではなくザフトに連行されたティルとマヒルは、エリスとオーソンの尽力により、極刑は免れたが通常の刑に服す事になった。
 とは言うものの、ナチュラルながら彼らのメカニック、パイロットとしての技術は非常に高く評価され、(そしてオーソンの口添えもあり、)ブルーフェイスのメイズ、メリリムのいるディオキアに『労働服役』という特例で派遣される事となる。

 その『第2次ネオジェレイドの乱』から程なくして、ザフトでは『サードシリーズ』のインパルスフェイト、ガイアトリニティ、マスカーカオス、セイバーウリエルがロールアウト。
 インパルスとガイアはジブラルタルのブリフォーの元に、カオスとセイバーはディオキアのメイズ、メリリムに支給された。

 そして、エリスとセイレーンアビスは・・・・・。

「それでは、今日はばっちり、お願いいたしますわねー♪ 」
「ハッ、お任せ下さい! このハイネ・ヴェステンフルスのグフイグナイテッドが、ラクス様のお美しいザクのエスコート、お引き受けいたします。な、エリス。」
「・・・・・・・。はい、エスコートの『右側』は、私のセイレーンアビスが。・・・・・。」
「オレンジのMSにエスコートされるピンクのザク・・・きっと素敵よ〜。そうですわよね? ハイネさん。」
「はい、きっと素晴らしいライブになりますよ。な、エリス。」
「・・・・・・・・はい、そうですね。」
「ラクス様! そろそろ本番はいります。『エスコート』の方もMSで待機しといてくださ〜い! 」
「は〜い! うふふふ、それでは本番、頑張りましょうね、ハイネさん、エリスさん! 」
「「ハッ! 」」

「・・・なんで、ブルーフェイスの私が、ラクス様のコンサートに出なきゃいけないのよ・・・。」
「ま、そう言うなよ。これも仕事さ、割り切っていかないとな。それに、さっきメイズとメリリムも『応援してる』って言ってたじゃないか。なんか、アイドルの気分だな! 」
「・・・・ああ・・・・カーペンタリアに帰りたい。」

 この後、エリスとハイネはフェイスとしてミネルバに合流。アスランと再開を果たし、過酷なる戦いの中に身を投じてゆく事となる。
 その戦いの連鎖の連なる運命の先に待つものは、一体何なのだろうか。
 それはまだ、誰も知らない。

 (機動戦士ガンダムSEED DOUBLE FACE FINAL −THE LAST TRAGEDY ASTRAY− 完)


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