〜第38章 決戦!アメノミハシラ〜

「やはり、ケットシーは裏切ったようだな。ダンスのさわりの部分もろくに踊れないとは、醜い男だ。」
「所詮、彼は道化。我々のいる高みには到底辿り着けはしなかった・・・ただそれだけのことだろう。」
「・・・どちらにせよ、そろそろ本格的に消さないとならないでしょうね。あの、メンデルズチルドレンも、あの艦も・・・。それで、月基地にはなかったの? ロンド・・・。」
「いや、途中から発見したらしいが・・・。どうやら、タケミナカタの方に乗っているらしい。それで、シャクスのヤツも帰ってきたということだ。」
「ほう、それは好都合ではないかね。わざわざ出向いてくれるのだろう? で、その機体の名は? 」
「シャクスの報告だと、月基地開発のMS『MMS-X018 イルミナ』。これが光学映像だ。」
「・・・なるほど・・・。私の『従神』がこれのパイロットを知っていると言っていたわね。たしか・・・・フエン・ミシマ。私に任せてもらいましょう。イオも仕留めたがっているしね。」
「しかし、サグメよ。破壊するのが目的ではないのだぞ。」
「イオを見くびらないでほしいわね、オーソン。やるときはやる子よ。」
「そうか、それは失言だった。連合のXナンバー、ザフトのZGMF-XAシリーズ、オーブのアストレイシリーズ、ディナ・エルスのMS技術、そして東アジアガンダム『ミコト』のデータは既に入手した。しかし、月基地のデータはまだだ。」
「そう、そのデータ・・・特にG.O.Dシステムをも凌ぐと言われるブーステッドシステム、M.O.S。これを手に入れれば、イザナミ、イザナギを超える存在を作り出すことも可能だ。なんと素晴らしい事か・・・! 」
「そう事を急くな、ロンドよ。時に、主神はまだ瞑想中か? 」
「ああ、玉座の間にいらっしゃる。リトお嬢様ですら立ち入りを許されない深い瞑想だ。」
「では、その瞑想が終了し次第、ご報告しましょう。・・・・全ては、真なる神の世界のために! 」
「「真なる神の世界のために! 」」

コトアマツカミの3人は、誓いの言葉を打ち立てた。


『・・・ここまでは正に計画通りだ。一つの悲願は既に叶えた・・・。もう少し。もう少しで残りの悲願も叶う。だが、ここからが真の・・・・・・。くくくく、ハーッハッハッハッハ!!!! 』

そして、アメノミハシラの玉座の間にて主神の笑い声が響き渡った・・・。



月基地で数日の最終調整をしたタケミナカタは、今その最終決戦の地へと向かっていた。メイズ、メリリム、ナターシャに加えて、ジャンク屋から事情を聞いたロウ、キサトが乗艦してくれた。
かつての仲間の窮地、そして世界を巻き込んでとんでもない事をしでかそうとするコトアマツカミの暴挙を止めたいと考えたからであった。
月基地からは、引き続きフエンとデュライドが乗艦してくれている。

かなりの多所属大所帯となったタケミナカタであったが、気持ちは一つだった。
『大切なものを守るために戦う』。そのためのアメノミハシラ侵攻である。
それぞれが、今、深い想いを胸にその決戦に臨むための『心』を燃やしていた。

「・・・フエン。ちょっといいか。」
「何です? デュライドさん。」

イルミナの最終調整をしていたフエンの元にデュライドがやってきた。

「今度の戦いだが・・・。」
「イオの事なら、大丈夫ですよ。・・・もう迷いません。全力で戦って、そして連れて帰ります。」
「・・・フエン? 」

フエンはデュライドに微笑んだ。

「・・・不安な気持ちや迷いを抱えて戦っても、何も守れませんから。その方がよっぽど辛いって教えられたんです。」
「・・・そうか。それならいい。お前が強い心を持ってさえいれば、オレも全力で戦える。」
「ええ、デュライドさん。見せてやりましょう。ノースブレイドの力を。」

後に起こるもっと大きな大戦で、世界を救う事になる月の勇者と閃光の剣士(ブラスターロード)は、紅蓮の炎神との戦いに決意を新たにした。


MSドックでは整備員達がせわしなく働いていた。そこに、2人の少女が会話をしている。

「・・・どうしても、戦わなくちゃいけないのよね。」
「なんだ、キサト。怖気づいたのか? 」
「ううん。そうじゃないわ、マヒルちゃん。でも・・・戦うって事は、みんなが危ない目にあうって事でしょう。私、それが辛くて・・・。私はただ祈る事しかできないから。」
「・・・でも、だからこそあたし達だって戦わなきゃ! 」
「戦う? 」
「そうさ、みんなが無事に帰れるように、あたしたちはメカニックとして戦うんだよ。・・・そう、ここがあたし達の戦場だろ? 」
「いい事言うなあ、マヒルは。」

2人の話に割って入ってきたのはロウだった。

「その通りだぜ、オレ達ジャンク屋・・じゃなかった、メカニックは今ここにいるマシン達を最善の状態にするのが仕事なんだ。そうすれば、パイロットの奴等だってより一層その力を発揮できるんだからな。」
「そうね、ロウ! 私、頑張るわ!! みんなが無事に帰ってこれるように、ちゃんとしなきゃね!! 」
「よっしゃ、みんなー!! 最終調整、頑張るぞー!!! 」

マヒルの掛け声に、整備員全員が「おー! 」と返事を返した。

「ところで、キサト。ナターシャはどうしたんだ? 」
「ナターシャちゃんは今、別の『お仕事中』よ。」



「・・こんなところにいたのか。」

MSドックの一つの部屋のパソコンの前に、その銀髪の少女は座っていた。
身に纏う服は普段のオレンジ色の作業服ではなく、薄紫のパイロットスーツ。

「ディノこそ、どうしたんですか。こんなところに。」

ザフトの漆黒に染められたパイロットスーツを纏うディノがナターシャの隣の椅子に腰掛けた。

「別に。暇つぶしさ。・・・・その図面、月式かい? 」
「ええ・・・・。私が初めて描いた図面です。シャクス・・・と。」
「無理して呼び捨てする必要はないんじゃないか、ナターシャ。彼にとってそれがどうであろうと、キミにとってはシャクスは『先生』なんだろう? 」
「・・・でも。」

ナターシャは立ち上がり、ディノに背を向けた。
その小さな肩はよく見ると小刻みに震えている。

「でも、あの人は敵ですから。私だって事情を聞きたいし、マナさんのためにも連れて帰りたいです。でも・・・・コスモフレームは強すぎます。私の力じゃ、どうにも・・・」

ナターシャの弱気の言葉を消すかのように、ディノが後ろから優しく抱きしめた。

「ディ・・・ディノ?」
「キミだけじゃない。ボクがいる。一人ではどうにもならないことでも、2人ならできるさ。・・・・・シャクスは絶対連れ戻すし、キミも・・・ボクが守る。約束する! 」
「ディノ・・・・。私も、みんなと・・・・・あなたを守ります。絶対に。」

ナターシャはディノの腕に、そっと手を触れた。



『しかし、まあ。何でこういうことになったのかね。』
「確かに、そうね。」

アマテラスのコクピットでは『黄昏』の2人が昔を思い返していた。

「士官学校を出た頃は、こんなところに来ることになるなんて思いもしなかったわ。」
『ああ、オレだってそうさ、エリス。・・・・自分が死ぬなんて、微塵も考えなかった。』
「・・・ミゲル。」
『おっと! 別に悲観しちゃいないぜ! クルーゼ隊の任務もスリル満点だったが、今の方が面白い。・・・・・お前と組めて、本当によかったと思ってる。』
「そうね。・・・私じゃあ、本当は役不足かもしれないけど・・・。」
『そんな事はないさ!! ・・・オレは、あの卒業した時から、ずっと・・・お前と一緒に戦うために頑張ってきた。アイマン隊をもって、お前を迎えにいくために。・・・お前と一緒にいたかったから。ま、結局行けなかったが・・・。』
「ミゲル。・・・・・・・・・・・嬉しい。」

黄昏の魔弾の告白に、その強き太陽の女神の頬に一筋の雫が流れる。それは、歓喜と悲しみの入り混じった涙。
照れくさそうに、ミゲルはおどけながら言った。

『女泣かせだな、オレも。まだまだ男としてもいけるみたいだぜ。』
「何言ってるの? ・・・そんなもの好き、どこを探したって私くらいしかいないわ。」
『そうだな。・・・・絶対に生き残ろう、エリス。オレとお前が組めば・・・』
「最強よ!! 」『最強だぜ!! 』



「だから、それじゃカッコが付かないだろうが!! 」
『い〜え、それだけは譲れませんわ。』

スサノオ・ルージュのコクピットでもブリフォーとフルーシェがなにやらもめている。

「絶対に『ブリフォー・バールゼフォンだ! スサノオ・ルージュ、出るぞ! 』だ!! 」
『ダメですわ! 『フルーシェ・メディール、スサノオ・ルージュ、出かけますわ! 』ですわ!! 』
「ちょっと待て!まず、 パイロットはオレだろう!! それに『出かけますわ』はないだろう! 発進する掛け声として! 」
「なんですの!? 『ブリフォー・バールゼフォンだ』の『だ』の方が余計ですわ!! 」
「バカ、その『だ』がいいんだろうが!! わかってないなあ!! 」

ああだ、こうだいいながら口げんかをする2人。
いや、一人は人ではなく、AIであった。本人はもう、目を覚ます事もできないかもしれない。

「・・・フルーシェ。言っておきたい事がある。」
『なんですの? 改まって。』

ブリフォーは真剣な表情で言った。

「あの時の、パナマでお前が言った言葉の続き・・・・オレの口から言わせて欲し・・」
『ダメ!! 』

フルーシェはそれを拒否した。

「な、なんでだ!? 」
『ダメったらダメですわ! ・・・・だって、私は・・・。』
「AIだからか!? そんなの関係ないさ! ・・・例え・・・例えだぞ? ・・例えお前が目を・・・覚まさなかったとしても、オレは・・・」
『だからダメなの!! 』
「・・・フルーシェ? 」
『・・・もし、本物のわたくしが目を覚まさなかったら、あなたを一生縛り付けて苦しめることになる! それだけは、わたくし耐えられません。だから・・・』
「・・・・好きだ。」
『・・え。』

フルーシェは耳を疑った。

「お前が好きだ、フルーシェ。例えどんなに嫌われようと、嫌がられようと、オレはお前のことが大好きだ! 」
『・・・ブリ・・フォー!! 』

AIに涙は流せない。しかし、そのフルーシェは確かに歓喜の涙を流していた。

『本当に、いいんですの? 』
「当然だ。」
『・・・その言葉、ちゃんと本物の私にも言ってあげてよ? 』
「ああ。」
『その前に、もう一回聞かせて欲しいですわ! 』
「な・・・嫌だぞ!! ・・こ、こういう台詞は、あまり何度も言うもんじゃ・・・。」
『お願い、ブリフォー。もう一回だけ! 』
「・・・オレは、フルーシェの事が・・」『わたくしは、ブリフォーの事が・・』
「大好きだ。」『大好きです。』



「メイズ? 」
「・・・・あ・・どうした?メリィ。」

MSドックの休憩室でコーヒーの紙コップをじっと見つめるメイズにメリリムが声をかけた。

「なんだか、ぼうっとしてたから。」
「・・ああ、なんでもないさ。少し、緊張しているのかもな。」
「嘘。」

作り笑いを浮かべるメイズの嘘をメリリムはすぐに見破った。
そして、勇気を振り絞って聞いた。

「辛いんでしょう。エレインさんと戦うのが・・・・。恋人、だった人なの? 」
「・・・・ああ。士官学校の同期でな。オレが首席、彼女がほぼ同率の2位。何故だか気が合ってな。オレもエレインも、いつかは特務隊F.A.I.T.Hに入るのが夢だった。そのためにお互い切磋琢磨したよ。だが・・・。」

メイズは天井を見つめながらため息を吐く。

「・・・オレといたら、彼女は上を目指せないと思った。オレといるときの彼女は、その夢を忘れてしまうほどに、無邪気になった。そして、オレのためなら軍を辞めるとさえ言い出したのさ。評議員オーソン・ホワイトの一人娘が一度軍に入って辞めるなんて、いくら中立よりの議員だといってもそれはあまりうまくない。そして、彼女にもその風当たりは行くだろう。夢を失うのと共に・・・。だから、オレは去った。」
「・・・メイズ・・。」
「でも、本当は怖かっただけなのかもしれないな。そんな世間体ばかり気にして、あいつを受け入れてやる事をしなかった。オレがした事は、地球に逃げるように下って紫炎の堕天使を気取り、・・・そして、あきらめきれない夢に追いすがって地上の特務隊『青服』に入っただけ・・・・。卑怯な男さ。」

俯いたメイズの手の上にメリリムがそっと手をのせた。

「まだ、間に合うわ。今のエレインさんは確かに道を誤っている。でも、まだ助けられるわ。きっと! コウだって言っていたもの。」
「メリィ。」
「だから、頑張りましょう、メイズ。そのためなら・・・・・私、例えメイズがエレインさんのところに・・・戻っても・・・」

メリリムの震えるその言葉をメイズの唇が優しく塞いだ。

「・・・・エレインは助ける。でも、メリィ。オレにはお前が必要なんだ。付いてきてくれないか。・・・一生かけて、お前を守るから。」
「メイズ・・・・・・・はい、よろこんで! 」

2人の堕天使は、もう一度唇を重ねた。



「ついに、最終決戦だな。・・・・結構派手な事になりそうだ。」

ブリッジでは、ガルダのその言葉にみな気持ちを重くした。

「でも、まあ、何とかなるもんだよな! オレ達の事だから。」
「せやな。ガルダの言う通りや!! ・・・しゃーけど・・・ウチ、初めてや。」
「どうしたの? ハウメア。」

シュンの問いにハウメアが答えた。

「こう、胸がバクバクいって・・・・怖いんや。」
「それは、みんな一緒さ。ハウメア。・・・クールなオレでも、戦場に出るときはいつも怖がってる。死を覚悟するって言うけどな、やっぱり怖いものは怖いのさ。」
「レヴィンさんでも、怖いんですか。」
「そりゃそうさ、ユガ。でも、怖がらなきゃ、生き残れないぜ。」

レヴィンの言葉をつないだのはサユだった。

「『怖い』という事を知らなければ・・・生きている事の素晴らしさも、そして命を奪うことの重みもわからない。そういうことですよね。私も怖いけど・・・でも! 大切な人たちが一緒に戦ってくれるから・・・戦います! 」

シュンも言う。
「そうだよね。ここまで、いろんな事があったけど・・・・僕達だって色々な事を乗り越えて強くなった。そして、守りたいたくさんのものができた。なら、それを全力で守るために、自分も戦いますっ!!!! 」

ガルダも、
「オレも、故郷やフルーシェ、そしてこの艦で一緒になった仲間達の事を守るためなら死力を尽くすぜ。」

ユガが、
「そうだよ! 僕達、頑張らなきゃね。明日をみんなで生きるためにも! 」

そして、ハウメアが言った。
「ウチもオーブの人間として、ロンド様の事は止めたい思うとる。それに・・・・イソラの生き残りのヒトの事もや・・・。」

シャクス・モア・イソラ。

クルー達の脳裏に、あの優しかったかつての隊長の姿が浮かぶ。

「そういえば、マナさんは? 」
「・・・マナ姉なら、コウのところに行っているよ。」



「コウさん、ちょっといいっすか? 」

イザナギのコクピットの前にやってきたのはティルだった。

「どうしたの? ティル。」
「・・・実は、ちょっと気になることがあって。」
「? 」
「・・なんで、イザナミに乗っているリトさんは、あのオーブの事件・・・シートさんが殺された事を知っていたんでしょう? 」

ティルの意外な言葉にコウも少しだけ動揺した。

「なんでって、それは・・・オレ達を監禁して、シート先輩を撃ったのが・・・オーブの―恐らくサハクの―手のものだったからじゃないかな? 」
「だったら、なおさらです。リトさんは、コウさんが『殺した』って言ってました。確かに間接的には俺達のせいっすけど、殺したのはサハクの人間、むしろコトアマツカミですよ。」
「確かに・・・そうだけど。」
「・・・きっとリトさん、騙されているんすよ。主神になったお父さんに。・・・だから、きっと大丈夫ッス。分かってくれると思います。」
「ティル・・・・。ありがとう。フエンには偉そうな事を言ったけど、実は内心不安だったんだ・・。とても、気持ちが楽になったよ。」
「なんのなんの、俺は弱いから・・・こんな事くらいしか役に立てませんし・・。」
「・・・・ティルがいなかったら、オレは確実にパナマで死んでた。君は立派にこのクルーの一員だよ。自信を持っていい。君は、強くなった! 」
「コウさん。・・へへっ、お世辞でも嬉いっす! 」

「コウ、いるかしら? 」

ちょうどその時、黒髪のポニーテールの小さな女性が二人に話しかけてきた。

「・・・えっと、その声はマナさん? ・・。」
「そうよ。ティル、ちょっとはずしてくれないかしら。取り込み中? 」
「いえ、もう終わりましたから! じゃ、コウさん、頑張りましょう!! 」
「ああ、ティル。」

そう言って、ティルはクラウディカデンツァの方へと戻っていった。
そして、やってきたマナはコウにお願いをした。

「コウ・・・・お兄ちゃんと話がしたいの。ダメかしら。」
「いいですよ。じゃあ、コクピットに入ってください。」

マナを迎え、イザナギのコクピットハッチが閉まった。

「じゃあ、オレは耳をふさいでいますから。」
「いいの。コウも、聞いておいて? ・・・・これから、弱音を吐くから・・・・。」
「・・・・はい、じゃあ、聞いてます。」

ヴィィィィィ。

『・・・どうした。マナ。』
「お兄ちゃん。私・・・・・どうしたらいいか・・・。」
『・・・シャクスの事か・・・。』

兄妹の間に沈黙が走った。

『マナ、おまえはどうしたい? 』
「・・え。」
『お前は、シャクスと会いたいのか? それとも、あきらめられるのか・・・? 』
「私は・・・・・・・会いたい。会いたいわよ・・・・。そんなの、決まってるじゃない! でも!! 」
『なら、信じることだ。シャクスを。あいつにだって事情があるんだろう。オレ達を敵に回してでもしなければならない、何かが・・・。それがきっとあいつを苦しめているんだ。なら、オレ達でそれを理解してやらなきゃ。お前やオレくらい、信じてやらないとあいつがかわいそうだろう? 』
「お兄ちゃん。」
『オレ達3人の付き合いは長い。だから、分かるだろう。あいつの本当の姿くらい。』

マナの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

「うん・・いつもぼ〜っとしてて、寝癖を立てたままでだらしなくて、でも、なんだかんだ言っても色々フォローしてくれて、・・・優しくて、あったかくて・・・・。」
『なら、お前のやる事は決まってるな。』
「そうよね。何度も、何度も自分の心に決めていた事だったのにね。 ・・・シャクスを連れ戻すためにも、このタケミナカタは絶対に落とさせない!! ここに絶対あいつを連れ戻して・・・・・・ひっぱたく、いえ、ぶん殴ってやるわ!! 」
『その意気だ、さすがは我が妹! お前がそうやって強い心で戦うなら、オレもコウも全力でみんなを守る・・・救える命は、必ず救う! 』
「ええ、アモンさんの言うとおりです。このイザナギは、そのための力ですから! 」

コウとアモンの力強い言葉に、艦長は最後の指揮をとるべく再びブリッジへと戻っていった。



医務室では3人の白衣の人間が神妙な顔つきで集まっていた。
ラウム、グラーニャ、アリア―。
メンデルでMIHASHIRAシステムを研究し、この世に送り出してしまった張本人たち。
パンドラの箱を開けてしまった3人はこの最後の戦いの時を感慨深く迎えようとしていた。

「・・・長かった。そして、我々は愚かだった。」
「そうね、あなた。でも、どちらにしてもこれで終わる。」
「ええ、死んでいった、ミコト、クロウリー、ケインさん、そして月基地で支援してくれたアガレスさんの分も・・・私たちがこの結末を見届けましょう。」
「ああ、何もできない我らだが・・・。」
「戦ってくれるこの艦の子供たちを信じて運命を共にすることくらいは、できるものね。」

3人は、最後の戦いを見届けるためにブリッジへと向かった。



決戦の地、アメノミハシラ―。
中立国オーブの軌道エレベーターとして建設中のこの宇宙ステーションでは、4人の『従神』と究極の妻神に降臨する『天包の織姫』がそれぞれの愛『神』のコクピットの中で、その神気を高めていた。

イオ・アステリア―。
かつてフエンと共に連合の士官学校で共に学んだ親友。
そして連合軍を裏切り、刺激を求めてフジヤマ社のウズメ・フジヤマの元へ加わった『紅炎の従神』

「・・・楽しみだなあ。また、あいつと・・・・フエンと戦えるなんて・・・。今度は捕獲せよ、なんて言われてるけど、そんなこと知ったこっちゃないね。オレとあいつの戦いを邪魔するヤツは例え誰だろうと許さない。・・最高のゲームなんだから!! 」

最後の東アジアガンダム『ミコト』、カグヅチの中で紅蓮の闘志が燃える。


エレイン・ホワイト―。
オーブ特務隊F.A.I.T.H所属。現評議員議員、そしてコトアマツカミの一人、オーソン・ホワイトの一人娘。かつて、メイズを愛し、そして愛された少女。だが、今の彼女を支えるのは冷たい氷のような忠誠の心。

「・・・私は真理を得たのだ。これ以上ない至福の世界に、やっと旅立てるというのに・・・・・メイズ・アルヴィース!! 次の戦いで必ず決着をつける。私が、より高みに上るためにも・・・お前を・・・!! 」

ZGMF-X『A』シリーズ、パニッシュメント。ザフトの最新型核搭載MSであるその地獄王の中で、『白薔薇』がその棘を磨く。


ペルセポネ・ディナ・シー。
中立コロニー、ディナ・エルス現総合国主、そして『元』コトアマツカミの一人、ケット・ディナ・シーの一人娘。ディナ・エルスで生まれたスーパーコーディネイターであり、生まれながらに不治の病を抱える薄幸の美女・・・いや美少女。

「・・・私の命も、そうは長くないでしょうね・・・・。でも、それでも『主神』のためにこの命を使えるのなら、悔いはないわ。例えそれが、破滅の道だとしても・・・! 」

ディナ・エルス初の戦闘用MS、アフロディーテ。その優雅なる美の神の名を持つMSの中で、消えゆくほど儚い命の炎が今最大に燃える。


シャクス・ラジエル―。いや、シャクス・モア・イソラ―。
地球連合軍第49独立特命部隊隊長にして、それを裏切ったオーブ五大氏族の一つ、イソラ家の生き残り。

「・・・ナターシャ・・・そして、マナ。私を許せとは言いません。ですが、私も引く事はできないのです。・・・・『主神』のために。そして、イソラの懺悔のために・・・。」

オーブ、プロトアストレイ最後の機体、アストレイコスモフレーム。宇宙の光を湛えたフレームを持つその最強のガンダムアストレイのコクピットの中で、悲壮な決意に心を焦がす緑髪の青年が、今覚悟を決める。




『ついに来たか・・・・。』
『ああ、もうすぐ来る頃だろう。』
『なら、ここで決着をつけよう!今までの計画がようやく完遂するというわけだ!!』
『・・・本当にもう、戻れないのか。』
『それは無理だ。お前にも分かっているはず。』
『・・・・・。』
『やがて来る新たな時代の創生のためにも、忌まわしきメンデルズチルドレンは全員この場で始末してくれる!! 』

今、決戦の火蓋を切るための全ての準備が整いつつあった。



タケミナカタのブリッジにオペレーター、シュン・スメラギの力強い声が響いた。

「艦長! 『シンタク』に反応!! MS・・・・数30以上!! 艦、1! 距離1300、グリーン16マーク22、デルタ! 」
「機種特定!! それぞれ、地球軍GAT-X133ソードカラミティ、GAT-333レイダー、オーブ軍MBF-M1Aアストレイと確認や!! 敵艦は・・所属不明!! 」
「へっ、こりゃまた豪勢な団体さんだな。・・・・準備いいか? ユガ。今回、操縦は任せるぞ。」
「はい! レヴィンさんは主砲撃に専念してください!! やりますよぉ!! 」
「電子戦、開始! 『シンタク』、広範囲量子通信機能オンライン! よし、これでアメノミハシラ全域のMSと交信可能だぜ、マナ艦長!! 」
「ええ、ガルダ。総員、第一戦闘配備! 対艦・対MS戦闘用意!! サユ、MS全機発進よ!! 」

「はいっ! APUオンライン! カタパルト、接続!!! システム、全機オールグリーン!! 」

サユの声と共に、ゆっくりとタケミナカタのカタパルトハッチが開く。
そこに控えるは、光の決意をその目に宿した11機の勇者たち。

「みんな! 必ず・・・必ず帰ってきてね!! 」

「「「「「「「「「「了解!! 」」」」」」」」」」

「フエン・ミシマ、イルミナ、行きます!! 」
「デュライド・アザーヴェルグ、ヴァイオレント、出る! 」
無限の可能性を秘めた2機の月の使者が、

「エリス・アリオーシュ、アマテラス、行くわよ!! 」
「ブリフォー・バールゼフォンだ、スサノオ・ルージュ、出かけるぜ! 」
「ディノ・クシナダ、ツクヨミ、さあ、行こうか! 」
「ナターシャ・メディール、月式、行きましょう! 」
東アジアガンダム『ミコト』を名を持つ太陽、風、月の4機の神が、

「ロウ・ギュール、レッドフレーム、行くぜぇっ!!! 」
『ミコト』の源流となった、真紅のフレームを持つ王道ならざる冒険者が、

「メイズ・アルヴィース、マステマ、発進する! 」
「メリリム・ミュリン、イカロス、行きます!! 」

憎しみを絶つ3種の力と、どこまでも羽ばたく美しい翼をもった2機のXナンバーが、

「ティル・ナ・ノーグ、クラウディカデンツァ、レディー・ゴー!! 」

師・リエンのカラーを受け継ぐ、カラーズの最後のグレーの機体がその混沌の待つ宇宙(ソラ)へと飛び出した。

そして、
『・・・準備はいいな。』
「はい。」
「『みんなを守り、・・・・リトを助けるために!! 』」

「コウ・クシナダ、イザナギ、参る! 」

鉛色から輝く装甲に変わったその究極の夫神は、背部を輝かせながら真っ直ぐにその目的の場所に向けて駆けた。
向かう先にあるのは、巨大な軌道エレベーター。

その宇宙に浮かぶ神々の住処の中で、5つの『超神』のカメラアイに禍々しい光が灯る。


『行け! 従神達よ!! 愚かなるタケミナカタのクズどもを一人残らず、消せ!! 』
「「「「はっ! すべては真なる神の世界のために!! 」」」」

「イオ・アステリア、カグヅチ、行っちゃうよー!! 」
「エレイン・ホワイト、パニッシュメント、発進する! 」
「ペルセポネ・ディナ・シー、アフロディーテ、行くわね。」
「シャクス・モア・イソラ、アストレイコスモフレーム、行きますよ!! 」

4機の最凶の従神が宇宙(ソラ)を混沌と変えるべく、飛んだ。

『さて、行くとしようか。リト。』
「ええ、お父さん。」
「『全てを壊し、・・・・コウを殺すために!! 』」

「リト・アーキオ、イザナミ、参ります! 」

鉛色から輝く装甲に変わったその究極の妻神もまた、体を宇宙に溶け込ませるようにして呼応する夫神の元へと舞った。

今、最後の決戦が始まる!

〜第39章に続く〜


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